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「障害者権利条約の審査・総括所見を活用した国内法制度整備事業」成果報告集会 報告

2011年03月22日 イベント

3月16日(木)、衆議院第一議員会館にてキリン福祉財団助成事業の一年間の集大成として、「障害者権利条約の審査・総括所見を活用した国内法制度整備事業」成果報告集会を開催しました。今回は対面とオンラインのハイブリッド開催だったのですが、あわせておよそ150名の参加をいただきました。

 

はじめに、事務局次長の白井より開会挨拶と事業の趣旨説明がありました。

 

2022年8月に、ジュネーブで障害者権利条約の日本審査があり、9月には障害者権利委員会から総括所見が出されています。17の法制度の整備について評価をいただいたと共に、90以上の勧告ということで、様々な課題も挙げられていますが、DPIとしては、総括所見をもとに、さらに条約の完全実施に向けて取り組みを行わなければならないと考えています。

 

2022年度から改めてキリン福祉財団に事業申請をして、総括所見に根差した国内法の、法整備をしていこうとしています。総括所見が出された段階で、どのようなことが言われているかの分析、また、DPIとしての課題を明確化する作業を継続的に行なってきました。

 

議員会館での開催ということで、国会議員の皆さんも駆けつけました。自民党の宮路拓馬議員、盛山正仁議員、公明党の山本博司議員からご挨拶いただきました。

 

続いて、公益財団法人キリン福祉財団の常務理事事務局長、大島宏之さんからご挨拶いただきました。

 

■行政報告、タウンミーティング報告

行政報告として、外務省総合外交政策局人権人道課長の髙澤令則さんにご登壇いただきました。

 

「スイスのジュネーブにおいて、昨年8月22日、23日に日本に対する第1回政府報告審査が行われました。こちらには私も出席させていただきました。この審査にあたり、市民社会の皆様、約100名が参加をされたと承知しております。事前の意見交換もさせていただきました。

 

そうした経緯も含めて、DPIはじめ、皆様の高いご関心とご尽力に感謝の意を表したいと思います。審査では、委員会の皆様から、多くのご指摘、質問がありました。実際、私も壇上で司会をさせていただきました。

 

その時の委員の皆様の質問内容だけではなくて、その量も他国の審査に比べて、非常に多かった印象を受けました。これはまさに、DPIの皆様の日頃のご尽力が、功を奏したと思っております。非常に質、量ともに、政府にとっても有益なものだと思っています。

 

この審査を踏まえ、今日のテーマにあるとおり、障害者権利委員会より総括所見が公表されたところです。総括所見の中では、情報・アクセシビリティ、差別解消、バリアフリー、雇用促進、文化芸術活動等の障害者の方々の権利を促進する法律やガイドラインなどの幅広い取組みが、肯定的な側面として挙げられました。

 

一方、意思決定、地域社会への移行、自立した生活、インクルーシブ教育、精神障害者の方々の入院、各種サービスや手続きの利用、配慮などについて、多岐にわたる事項について委員会としての見解、勧告が含まれております。

 

委員会審査は、日本の障害者施策を前進させる上で、非常に重要なプロセスだと認識しています。委員会で示される建設的な助言など、これによっていっそう充実した施策に発展させる機会だと考えています。この機会を活かすためには、冒頭申し上げたDPIの皆様が取り組んでおられる総括所見の普及、啓発は非常に意義有る活動であると考えております。

 

政府としても今般、総括所見の和文仮訳を作成しました。現在外務省のホームページでPDF、テキスト版を公表させていただいております。ぜひ、広くご活用をいただければと思います。また、今般示された委員会の勧告等は、最も重要ですが、外務省含む関係省庁ともに、内容を十分に検討したいと思っています。

 

誰もが住みやすい社会を実現するために、障害者権利条約の周知、そしてその趣旨反映はますます重要となっております。今後ともDPIをはじめとする関係者の皆さまと協力し、施策を推進していきたいと思っています」

 

続いて、DPI日本会議事務局長補佐の岡部よりタウンミーティングの報告がありました。この事業の中の重要な部分であるタウンミーティングの開催は、今回の総括所見をどう生かしていくかを各地で広めていくため、沖縄県、大阪府、愛知県、東京都、群馬県の5か所で開催しました。

 

▼シンポジウム「総括所見を踏まえた今後の取り組み -法制度の見直しに向けて-」

 

シンポジウム開始前に、聴覚障害当事者で弁護士の田門浩さんが会場から発言されました。

 

「今回、皆様に協力いただきましたお陰で、日本から国連に対して、障害者の権利委員会の立法関係の委員として参加しました。来年2024年の6月にぜひ成果が出ますよう頑張りたいと思います。ぜひ、応援をよろしくお願いします。これからも情報を共有して、国の政策に障害者の権利、人権が発展するよう頑張っていきたいと思います。ぜひとも今後ともよろしくお願いいたします」

 

田門さんが国連障害者権利委員会の委員になれば、石川准さんに続いて日本から2人目となります。

 

シンポジウムではまず長瀬修さんから発表がありました。

 

■総括所見の概要と締約国として求められること(長瀬修)

 

ジュネーブに私も行きました。もちろん市民社会という立場ですが、もう1つ別の、審査する側でもこの条約に携わっています。肩書を中華民国、(台湾)障害者権利条約の審査委員長と書かせていただきました。台湾を統治する中華民国は国連を脱退しています。今は戻ろうとしていますが、叶わない状況で、障害者権利条約にも加われない。独自に自国で自分を審査するための枠組みを設けていて、それに私が2017年と昨年、審査委員長として携わっています。

 

国内法に基づく審査ですが、2017年の私たちが作った総括所見に基づく、行動計画を作成しました。英文で340ページという非常に膨大なもの。その中で各勧告、報告の指標が設けられています。どの役所がいつまでに何をするか、そこまで明記されるという。それだけ真剣に総括所見に取り組んでいると申し上げたいです。

 

権利条約審査の根拠、概括的なところに時間を使いたいと思います。条約の35条で包括的な報告をしなければならない、と規定されています。ただ、日本の締約国報告にはどんな進歩があったか、効果があったかの記述は非常に希薄です。こういう法律をつくった、こういう施策をやっているという羅列でした。

 

それでも報告が出されて、私たちは「審査」と呼びますが、条約では「検討」という言葉が用いられていました。これに基づいて審査が行われました。総括所見は、条約本体にも出てこないし、条約に基づいて具体的な審査の進め方、実施全体を含めた、細かな規則となり、それが手続規則ですが、そこにも総括所見という言葉は出てきていません。

 

条約と同様に、適切な提案および一般的な性格を有する勧告というのが総括所見に当たる部分です。総括所見が出てくるのは、手続規則の、さらに下にある、作業方法というところです。

そこで、締約国との建設的対話の後、委員会はクローズドの会議で総括所見を採択、そしてこういう形で盛り込まれる、作られると記載されています。

 

メインの部分が、どういう課題があるかとなっているのはご承知の通り、公的な側面も含まれています。国際人権法の定説として、法的拘束力のない総括所見の主な目的は、条約違反を抑制する。条約違反の指摘ではなく、締約国がその義務を果たすことを支援することであると解釈されています。

 

総括所見は締約国である日本が条約を実施するためにどういうやり方があるか、そういう助言をしてくださっているのが、総括所見という位置づけです。

 

審査、国連全般の報告の状況を俯瞰的に見たいと思います。報告を出さない国がだいたい2割ほどある状況です。締約国報告が出た段階で審査が始まったのが実態です。長い審査過程があり、市民社会、その中にはJDFもそうですし、主催団体のDPIからも政府がこう書いているが本当はこうなんだ、と市民社会からのパラレルレポートが大きな役割を果たし、総括所見に辿り着いたわけです。

 

重要なのはパラレルレポートです。目に見える部分としては、ジュネーブで行うプライベートブリーフィングという、日本から100人を超える市民社会のメンバーが大勢行き、委員会に内密の形で、本当はこんなんですよと、最後の最後の念押しをする形で、口頭で話をする機会が設けられています。これは条約審査でも非常に重要な位置づけとなっています。

 

特徴的なのは、日本の枠組みの中で障害者政策委員会、日本は国内人権機関がないという、非常に大きな人権の枠組みで欠陥があります。幸いなことに、障害分野では、障害者政策委員会という障害者基本法に基づく機関があり、そこがかろうじて独自の意見を、政府の審議会ではあるが、政府べったりではない意見を出してくれているという貴重な存在になっています。

 

その発言が、今回、政策委員会の石川委員長、前の障害者権利委員会の副委員長ですが、3点に絞り、法的能力、精神医療、インクルーシブ教育という部分に重点を置き、より大きな存在感があったといえます。

 

政府からの回答のやりとりについては、内閣府がきちんとした存在感を示していないのは、日本の施策推進の枠組みの中でいうと、非常に悲しいというか、これも重大な欠落だと申し上げざるを得ません。

 

審査には、18名の委員がいらっしゃいます。中でも特定の委員が国別報告者という形で、日本の審査の中心的役割を果たします。リトアニアのヨナス・ラスカスさん、韓国のキム・ミヨンさんなど、非常に力量のある国別報告者に恵まれました。

 

そのお2人が中心になって、長文の総括所見が出されました。翻訳のお金がかかるので、国連は文字数制限を厳しく言いますが、真面目な報告者は長い所見を書きたいのです。予算の制限で切られることがありますが、今回の報告者は、日本のために本当に頑張ってくださいました。

 

肯定的側面のことについて、17項目の肯定的側面の指摘がありました。皆さん、誤解されるかもしれませんが、今までで一番多い肯定的側面が指摘されたから日本の障害者政策がよいということではありません。今回、権利委員会は、今までよりも、緩い基準でたくさん、肯定的側面を掲載することを許しました。ただ、日本の制度改革の時代から、様々な前進があった。これを認めて、さらに前に進むことは大切なことなので、異例の17項目があったことは、ありがたいことだと思いますし、他国の審査でも広い視点で認めることをぜひ推進したいと思います。

 

日本の場合、11条の災害に、あとは24条の教育、25条の健康のところです。これらの勧告が出されましたが、数の問題ではなく、超重量級の勧告もあるので、数だけでは判断できませんが、全般的傾向として参考にしてほしいと思います。

 

人権の全体的な枠組みの取組みが、日本の場合はまだまだ弱いというのが、総括所見とも関連することとして申し上げたいです。ロシアによるウクライナ侵攻の関係で、1月の安保理で日本が議長国として、法の支配を申し上げましたが、肝心の足元の日本国内できちんとした人権機関も作らずに、他国にだけ、法の支配を求めるのは不誠実です。

 

きちんとした枠組みを作っていく。それを国内の枠組みとして、基本法改正をして、障害者政策委員会の強化、これは33条で勧告が出されています。そういう点をきちんと総括所見を前向きに生かすことが、政府側にとくに設けられることです。

 

憲法規定のなかで、日本国が確立された国際法規はこれを誠実に遵守する。その部分が非常に弱い。たくさんの前進がありましたが、憲法の規定が十分に守られていないと感じざるを得ません。総括所見は障害者権利条約実施するための処方箋であり、条約実施の一助です。

 

その意味で法的拘束力がないのは確かですが、条約に戻ったとき、どれだけ実現ができているのか、条約にかえって、トータルで条約を実施することは法的拘束力があり、憲法にも規定があります。その具体的アドバイスとして総括所見が出されていて、それを誠実に、どうしたら実施できるのかが、私たち、トータルとしての日本に求められることであり、それを政府が実施する責任があります。それをサポートする役割が我々市民社会にはあるのです。

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