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【裁判支援報告】日本盲導犬協会と視覚障害のある女性は和解、労働環境の改善が約束されました

2021年04月26日 権利擁護

記者会見

△写真:最後の記者会見に同席する事務局次長の白井(一番左)

公益財団法人日本盲導犬協会に勤務していた視覚障害のある女性Mさんが、同協会での勤務において、およそ3年間に渡り会議への出席の拒否、固定された位置のデスクを与えられないなどの精神的な苦痛を受け、尊厳を傷つけられたとして東京地裁に提訴しました。

そして4月21日(水)日本盲導犬協会側が労働環境を改善させることなどを条件に、和解が成立しました。

最後に記念撮影

DPI日本会議は、これまで記者会見への同席や裁判の傍聴呼びかけなどの支援を行ってまいりました。
原告のMさん※、代理弁護士の海渡さん、小川さんからこの件に関する報告書を頂きましたので、掲載させていただきます。

※原告のMさんはこれまでXさんとしてDPIホームページ上で掲載していた方です


2021年4月24日

報告書

                                原告 ●●●●●(Mさん)
代理人弁護士 海渡雄一
代理人弁護士 小川隆太郎

認定NPO法人 DPI日本会議 御中

1 はじめに

当事務所の海渡と小川が担当していました、公益財団法人「日本盲導犬協会」で働いていた視覚障害のある原告Mさんが、職場で差別的な扱いを受け、職務環境等について合理的配慮がなされなかったとして協会を訴えた訴訟が4月21日、東京地裁(前澤達朗裁判長)で和解によって解決しました。提訴の時点から今日まで、長くご支援をいただいたDPI日本会議の皆さんに心から感謝し、和解の経過をご報告させていただきます。

2 訴訟の概要

この訴訟の原告のMさんは盲導犬ユーザーでした。2015年4月1日から有期雇用契約者として公益財団法人日本盲導犬協会で勤務しました。その後平成2018年3月31日に雇い止めとなるまで、「神奈川訓練センター」を中心に勤務しました。契約上は他の職員と変わらない盲導犬の普及活動に関する一般的業務を行うものとされていたにもかかわらず、他の職員と違い、募金活動などの場での視覚障害や盲導犬の説明しか任されませんでした。

他の晴眼者スタッフと平等な一人前のスタッフとして取り扱われず、仕事を通じて知り合う人々との自律的な社会関係を結ぶことを認められず、被告の今後の組織運営や仕事の改善について自らの意見を反映する組織内のコミュニケーション回路から排除されてしまいました。

具体的には、原告は「ディスプレイ・スタッフ」という募金活動におけるデモンストレーション業務しか割り振られず、センターの他の職員が集まる会議への参加も許可されず、自分の専用の固定机も電話も用意してもらえませんでした。内勤でセンターに出社するたびに、業務指示が貰えず放置され、その日休んでいる他の職員の席を探して、その席で自分で見つけた仕事を行うしかありませんでした。電話番や犬具の洗濯などです。

名刺に自分のメールアドレスを記載することも認められず、仕事上知り合った外部関係者からの仕事上のフィードバックも受け取れませんでした。Mさんは日常生活ではパソコンを使いこなしているにもかかわらず、何度要請しても視覚障がい者用にパソコンをデータベースにアクセス出来るようにセットアップして貰えないなどの差別的取扱い又は合理的配慮提供義務違反の処遇を受けたというものでした。これらのストレス等によって、Mさんはうつ状態となってしまいました。

Mさんは、日本盲導犬協会によるこのような取扱いは、障がい者雇用促進法35条・障がい者差別解消促進法8条1項・障がい者権利条約17条の禁止する不当な差別取扱い、または障がい者雇用促進法36条の4・障がい者権利条約27条、33条3項が定める合理的配慮原則義務違反にあたるとして損害賠償を求めました。

3 和解内容とその意義

和解内容の中で、外部に公表することが合意されている条項は次の2点です。

「(1) 被告は,原告に対し,原告が被告在職中に担当していたデモンストレーション業務に関して,その企画・連絡調整・業務改善などのより中核的事務に携わりたいという思いや労働環境等に関する希望を結果として十分に汲みとることができなかったことについて遺憾の意を表明する。

(2)被告は,本件を契機として,引き続き,視覚障がい者の雇用にあたり,一人ひとりの業務に携わるに当たっての思いをより一層汲みとるように努め,当該雇用者の労働環境等を向上させるための努力をする。」

この和解条項は、争点の整理が終わり、証人調べ予定者の陳述書を含む書証などもすべて提出され、双方の申請した証人調べを行う直前に、裁判所から提案されたものであり、提案された条項通りに和解が成立しました。

したがって、この和解は裁判所の一定の心証を前提としているといえると思います。つまり、この和解内容は、協会側にMさんを差別する意図があったかどうかはわからないが、結果として、Mさんの希望をくみ取ることができず、合理的な配慮を欠いた状態となっていたという裁判所の判断を前提にしているのです。そのうえで、第2項で、「視覚障がい者の雇用にあたり,一人ひとりの業務に携わるに当たっての思いをより一層汲みとるように努め,当該雇用者の労働環境等を向上させるための努力をする。」ことが約束されています。

原告側は、和解期日において、裁判官の前で、次の要望事項を読み上げました。
「(1)和解条項の第1項及び第2項を被告内部においてメール等で、周知して下さい。(2)障がい者のユーザー及び職員に対する合理的配慮について、被告内部において研修を実施して下さい。(3)障がい者やその他職員について、差別や合理的配慮、の欠知等の問題が生じた場合に備えて、コンプライアンス体制を強化して下さい。」

これに対して、和解に列席した法人理事は「これまでもやってきたことではあるが」という留保をつけましたが、「今後は、より一層、気持ちを引き締めてご要望に沿うようにやっていきたい」と前向きの答えをされました。

4 この和解のもつ意義

和解解決後に、東京地裁司法記者クラブで開かれた記者会見の場で、Mさんは、「協会は視覚障害者のための団体としたうえで『見本になるくらいきちんとしないといけなかった。障害者も一緒に働く仲間として受け入れる社会に変わってほしい』」と訴えました。朝日新聞の記事によれば、和解を受け、協会は「これを契機に労働環境を向上させるための努力をする」と答えたようです。

原告代理人としては、この和解は、原告のMさんの「協会に障がい者を一緒に働く仲間として取り扱ってほしい」という心からの要望を、被告協会も前向きに受け入れ、未来志向で合意に達することができたものであると評価します。

この裁判は提訴の時点から、毎回の法廷傍聴、和解手続きに移行した後も、和解期日に控室で手続きにご参加をいただき、和解をまとめた後の記者会見にもDPIの皆さんに参加していただきました。この和解内容を、真に実現するためには、障がい当事者を講師とする研修の実施が欠かせないと思います。心から、ご支援に感謝するとともに、今後とも、DPIの皆さんのご協力をお願いして、報告を終わります。

以上

▽日本盲導犬協会 視覚障害の元職員に差別的扱いの裁判で和解(NHK)

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