「バリアフリー法の改正なるか?ビックイベントを契機とした各地の取り組み」:DPI政策論「バリアフリー分科会」報告と参加者感想
昨年12月7日(土)開催した第13回DPI障害者政策討論集会「バリアフリー分科会」では、2025年にバリアフリー法改正5年を迎え、大阪万博や名古屋アジア大会に向けた障害者の取り組みが活発化しており、国の検討会の最新動向や各地のバリアフリー施策、UDタクシーの課題と改善策について議論されました。
報告を佐藤聡(事務局長)が、感想を能松さん(CILふちゅう)が書いてくれましたので、是非ご覧ください。
こんなことが話されました(ポイントまとめ)
1. 2024年の主な検討会(佐藤聡:DPI日本会議事務局長)
- 第4次基本方針(2026~2030年)の策定
- 駅ホームの段差・隙間解消、目標数値引き上げを議論
- サイトライン確保の義務化を提案も、国交省は慎重姿勢
- 航空機の障害者避難対策
- 羽田空港事故を契機に初の意見交換会実施
- 重度障害者向け避難訓練の必要性を提言
2. 2025年施行の3つの改正
- バリアフリートイレの設置基準強化(各階1カ所以上)
- 車椅子用駐車場の設置義務化
- 劇場等の車椅子席の拡充
3. 電動車椅子の航空機利用時のバッテリーチェック改善
- チェック手順(3回)を簡略化し、搭乗手続きの負担を軽減
ビッグイベントを契機とした各地の取り組み
1. 2025大阪・関西万博(六條友聡:社会福祉法人ぽぽんがぽん)
- ガイドラインを障害者参画のもと改訂(1800件の意見反映)
- 施設整備・移動手段のバリアフリー化を推進
- スタッフ向けの障害者研修を実施予定
2. 2026愛知・名古屋アジア競技大会(入谷忠宏:愛重連事務局長)
- 東京オリパラの成果を継承・発展
- アクセシビリティガイドライン策定(障害者参画)
- 愛知国際アリーナのバリアフリー改修(スロープ・大型エレベーター設置)
- 市のバリアフリー政策強化(新組織設立・宿泊施設補助制度開始)
3.2024年 UDタクシー乗車運動の結果(工藤登志子:バリアフリー部会長補佐)
- 全国21都道府県、108名が調査参加
- 東京の乗車拒否は減少(8%)も、地方では増加(44%)
- 国交省が事業者向け指導通知を発出(12月):ドライバー研修義務化、乗車拒否防止策を強化
今後の取り組み
- 2025年5月:「第4次基本方針」の最終まとめ
- 2027年横浜国際園芸博覧会など、大規模イベントでのバリアフリー推進
- UDタクシーの改善(乗車拒否対策・車両改良の働きかけ)
報告詳細
■分科会開催の経緯
2025年にはバリアフリー法改正5年を迎え、バリアフリー整備目標を定めた第3次基本方針も最終年となります。そのため、国交省では今年度も多くの検討会が設けられ、基準改正等の議論が進められています。
また、2025年には大阪関西万博、2026年には愛知名古屋アジア競技大会が予定され、地元障害者団体が継続的な働きかけをしています。本分科会では、現在開かれている検討会や、ビックイベントを契機とした各地の取り組み、10月に実施した全国一斉行動!UDタクシー乗車運動の調査結果について報告しました。
■分科会で報告・議論したこと
1.バリアフリー今年の主な検討会等の動き
報告:佐藤聡(DPI日本会議事務局長)
(1)2024年の主な検討会
DPIが参加している国交省の検討会は11あるが、特に注目は①バリアフリー法及び関連施策のあり方検討会、②サイトラインの確保等に係る検討WG、③障害者等の航空機非常脱出に関する意見交換会の3つ。
①については、2026年〜2030年までのバリアフリー整備計画である第4次基本方針の策定を議論しており、新たな項目(駅ホームの段差と隙間の解消)や、目標数値の引き上げ等を求めている。
②に関しては、サイトラインの確保、同伴者席は隣席、垂直水平分散の義務基準化を求めているが、国交省は建築確認申請でサイトラインが確保できているか判断ができないと固い姿勢。
③に関しては、今年1月の羽田空港日航機事故で車椅子ユーザー2名が無事に避難しており、航空局に事業者との意見交換を要請し、国会でも取り上げられたことから、初めて障害者団体との意見交換会が設けられた。非難方法の説明があったが、重度障害者には十分な対応策が考えられていないようで、障害者団体からは避難訓練への参加を求める声が多く、航空局として検討することになった。
(2)2025年施行の3つの改正
昨年度の検討会を受けて基準が改正され、2025年6月から新たに以下の3つが義務化される。床面積2000平米以上の特別特定建築物は、バリアフリートイレは各階に1箇所以上設けることを標準とする。建築物に付随する車椅子使用者駐車施設(3.5m幅)は、総数200台以下は2%以上、201台以上は1%+2台以上、劇場等の車椅子用席は、総席数400以下は2席以上、401席以上は0.5%以上。
(3)電動車椅子の航空機利用時のバッテリーチェックの改善
飛行機に搭乗する際のバッテリーチェックは、これまでチェックインカウンター、保安検査場、搭乗ゲートの3箇所でされて、非常に時間がかかっていたが、DPIの働きかけて大幅に改善された。目視によるバッテリーチェックは義務ではなくなり、チェックインカウンターでチェックが終われば、保安検査場でのチェックは免除され、搭乗ゲートでのチェックは無くなった。
2.ビックイベントを契機とした各地の取り組み
(1)2025大阪・関西万博への働きかけ
報告:六條友聡(社会福祉法人ぽぽんがぽん)
2021年7月に大阪・関西万博ユニバーサルデザインガイドラインが発表されたが、障害当事者抜きで作られ、内容も東京オリパラの施設整備のガイドライン「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン」を踏まえていなかった。
働きかけを行い、12月に一から作り直すことになり、地元の障害者15人が委員に加わり、1800もの意見を出して改訂した。内容は東京オリパラのガイドラインを引き継ぎ、さらに発展させるものになった。施設整備のワークショップも開かれ、大催事場やエレベーターの設置等の具体的な計画を話し合っている。
移動手段のバリアフリー化が課題で、万博のスタッフには障害当事者による研修を進めていきたい。
(2)2026愛知・名古屋アジア競技大会への働きかけ
報告:入谷忠宏(愛重連事務局長)
東京オリパラで実現したものを愛知・名古屋アジア競技大会でも継承して発展させていく。大会会場のバリアフリー整備基準である「Aichi‐Nagoya アクセシビリティガイドライン2026」も多様な障害当事者が参画して策定した。
会場として建設される愛知国際アリーナは、当初の計画では正面玄関が大階段で、エレベーターは15人乗りしかない不十分なものだった。働きかけた結果、エレベーターは24人乗りへ大型化し、階段横にスロープも設置し、地下鉄からの直通エレベーターも2基設置されることになった。
大会を契機として、名古屋市では、「瑞穂公園陸上競技場地区バリアフリー基本構想」が策定され、健康福祉局に新たな組織「バリアフリー整備に係る企画調整担当課長・課長補佐」を設置した。「ナゴヤあいサポート事業」もスタートし、名古屋市宿泊施設バリアフリー化推進事業補助金制度も始まった。今後は、運営計画への当事者参画、交通・宿泊事業者へのアプローチ、歩道や車道の整備、多様性への意識改革に、自治体と連携して取り組んでいきたい。
(3)2024UDタクシー乗車運動の結果報告
報告:工藤登志子(バリアフリー部会長補佐)
今年度は全国21都道府県から延べ108名が参加してくれた。主な調査結果は以下の通り。東京の乗車拒否は減ったが地方では増えており、これが課題。11月8日には国交省自動車局に調査結果の報告を行い、事業者に対して乗車拒否をしないように事務連絡の発出を要請した(12月11日に発出)。
1.乗車拒否は減少 27%(2019)➡35%(2023)➡31%(2024)、電動車いす 25%(2019)➡42%(2023)➡29%(2024)
2.簡易電動車いすの乗車拒否が増加 16%(2019)➡40%(2023)➡47%(2024)
3.東京は乗車拒否が減少 21%(2019) ➡ 17%(2023)➡8%(2024)
4.東京以外は乗車拒否が増加 29%(2019) ➡ 41%(2023)➡44%(2024)
5.乗車に要した時間は減少 11.2分(2019) ➡ 10.1分(2023)➡8.2分(2024)
6.研修を受けていない運転手が減少 2.6%(2019) ➡ 14.3%(2023)➡1.9%(2024)
〇今後の取り組み
第4次基本方針は、来年5月に取りまとめの予定で、さらなるバリアフリー化を推進するために、検討会で働きかけを行なっていく。東京オリパラから始まったビックイベントを契機としたバリアフリーの取り組みは、名古屋、大阪へと継承され、発展している。
今後もこの流れを継続し、2027年に横浜で開かれる国際園芸博覧会への働きかけも行なう。UDタクシーについては、DPIからの要請を受けて12月に国交省は事業者に事務連絡を発出した。内容は、2018年(国自旅第185号の2)と2019年(国自旅第191号の2)に出された事務連絡を再周知するするとともに、新たに以下の3項目が加わっている。
- UD タクシーの実車を用いた研修(スロープの設置方法等に関してドライバーによる実技研修を行うこと)の実施
- 車内に車いす乗車を阻害する備品を設置しないこと
- UD タクシーであるにも関わらず、ステッカーを車体表示せず、車いすを乗車拒否することの禁止
乗車拒否の撲滅と共に、車両が狭い・乗降手順が煩雑等の車両の根本的な問題もあるため、新たな車両の開発も働きかけていく。
報告:佐藤聡(事務局長)
参加者感想
分科会では、万博の設計の問題が特に印象に残った。当事者の意見が反映されなければ、バリアフルな建物が当たり前に設計されてしまう。
実際、当事者の声を集めた結果、1800件もの意見が寄せられたとのことで、その多さに驚くと同時に、逆に言えば、それだけの改善すべき点を抱える建物が出来上がっていた可能性も十分にあり得、また実際、そのような建物が沢山あるであろうことに危機感を覚えた。
さらに、UDタクシーの格差も含め、地域ごとのバリアフリー格差についても考えさせられた。私は最近、東京から熱海に旅行した際に、バス停まで坂道を苦労してたどり着いたにもかかわらず、バスの乗車を拒否される経験をした。
東京では乗車拒否を受けたことがなかったため、この出来事には失望した。慣れない土地で寒い中、別のバス停に移動し、さらに数十分、次のバスを待つという過酷な状況であった。旅行は娯楽であると同時に、日常生活の一部でもある。
どの地域に住んでいても訪れても、安心して移動し、生活できる社会であるべきだと思う。拒否にあった際は、その場の空気に飲み込まれてしまうこともあるが、抑圧に屈することなく、実体験を発信することが重要だと分科会を聞いて感じた。
旅行中含め、「車椅子だから…」とタクシーの流し乗りには抵抗があったが、思ったより拒否は少なそうなので近々利用してみようと思う。
能松(CILふちゅう)
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