全ての人が希望と尊厳をもって
暮らせる社会へ

English FacebookTwitter

衆議院国土交通委員会 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案(201国会閣14)審議報告

2020年04月01日 バリアフリー

3月31日(火)、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案(201国会閣14)の衆議院審議が行われ、参考人として秋山哲男氏(中央大学研究開発機構・機構教授) 、山城完治氏(一般社団法人全日本視覚障害者協議会代表理事)、尾上浩二(NPO法人ちゅうぶ代表理事)  が出席しました。

中継のアーカイブはこちらからご覧いただけます(外部リンク:衆議院インターネット審議中継)

審議ではまず各参考人からの意見陳述が行われた後、各議員から参考人に対する質疑が行われました。

▽尾上参考人の提出資料はこちら(ワード)


質疑の内容

古賀篤(自由民主党・無所属の会)

Q1:駅や建物のバリアフリー整備基準について、機械的な数字ではなく実際にそこを使われている高齢者や障害者など、本当に必要とする人の数字の把握や既存施設のバリアフリー整備を必要としている実態の把握をした上で必要に応じて整備を進めていくべきではないか。

秋山参考人:

駅や建築物などの基準を設けた整備についてはある程度賛成だが、ユーザーオリエントで考えた時にアクセシビリティ(段差をなくす、エレベーターをつける等)という観点以前にモビリティの観点を忘れていないだろうか。地方でのモビリティをどうやって救済するか。鉄道、バス、移送サービス、個人の様々な交通システムを一体化してやらないと無理な状況に来ている。

つまり基準を作れば済むという話ではなくなっている。地方に数字の基準を課すことは無理難題と解決出来ることがある。無理難題の残っていく課題への対策をしっかりやって欲しい。様々な自治体の壁を超えてやっていくことは実験的な都市づくりになる。ぜひ進めて頂きたい。

Q2:今後の期待について、調査段階からの当事者参加という指摘があった。早い段階からユーザーの視点を入れていくという指摘は大事だと思うが、現状はどうか。また、抽象的な指摘はわかりにくいため、ある程度ルール化出来ないか。

秋山参考人:

現状については2000年に交通バリアフリー法を作った時に「障害者の意見をよく聞くこと」という言葉が入った。これについて基本構想などでは多様な障害者に出来るだけ入って頂こうということで会議が成立した。こういう点は良いと思うが、障害者も凄く優秀な障害者とそうでない方、自分の障害のことはわかるが他の分野はわからないという問題がある。

そのため、成田空港のインクルーシブデザインの例では 多様な障害種別の当事者、専門家、整備者等で1日7時間×30回の勉強会を行った。こういう努力をすることでユーザーオリエントが出来る。もう一方は専門家が地方空港など事業者を周って問題点や改善策の指導を行いユニバーサルデザインのレベルをあげるということをした。そのようなことも必要だろうと思う。

Q3:「心のバリアフリーの仕組みづくり」について、日本がどういう方向に行くことが期待されるか。

秋山参考人:

日本の羽田空港国際線では、コンシェルジュを約100人雇って障害者も一般の人も手伝っていたが、EUでは法律を作り、航空事業者がやるのではなく空港で一括して全ての人を対応している。アメリカでも同様。こうすると高い水準で出来る。日本もそのようになっていくだろうと思っている。

Q4:学校のバリアフリー化は大事だと思うが、一方で改修には耐震化や老朽化の対応に追われて来たという現実がある。大阪は進んでいるようだが、なぜか。参考になる視点があればお聞かせ頂きたい。

尾上参考人:

大阪のまちづくりの歴史は1970〜80年代は何も進んでいなかったが、90年代くらいから当事者運動の方から様々な提起をし、行政とやりとりをしながら知恵を出しながら進めてきた。最初の段階から当事者参加がベースとなっている。また、全ての部署で計画的に自ら主体となって行うことが大事。

道下大樹(立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム)

Q1:改正案では共生社会実現に向けた機運醸成を受け、市町村、学校教育等と連携して、心のバリアフリーを推進するとしている。私は障がいの有る無しにかかわらず一緒に学ぶインクルーシブ教育を進めることが心のバリアフリーを推進する基本、大前提と考える点についてのご見解。

尾上参考人:

共生社会=インクルーシブな社会はインクルーシブな教育から始まると言われる。ご指摘の通り、子どもの時から共に学び共生の体験をすることが基本にならなければならない。

私自身も中学から地域の学校に進んだが、最初、最初戸惑い周りの友達に話しかけられなかった。養護学校では障害のない人は先生や親といった大人ばかりで、同じ世代の障害のない子どもはいなかった。障害者である私が感じた戸惑いからすると、障害者と日常的に接したことのない障害のない人は戸惑い、意識上のバリアーが形成されるのだろうと思う。子どもの時から分けられる環境で意識上のバリアーが形成されてしまい、大人になってから事後的に「心のバリアフリー」を進めようというのでは進展しない。

子どもの時からのインクルーシブ教育が重要。学校はほとんどが既存物になるので、数値目標設定・実施計画の策定、十分な予算確保を。

山城参考人:

学校教育における障害者教育は重要で二つの面がある。健常者に私たちの障害を知ってもらうことと、私たち自身が自分の障害を知ること。これは一人ではなかなか理解出来ない。また、仲間と交流していくということは同時に進めていかなければならない。

Q2:残念ながら今回の改正案では床面積2000㎡以上の特別特定建築物の基準適合義務という基準を見直すことができなかった。2000㎡以下の建築物および既存の建築物、小規模店舗のバリアフリーの義務化についてのご見解。

秋山参考人:

アメリカではアクセスボードという監視機関を作って法律を守らせている。日本の建築バリアフリーはアメリカをモデルにしているように思うが、管理監督側ではなく、ユーザー側の例えば商店街に網をかぶせてバリアフリーを進めていく必要があるのでは。法律としてバリアフリー法の委任条例を使ってやらなければいけない。また、段差や通路幅の数値基準の対象者を0にする努力が足りないと理解している。

尾上参考人:

1994年のハートビル法以来、全ての用途で一律に2000㎡以上というのは全く変わっておらず、時代の変化に対応できていない。建物関係の抜本的な見直しが、ぜひとも必要。

例えば、体育館などは2000㎡以上のものが結構あるだろうが、2000㎡以上のコンビニやレストランなどはあまり見たことはない。

参考資料P128昨年8月の国交省の調査では日用品販売店舗では92.5%が300㎡未満、食堂又は喫茶店では96.4%が300㎡未満。それぞれの分野で一定の割合をカバーするよう用途別に対象面積を定めるよう見直しをしてほしい。

もう一つは、テナントビルなどに入る店舗で、ビル全体はバリアフリー化されているのに、店舗内に段差があったり、固定席だけで車いすで着席できないなど。

各用途の機能・サービスを利用する際の社会的障壁の除去のため、店舗内やホテルで言えば居室など、機能・サービスに着目した整備項目を基準化してほしい。

Q3:障害者差別解消法の改正、その先には障害者基本法の改正も検討されている。それらを受けてバリアフリー法はどうあるべきかのご見解。

尾上参考人:

現在、障害者差別解消法の見直し、さらには障害者基本法改正も求める声があるのは、障害者権利条約の国連審査があることが背景。

障害者権利条約やIPCアクセシビリティガイドなどの国際基準をふまえた見直しが重要。

条約ではアクセシビリティ、他の者(=障害者のない人)との平等がキーワード。IPCガイドで、アクセスは人権であるとした上でアクセシビリティとインクルージョンの原則を掲げている。「障害のある者がない者と、同じ体験・同じ水準のサービスを得られるように」としている。

権利性、分け隔てられないということが重要。

5年後まで待つことなく、国連からの勧告を受けて早急な見直しを。

Q4:2020東京オリンピック・パラリンピックが延期になったことで障害当事者や建築家が現地を調査して使い勝手の改善に役立てられるのでは。

秋山参考人:

評価をする時に一箇所を分散して見るのではなく、一人の人が共通して全施設を見回って評価することで改善点が見えてくる。そういう機会を作って欲しい。

尾上参考人:

改めて当事者の目からチェックできる機会があると良い。また間に合わないと追われていたホテルの整備や新幹線のフリースペースをしっかり進めて欲しい。

山城参考人:
現地調査のチャンスと状況を作って欲しい。

伊藤渉(公明党)

Q1:心のバリアフリーは体験、双方向、身近に感じるということを取り入れながら進目ていくべきかと思うが見解は。

秋山参考人:

心のバリアフリーは仕組みづくりが大事であるが、単に普通の形で接するだけでは形にならない。例えば心のバリアフリーを実践するにあたって障害になる可能性のあるものが情報関係。

特にICTに絡むスマホ等の操作性が非常に難しい人とそうでない人の差が出てくる。それらの差を埋めるのが心のバリアフリーの重要なところ。他の者との平等を障害者たちが感じられる社会を作るためにはマイナスをいかになくすか、取り残される人を出来るだけ少なくする努力が必要。

尾上参考人:

心のバリアフリーは社会モデルの理解が広まっていくこと。学校教育においても社会モデルを学ぶ機会を増やしていって欲しい。全てのプロセスにおける当事者参画をより進めていくことが大事。

山城参考人:

バリアフリー法が今後発展していくためには、人による対応が必要。国が予算をかけてやっていくことで安心安全な社会になる。

Q2:ユニバーサルデザインやバリアフリーを進める上での人材育成について見解は。

秋山参考人:

人材育成は教室で講義して出来るとは思わない。現場で障害当事者と確認し議論することで発見することが往往にしてある。バリアフリー教育は繰り返し確認していくプロセスを丁寧にやっていかなければならない。あらゆるところで当事者が参加しながら専門家も入ってやっていくことが重要。

尾上参考人:

必要なときだけ関わっていくのでは形にならない。一緒に出かけてお店に入れないことを悔しさをどれだけ持てるか。子どもの頃からの共生社会が大事。明石市では当事者リーダーの養成、バリアフリー、ユニバーサルデザインの専門家の養成を行なっている。このような取り組みも参考にしながら進めることが大事。

高橋千鶴子(日本共産党)

Q1:新型コロナウィルスについて心配していること、要望はあるか。

尾上参考人:

全ての人が不安になっている中で、不安感が差別や排除につながらないか。かつてハンセン病の人々を排除する残念なことがあった。しっかりと対策するとともに、多様な人々を尊重できる社会になるよう対策していくことが必要。

山城参考人:

視覚障害者の仲間たちはあん摩、はり、マッサージをしている人が多くいるが、仕事が激減している。個人事業主もいる。しっかり対応して欲しい。

Q2:障害者権利条約、障害者差別解消法に照らして、心のバリアフリーについて伺いたい。

秋山参考人:

障害者権利条約2条にユニバーサルデザインと合理的配慮がある。これを実践するために障害者が最初から入れて設計や事務をしていくインクルーシブデザインをやっているところ。障害者のモビリティの問題について日本はやや国民に任せているところがある。国民の協力と政府が頑張る接点のところが国民寄りになっているので心配している。

尾上参考人:

心のバリアフリーは思いやりではなく社会モデル、差別をなくすということ。日本のバリアフリーはここ20年間で進んできた部分はあるが、質はまだまだ。エレベーターのサイズの問題は国民で補うのは無理がある。ハードはハードで進めながらソフト面は学校教育から進めていくことが大事。

山城参考人:

駅のホームから落ちた時の対応は駅員の助けがないとやれない。責任を持つところは責任を持つ。落ちないホームを作るなど。声かけなどとは違う。その違いを当事者を含めて議論する必要がある。バリアフリー法を発展させるために人による対策を進めることが必要だと思っている。

Q3:ホーム柵設置を進めてきたとはいえまだ転落事故が減っていない状況がある。情報の出し方に工夫が出来ないか。人の対応も必要。ハード面を進めつつも今出来ることはないか。

山城参考人:

新幹線の切符を買う時や駅遠隔システムになり駅員がいなくなっている等、当事者の声が聞かれていないと感じる。私たちの実態を積み上げていったバリアフリー法にならないかと思っている。

Q4:UDタクシーの問題について。非常に時間がかかり運転手、利用者が気の毒。単に乗車拒否を禁止するだけでは解決しない。人による支援が必要ではないか。

尾上参考人:

UDタクシーの問題は2点ある。職員教育がしっかりやられていない。研修の仕組みが必要。UDタクシーの構造自身のレベルが低い。開発段階で当事者の声が聞かれていればもっと良くなっていたと思う。今後車両の改善と国交省の認定要領の見直しをしていってもらいたい。

井上英孝(日本維新の会・無所属の会)

Q1:「私たち抜きに私たちのことを決めないで」とあるが、当事者参加が進んで来なかった要因は。

秋山参考人:

地方自治体は多数の人数を入れるほどのエネルギーがなかった。当事者参加にはエネルギーが要るためモデル的に頑張れるところは一生懸命やるが、モデル的になれないところは人材がいないところは頑張れない。頑張ってもらえるためにどうしたら良いのかというのが課題。

山城参考人:

長年、私たちが話し合いに行こうとしたら拒否されることがある。委員に一人入れておけば良いという考えではいけない。制度を作り気運を高めていくことが大事。

Q2:建物の2000㎡問題は今回も改正にならなかったのはどこに原因があるか。

尾上参考人:

2018年の改正時に2000㎡以下への取り組みが遅れていると指摘があり付帯決議がついたことでようやくデータが出てきたところ。データもないところで客観的な政策が出来なかったのではないか。

Q3: UDタクシーについて、歩合制のため障害者を乗せると運賃の1割引がドライバー負担になっている事業者がある。全ての事業者が負担することで運転手の意識も変わっていくと思うがどう思うか。

尾上参考人:

会社として1割引を進めるのならば会社が負担するべき。また、乗車にかかる時間分のインセンティブを検討する必要もあるのではないかと思う。

Q4:地方都市の鉄道駅の無人化が進む中、人的な対応が必要であるということは今後の時代の流れと齟齬があると感じるがどう考えるか。

秋山参考人:

地方の無人化は深刻の度合いが増している。バリアフリー以前にモビリティ対策をしないといけない。出来るだけ早く地方の障害者、高齢者の移動を支援する方法を真剣に考えないといけない。地方自治体と鉄道事業者が手を組まないといけない。

山城参考人:

バス停のバリアフリーは制度の位置付けが弱い。駅の問題もある。対応が大変なのもわかるが事業者と当事者が議論することに国が率先してお金を回し取り組んでいくことが必要。

傍聴した感想

今回の審議では「当事者参加」についての議論が何度も行われ、全てのプロセスにおいて当事者の視点が必要であるという考えを共有出来ていたことが印象的でした。また、私たちが長年求め続けてきた小規模店舗のバリアフリー化や学校のバリアフリー整備義務づけ、「社会モデル」の考えを広めるための心のバリアフリー等、多くの要望が質疑内容に反映されていたことが嬉しく思いました。

新型コロナウィルスの影響で東京オリンピック・パラリンピックが一年延期となりましたが、それにより間に合わないとされていたホテルのバリアフリー整備や新幹線のフリースペース等を進められるといった発言もあり、全体的に前向きな流れを感じました。

今後は4月3日(金)9:00-12:00に衆議院国土交通委員会で審議、採決があり、本会議を経て参議院に回される予定です。

バリアフリー部会 工藤登志子

DPIへご寄付をお願いします!

賛助会員募集中です!

LINEで送る
Pocket

現在位置:ホーム > 新着情報 > 衆議院国土交通委員会 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案(201国会閣14)審議報告

ページトップへ