【ポイントまとめ】国連から廃止を求められている成年後見制度-見直しに向けた動向と世界の動きを知り、これからを考えるーDPI全国集会「権利擁護分科会」報告・感想
DPI全国集会「権利擁護分科会」について、報告を崔 栄繁(DPI日本会議議長補佐)が、感想をツァイ スファンさん(沖縄県自立生活センター・イルカ事務局長)が書いてくれましたので、ご紹介します!
こんなことが報告されました(ポイントまとめ)
(敬称略)
1.波多野 紀夫(法務省民事局参事官)
- 現行制度は「終わらない」「広すぎる」「変わらない」という三つの課題が指摘されている
- 本人の必要に応じた柔軟な制度運用、後見人の適切な交代、必要がなくなった際の制度離脱の仕組み作りが課題である
- 成年後見制度見直しの議論では、単なる判断能力の有無だけでなく、本人の置かれた社会的背景や生活状況を考慮する新たな視点が必要
2.池原 毅和(弁護士)
- 障害者権利条約第12条の趣旨に基づき、特にラテンアメリカの国々では、成年後見制度のような代行決定制度を廃止している
- さらに、すべての人の法的能力を平等に保障する支援付き意思決定制度への移行が進められている
- コロンビアでは、リスクをとり間違いを犯す権利も尊重するという理念の下、本人の意思と選好を最大限尊重した支援制度が法制化されている
3.青木 佳史(弁護士)
- 包括的な代理権の見直し・本人の同意を重視した後見開始・必要性がなくなった際の離脱の仕組み・意思尊重義務の明文化など、多岐にわたる改革案が存在する
- これからの議論やパブリックコメントが重要になってくる
4.早坂 佳之(沖縄県自立生活センター・イルカ)
- 現場から言えることとして、意思確認の難しさ、家裁報告のあり方、報酬の低さ、親族との関係調整などが課題である
- 支援の担い手の育成や現場主導のガイドライン作りが必要である
5.崔 栄繁(DPI日本会議議長補佐)
- 将来的には制限行為能力制度をなくして成年後見制度を廃止すること
- どのような重度の障害であっても地域で平等に暮らせる社会(条約第19条に基づくインクルーシブ社会)の実現が目的である
- そのための法制度改革と地域の意志決定支援体制の整備が一体的に進められるべきというのが、DPIとしての基本的考え方である
詳細は下記報告をご覧ください。
分科会開催の経緯
第40回DPI日本会議全国集会において開催された「権利擁護分科会」は、国連障害者権利委員会が日本に対し、障害者権利条約第12条に関連して、民法上の成年後見制度の廃止等、障害を理由に法的能力を制限する差別的法制度の見直しを勧告したこと、国内においても法務省法制審議会民法部会で成年後見制度の見直しが議論されていることを受け、その最新動向を共有し、当事者の視点で今後のあるべき姿を考えるために企画されました。
2000年に導入された成年後見制度は、認知症高齢者や知的・精神障害者など判断能力が不十分とされる人々の財産管理や契約支援を目的としていますが、本人の意思決定権を不当に制限する差別的な法制度として、国連の委員会からは日本だけでなくすべての国に対して廃止の勧告が出されています。
本分科会は、そうした状況を踏まえ、南米諸国の成年後見制度の見直しの法改正などの最新の国際的潮流、政府の見直しの動向、国内での実践例を俯瞰し、今後の後見制度や意思決定支援の制度の在り方を考える機会にするために開催しました。
報告・議論したこと
まず法務省民事局の波多野参事官から、政府の成年後見制度見直しの検討状況についての行政報告をしていただきました。
現行制度は「終わらない」「広すぎる」「変わらない」という三つの課題を指摘されており、本人の必要に応じた柔軟な制度運用、後見人の適切な交代、必要がなくなった際の制度離脱の仕組み作りが課題として浮かび上がっています。
また、制度見直しの議論では、単なる判断能力の有無だけでなく、本人の置かれた社会的背景や生活状況を考慮する新たな視点の必要性が強調されました。
続いて弁護士の池原氏からは、障害者権利条約第12条の趣旨に基づく国際的な取り組み、特にコロンビアをはじめとするラテンアメリカ諸国での先進的な制度改革について紹介がありました。
これらの国々では、成年後見制度のような代行決定制度を廃止し、すべての人の法的能力を平等に保障する支援付き意思決定制度への移行が進められています。
コロンビアでは、リスクをとり間違いを犯す権利も尊重するという理念の下、本人の意思と選好を最大限尊重した支援制度が法制化されている事例が共有され、日本の制度改革への示唆が提示されました。
後半のパネルディスカッションでは、法制審で成年後見制度の検討を行っている部会の委員である青木弁護士より法制審部会での具体的な論点が示されました。
包括的な代理権の見直し、本人の同意を重視した後見開始、必要性がなくなった際の離脱の仕組み、意思尊重義務の明文化など、多岐にわたる改革案が紹介され、これからの議論やパブリックコメントの重要性が指摘されました。
また、沖縄県自立生活センター・イルカの早坂氏からは、現場での法人後見の実践を通じ、意思確認の難しさ、家裁報告のあり方、報酬の低さ、親族との関係調整などの課題が率直に共有され、支援の担い手の育成や現場主導のガイドライン作りの必要性が提起されました。
最後にDPIの崔より、DPIの立場を法制審議会でのヒアリング資料を紹介し、DPIの成年後見制度の見直しの考え方を紹介しました。
DPIとしての基本的考え方は、将来的には制限行為能力制度をなくして成年後見制度を廃止することや、その目的がどのような重度の障害であっても地域で平等に暮らせる社会(条約第19条に基づくインクルーシブ社会)の実現であること、そのための法制度改革と地域の意志決定支援体制の整備が一体的に進められるべきであるとの立場が示されました。
今後の取り組み
成年後見制度の見直し議論は、2025年夏に予定される中間試案の公表とパブリックコメントの実施が大きな節目となります。
今回の分科会を通じ、参加者の間では「制度の枠組みを変えるだけでなく、本人の意思と選好をいかに現場で支え、実現していくか」が共通の課題として再確認されました。DPIおよび関係団体、個人は、この重要な局面で当事者の声を政策に反映させるべく、積極的に意見表明し、提言を行う必要があります。
障害者や高齢者の権利を障害のない人と平等に保障するための成年後見制度の見直しや廃止は、福祉サービスである重度訪問介護や日常生活自立支援事業の拡充と同時に進められなければなりません。
権利擁護分科会での議論を、今後はさらに様々な団体などと協力し、世界の動向も踏まえた具体的な制度政策提言を行っていく機会としたいと考えます。
崔 栄繁(DPI日本会議議長補佐)
参加者感想
沖縄県自立生活センター・イルカの事務局長、ツァイと申します。
池原先生のご講演や南米の事例から成年後見制度について学ぶ中で、これまで成年後見制度は障害者の権利擁護を目的として行政も含めて推進されてきた一方で、実は国際的には人権侵害につながり廃止が求められている制度である現状を知り、非常に衝撃を受けました。
特に池原先生から、ラテンアメリカ諸国では障害者権利条約12条を実現するために成年後見制度を廃止し、意思決定支援を制度化しているという事例を伺い、日本でも制度の在り方を真剣に見直すべきだと感じました。
これまでイルカでは、重度の知的障害者や精神障害、高齢化した当事者の一人暮らしや親亡き後の金銭管理について、本人を交えたチームで支援してきましたが、当事者が亡くなった際、親族との間で金銭トラブルが発生した経験もあり、法的にも透明性を保ちながら支援できる仕組みの必要性を痛感してきました。
今回の分科会で池原先生から「代行決定ではなく意思決定支援」「本人の意思と選好を最善に解釈して支援する」という考え方を学び、私たちの支援のあり方そのものを根本から問い直す機会になりました。
特に、「本人が意思を表明する機会を地域の中で増やすことが、法的能力を高める基盤になる」という話が印象に残り、地域でのつながりづくりや日常のコミュニケーションの大切さを改めて感じました。
私たちの団体としても、成年後見制度に頼らず、当事者の意思決定を支える支援体制を構築し、真の自立生活を実現するため、今後も挑戦を続けていきたいと強く感じています。
ツァイ スファン(沖縄県自立生活センター・イルカ事務局長)
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