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JICA課題別研修フォローアップ報告② ― 南アフリカ訪問レポート

2026年03月17日 地域生活バリアフリー国際/海外活動障害者権利条約の完全実施

南アフリカでの訪問の冒頭に掲載した現地の様子の写真
写真:最終日のワークショップで研修員3名と終了後に記念撮影

前回のケニア編に続き、今回は南アフリカでのJICA課題別研修のフォローアップ・調査報告です。第1弾のケニア訪問レポートは下記からご覧ください。

JICA課題別研修フォローアップ報告 ― ケニア訪問レポート

南アフリカでのフォローアップと調査について

南アフリカには2月3日から8日にかけて滞在しました。

南アフリカでは、DPI日本会議が自立生活支援に関するプロジェクトを実施してきたこともあり、自立生活運動や障害者団体の実践が一定程度積み重ねられ、制度や活動の土台が築かれていました。その一方で、活動の持続性、リーダーの世代交代、財政制約、そして住宅政策の限界といった課題も浮かび上がってきました。

今回、南アフリカでフォローアップした研修員は3名です。

2023年研修員のタミーは、Wheels of Changeの設立者兼代表として、自立生活センターに関する普及啓発やパートナーシップづくりを長期目標に掲げています。

2024年研修員のシフィソは、ソウェト自立生活センターのプログラムマネージャーとして、自立生活センターそのものの発展をテーマとしています。

そして2025年研修員のモケテは、南アフリカ障害者協議会(DPSA)ハウテン州支部長として、インクルーシブでアクセシブルな住宅を増やすことを長期目標に掲げています。今回の訪問では、こうしたそれぞれのロードマップが現場でどのように進んでいるのかを確認しました。

DPI日本会議が実施している南アフリカでのプロジェクトについて

南アフリカでの自立生活推進事業は、ハウテン州における障害のある人の自立生活を促進することを目的とし、国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業を通じて、2013年にDPI日本会議の加盟団体であるヒューマンケア協会により開始され、2016年にDPI日本会議に引き継がれて実施されてきたものです。

これまでの取り組みを通じて、ヨハネスブルグ市のソウェト地区とエクルレニ市のジャーミストン地区の2か所にソウェト自立生活センター(ILC)とレメロスILCが設立され、障害当事者によるピア・カウンセリングや自立生活プログラム、介助サービスの提供、住宅改造や移送サービスの試みなどが進められてきました。

現在進行中のフェーズ3では、これまでの成果を基盤としながら、ハウテン州全域に自立生活の理念と実践を広げていくことを目指しています。(本プロジェクトの詳細は下記オンラインミニ講座で解説していますので、是非ご覧ください)

2月4日(水)Wheels of Change訪問

2023年研修員であるタミーのセンターであるWheels of Changeを訪問しました。ここでは、職業訓練、運転免許取得支援、農場運営など、国の助成金も活用しながら多面的な支援が行われていました。

一方で、障害者手帳の取得が十分進んでいないことが大きな課題として挙げられており、そのことが支援へのアクセスにも影響しているようでした。制度にアクセスできないという”制度の谷間の問題”は、日本でも大きな問題ですが、南アフリカではより切実なかたちで現れているように感じました。

Wheels of Changeを訪問した際の様子 Wheels of Changeで職業訓練や運転免許取得支援、農場運営などについて話を聞いている様子

Wheels of Changeで現地の意見交換を行っている様子 Wheels of Changeの活動拠点の雰囲気が分かる写真

Wheels of Changeで支援の実際の現場が分かる写真

写真:Wheels of Changeを訪問した際の様子。職業訓練、農場運営などについて話を聞きました。

レメロス自立生活センター訪問

その後レメロス自立生活センターを訪問しました。このセンターはDPI日本会議が行ってきた事業の中で大きな拠点の一つであり、現在はグループホームに近い形で運営されています。入居者は仕事をしながら同じ場所で生活し、介助者は別の部屋に滞在して交代制で寝泊まりしながら介助に入っています。

現地では、第一世代のリーダーたちが急に亡くなっていく中で活動の継続が難しくなっていることや、周辺環境の悪さからセキュリティ面での不安があることなどが語られました。

運動や組織が一人ひとりの強いリーダーシップに支えられている場合、その世代交代が大きな課題になっており、南アフリカの自立生活運動は、一定の実践を築いてきたからこそ、次の担い手をどう育てるかという段階に入っているのだと感じました。

レメロス自立生活センターで話を聞いている様子 レメロス自立生活センターで現在の生活環境や介助体制について意見交換している様子

レメロス自立生活センターで継続運営の課題について説明を受けている様子 レメロス自立生活センターの現地の様子

写真:レメロス自立生活センターで話を聞いている様子。現在の生活環境や介助体制、継続運営の課題について意見交換を行いました。

2月5日(木)ソウェト自立生活センター訪問

ソウェト自立生活センターもまた、これまでの事業によって築かれてきた重要な拠点です。2024年に日本で研修を受けたプログラムマネージャーのシフィソからは、ヘルパー制度を中心に現在の運営状況や課題について話を聞きました。

政府と連携して介助派遣や通院同行、サポートグループ支援などを行っているものの、財政上の制約から、実際に介助サービスを提供できるのは45名に限られており、多くの当事者にはピアサポートなどで対応しているとのことでした。地域の障害理解の不足、スポンサー獲得の難しさ、資金不足による人員体制の弱さなど、課題は多く、必要な人に十分な支援が届きにくい現実がありました。

ソウェト自立生活センターは、まさにフェーズ3で目指している「自立生活の理念と実践を地域に広げる」取り組みの前線にありますが、それを安定的に運営していくための財源確保が極めて重要であることを改めて感じました。

ソウェト自立生活センターでの意見交換の様子 ソウェト自立生活センターでヘルパー制度や地域での支援の広がり、財政面の課題について説明を受けている様子

写真:ソウェト自立生活センターでの意見交換の様子。ヘルパー制度や地域での支援の広がり、財政面の課題について話を聞きました。

DPSA(Disabled People of South Africa )訪問

またその後すぐ隣にある、2025年研修員であるモケテが代表を務めるDPSAも訪問しました。DPSAでは、自立生活センターの取り組みだけでなく、より広い障害者運動の視点から、南アフリカにおける権利擁護や当事者組織の役割について話を聞くことができました。

個別のサービス提供だけでは解決できない課題に対して、当事者団体が政策提言やネットワークづくりを通じて社会を動かしていくことの重要性を改めて感じました。特にモケテのテーマであるアクセシブルな住宅の拡大は、後に訪問したRDP houseの課題とも直結しており、自立生活の実践と住宅政策が切り離せないことを示していました。

DPSAを訪問した際の様子 DPSAで権利擁護や住宅政策、当事者組織の役割について話を聞いている様子

写真:DPSAを訪問した際の様子。権利擁護や住宅政策、当事者組織の役割について話を聞きました。

昼食で食べたコタ。南アフリカのストリートフードで、パンにソーセージやポテトなどを挟んだボリュームのある食べ物 昼食で食べたコタの別アングルの写真

写真:昼食で食べたコタ(Kota)

南アフリカのストリートフードで、パンにソーセージやポテトなどを挟んだボリュームのある食べ物です。1日これ一食あれば十分と思うほどの量がありました。

RDP house訪問

RDP house訪問の様子

写真:実際に訪問した家の前で記念写真。

次にモケテの友人が住んでいるRDP houseに訪問させていただきました。

RDPとはReconstruction and Development Programmeの略で、アパルトヘイト後の南アフリカ政府が進めてきた低所得者向け住宅供給政策を指します。1998年に導入されたRDPは、その後Breaking New Ground(BNG)政策へと発展しつつ、アパルトヘイト型の住宅システムを克服し、包摂的な住宅供給を進めるための重要な基盤となってきました。

RDP houseの外観

写真:RDP houseの外観。

モケテは、政府が住宅を提供する仕組み自体はあるものの、アクセシブルな住宅はまだ少なく、仮に整備されていても障害者が孤立しやすい場所に建てられている場合があること、そもそも必要な住宅数が足りていない現状を変えたいと話していました。

今回訪問先できた当事者の方は、住宅を得るまで2年ほど待っただけで「運が良かった」とおっしゃっていて、多くは5年以上待つとのことでした。

RDP house周辺の様子 RDP houseで現地の説明を受けている場面

写真:家の中の様子。まだ引っ越してきたばかりで、内装はこれからご自身でやられるということでした。

RDP houseの住宅の構造を確認している様子 RDP houseの周辺環境を確認している様子

写真左:お風呂とトイレ。右:家の入口にコンクリートが敷かれて段差解消している

住宅政策において重要なのは「家を供給すること」だけではなく、アクセシビリティ、地域とのつながり、交通、雇用、サービスへのアクセスがそろってはじめて、地域生活が可能になりますが、障害者が孤立しやすい場所に住宅を建てるだけでは、自立生活の基盤にはなりません。これは日本における地域移行にもあてはまると思います。

逆に、住宅があっても交通やサービスから切り離されていれば、結果として孤立を深めることになります。今回のRDP house訪問は、障害者の地域生活を支えるには、住宅を単体で考えるのではなく、地域のインフラや支援体制と一体で考える必要があると改めて感じました。

最終日、地域の人たちを招いて開催した「自立生活セミナー」

最終日の2月6日(金)には、「自立生活」セミナーが開催され、2023年から2025年の研修員3名がそろい、地域の人々を招いて報告会を行いました。研修全体の概要説明に加え、3人それぞれのアクションプランの発表、今後地域でどう取り組んでいくかの共有が行われ、地域コミュニティの方々、スタッフ、施設関係者、レメロス・ソウェト自立生活センターの介助サービス利用者など約70名が参加しました。

このセミナーは、単に研修の成果を報告する場というだけでなく、自立生活の考え方を地域の中で共有し、関係者を巻き込みながら今後の実践につなげていく場でもありました。研修員個人の学びをその場限りで終わらせるのではなく、地域の人々との対話を通じて広げていくことの大切さを感じ、自立生活は一人の努力だけで成り立つものではなく、地域の理解や協力、制度との接続があってこそ広がっていくものだと改めて思いました。

自立生活セミナーで発表や意見交換が行われた様子 自立生活セミナーでの発表の様子

写真:地域の参加者も交えた自立生活セミナーの様子。

地域の参加者も交えた自立生活セミナーの様子 地域の参加者が集まった自立生活セミナーの様子

写真:自立生活セミナーで発表や意見交換が行われた様子。

南アフリカとケニアの比較から見えた財政的背景

今回の訪問を通じて、制度や実践の違いを比較する際には、それぞれの国の財政規模や経済状況も踏まえて見る必要があると改めて感じました。特に、ケニアでは制度や理念が前進していても、それを実施するための財政基盤が弱く、南アフリカでも実践の蓄積を広げていくうえで財源や体制面の制約が大きいことが印象に残りました。

下記は、私が作成したケニア、南アフリカ、日本の経済規模と年間国家予算の比較です。(年間障害関連予算は定義が国によって異なるため、日本のみ金額を記載しています。)

名目GDPは、ケニアが約19.0兆円、南アフリカが約63.3兆円、日本が約635.3兆円です。年間国家予算は、ケニアが約5.24兆円、南アフリカが約24.46兆円、日本が115.2兆円となっています。日本の障害関連予算としては、厚生労働省の障害保健福祉関係予算である約2兆2,338億円を参考として記載しました。(これらの元データは、World Bank の2024年名目GDP、ケニア FY2025/26 予算概要、南アフリカ 2025/26 予算レビュー、日本の令和7年度予算資料に基づいています。)

ケニア・南アフリカ・日本のGDPと年間国家予算、年間障害関連予算を比較した図表

図:ケニア・南アフリカ・日本の経済状況、予算比較

もちろん、単純に予算規模だけで各国の障害政策の充実度を比較することはできません。しかし、この比較から少なくとも3つのことは見えてきます。

第一に、ケニアは南アフリカよりも、南アフリカは日本よりも、制度を支える財政規模そのものが小さく、実施可能な政策やサービスの厚みに大きな差が出やすいということです。

第二に、南アフリカはケニアより経済規模も国家予算もかなり大きく、自立生活センターや住宅政策の実践がある程度積み上がっている背景には、こうした国家としての基盤の違いもあると考えられます。

第三に、日本はさらに大きな財政規模を持っており、制度や予算の面では相対的に恵まれた条件にありますが、それでもなお多くの課題が残っていることを考えると、問題は予算の有無だけでなく、それをどう配分し、どう現場で機能させるかというのもまた大きな問題であると感じました。

最後に

今回の訪問を通して、これまで日本で課題別研修に参加した研修員たちの実情やアクションプランの進捗を実際に見ることができました。また、ケニアや南アフリカにおける法制度と現場の状況の両方に触れることで、今後この課題別研修を進めていくうえで多くの学びを得ることができました。

今回の2か国の訪問を比較すると、ケニアでは制度や理念の前進に対して実施基盤が大きく不足していること、南アフリカでは実践の蓄積がある一方で、その持続性や拡張性、住宅政策との接続に課題があることが見えてきました。

課題の現れ方は異なりますが、どちらにも共通していたのは、障害者が地域で主体的に生きるためには、制度だけでも、現場の努力だけでも足りず、それらを支える財政・人材・ネットワーク・地域資源が不可欠だということでした。

今後は、今回の振り返りで得た知識やネットワークを生かしながら、障害者権利条約(CRPD)の理念の種を各地にまき、障害者運動のさらなる発展につなげていけるよう努めていきたいと思います。

報告:笠柳大輔(事務局長補佐)


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