【声明とパブリックコメントのお願い】救急・集中治療における生命維持治療の中止・差し控えに関するガイドライン案
2026年03月23日 地域生活要望・声明権利擁護尊厳生障害者権利条約の完全実施

本声明は、当該ガイドライン案が、特に意思決定が困難な重度障害者や神経難病患者の権利保障の観点から重大な問題を含むものであることを指摘するものです。集中治療の現場において患者本人の意思確認が容易でない状況があることを踏まえても、十分な意思決定支援やコミュニケーション支援が確保されないまま、生命に関わる判断が行われるおそれがある点は看過できません。
現在、本ガイドライン案については、関係学会においてパブリックコメントが募集されており、締切は2026年3月27日までとなっています。広く意見を提出していただくことが重要です。なお、意見の内容や形式については、各団体・個人において自由に記載していただくことも可能です。多様な立場からの率直なご意見をお寄せいただければ幸いです。
【パブリックコメント募集に関する情報】
以下、声明全文になります。
2026年3月6日
救急・集中治療における生命維持治療の中止・差し控えに関する
ガイドライン案について
特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり
私たちDPI日本会議は、現在、救急・集中治療の分野において検討されている「救急・集中治療における生命維持治療の中止・差し控えに関するガイドライン」について、強い懸念を表明します。
このガイドラインは、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の四学会により改訂が進められているものです。
報道や公表資料によれば、今回の改訂では「終末期」の定義を設けず、生命維持治療の開始後に一定期間を設けて評価する「TLT(Time-Limited Trial)」の導入などが検討されています。
私たちは、救急・集中治療の現場において医療者が難しい判断を迫られている現実を理解しています。しかしながら、このガイドラインが現場で運用される場合、重度障害者や難病患者など、生命維持医療を必要としながら地域で生活している人々の生命と尊厳に深刻な影響を及ぼす可能性があることを強く懸念します。
特に以下の点について重大な問題があると考えます。
1. 「医学的無益性」による生命の選別につながるおそれ
ガイドラインでは、回復が見込めない場合などに生命維持治療の終了を検討するプロセスが示されています。しかし、「医学的に無益」という判断は極めて主観的な要素を含みます。
人工呼吸器などの医療機器を使用しながら長期に生活している人々にとって、生命維持治療は「無益」ではなく、日常生活そのものを支える基盤です。もしこの概念が拡大解釈されれば、障害や疾病を理由に「生きる価値」が低いと見なされる危険があります。
2. 意思決定が困難な人の権利が十分に守られないおそれ
重度障害者や神経難病患者の中には、意思表出に時間や支援を必要とする人が少なくありません。特に集中治療室などでは、挿管や人工呼吸器の装着により本人が意思を表明できない場合も多く、意思伝達の方法が本人特有であることもあります。
そのため、医療者が短時間の関わりの中で患者の日常生活や意思形成の過程を十分に理解することは難しく、本人の意思を十分に確認しないまま治療中止など生命に関わる判断が行われるおそれがあります。
意思確認が容易でない状況を踏まえつつ、意思決定支援やコミュニケーション支援を最大限行い、本人をよく知る家族や支援者も含めた慎重な検討が必要です。十分な支援がないまま第三者のみで生命に関わる判断が行われることがあってはなりません。
3. 社会的要因による「死の選択」を助長するおそれ
日本では現在、重度障害者や難病患者が地域で生活するために必要な介助体制や福祉サービスが十分とは言えません。ヘルパー不足、家族への過重な負担、経済的困難などの社会的要因により、当事者や家族が「これ以上生きることは難しい」と感じさせられてしまう状況も存在しています。
このような社会的課題が解決されないまま生命維持治療の中止が選択肢として提示されるならば、それは本人の自由な意思決定とは言えません。
4. 国際人権基準との整合性
日本は、障害者権利条約を批准しています。同条約は、障害のある人が他の人と平等に生命の権利を享有すること、そして生命に関わる医療において差別されないことを求めています。
生命維持治療の判断において、障害や生活の質に関する価値判断が介在することがあれば、それは条約の理念に反するものとなりかねません。
5. 必要なのは「治療中止の議論」ではなく「生きる支援」
救急医療において最も重要なのは、まず命を救うことです。そして救命後には、在宅医療、介助制度、リハビリテーション、コミュニケーション支援などを含めた社会的支援につなぐことが必要です。「どこまで治療を続けるか」だけでなく、「どのように生き続けられる社会をつくるか」という視点が不可欠です。
私たちDPI日本会議は、医療現場の課題を踏まえつつも、生命維持治療の中止に関する議論が障害者や難病患者の生命の価値を低く見る社会的メッセージにつながることを深く危惧しています。
四学会に対し、当事者団体との十分な対話を行い、障害者の権利と尊厳を確実に保障する形での検討を強く求めます。そして、すべての人が安心して医療を受け、地域で生き続けられる社会の実現に向けた議論を進めることを強く求めます。
以上
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