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「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の指針への障害者・障害のある女性が受けるハラスメントについての要望

2019年10月08日 要望・声明雇用労働、所得保障障害女性

10月4日(金)まで実施しておりました「労働施策総合推進法」改正の指針における障害者へのパワハラ防止の観点を盛り込むための事例収集につきまして、本日、DPI日本会議は厚生労働大臣宛てに要望書を提出しました。

皆さまのお寄せくださった声を、こうして反映することができました。改めて、事例回答にご協力くださった皆さま、ありがとうございました。

以下に要望書全文を掲載いたします(ページ下部よりダウンロードいただけます)。


2019年10月8日

厚生労働省大臣 加藤 勝信 殿

特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の

充実等に関する法律」の指針への障害者・障害のある女性が受ける

ハラスメントについての要望

DPI日本会議は、障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会を実現するための取り組みを進める全国95の加盟団体からなる障害当事者団体です。

さて、2019年5月29日に「労働施策総合推進法」が改正され、パワハラの防止措置義務が盛り込まれました。現在、厚生労働省が本改正法に基づいて「指針」を作成しています。日本が批准した障害者権利条約では、第27条「労働及び雇用」で、障害者の労働の権利と労働環境整備を締約国に求めています。1(b)では「他の者との平等を基礎として、公正かつ良好な労働条件(均等な機会及び同一価値の労働についての同一報酬を含む。)、安全かつ健康的な作業条件(嫌がらせからの保護を含む。)及び苦情に対する救済についての障害者の権利を保護すること。」とし、ハラスメントの防止と救済を求めています。

上記の観点から、労働施策総合推進法の指針において、障害者・障害のある女性が受けるハラスメントを防止するために、下記盛り込んでいただけますよう要望します。

1.改正労働施策総合推進法に基づき検討中の指針について

(1)要望事項

    1. パワーハラスメントの分類のひとつが「障害に基づくハラスメント」である旨を明記すること。
    2. パワーハラスメントの要素とされる「優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること」について、マイノリティ属性である障害者に対しマジョリティ属性の健常者が「優越的な関係(優位性)」にあることを明記すること。
    3. 上司から部下に対してはもちろん、同僚間、あるいは部下から上司に対してであっても、障害に関する否定的な言動はパワーハラスメントである旨を明記すること。
    4. 障害女性に対する職場におけるハラスメントについては、障害と女性というハラスメントの事由になりうる複合性に特に留意し、取り組みを進める旨を明記すること

(2)理由・背景

2.障害に関連するハラスメントと考えられる事例

(1)下肢障害の方の事例

「下肢障害で歩くのが遅いため、自分だけ希望しても外部の研修や取引先との打ち合わせに行かせてもらえなかった。歩き方がぎこちないのもあり一緒に外を歩くのが恥ずかしいと上司に言われた。また、社員全員が持つ事務所の鍵を「何かあったら困る」と自分だけ配布されなかった。上司や社長からはみんなの前で「お前」と呼ばれることもあった。毎日の通勤ラッシュでの電車通勤がつらいため少しだけ出勤時間をずらして欲しいと願い出た際は「ただでさえお前に気を使っているのに自分だけ勝手なことを言うな。みんなも大変な中出勤している。」と社長に言われ、時間をずらしてもらえなかった。結果、退職した。」

(2)精神障害の方の事例

「決まった時間に来られないことを前提にお給料も減額されているのに「みんなが迷惑している」「病気なのにえらそう」と飲み会の場で何度も言われた。お給料の減額システムについてメールで書面にして連絡してほしいと何度伝えても書面にしてもらえず、詳細がわからない。みんなと同じくらい残業できるようにならないと評価に値しない、と、病気になった直後のころより治療が進み今は他の人の7割程度勤務しているのに、病気になった直後の減額のままお給料が増えない。」

(3)視覚障害の方の事例

「体調不良で会社を休んだ後、会議室で、障害者利得を使って、と言う言い方をされ叱責された。」

3.障害者差別×女性差別=複合差別

(1)問題点

障害女性が受ける差別は、障害にもとづく差別と性差別が複合している。これを障害女性が被る複合差別と呼ぶ。差別は掛け算的に深刻となり、輻輳した問題は、一方の差別に注目するだけでは解決が困難となる。国連が2006年に採択した「障害者権利条約」もこの認識をもち、第6条「障害のある女性」に、人権を確保する措置の必要を明記している。

しかし、障害に関する公的な統計はジェンダー集計が行われておらず、介助や相談の場で明るみに出る事例は守秘義務により公開されない。いわば可視化されない課題である。また、複合差別という認識が周知されていない中で、障害女性自身、自分が受けている困難を複合差別と気づかない場合もあり、より問題化しにくい傾向がる。

ジェンダー集計がなされた数少ない調査から

*「障害者生活実態調査」(※1)

「仕事あり」と回答した人は、一般男性の約9割、一般女性の6割強、障害男性の4割強、障害女性の3割弱だった。単身世帯の男性全体の年収を100とすると、女性全体は66、障害男性は44、そして障害女性は22であった。

*兵庫県「障害のある人への生活実態調査」(※2)

「男性と比較して、女性は賃貸等や公営住宅等の割合が高い。男女別で見ると、女性で1人暮らしをしている割合が高い。外出の状況は、男女別では、男性は半数以上(54.6%)が「ほぼ毎日」と回答しているが、女性は38.1%にとどまっている。就労の状況について、男女別では女性の就労率(福祉的就労を含む)が低く、一般就労をしていても短時間労働の割合が高い。男性と比べて女性の収入が少なく、52.9%が5-10万円の層に集まっている。(男性は25.9%)

このように、わずかに実施された調査から見ても、障害者の中でも性別による格差は顕著である。

就業率の低さと経済的困難は、障害女性が虐待や性的被害から逃れる妨げにもなっており、より立場の弱い障害女性への施策は急務である。

(※1)「国立社会保障・人口問題研究所」が2005-06年に東京都稲城市と静岡県富士市で行った「障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究」(主任研究者勝又幸子氏)。 

(※2)ひょうご障害者福祉計画(2015年3月)p61-71 2章「兵庫県の障害者福祉」の2「障害のある人への生活実態調査」

計画の策定にあたり、無作為抽出した障害者手帳所持者6700人に行われた調査(回収率42.1%)

(2)障害女性のハラスメントの事例

DPI女性障害者ネットワークは独自に障害女性の困難を可視化するため調査を行い、2012年複合差別実態調査報告書を発行した。就労の場での性的被害に関連した困難も多いが、障害女性の就労への意欲は高く、また自立した生活に必須であることを多くの回答が語っている。

  1. マッサージ師として働く職場で、休憩中、上司と2人きりになると後ろから抱きつかれて胸を触られた。白衣をめくられて下着に触れられた事もある。(40歳代 視覚障害)
  2. 会社で自分の席へ向かう通路を外れて男性社員の席にぶつかった。それを見た上司が「お前、男性のにおいのする方へ近づいていくから、ぶつかるんだよ!」と言った。女性としての自分を汚されたような、自分が薄汚いもののように思えた。(40歳代 視覚障害)
  3. 一人で営業する鍼灸の治療所で、初めて来た男性患者さんが治療室へ入るなり全裸になった。何とか治療をしたが、以後、男性患者が怖い。(50歳代 視覚障害)
  4. ある企業の面接で、「うちは本当なら障害者は要らないんだよ。でも社会的立場上、面接くらいはしないとね。だから期待しないでね。まだ男性で見た目に分からん障害やったらエエねんけどな~。一応は面接はしてあげたからもう良いでしょ。」と言われた。(30歳代 肢体不自由)
  5. 出産後の職場復帰で正職からパートになり、夫の扶養に入ることを勧められた。半年後、同じ職場の健常女性が出産した時は正職のまま復帰できた。(40歳代 視覚障害 難病)
  6. 勤め先の病院で管理者から、「身体が不自由で子育てが大変だろう」と退職を勧められた。労働組合を通して抗議して就労を続け、増員も実現させた。(50歳代 肢体不自由)
  7. 低血糖昏睡で眠り続けて「無断欠勤」になり、次は辞めてもらうと言われた。病気があると就業が難しい一方、「障害者手帳」を期待され嫌な思いをすることもある。(30歳代 難病)
  8. 障害特性上作業が遅い。しかし勤めていた団体では、仕事を過剰に回す、ミスを厳しく追求するなどされた。(30歳代 発達障害)
  9. 5年後に正社員にする約束で就職したが、7年後退職するまで嘱託のままだった。その間、私を障害者雇用用制度で雇用することで会社は恩恵を受けたと聞く。(50歳代 肢体不自由 言語障害)
  10. 障害女性だから無理して働く必要ないのでは?と周りに言われた。障害女性は経済的自立を前提とした自己実現が難しい。(30歳代 聴覚障害)
  11. 中学卒業後、職親の家に住み込みでお手伝いとして働かされた。いじめられたし、給料ももらえなかった。(60歳代 精神障害)
  12. 職場は、男性が私から見える位置で用を足したり目の前で平気で着替えたりする、男性中心の差別的な環境だった。子どもがいたので、懸命に働いた。(30歳代 肢体不自由)
  13. 就労をめざしているが、ルートは作業所しかない。近所には病気のことを言えず、親は「女は働けるだけで幸せだ」というが、作業所に合わなくて家に引きこもっている。(40歳代 精神障害)

※Sさんの事例

Sさんは脳性まひで二人の娘を持つシングルマザーである。派遣社員として働いていた職場は男性ばかりだったが、周囲に慣れようと努力した。ある日、上司から性的暴行を受けてしまう。「明るみに出したら次の雇用契約はない」という加害者の脅迫があり、Sさんは当初家族にさえ事実を言えず悩んでいた。ようやく会社の相談室に行ったものの、そこでセクハラといえる暴言を受け、二次的被害をこうむってしまう。加害者と会社を相手に裁判を起こし、彼女を支える会も結成された。高裁で上司の加害行為は認められたが、会社は雇い止めを通告、地位確認訴訟を起こしたが、敗訴した。

一連の裁判が終わり再就職活動を開始したが、数十社に断られ、面接時に「裁判をされていた方ですよね」と露骨に言われたことも少なくはなかった。Sさんは実名公表して裁判に取り組んだのだが、その影響をこの時思い知らされた。やっと再就職できたが、PC業務と求人票にあったのに社内にはパソコンがなかった。手書きで作業するには身体に負担がかかり過ぎるため、やむを得ず私費で購入した。また、女性がお茶くみや掃除、来客接待をすることが当然という職場で、女性上司から「できなければ正社員になれない」「障害者と言って甘えている」と言われてしまう。無理をして行なった掃除でケガをし、一年間休業した。労災申請やその後の復職について労働組合に相談したのだが、「同じ職場の人たちには、私が労働組合を入れたこともあって、会社側にケンカを売っていると勘違いされてしまっていた。私は八方塞がりの中を就労し続けても、全てに何の理解も無く、その努力すら窺えない会社で働く辛さに限界を感じた」と語っている。このような経緯で、仕事を辞めざるを得ない心身状態へと陥り、この職場も去ることになってしまった。

(3)まとめ

障害女性は異性介助、性と生殖に関する健康・権利の否定など、女性として尊重されていない。性的被害、低収入、性別役割の固定など女性が被る不利益は免れず、障害者差別との複合でより深刻になる。障害者施策は、そもそも性による不平等に認識がなく、女性のニーズに応えていない。

一方、労働・女性などの一般施策は、障害者の存在を想定していない。障害女性の複合差別解消に向けた法制度、施策が早急に求められる。


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