【開催御礼&ポイントまとめ】障害者権利委員会の最新動向と日本の課題~DPI全国集会「全体会」報告&感想~
2025年06月25日 イベント障害者権利条約の完全実施
第40回DPI全国集会は、5月31日〜6月1日に開催され、約300名の方々にご参加いただきました。多くの団体・個人の皆さまからご寄付を賜り、おかげさまで無事に開催することができました。心より御礼申し上げます。
5月31日(土)に開催されたDPI全国集会「全体会」のテーマ「障害者権利委員会の最新の動きと日本が取り組むべき課題」について、佐藤聡(DPI事務局長)が報告し、柳原康来(愛知県重度障害者団体連絡協議会・DPI常任委員)が参加者感想を書いてくれましたので、ご紹介します。
こんなことが報告されました(ポイントまとめ)
(敬称略)
1.基調報告 田門 浩(障害者権利委員会委員・弁護士)
- 3月に開かれた第32回会期の障害者権利委員会では、災害発生時の障害者保護、旧優生保護法国家賠償訴訟により明らかになった優生思想の除去が中心的なテーマとされた
- 優生思想に関して、欧州連合の中には同意なき不妊手術が禁止されていない国があり、カナダは精神疾患のみを理由とした安楽死の容認が2027年から始まる
- EUなどでは電気ショックによる治療が残っていたり、施設に暮らす障害者がパンデミックで医療の差別を受けたり、死亡率が高い
- 日本の次回審査は第2回、第3回、第4回を合わせた定期報告で、政府報告は2028年2月20日まで。リストオブイシューズは2030年3月の会期、建設的対話は2033年の8月を予定している
- 権利委員会委員長はキム・ミヨン氏(韓国)。権利委員18名のうち、女性が10名、男性が8名となっている
- 国連からの情報保障の費用が不十分。手話通訳者1名分しか出ていない(2名必要)
- 介助者が複数必要な身体障害の委員も1名分しか出ていない。権利委員会としても声明を出した
2.報告 尾上 浩二(DPI日本会議副議長、内閣府障害者施策アドバイザー)
- 障害者基本法とは、国政に重要なウエイトを占める分野について、国の制度・政策等の基本方針が示されるもの。また憲法と個別法とを繋ぐもので、憲法の理念を具体化する役割を果たしている。さらに各行政分野において、当該分野の施策の方向づけを行い、他の法律や行政を指導・誘導する役割がある
- 1970年に「心身障害者対策基本法」として成立後、幾度かの改正を経て2011年の改正で社会モデルに転換し、障害者差別解消法の策定につながっていった。しかし以降は改正されていないため時代遅れとなっている
- 2022年の総括所見と昨年の優生保護法の最高裁判決を踏まえて、基本法の改正が必要
3.報告 平野 みどり(DPI日本会議議長)
- 2018年に仙台地裁に佐藤由美さん(仮名)が起こした国家賠償請求訴訟がきっかけで、全国にその動きが広がり、優生保護法の非人道性が広く国民の知るところとなった
- 2024年7月3日の最高裁判決で、優生保護法に対し違憲判決が出された
- 岸田首相(当時)は原告等に謝罪し、全ての裁判で和解による速やかな解決を目指す方針を示した。同年10月には賠償法が成立し、2025年1月17日から施行されている
- 原告等から求められていた「優生思想を根絶するため」に、政府は2024年12月27日「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」を策定した。しかしながらこの「行動計画」には、多くの課題があると言わざるを得ない
詳細は下記報告をご覧ください。
今年から国連障害者権利委員に就任された田門浩弁護士をお迎えし、障害者権利委員会の最新の動きをご報告いただくとともに、2022年に国連権利委員会から日本政府に出された総括所見と昨年の旧優生保護法最高裁判決を踏まえて、これから日本が取り組むべき課題についてお話しいただきました。
1. 障害者権利委員会の最新の動き
3月に開かれた第32回会期の障害者権利委員会は、ツバル、ドミニカ共和国、ベトナム、パラオ、カナダ、欧州連合の建設的対話が行われた。ベトナム以外のすべての国から障害者団体がジュネーブに来てブリーフィングを実施しました。
審査において権利委員会は、災害発生時の障害者保護、旧優生保護法国家賠償訴訟により明らかになった優生思想の除去を中心的なテーマとしました。災害に関しては仙台防災枠組(2015-2030)を再確認し、建設的対話で障害者参画の有無を質問しました。
優生思想に関しては強制不妊手術等を明確に禁止し、実効力のある法執行の実施が必要です。欧州連合の中には同意なき不妊手術が禁止されていない国があり、カナダは精神疾患のみを理由とした安楽死の容認が2027年から始まります。EUなどでは電気ショックによる治療が残っていたり、施設に暮らす障害者がパンデミックで医療の差別を受けたり、死亡率が高かったりしています。
日本の次回審査は第2回、第3回、第4回を合わせた定期報告で、政府報告は2028年2月20日まで、リストオブイシューズは2030年3月の会期、建設的対話は2033年の8月を予定しています。
権利委員会の委員は18名で、委員長はキム・ミヨン氏(韓国)で、副委員長は3名います。障害種別で見ると、視覚障害6名、車椅子使用者5名、杖使用者1名、聴覚障害1名、その他 5名。性別では女性10名 男性8名となっています。
ワーキンググループは数多くあり、条約機能強化プロセス、作業方法、障害を持つ女性および女児、第11条に関する一般的意見、29条に関する一般的意見、施設収容廃止、個人通報があります。
一般的意見は11条と29条に関して2026年を目指して作業を進めています。
国連からの情報保障の費用が不十分で、手話通訳者1名分しか出ていません(2名必要)。介助者が複数必要な身体障害の委員も1名分しか出ていません。これが大きな問題で、権利委員会としても声明を出しました。権利委員としての活動で得た知見を日本の皆さんと共有し、日本の障害者施策の進展に力を尽くしたい、とのことでした。
2. 障害者基本法改正等の動き〜国連勧告、優生保護法最高裁判決を受け、今こそ改正を〜
つづいての報告は尾上副議長からでした。障害者基本法とは、国政に重要なウエイトを占める分野について、国の制度・政策等の基本方針が示されるものです。憲法と個別法とを繋ぐもので、憲法の理念を具体化する役割を果たしています。各行政分野において、当該分野の施策の方向づけを行い、他の法律や行政を指導・誘導する役割があります。
1970年に心身障害者対策基本法として成立し、1993年に障害者基本法に改正され、障害の発生予防から障害の予防に変わり、精神障害者が法律上の障害者に位置付けられました。
2004年の改正で基本理念に差別の禁止が加わり、(障害者本人の)自立への努力が削除され、自治体の障害者計画が義務化されました。2011年の改正で社会モデルに転換し、障害者差別解消法の策定につながっていきました。その後は改正されておらず、今や時代遅れになっています。2022年の総括所見と昨年の優生保護法の最高裁判決を踏まえて、基本法の改正が必要です。
■障害者基本法改正で解決したい10のテーマ
- 優生思想に基づく差別・偏見のない社会!
- 地域生活の基盤整備!
- 地域移行のための居住支援!
- 住宅や小規模店舗のバリアフリーの推進!
- 同じ場で共に学ぶインクルーシブ教育!
- 共に働く雇用の場!
- 複合差別の解消!
- 障害者文化芸術のさらなる推進!
- 内閣府障害者政策委員会の機能強化!
- 障害当事者参画による施策の策定!
3. 「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」の課題とは?
最後に、平野みどり議長から報告がありました。
2018年に仙台地裁に佐藤由美さん(仮名)が国家賠償請求訴訟を起こしました。その動きは全国に広がり、優生保護法の非人道性が国民の知るところとなりました。そして2024年7月3日の最高裁判決で、違憲判決が出されました。
当時の岸田首相は原告等に謝罪し、全ての裁判で和解による速やかな解決を目指す方針を示しました。また、10月には賠償法が成立し、今年1月17日から施行されています。
原告等から求められていた優生思想を根絶するために、政府は12月27日に「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」を策定しました。
「行動計画」の課題は、①「優生思想」に基づく差別や偏見をなくすことを法律に明記する、②公務員の意識改革に向けた取組みの強化、③障害者権利条約が求めるインクルーシブ教育への転換、④複合差別・交差的差別、⑤子育て等の生活の実現に向けた支援に関する具体的取り組み、⑥パリ原則に基づいた政府から独立した国内人権機関の設置。障害者基本法を改正し、優生思想に基づく差別や偏見をなくすことを明記することが必要です。
佐藤 聡(DPI日本会議事務局長)
参加者感想
全体会に参加して感じたことは2つあります。
1つ目は、障害者基本法の改正がどれだけ大事かを再確認できたことです。尾上さんの話の中で「基本法は障害分野の憲法のような存在」や「基本法に書いていないことを理由に盛り込むのを断念した」という言葉から基本法が改正されなければ、日本の障害福祉は衰退していく危機的な状況になると痛感しました。
2つ目は情報保障が世界的にスタンダードになっていないことに驚きを感じました。
田門さんの報告から、国連という世界的な組織ですら、障害者に対する合理的配慮が不足していること、当事者が声を上げることで変わりつつあることを知ることが出来ました。だからこそ、障害者運動はどの分野においても不可欠であり、障害当事者が様々な場面で参画していくことの重要性を再認識できました。
今回、話題に上がった国連・障害者権利委員会、障害者基本法、障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画は同じことを目指すものであり、どれが欠けても共生社会は実現できないものだと痛感しました。
これからの活動に活かしていくために、基本法改正のポイントや行動計画の内容をしっかりと把握して行政等への提言をできるよう学びを深めて行きます。貴重な機会をありがとうございました。
柳原康来(愛知県重度障害者団体連絡協議会・DPI常任委員)
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