誰もが「居心地よく、自立して動ける街」へ——当事者参画が変える建築の未来 「TOJISHA-UDプラットフォーム」主催セミナー in 豊中レポート
2026年07月01日 バリアフリー

2026年6月26日(金)、サッカー日本代表がスウェーデンとの試合を終えて決勝トーナメント進出を決めました。その興奮冷めやらぬ中、大阪府豊中市で「第2回 建築プロジェクトの当事者参画を推進する 『TOJISHA-UDプラットフォーム』主催セミナー in 豊中」が開催されました。
このセミナーは官民が一体となって街・公共交通機関・公共施設のバリアフリーを進めていく中でどんな事が必要なのかを各地の好事例を交えながら共有することを目的としています。
セミナーの前半では、官民における制度と仕組みづくりの現状と課題が共有されました。国土交通省からは、昨年5月に策定された「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン」の意義が語られました。

バリアフリー法は2018年の改正を経て理念が強化されましたが、実務の現場では「人材不足」「実務の不安」「手法の未確立」という課題が依然として残ります。だからこそ、当事者自身が設計プロセスに加わり、自らの声をインフラに反映させていく「エンパワーメント」の視点が不可欠となります。
会場となった豊中市は、独自の「10の原則」の策定(平成14年)や 、平成16年から導入された「バリアフリーチェックシステム」など 、当事者参画をシステム化してきた歴史を持ちます。

また、大阪府では大阪・関西万博の先導的なUD基準を反映した新ガイドラインの改訂を進めており 、小規模店舗の改修やソフト対応を分冊化して普及させる動きを見せています 。兵庫県でも平成17年から障害のある当事者による「まち検証」を重ね 、専門家と共同で施設を点検・助言する「アドバイザー登録制度」を創設するなど 、関西圏の仕組みは確実に進化しています。
DPI日本会議の尾上浩二氏からは、大阪の地下鉄における段差・隙間解消や扉位置の点字表示などの前進が語られた一方、当初の万博UDガイドラインが国際基準から乖離していた問題が指摘されました。

これに対し、近畿分科会などの当事者が声を上げ、三星昭宏教授を会長とする検討会を通じて約1,800項目に及ぶ車いす席の分散配置などの改善を勝ち取ったといいます。障害者権利条約の批准を背景に、「当事者の意見を聞かない『なんちゃってUD』から脱却し、誰もが本当に使いやすいUDへ昇華させるべきだ」という言葉がありました。
国交省が示す「第4次バリアフリー整備目標」では、現状まだ30%程度に留まる当事者参画の実施割合を、令和12年度までに原則100%に引き上げる方針です。そこでは「公平性」「透明性」「効果検証」の3原則のもと、設計の早期段階から当事者を巻き込み、固定化されない対話の場をつくることが求められています。
後半のシンポジウムでは、様々な立場の登壇者から実践的な報告が行われました。
視覚障害(海老澤弥生氏):万博大阪ヘルスケアパビリオンの全プロセスに参画しました。視覚的な展示が主流の中でナビゲーションアプリを導入した経験を語り、店舗敷地内から公道へ「あと2枚点字ブロックがあればつながるのに」という狭間を埋めるのが当事者の役割だと説きました。また、図面検証における歩行訓練士の同行の重要性も指摘されました。
聴覚障害(中川一晃氏):ろう者当事者の視点から、外見では分からない「見えない障害」の障壁を提示しました。米国の大学の事例を引き、半透明のパーテーションで互いの気配を察知できる「デフスペースデザイン」のような、初期設計から組み込む価値創造型UDの必要性を主張しました。
関西エアポート(永山あゆみ氏):5年間に及ぶ関空第1ターミナル改修での全8回の検討会を報告しました。トイレ個室で使われている折れ戸の裏表の色を変えて開閉を分かりやすくする等の工夫の一方で、エレベーターの緊急通報モニターの代わりに二次元コードを用いた「緊急用チャットシステム」を構築した代替案の創出など、参画による質の高い成果を共有しました。
兵庫県建築士会(八木景子氏):C&A(チェック&アドバイス)における図面・現地チェックの実務を解説しました。サインの視認性や誘導ブロックの適切さを点検し、すでに建物ができている場合でも、少しの工夫で可能な改善を当事者と話し合い提案するプロセスが示されました。
富田林市(大橋一洋氏)&堺市(堀毛忠弘氏):大橋氏からは新庁舎整備における人事異動への対応や意見の引き継ぎの工夫、堀毛氏からは2,000㎡以下の施設や公園への適用など、当事者参画の制度化に伴う行政実務のリアルなハレーションと克服のプロセスが語られました。
明石市(米野規子氏):インクルーシブ条例に基づき、当事者とともに他市の庁舎を視察。トイレの手すりや洗面台、エレベーターの誘導ボタンにいたるまで、複数回にわたるヒアリングを通じて信頼関係を構築し、設計を磨き上げた事例が報告されました。
当事者の声(中田泰博氏&上田哲郎氏):中田氏からは豊中市立文化芸術センターの避難訓練などを通じ、設計変更ができない段階での単発の意見聴取が引き起こす事業者とのコミュニケーションギャップという課題が提起されました。
上田氏からは、豊中市内の小中学校のバリアフリー化がほぼ完了している背景として、70年代からの「障害のある子も地域の学校で一緒に育つ」という教育方針の歴史が語られ、「学校は社会の縮図であり、子供たちが自然と一緒に過ごす方法を学ぶインクルーシブな土台こそが街を支えている」との本質的な指摘がなされました。
全体討論では、事務局の運営サポートや精神・知的障害の当事者も話しやすい環境づくり、そして予算決定前からの意見交換の重要性が議論された。プラットフォーム代表の高橋儀平氏からは「意見が分散化している現代だからこそ、サテライト化(地域分散)して継続することが重要」との総括があり 、三星昭宏近畿大学名誉教授からは「民間の建築物のUDがようやく進みだした今、PDCAを回していくことが必要です。関西にはしっかりとした障害者団体がある」という言葉でセミナーが締めくくられました。
僕はこのセミナーに初めて参加しました。普段生活している中で「これ造る前に当事者の意見聞いてほしかったな」と思うことが往々にしてあります。
僕が住んでいる兵庫県西宮市の自立支援協議会の中に当事者部会があります。その部会の中で「ここが変だよ福祉センター」と題して西宮市の福祉センターのバリアフリー調査を行ったことがあります。
言うまでもありませんが福祉センターは多種多様な障害当事者が利用する施設です。この企画を通じて、当事者・支援者からいろいろな意見が挙がり23項目の要望として西宮市に提出しました。
僕は身体障害で車椅子ユーザーとしての意見集約を取りまとめました。その項目の中には「災害時に上層階からの避難経路の確保やトイレの設備改修」など今すぐには予算面・構造上の問題で対応不可能なものもありました。
その一方で「着替えやトイレの際にベッドが必要な人がいた場合は職員休憩用のベッドを貸してもらうこと」や「フリースペースの机の椅子を常に一脚は机ではなくて部屋の脇に寄せておく」などの提案ができこれらの提案はすぐに実施されました。
一方で他障害への理解不足も露呈し、当事者同士の相互理解の場にもなったと感じています。例えば西宮の福祉センターは床に点字ブロックが2列設置されています。
僕はこれまで2列の幅があることで視覚障害者に認識しやすいのかと思っていました。しかし視覚障害者に聞き取りを行っていくと、点字ブロックの誘導ブロック(進行方向に対して垂直方向の凸が並んでいる)は1枚で充分であり2列あるとかえって自分の位置が把握しにくく歩きにくいという意見が挙がり、障害当事者である僕も行政も予想していない意見が出されました。
さらに誘導ブロックが2列あることで車椅子ユーザー・歩行器ユーザーはもちろんのこと、荷物の搬入等にも障壁となっていてことが明らかとなりました。
このことは海老澤氏の「点字ブロックあと2枚」や尾上氏の「なんちゃってバリアフリー」とセミナー内で発言があり、僕は腑に落ちたのと同時に、もったいないことだと感じました。
このように当事者抜きで良かれと思って作ったバリアフリーは、当該当事者はもちろんですが、場合によってはその配慮がかえって当事者や他の人にとって使いにくくなってしまいます。今ある多くの建造物は旧式の基準で造られていてこの様なケースが往々にしてあるのではないでしょうか。
セミナーの中で「ようやく民間施設のバリアフリー・UD化が動き出した」という話がありました。これまではバリアフリー法の適応となる駅や大型商業施設のみがバリアフリーされてきました。これからはこれまでの適用だった大型商業施設や公共施設はもちろんですが、小規模の商店・飲食店関西に住む障害当事者として、「誰もが使いやすい、アクセスしやすい関西」にしていくのは自分の役割だと感じたセミナーでした。
茂上裕太郎(メインストリーム協会副代表)
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