DEI(多様性・公平性・包摂性)は障害分野でどう生かされるか―第14回政策討論集会・国際・障害女性部会合同分科会 報告と参加者感想

第14回政策討論集会の2日目の国際・障害女性部会合同分科会では「DEI(多様性・公平性・包摂性)は障害分野でどう生かされるか」をテーマに、DEIの基本的な考え方を整理しながら、障害女性が直面する複合差別の課題との関連を考察しました。
あわせて、国際的企業によるDEIとアクセシビリティの実践、さらにアメリカ在住の当事者からの現地報告や研究者の視点も交え、DEIを手がかりに権利保障を前進させるための議論が行われました。
下記、第2日目に開催した国際・障害女性部会合同分科会の報告と参加者感想をご紹介します。
こんなことが報告されました
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DEI(多様性・公平性・包摂性)が近年広く用いられるようになっている一方で、社会全体で十分に理解・共有されているとは言い難い現状が確認されました。反インクルージョンの潮流にも抗しながら、DEIの観点を手がかりに、障害女性の課題をメインストリーム化していく必要性が共有されました。
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DEIの基本要素として、多様性は人種・性別・階級・障害など社会的アイデンティティの違いを尊重し共存をめざす考え方であること、公平性は「機会の平等」だけでなく個々の背景に応じた支援を通じて「成果の平等」をめざす視点であること、包摂性は誰もが歓迎され自己表現できる文化をつくり、意思決定の場に周縁化された人々を意図的に招き入れるプロセスであることが解説されました。
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DEIは「誰がいるか」だけではなく「どう扱われているか」が重要であり、制度面・プログラム面・教室内・個人内という4つの基盤的要因があることが共有されました。また、DEI施策への抵抗には、支持の欠如や非協力といった間接的攻撃、表面的には支持しつつ非協力的に振る舞うケースなど多様な形があるため、抵抗の力を理解したうえで対話を通じたアプローチが必要であることが指摘されました。
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障害女性の複合差別は、性差別と障害者差別が同時に生じることで可視化が難しく、本人も周囲も認識しづらいまま制度の谷間に陥りやすいことが報告されました。調査では約35%が何らかの性被害を受けたと回答していること、性と生殖の健康・権利が否定されがちであること、性別クロス集計データの不足が施策形成の妨げになっていることが共有されました。さらに、医療や女性支援の現場で障害女性の存在が十分に認識されずサービスにアクセスしにくいこと、社会参加の機会の乏しさや家事・ケア役割の過度な負担といった課題が示されました。
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国際的企業の実践例として、デロイト トーマツ グループのDEIの考え方と、制度(採用・育成・推進体制など)としかけ(コミュニティ、教育、イベント、カルチャーづくり、発信など)を両輪とする包括的な取り組みが紹介されました。あわせて、障害者が約1000万人の消費者として無視できない存在であることや、Webアクセシビリティの改善が多くの人に恩恵をもたらすことなど、アクセシビリティを社会全体の価値として位置づける視点が共有されました。
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アメリカの現状として、第二次トランプ政権下で地域で暮らす権利が脅かされていることが報告され、OBBBA(2025)によるメディケイド等の支援制度削減、UCEDD廃止提案、資金削減案などが紹介されました。さらに、差別発言の反復や優生思想の台頭、移民政策の強硬化による介助者確保への影響、中絶規制の拡大や抗議活動への抑圧など、複合的な権利侵害が共有されました。
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研究者からは、差別の「重なり」を捉える交差性の視点が不可欠であり、マジョリティ側の特権への無自覚こそが問題であることが指摘されました。そのうえで、DEIを通じて一般への理解・共感を広げると同時に、マジョリティの優位性に自覚的なアライを増やし、最終的には属性で配慮されない包括的な社会をめざす方向性が示されました。
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第三部ではさらにアメリカでの動きや障害女性の性被害について質疑が交わされ、話された体験の重さを感じながら閉会の時間となったことが報告されました。
報告全文
■開催の経緯
DEIとは「多様性(Diversity)」・「公平性(Equity)」・「包摂性(Inclusion)」を意味し、近年使われることが多くなった言葉です。DEIは人権に関わる主要なテーマですが、社会全体に理解されているとは言い難いです。
近年押し寄せる反インクルージョンの潮流にも抗し、DEIに注目し、障害女性の課題のメインストリーム化をも考えていきたいです。
■第一部 報告
DEIについて解説し、障害女性の課題とDEIとの関連を考察し、国際的企業が取り組むDEIの先進的実践を紹介しました。
1.中西由起子さん(DPI日本会議副議長)

多様性とは、人種、性別、階級、障害など、社会的アイデンティティの異なる人々を尊重し共存しようとする考え方です。公平性とは、機会の平等ではなく、成果の平等を目指すことであり、個々の背景に応じた支援が必要となります。
包摂性とは、誰もが歓迎され、自己表現できる文化であり、意思決定の場に周縁化された人々を意図的に招き入れるプロセスです。DEIは「誰がいるか」だけでなく、「どう扱われているか」が重要です。DEIには制度的・プログラム的・教室内・個人内の4つの基盤的要因があります。
現状維持を望む人々のDEI施策に対する抵抗は、支持の欠如、非協力など、間接的攻撃や、表面的には支持を示しつつ、非協力的な行動をとるケースも多いです。抵抗の力を理解し対話を通したアプローチが必要です。
2.藤原久美子さん(DPI常任委員・DPI女性障害者ネットワーク代表)

障害女性の複合差別とは「女性であり、障害者ですために、性差別と障害者差別を同時に受けることです。可視化が困難で、本人も周囲も認識しづらく、制度の谷間に陥り、救済も容易ではないです。私たちが行った調査では、約35%が何らかの性被害を受けたと回答しています。性のある存在として尊重されず、性と生殖の健康・権利は否定されがちです。性別クロス集計データが乏しく、解消のための施策が立てられないです。
医療や女性支援の現場に障害女性の存在が認識されておらず、サービスを受けることができないです。社会参加・参画の場が乏しく、家事・ケア役割を過度に担いがちです。障害者権利条約第6条は、障害のある女性と少女の複合差別の存在を明記し、その解消を求めています。
3.奥平真砂子さん(デロイトトーマツグループ)

日本のデロイトトーマツグループでは、2万2000人の職員が働いています。創設は1968年です。会計監査やコンサルティング、ICTなど等の業務を行っています。
DEIは予測不能なVUCAの時代に多様な人材が活躍できる環境をつくり、変化に強いレジリエンスの高い組織を実現し、多様な視点からのサービス提供で課題解決と価値創造を行います。個々の「ちがい」を活かすため、仕組み(制度、採用や育成、推進体制など)としかけ(コミュニティ、教育、イベント、カルチャーづくり、メディア発信など)の両面から包括的に取り組んでいます。
日本で障害者の割合は9.3%であり、約1000万人の消費者として無視できない存在となっています。例えば、Webアクセシビリティが改善されると、428万人が恩恵を受けると言われています。デロイトトーマツは2027年までに職場のアクセシビリティ&インクルージョンも向上させる取り組みを進めており、現在、456人の障害者が働いています。
企業はDEIに熱心です。障害者団体と協同して、「こういうことができる」という提案をしていただきたいです。
■第二部報告
アメリカ在住の当事者が、トランプ政権下の現状を報告し、さらにDEIを深く考察するため、研究者の立場からの発言を受けます。
1.ノア・ペタシさん(アメリカ在住)

私はアメリカで障害者や人種差別に関する様々な活動を行っています。アメリカはDEIも進んでいましたが、第二次トランプ政権の下で障害者が地域で暮らす権利が脅かされています。
「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA,2025)」は、メディケイド、フードスタンプ、障害者年金、セクション8住宅支援、生活保護費など、障害者や低所得者が生活の基盤とする支援制度の大幅な削減を目的としています。
UCEDD(知的・発達障害教育・研究・支援大学センター)の廃止が提案されています。障害者の地域生活を支える団体への大幅な資金削減も提案されました。トランプ政権の幹部などによる障害者への差別発言が繰り返され、優生思想が台頭しています。
障害者の生活を支える介助者の多くが移民労働者です。強硬な移民政策の結果、介助者が強制送還されたり、外出を控えるため、介助が得られない人が増えています。現在、アメリカ50州のうち約12州が中絶を全面禁止しており、約29州が妊娠周期により中絶を制限しています。
政権に対する抗議活動にも強い抑圧が及んでいます。
2.土屋葉さん(愛知大学)

DEIは就労、教育、医療、公共サービスなど、具体的に生かせる場面は多くあります。例えば性と生殖に関する公平なアクセスへの確保という主張ができます。差別には重なりがあり、交差性の視点が必要です。
DEIを障害・女性の分野に活かしていくときに大切なことは、属性による差別解消の方向は必要ですが、マイノリティの問題はマジョリティ側に特権があることに無自覚な状態こそが問題です。
DEIで一般への理解・共感を広げていくこと、そのなかで「マジョリティの優位性に自覚的なアライ」的な存在を増やしていき、最終的には属性で配慮されない包括的な社会を目指していくことが重要です。
第三部ではさらにアメリカでの動きや障害女性の性被害について質疑が交わされ、話された体験の重さを感じながら閉会の時間となりました。
参加者感想
国際・障害女性合同分科会のテーマは「DEI(多様性・公平性・包摂性)は障害分野でどう生かされるか」でした。DEIは障害分野のみならず様々な領域で重要視されている概念であり、この概念と障害女性の課題をクロスさせる議論は、非常に聞き応えのあるものでした。
特に私が最も印象に残ったのは、アメリカで暮らすノア・ペタシさんによる「アメリカから見えるトランプ政権下の障害者を取り巻く現実」と題した報告でした。One Big Beautiful Bill Actの法案(ビューティフルってなに?!)が成立し、メディケイドなどの障害者の生活基盤となる支援制度の大幅な削減が始まろうとしていること。そして排外主義の下で障害者やセクシャルマイノリティ、移民などの暮らしの安寧が脅かされていること。こうした報告を、リアリティをもって行ってくださったことは、私にとって大きな学びとなるとともに、アメリカの現状に強い憤りを感じるものでした。
この分科会での時間は、DEIを主張していくことと同時に、この社会に存する優生思想を可視化し「それはおかしい」と声を上げていくことの大切さを痛感する時間でしたと、私はふりかえっています。
山下幸子(淑徳大学)
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