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【報告】改めて、「ともに働く」を考える~バリアフリー映画上映会&トークイベント 映画「チョコレートな人々」から考える 誰もが働ける社会とは~

2023年12月06日 雇用労働、所得保障障害者文化芸術

トークセッションの様子

11月23日(木・祝)、連合会館で「バリアフリー映画上映会&トークイベント 映画「チョコレートな人々」から考える 誰もが働ける社会とは~」を開催しました。当日は会場に95名の参加をいただきました。

会場はバリアフリー上映会ということで、UDcastの提供はもちろんのこと、体調にあわせて横に寝転がれるマット席や他人の視線を気にせずに済むパーテーション席を準備しました。

パーテーション席とマット席

映画「チョコレートな人々」の上映後に、久遠チョコレート代表の夏目浩次さん、映画監督の鈴木祐司さん、埼玉県にある就労継続支援A型「アスタネ」施設長の齋藤功一さん、NPO法人アクセプションズ理事長の古市理代さんの4名が登壇してトークセッションを行うという形で、このイベントは構成されました。

映画「チョコレートな人々」の感想

映画には、障害や性的指向など様々な特性を持つ人々が登場します。現代社会において「生きづらさ」に直面する彼らが、創意工夫によってその人らしさを仕事で発揮している姿が印象的でした。

夏目さんの実践している創意工夫は、合理的配慮の一種と言い換えられると思います。「できないから、あきらめよう」「仕方ないけど、排除しよう」ではなく、「では、どうしたらいいか」「もしかしたら、こうすればいいのではないか」というクリエイティブな、提案型のトライ&エラーの数々。

時として大きく失敗しながらも、どうせ転ぶなら前に転ぶ。劇中で幾度となく流れる、「温めれば 何度でも やり直せる」というフレーズは、この映画を観た多くの人に寄り添う言葉です。

久遠チョコレートの取組みを「綺麗事」と片付けることは、「素晴らしいですね」と口先で言うばかりで結局は他人事とすることに似ています。いかに自分事として、目の前の人や出来事に向き合っていけるのかを、問いかけられている気がしました。「人が人を判じて優劣をつけるのはおかしい」、という夏目さんの言葉が、深く心に刻まれました。

トークセッション

後半のトークセッションでは、進行役の崔より、映画制作のきっかけや、劇中では語られなかった舞台裏についてなどの質問が投げかけられました。

夏目さんは「工夫や配慮を特別なことではなく、当たり前にできることが大切です。僕は自分のことを特別な人間とは思っていません。あくまで、人対人のコミュニケーション。人が人を区分ける社会はつまらないと思いませんか。デコボコがあるから社会は面白い。そんなに難しく考えなくていい」と話しました。

監督の鈴木さんは2002年、別の取材の途中、偶然街なかで夏目さんと出会ったそうです。久遠チョコレートの前身のベーカリー時代から取材をしており、その当時の映像は映画の中でも重要な位置付けとなるシーンになっています。障害者の、あまりの賃金(工賃)の低さに大きな違和感と問題意識を持っていたという点で、夏目さんと意気投合したといいます。

夏目さんと鈴木監督

アスタネの齋藤さんからは、「就労継続支援A型で菌床しいたけを作っています。年間100トン生産し、埼玉県でも有数のしいたけ生産者となりました。障害者を『スタッフ』と呼び、ビジネスとして一般社会で奮闘している事業所です。もちろん、ぶつかり合いも現場では起こることもあります。映画で夏目さんが言っていた『もがく』という言葉が印象的でした」と発言がありました。

齋藤さんと古市さん

古市さんは、「2004年に生まれた息子がダウン症でした。それまで福祉や障害者のことはほとんど知りませんでした。2011年の東日本大震災のときに、避難できない障害当事者のことを知って、非常に理不尽を感じました。障害者のポジティブな面を発信しようと、アクセプションズを立ち上げました。一緒に『働く』の前提に一緒に『学ぶ』があると思います」との発言ののち、劇中の夏目さんのとある言葉を引用し、「夏目さんは、今でも『がんばれば、障害は乗り越えられる。』とお考えでしょうか」と問いかけました。

それに対して夏目さんは「いいえ」と前置きしてからこう答えました。

「『がんばれば障害は乗り越えられる』ではなく、今では『なんだっていいや』、と思っています。人それぞれ違っていい、もっとシンプルに考えたいです」。

それを聞いた古市さんが、「安心しました。私自身も『息子を健常者に近づけたい』と思っていた時期がありましたが、今では、その人それぞれでいいんだと思えるのです」と答えていました。

そもそも夏目さんが、障害者に関心を持ったきっかけがありました。小学校時代に同じ教室にいた障害のあるクラスメイトをいじめてしまい、やがてその子が同じ教室からいなくなってしまったのです。その子はいつもよだれを垂らしていて、そのことを先生がいつも怒っていました。そのため、自分たちもそれでいいんだ、と思ってしまったそうです。

「その子の親は一生懸命頑張って通常級に通わせたと思うのですが、その子と障害のない人の世界のつながりはそれで終わってしまった。それがずっと心に引っかかっています」。その夏目さんの言葉に、崔からは「まさに分離教育の犠牲者ですよね」とコメントがありました。

夏目さんは、かつてベーカリー時代に寄り添いきれずに縁が途切れてしまった方から学んだこととして、「事業・会社を強くすること」を挙げました。

鈴木さんは「ベーカリー時代は薄利多売だったこともあり、その方が障害特性でパニックになると、作業が止まってしまった。その方のことは、夏目さんは当時、相当悩まれたのでは」と言葉を投げかけたのですが、夏目さんは「僕もつらかったけれど、その当事者の方が一番苦しかったはずです」と振り返りました。

このエピソードを受けて、齋藤さんが「作業を早くしよう、生産性をより高くしよう、とうちの現場でもよく言われている言葉です。働く大変さと向き合いながら、どうにか進めています」と現場の率直な声を紹介しました。

夏目さんは、障害者権利条約についてほとんど知らなかったそうです。それを聞いた崔からは、驚きとともに「夏目さんの取り組みは条約の先を行っていますね。重度の障害者はなかなか地域で学んだり働いたりできない、と思われています。」と発言がありました。

さらに夏目さんはこうも言いました。

「強度行動障害のメンバーに『やめてもらう』という選択肢はなかったです。組織が成長するきっかけをくれたと考えています。ピンチはチャンスです」

続いて崔から、「実際に、尊厳や自信につながらない雇用形態があります。このままではいけないですよね」という問題提起がありました。

それに対し、齋藤さんは「雇用率の達成だけではいけない。障害の有無を越えて一緒に成長していきたいです。ただ数字のためではなく、その人らしく働ける環境づくりが重要です」と答えました。

既存の能力主義と雇用の分野はどうしてもぶつかってしまいがちです。まずは、今の環境を大きく変えていかなければならないのです。久遠チョコレートのように、障害の有無を越えて「ごちゃまぜ」で「一緒に成長していく」スタンスこそ、変革のきっかけを生むのではないかと思いました。

夏目さんはトークセッションの最後をこう締めくくりました。

「障害者だとかそうじゃないとかじゃなくて、『みんな一緒に』が大切。シンプルな社会にしていきたい。ときに失敗したっていい。そう思っています」

参加者の感想

このイベントに参加した(スタッフとしても活躍してくれた)ダウン症の当事者である鈴木俊太朗さん(24歳)が、終了後に感想を聞かせてくれました。

Q.映画の感想を教えてください。
A.映画の中で、いろいろな人がチョコレートを作っていて、かっこいいと思いました。チョコレートはすぐ溶けてしまうけど、ちゃんと作れていてすごいです。とても美味しそうでしたね。

Q.トークセッションはいかがでしたか?
A.ちょっと難しかったかな。でも、きっと大切なことを、みんなが一緒に考えていると思いました。会場にベビーカーの赤ちゃんとかもいて、いろいろな人がいて、参加していて楽しいと思いました。

Q.イベント全体はいかがでしたか?
A.チョコレートやしいたけを売っていたりしていて、いいですね。ごろんと横になれる場所があったり(マット席)、椅子を並べて横になったりしている人もいましたね。いろいろな人がいて、面白かったです。

会場で販売されたチョコレート 会場で販売されたしいたけ

おわりに

「働く」というのは、ただ賃金を得ることだけではなく、働きがいや尊厳を見出すことだと改めて学びました。もがくことを、そのままデコボコとして、ありのまま肯定する。失敗しても、それを次に繋げる財産にできる。そんな社会になれば、より多くの人がいきいきと暮らせるようになるのではないでしょうか。

「温めれば 何度でも やり直せる」、その「温める手」の一人になりたいと、障害当事者の一人として感じました。

鷺原由佳(事務局員)


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