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10月3日(日)インクルーシブ教育フォーラム開催報告、ご質問への回答

2021年10月29日 イベントインクルーシブ教育

緑の中で手を繋ぎあう子どもたち

10月3日(日)「2021インクルーシブ教育推進フォーラム特別企画~南の国からインクルーシブ教育を届けます~」を沖縄県自立生活センター・イルカとの共催で開催し、全国から130名の当事者、教育関係者、保護者等にご参加いただきました。

沖縄県自立生活センター・イルカの早坂さんに報告を書いていただきましたので、ご紹介します。

▽より具体的な活動報告書はこちら報告書(PDF)

開催の経緯

3月には北の国からというテーマで北海道でインクルーシブ推進フォーラムが行われました。今回は北から南まで津々浦々までみんなと一緒にインクルーシブな教育を目指せるように、という思いで「南の国から」という題で特別企画が開催されました。

各法制度が整い、障害のある子が地域の学校に行く事の「目に見える入口の壁」は以前よりもなくなり、建前は誰もが地域の学校に通えるようになりました。

しかし現実には、いまだに壁は存在し、子どもたちは選別され、分離され、周りの決めた教育の型に当てはめられていく構造は、より深刻化していると感じることが多々あります。

それが現れたのが2020年9月に沖縄タイムス、琉球新報両紙にて報道された事件です。

沖縄県内小学校でクラス担任を務める女性教員が、普通学級の子と一緒に授業を受けていた特別支援学級在籍の児童が騒いだ際「うるさいと思う人、邪魔だと思う人は手を挙げてください」と普通学級の児童に挙手を求め、しかも、手を挙げない児童に「あなたも支援学級に行きなさい」と発言。

さらに、教員の言動を受け、普通学級の児童一人が4日間、学校を休んだ、とも報道されています。児童から話を聞いた保護者が学校に連絡、管轄の教育委員会が事実を確認し、教員に不適切な言動があったとして口頭注意を行ったが、教員の言動を処分の対象としていない、とも報じられています。

同様の事件は後を絶ちません。DPI日本会議と自立生活センター・イルカは今回の事件に至る構造的な問題について、沖縄県教育委員会に対し抗議、教員に対する研修を実施するように働きかけ、今年度は新任の特別支援学校教員、県立学校校長への研修に、崔栄繁(DPI日本会議議長補佐)を講師として派遣することができました。

次年度も引き続き、行政主体の研修に「障害者権利条約」を基礎とした当事者主体の研修を入れられるよう、提言していきます。

また、行政主体研修と並行し、民間主体の取り組みとして、今回の「DPI日本会議×CILイルカ2021インクルーシブ教育推進フォーラム特別企画~南の国からインクルーシブ教育を届けます~」を開催しました。

報告

10月3日、午後1時からオンライン(Zoomウェビナー)にて実施しました。参加者は県内外130名の当事者、教育関係者、保護者等が参加しました。情報保障も手話通訳、PC文字通訳等の他必要に応じて提供しました。

プログラムではまず、総合司会の西尾元秀(DPI日本会議常任委員/教育部会長)より開会のあいさつ、そして沖縄県教育長から開催へのご挨拶を頂きました。

西尾

次に、小林美保氏(文部科学省 初等中等教育局特別支援教育課 特別支援教育企画官)より「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告」について行政報告をして頂きました。

小林美保氏

次に、CILイルカで行っている二つの動きについて報告がありました。

まず、大城亮(CILイルカ学校バリアフリー調査担当)から沖縄県における、学校バリアフリー化の現状と課題について、県内の小中学校を対象にしたアンケートの調査結果から見えてくることの報告がありました。特に38%の周知率、環境整備達成校も54.3%にとどまっていたことは、まだまだなことを浮き彫りにしていました。

大城

次にMARUKO(CILイルカ事務局長)より特別支援学校と障害者団体連携の取り組みについて、特別支援学校の評議員に障害当事者として入り、卒業生として先輩と語ろう会や就業体験での受け入れから、ILや自立体験、そして自立生活につないだ事例を紹介しました。

マルコ

また、尾上浩二 (DPI日本会議副議長/内閣府障害者施策アドバイザー)から、学校でのキャタピラ式や椅子に乗り換え式の昇降機は不適当と新しく文部科学省より通知が出たことが報告されました。

休憩をはさんで「沖縄県におけるインクルーシブ教育の動向と課題」について島村聡氏(沖縄大学人文学部 福祉文化学科 社会福祉専攻/地域研究所 所長)を講師に迎え、解説していただきました。

島村氏

インクルーシブは障害だけではなく、学校に行きづらさを感じるすべての人に適用される事、また、個別化ではなく、交流を目的とする事を確認されました。そしてこれまでの沖縄の障害者教育、取り組みの紹介がありました。

現在特別支援学校の人員、特に自閉・情緒が急増し、全国の1.74倍多いという中で、教員、教室が足りない。新しく那覇に特別支援学校ができる。沖縄では3人いたら1クラス作らないといけないというのを取っ払い、経験浅い教員が少ない人数で対応しないといけない。なぜ特別支援籍児が増えたのか、学校に聞くと、親の要望が多い、親に聞くと、学校の先生に勧められたという。いずれにせよ、置いてきぼりになる生徒が増えています。

離島でも、障害に合わせた教育が難しいこと、そもそも障害者教育がメインストリームから外されている事が指摘されました。新たな動きとして、真和志高校のゆい教室について紹介されました。

そこでも、定員内不合格行けるはずなのに入れない。重度障害のある人の入学判定基準がなかった。入試の問題。他の保護者の理解。教育課程のノウハウもない。個別化された教育内容。学校外の活動、地域との関係。進路などの課題を挙げました。

教育と福祉の連携についてですが、児童デイが日本で一番密度が高いが、連携では学校側は福祉の入るのが急すぎるというのと、逆に福祉側は学校が入りづらいという声があり、のりしろを増やす努力が必要と指摘しました。

また一般の教員免許に特別支援の事も入れることが必要という問題認識を示されました。

そして最後のパネルディスカッションでは、地域の学校に通い、現在中学生の山崎陽太さんのこれまでのいきさつについて、映像とインタビューで振り返りました。

映像

中学校への通学路のバリアフリー交渉について、修学旅行が楽しみなこと、最後に「みんなといっしょに行っている学校が楽しいし、友達といっしょに触れ合うことが大事だと思うから、これから中学校に入る人たちも、一緒に学びましょう。」という言葉がありました。

次に長位 鈴子(CILイルカ代表)から障害者権利条例づくりのきっかけとして道を歩いたことがない、買い物をしたことがないといった、特別支援学校在籍生の経験の格差が自立生活を阻害していることが話されました。

そして文部科学省のインクルーシブ教育システム構築という言葉の問題点として、特別支援教育が逆に地域で生きることから遠ざける結果を生んでいる事を指摘しました。

その中で山崎くんの事例から、保護者や本人の意識や頑張りで、地域を選べる事例もあるが、大人の責任として当たり前な社会にしていかなくてはいけないと訴えました。

最後に崔が国際的な動向を踏まえることの重要性を示しました。まず「自立」を捉えなおし、多くの人と関わることの重要性に目を向けて行ってほしいと訴えました。山崎君が中学校の通学路を行政職員と一緒に歩いて整備につないだ例を出し、今後はこのように、本人だけでなく、周りが変わっていく事が重要だと結びました。

Q&A

QandA

(※個人情報につながる箇所は事務局で削除、修正しています)

Q1.沖縄県内での「重度訪問介護の大学修学支援事業(地域生活支援促進事業)」実施状況と今後の方向性のお考えをお聞かせください。

A1.(島村)知る限り実績がありません。重度訪問介護事業所が少ない。事業そもそもが多分平成30年くらいから始まっていると思うが市町村がそこに対応できていません。区分6クラスの重度の人が大学に来れていない、あるいは来るという動機づけができていません。身近にもこういう学生がいますが、今後に期待しています。

Q2. 島村さんが「教員は『親から求められることが増えている』」「親は『学校から支援学校に行けと言われる』」とそれぞれ言っているのが興味深いとおっしゃっていました。この点が、私もとても気がかりです。このようなことが生じている根本的な原因としてなにが考えられるでしょうか?この感じのままだと、子供が板挟みになっていたたまれない状況が続いてしまう気がしてなりません…

A2.(島村)これは教育委員会に属している人から聞きました。どうして親が自分の子を特別支援学級にうつしてくれとなってしまうのか、おそらく、学級の中で孤立している状況を見かねて言っている可能性が高いです。1人担任で40人学級ではなかなか目が届きません。支援ヘルパーも経験がなかったり、短く、対応力も十分でありません。

教員もマンパワーが限られ、十分な対応ができないので分けてとなります。共に学ぶ雰囲気作りができていない中で特別支援学級の増設に繋がっていると思います。

(長位)親御さんが障害のある子を産み育てる中で、常に言われるのが「こんな重度な子だと」と。どう返したらいいのかわからず、疲れ、支援の人も少なくなり、特別支援学校が楽なのかなとなります。児童デイの送迎があったり、子どもにかける時間がない。普通学校でも特別学校並みの支援があれば、選択肢が広がります。山崎さんもいろんなサービスを使っていると思います。市町村の格差もあります。
(崔)2000年代以降の学力重視が背景にあります。先生が学習指導要領に合わせ、学力でできる出来ないと分けてしまうことが原因の一つだと思います。

Q3. どうしたら、教職員に余裕がもてるような予算や設備等の配慮ができるのでしょうか。また、そういった実践例があれば教えていただけたらと思います。

A3.(長位)3年前カナダでインクルーシブ教育みてきました。9年間同じ学校。特別支援学校はありません。(入所)施設もない。気になる子が教室にいるというが、誰がかは分かりません。3,4名の先生に、授業も、前を向いてではなく、それぞれ自転車こいでたり、クッションに座ったり、グループごとにテーマを先生が出していました。情緒学級が別であって、落ち着かなくなったら2年くらい過ごし、落ち着いたら戻すと。そちらでは、1億円あるお金の使い方をどうしますか?みたいな授業をしていました。私たちが日本の教育がこうあってほしいという事例でした。カナダは移民の国で多国籍の文化が入り混じっていました。

Q4.地域の学校から特別支援学校への転校について年度途中での転校は不可ということで、これは全国的な決まり事なのでしょうか。それとも、県が個別の事例によって判断することなのでしょうか。
Q5.(Q4の理由は)先生や学校のインクルーシブ教育に対する理解の決定的な欠如です。ともに学びたい本人に対し、本人を矯正しないと同じ教室に入る資格がないと考える先生との意識の違いに本人が苦しんで転校を希望しました。

A4.A5.(島村)すごく気になります。カナダの事例以前の問題です。現場における障害へのスタンスのずれがすごい。学校では各教員の教育観、価値観に影響が大きいです。ここまでのレベルに達しない人は教育の価値がない、というのは差別であり偏見です。私だったら訴えるぐらいの話です。特別支援学校へ年度途中で編入できないというのはご都合主義です。中学校は義務教育なので行政上の不作為なので訴えていかないといけないです。

(長位)イルカに来て詳しく聞かせてほしいです。同じ事例が沢山ありました。面談した時に、保護者、本人、学校、行政の考えが合わなくて、まだ学校に行けていません。学校における実践例もあるので、一緒に行動を起こしましょう。

Q6.島村先生へ。ひなたの母です。合理的配慮をも使って高校受験に向かっていきたいと思っています。どのように動いていけばいいでしょうか。

A6.(島村)今からは高校向かっていくのが普通になっていかないといけないです。入学試験にまず壁があります。県教委もそこの改善は進めると言っているので、期待していいと思います。今、真和志高校のゆい学級がどうなっているかを見ておいてほしいです。今後いろんな壁にぶつかると思う、進路問題がどうなっていくのか。

(長位)入試がある限り、突破しないといけないです。今90何%が義務教育のように高校に行きます。入試制度で回答できるかどうかで学校に行けるかどうか決められるのが、ハードルが高い。名前が書けないだけで落とされる高校入試の在り方を、教育委員会を変えないといけないかもしれません。

(チャットで回答)
Q7.イルカさんへの質問。福祉(事業所)が「堂々と」学校に入ることができる「保育所等訪問」があります。大阪市では学校(小学校)から拒否されたりして苦戦しています。イルカさんはどうですか?

A7.(自立生活センター・イルカ 早坂)沖縄では市町村の格差があります。それは認知度の格差が大きいと思います。また、学校現場によって管理者側がウェルカムな学校と、戸惑いや、学校に入れない、といった声もあり、本当にバラバラです。保育所等訪問が現場にもとってもプラスになる制度であることを理解してもらって、スタンダードな制度になるようにしていくために動いています。

<以下は後日回答を頂いたものです>

Q8.特別支援学校の高等部に通っても高校卒業認定が得られないのはなぜですか?

A8. (教育庁県立学校教育課 特別支援教育室)
高校や特別支援学校高等部の卒業については、各学校で卒業証書や卒業証明書を出しています。
特別支援学校から別の校種である高校の卒業証明書を発行することはできません。
ただし、特別支援学校高等部卒業であれば、大学の入学資格が認められています。

▽大学入学資格について(外部リンク:文部科学省)

Q9.地域の学校で学ぶときのメリットとデメリット特別支援学校で学ぶメリット、デメリットを登壇者の方から聞いてみたいです。

A9.(長位)特別支援教育のメリット、デメリットというより、自分たちが優生思想や、能力主義で無意識に刷り込まれていることを問い直すことが今回のインクルーシブ教育推進フォーラムの目的でした。私たち一人一人が次の世代にどんな教育を残したいのか、という事だと思います。

Q10.学校の支援員の方から、支援員は協力級の要支援の生徒のみの支援で、支援級の生徒が協力級で学習する際には支援級の教員が担当するのだから見てはいけないということになっているとのこと。これは沖縄県全体の制度でしょうか。

A10. (教育庁県立学校教育課 特別支援教育室)
小中学校の特別支援教育支援員は、基本的には、通常の学級に在籍する児童生徒の日常生活上、教室移動等における介助や発達障害の児童生徒の学習支援等を行っています。市町村教育委員会が採用・配置していますので、その運用についても各学校や市町村教育委員会で定めていると思いますので、詳しくは各市町村教育委員会へお問い合わせください。

Q11.ひなたくんの登下校、学校内のヘルパーはどんな福祉サービスを使っていますか?

A11.(山崎さん母)登下校は移動支援です。学校内は、教育委員会と契約した事業所が入っています。支援員は補助員のような個人での契約ではないので、シフトを組んで対応してくれています。

Q12.なぜカナダを選ばれたのですか?他の国と比べて特徴的な取り組みがあったからでしょうか。

A12.(長位)カナダを選んだ理由は琉球大学の教授からカナダの障害者制度について聞いたことがきっかけです。重度障害者教育に関しては、それまでウズベキスタン、ネパール、タイ、韓国、台湾、に行って見る機会がありました。そこでの教育に関して教育を受ける権利さえ与えられていないことがわかりました。

家族がお金持ちの人たちはホームスクールという制度を使いながら、家に先生を呼び、学業をしている人もいましたが、大半の人たちは字も書けない人たちが多かったです。

先進国の中では、カナダ、スウェーデン、デンマーク、アメリカ(ハワイ)も重度障害者の教育がどうなっているのかというのを見学させていただきました。

カナダの場合、実際に1週間の滞在期間があって、4、5箇所の教育委員会とか、各学校を回らせてもらい、障害を持つ子どもたちの教育を生で観た感想です。カナダは人権憲章があって、施設を廃止し、特別支援学校を廃止する憲法のようなものがあって、インクルーシブな教育だったと思います、しかし課題もありました。日本から見た課題については再度カナダ教育委員会や当事者団体にお伝えし、戻ってきました。

Q13.沖縄では、エレベーターが付いている公立高校は何%ですか?

A13. (教育庁県立学校教育課 特別支援教育室)
施設課に問い合わせたところ、公立高校60校中、33校にエレベーターが設置されています。 次年度設置予定の学校もあり、今後も校舎改築等に合わせて順次、設置していくとのことです。

その他、頂いたお声

総括

今回この特別企画を実施するにあたり、改めて教育の課題は社会の課題の写し鏡だと感じました。また、この問題の根幹は何十年も続く、障害者分離政策にあることが共通認識されました。

何十年も続く分離政策を打開するためには、様々な角度でのアプローチが必要です。地域的、世代的、職種、障害の種別や有無をこえて、今後も取り組みを継続していきましょう。

終わりの写真

報告:沖縄県自立生活センター・イルカ 早坂佳之


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