全ての人が希望と尊厳をもって
暮らせる社会へ

English FacebookTwitter

「障害者グループホーム裁判 不当判決」に対する声明

2022年02月28日 地域生活要望・声明権利擁護

排除されている

2022年2月28日

障害者グループホーム裁判 不当判決に対する声明

特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり

私たちDPI日本会議は全国93の障害当事者団体から構成され、障害の種別を越えて障害のある人もない人も共に生きるインクルーシブな社会(共生社会)の実現に向けて運動を行っている。

本年(2022年)1月20日、大阪地裁において、大阪市内のマンション内で20年近く入居していた障害者グループホームが、マンション管理組合からグループ利用停止を求められた裁判で、グループホーム側敗訴の判決が下された。

障害者グループホームが障害者の地域での生活を支えるうえで不可欠な社会資源であることを鑑みると、この判決は障害者の地域における生活の権利を脅かす重大な問題を抱えており、大きな怒りと深い憂慮を表明する。

今回の判決は、以下の問題を抱えている。

一つ目、当該マンションの管理規約では「各住戸部分を『住宅』として使用し、他の用途に使ってはならない」と定められており、当該グループホームは管理規約に違反するという点である。判決は、グループホームが入居者にとっての「生活の本拠」であることは認めたものの、「生活の本拠=住宅」とは認めなかった。

判決は、「住宅」性には「管理の範囲」という要件が必要との見解を示し、「マンションの管理に及ぼす影響が想定される」という理由で「住宅」性を否定したのである。しかし、知的障害のある入居者らにとって、長年穏やかに暮らしてきた当該マンションは、「住宅」にほかならない。

現在、全国の障害者グループホームの約3割近くが集合住宅に入居しているとする数字も出されている(福祉新聞2022年2月1日付記事)。「住宅として使用」と定める管理規約は標準的であり、今後、マンション内のグループホームの多くが退去を求められる恐れがある。

障害者権利条約第19条や障害者基本法を持ち出すまでもなく、この判決は、障害者に対する重大な権利侵害をもたらす脅威となる。

二つ目、消防法令上「将来的に共同住宅特例の適用から外れる恐れがあり、住民側がその恐れを負っていること」や「防火対象物点検で費用がかかること」から、「他の住民の共同の利益が損なわれる恐れがある」ことを理由として挙げている。しかし、抽象的な「恐れ」が、当該障害者への不利益扱いを正当化することは、障害者差別解消法の理念に抵触する。

三つ目、原告管理組合による退去要請は、「障害者への不当な差別的取扱い」や「障害を理由とする差別」には該当しないとした点である。判決は、「障害のない者が『住宅』としての使用に違反した場合も同様であるため、障害を理由とした差別・不利益扱いとは認められない」と理由づけた。

しかし、当該グループホームは、もともと消防法令においても「住宅」として扱われ、何らの問題もなく入居していたのである。消防法令改正の影響を受けて、消防規制の対象とされたものの、消防規制は、その後、障害者グループホーム制度と整合するように緩和されている。

原告管理組合は、消防規制の緩和策や障害者グループホームの実情を調査しないまま、また、話し合いを求めた当該グループホーム運営法人との建設的対話を最後まで行うことなく、退去要請に踏み切っている。このような経過からすれば、退去要請は、障害を理由とした差別にほかならず、障害者差別解消法に抵触することはいうまでもない。

この判決に従えば、知的障害のある入居者らは、長年住みなれた我が家を追い出されることになる。20年近く近隣住民ともトラブルもなく、平穏に暮らしてきた入居者らに、退去という不利益を強いるこの判決は、障害者差別に基づいた不当判決というほかない。

知的障害のある人が地域で暮らすには、障害者グループホームという仕組みは欠かせない。本件では負担は現実化していないが、仮に、消防規制によりマンション側に過重な負担が生じる場合には、国や地方自治体の施策によって、そのような負担を解消する財政上の措置を講じるべきである。

障害者権利条約は第19条で、障害者も障害のない人と平等な選択の自由をもってどこで誰と住むかを決める権利があるとしている。障害者権利条約に対応する形で2011年に改正された障害者基本法にもどこで誰と住むか選択することができるという規定が盛り込まれている。

そして障害者差別解消法ではその第1条で、障害を理由とする差別を解消することで障害の有無によって分け隔てられない共生社会の実現をうたっている。

私たちは本判決より見えてきた共生社会の実現の妨げとなっている障壁を取り除くこと、例えば消防法の見直しや障害者グループホームへの規制の緩和、関係者に対する研修など障害差別への認識の強化や共生社会実現のための啓発など、司法、立法、関係行政機関に対して強く求めていく。

一方で、さる2月22日、大阪高等裁判所は、旧優生保護法に関する裁判で、旧優生保護法は国が差別や偏見を正当化・固定化、さらに助長してきたとし、除斥期間について、差別や障害を背景に提訴が困難な環境にあったとして、除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反し、適用が制限されるものと解するのが相当だと結論付け、原告勝訴の判決を下した。

障害のある人もない人も等しく同じ人間として地域で共に暮らし、家族を持つことも含めて、その尊厳を冒されてはならないという判断を司法が示したことは大きな前進である。

こうした成果も活かしながら、私たちDPIは、今後の本グループホーム裁判の行方に重大な関心をはらいながら、障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会の実現に向けてともに闘っていく。

▽DPI声明全文(ワード版)はこちら


私たちの活動へご支援をお願いします

賛助会員募集中です!

LINEで送る
Pocket

現在位置:ホーム > 新着情報 > 「障害者グループホーム裁判 不当判決」に対する声明

ページトップへ