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「ビジネスと人権」に関する行動計画改定版(NAP)原案への意見書を提出しました

2025年12月10日 要望・声明雇用労働、所得保障

diversity
DPI日本会議は、2025年10月30日締切の「ビジネスと人権に関する行動計画改定版(NAP)原案」に対し、以下の意見書を提出しました。

▽意見書(PDF)はこちら


2025年10月30日

「ビジネスと人権」に関する行動計画改定版の原案に関する意見書 

特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり

はじめに

DPI日本会議は、全国90の障害当事者団体から構成され、障害の種別を超えて、障害のある人もない人も共に生きるインクルーシブな社会(共生社会)の実現を目指して活動を行っています。また、国連経済社会理事会の特別諮問資格を保有し、国連をはじめとした国際的な場でも障害者の権利擁護・提言に取り組んでいます。

本改定案に対し意見を提出するにあたり、私たちは、障害者権利条約(CRPD)に基づいて「障害の社会モデル」および「障害の人権モデル」に即した法制度・社会制度の整備が不可欠であると確信しています。すなわち、障害のある人の社会参加の制限と制約及び排除は、個人の身体等の機能障害にあるのではなく、社会環境や制度的障壁にあるという考え方に立ち、障害のない人と実質的に平等な法制度・社会環境を確立することが求められています。

また、国際的には、国連障害者権利委員会が2022年10月に日本政府に対して提示した総括所見において、支援を受けながらも障害のある人が「自ら決定」すること(同条約第3条・第12条)、インクルーシブな地域生活(第19条)、障害に基づく差別・排除の解消(第5条他)、精神障害者の強制入院制度の廃止(第14条)などが明記されています。これらを踏まえ、NAP改定においても障害者の権利尊重・機会平等・参加が明確に盛り込まれる必要があります。

本改定案は、政府および企業等に対し、ビジネス活動を通じた人権尊重を促す重要な政策文書です。障害のある人が働き・取引し・地域で暮らす機会を確保するため、NAPにおいて障害を持つ人々を含む「誰一人取り残さない」枠組をより具体的に、実効的に位置づけることが重要です。

そのため、私たちは、本改定案を評価しつつ、改定内容が障害当事者の視点を十分反映し、「支援付き」や「合理的配慮」の義務化、当事者参加・モニタリング・救済の強化などを含む制度設計へと進化することを強く求めます。

以上を前提として、以下にDPI日本会議としての具体的な意見を各章ごとに整理しました。

全体意見(総論)

本改定案では「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、障害者を明記している点を評価します。しかし、障害者を“支援の対象”としてのみ扱う傾向が残っており、雇用・経済・サプライチェーンにおいて障害者を「主体」及びパートナーとして位置づける具体策が不足しています。

また、障害者が被る人権侵害(不合理な雇用差別、情報・移動のバリア、支援者への不当制限等)が企業活動全体の中で認識されておらず、モニタリング指標や救済制度に反映されていません。

こうした課題を改善するためにJICAが障害当事者団体とともに進めている「障害の主流化」の考え方や手法を取り入れることを求めるとともに、障害者当事者団体がNAPの策定・実施・評価プロセスに恒常的に参画できる枠組みを設けることを強く求めます。

(理由)

障害者権利条約(CRPD)は、雇用・教育・生活・国際協力など、社会のあらゆる領域において障害者の平等参加を求めています。しかし現行のNAPでは、障害者は「配慮の対象」として記述されているにとどまり、企業・政府双方の責任としての位置づけが不十分です。「誰一人取り残さない」という原則を実効性あるものとするには、障害者を含む当事者団体が政策形成・実施・評価に恒常的に参画する仕組みが不可欠です。

注)障害の主流化

  1. あらゆる政策や事業などの中心に障害配慮の視点を取り入れる。
  2. 障害者が受益者あるいは実施者として計画策定や活動実施を含む一連のプロセスへ参加することを保障する。
  3. エンパワメントや能力構築、機能障害に対する取り組みの充実
  4. 障害者が障害のない人々と等しく人権を享有するための取り組み
  5. ガイドラインの作成や施設の整備

第1章 人権デュー・ディリジェンス及びサプライチェーン

企業が実施する人権デュー・ディリジェンスの対象に、「障害を理由とした不当な取扱い」及び「合理的配慮の欠如による排除」を明示的に含めるべきです。

また、サプライチェーンの人権リスク評価において、障害者や介助者及び支援者等を含む労働者・取引先の状況を点検項目として示すことを求めます。中小企業向けガイドラインにも、障害者雇用やバリアフリー調達の観点を盛り込むべきです。

(理由)

企業の人権デュー・ディリジェンスにおいて、障害者はしばしば対象外とされてきました。雇用・取引・情報アクセスの各段階で、合理的配慮の欠如や社会的障壁の存在は深刻な人権侵害につながります。企業が実施する人権デュー・ディリジェンスの対象に、「障害を理由とした不当な取扱い」及び「合理的配慮の欠如による排除」を明示的(引用:CRPD第27条)に含めることにより、企業が自らの行動を点検し、障害者が働きやすく・取引しやすいサプライチェーンを実現できると考えます。

第2章 “誰一人取り残さない”ための施策推進

改定案で障害者が重点分野に含まれたことを評価しますが、記述が抽象的にとどまっています。

「雇用・教育・地域生活・国際協力」等、障害者が社会の構成員として参加し、企業活動に関わる機会を拡げる視点を具体化すべきです。

特に、「支援付き就労・介助付き雇用・合理的配慮の確保」及び「企業内教育・人事評価制度への合理的配慮の組込み」など内部施策の波及を含め、「誰一人取り残さない施策」の中心に据えることを提案します。

(理由)

「誰一人取り残さない」という理念を実現するには、障害者が単なる支援対象ではなく、社会づくりの主体として参加できる環境が必要です。支援付き・介助付き雇用や教育から就労への移行支援など、障害者が自らの力で働き・生きるための仕組みを組み込むことが、真の包摂に繋がります。障害者を含む多様な人々が経済活動に参加することは、社会全体の生産性・持続可能性を高める基盤にもなります。

第3章 救済へのアクセス

障害者が企業や取引先からの不当な取扱いを受けた場合にアクセスできる、バリアフリーな苦情処理・救済メカニズムを設けることを求めます。

具体的には、手話・点字・音声データ対応の相談窓口、障害者団体を通じた申立支援制度の整備など、合理的配慮を制度に組み込む必要があります。また、実効性のある救済システムであることも必要です。

(理由)

障害者は、言語・情報・移動の制約により、苦情申し立てや相談制度を利用しにくい現状があります。

人権救済の仕組みにおいて、合理的配慮やアクセシビリティが確保されていなければ、実質的なアクセスは保障されません。バリアフリーな手続きと、当事者団体を通じた支援を組み込むことが、制度の公平性と信頼性を高めます。

また、苦情の申し立てができても現状から十分に機能しているかは大きな疑問があります。

第4章 教育・啓発

企業・行政・教育機関向けの人権教育に、障害者の権利条約(CRPD)の理念を反映させ、合理的配慮の理解を深める内容を加えるべきです。

研修教材に障害当事者の講師・映像・体験談を活用し、「支援される存在」ではなく「共に働き、社会をつくる当事者」として学ぶ構成を提案します。

(理由)

企業や行政職員が障害者が必要とする合理的配慮や人権保障を十分に理解していないことが、差別や排除を生む大きな要因です。障害者権利条約(CRPD)の理念と「合理的配慮」の考え方を、すべての人権教育・研修に反映させることが不可欠です。障害当事者が教育の担い手として関わることで、実践的で説得力ある啓発が可能となります。

第5章 中小企業支援

障害者雇用やバリアフリー対応を進める事業主(特に中小企業)への支援(助成金・専門人材派遣等)を人権デュー・ディリジェンスの一部として位置づけるべきです。

障害を(理由)とする排除を回避するための相談窓口・伴走支援を、障害当事団体(者)と商工会議所等と連携して整備することを求めます。

(理由)

事業主によっては障害者雇用や合理的配慮を進めたい意欲を持ちながらも、専門的知識やリソースが不足しています。国や自治体が支援策を人権デュー・ディリジェンスの一部として位置づけ、経済支援と人権配慮を両立させることが求められます。相談・伴走支援体制を整えることで、障害者が地域企業で活躍する機会が広がります。

第6章 公共調達・補助金事業等を含む公契約

公共契約・補助金交付要件に、障害者雇用と安定雇用・合理的配慮の確保・バリアフリー整備の実績を評価項目として明記することを求めます。

政府・自治体が人権配慮調達方針を策定する際、障害者当事者団体の意見を反映する仕組みを導入してください。

障害者雇用や支援付き就労を行う事業者を優先的に契約対象とする制度も拡充すべきです。

(理由)

公共調達や補助金は、国・自治体が社会的責任を実現する重要な手段です。契約・交付要件に障害者雇用・バリアフリー実績を反映させることで、企業の取組を後押しできます。障害者当事者団体が策定段階から関与することで、形式的でない実効性のある基準が作れます。

第7章 モニタリング・評価

行動計画の実施状況を評価する際、障害分野に特化した指標(障害者雇用率、合理的配慮提供率、当事者参画数等)を設定してください。

DPIをはじめとする障害当事者団体がモニタリング委員会に正式メンバーとして参画することを求めます。

(理由)

行動計画の実施状況を客観的に評価するには、障害分野に関する明確な指標が必要です。障害者雇用率や合理的配慮の実施及び当事者参画状況及び雇用の質などを定期的に公表することで、政策の透明性と継続性が担保されます。また、障害当事者団体の正式参画は、政策評価の信頼性を高める鍵となります。

第8章 国際的取組・連携

国際協力・開発援助の分野においても、障害者の権利条約およびビジネスと人権の両理念に基づき、障害者や支援者が事業の実施・評価に参加できる仕組みを整備してください。

また、障害者が介助等の支援付きで国際協力に参加する取組を、人権尊重型ODAやSDGs実施計画の一部として外務省が明確に位置づけることを提案します。

(理由)

国際協力・開発援助においても、障害者の権利を明示的に扱うことは、CRPDおよびSDGsの実現に不可欠です。障害者が介助を得ながら国際協力に参加できる環境を整えることは、日本の人権外交の信頼性を高める具体的手段です。国際協力の分野においても、障害者を“支援対象”でなく“協働の担い手”として位置づける必要があります。


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