資格免許試験の実施および教育・就業環境等の整備に関する要望書


2004年7月30日
障害者施策推進本部長 小泉 純一郎 殿
人事院総裁 佐藤 壮郎 殿
国家公安委員会委員長 小野 清子 殿
防衛庁長官 石破 茂 殿
総務大臣 麻生 太郎 殿
法務大臣 野沢 太三 殿
文部科学大臣 河村 建夫 殿
厚生労働大臣 坂口 力 殿
農林水産大臣 亀井 善之 殿
経済産業大臣 中川 昭一 殿
国土交通大臣 石原 伸晃 殿
環境大臣 小池 百合子 殿

(提出団体)
社会福祉法人 日本身体障害者団体連合会 会長 兒玉 明
社会福祉法人 日本盲人会連合 会長 笹川 吉彦
社会福祉法人 全日本手をつなぐ育成会 理事長 藤原 治
社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事長 高岡 正
特定非営利活動法人 DPI(障害者インターナショナル)日本会議 議長 三澤 了
全国自立生活センター協議会 代表 中西 正司
日本障害者協議会 代表 河端 静子
聴覚障害を持つ医療従事者の会 代表幹事 藤田 保
障害者欠格条項をなくす会 共同代表 福島 智 ・大熊 由紀子

(賛同団体)
特定非営利活動法人 コミュニケーション・アシスト・ネットワーク 代表理事 山本 正志
特定非営利活動法人 日本介助犬アカデミー 理事長 高柳 哲也
全国インターネット患者会iddm.21 会長 本間 秀行
全国障害学生支援センター 代表 殿岡 翼
優生思想を問うネットワーク 代表 矢野 恵子
日本障害者ライダーズ協会 理事長 毛利 法仁
全国ピア・サポートネットワーク準備会 事務局 NPO法人 こらーるたいとう
財団法人 北海道難病連 代表理事 小田 隆
NPO法人障害者権利擁護センターくれよんらいふ 代表 三澤 了
NPO法人 こらーる・たいとう 代表 加藤 真規子
NPO法人 札幌市肢体障害者協会 理事長 川見 俊男
北のポリオの会 会長 今田 雅子
DPI北海道ブロック会議 議長 西村 正樹
(公印省略)
連絡先
障害者欠格条項をなくす会(共同代表 福島智・大熊由紀子)
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-11-8 武蔵野ビル5F
DPI障害者権利擁護センター気付
TEL 03-5282-3137  FAX 03-5282-0017

資格免許試験の実施および教育・就業環境等の整備に関する要望書

障害者にかかわる欠格条項の見直しは、1993年に制定された「障害者基本法」と「障害者対策に関する新長期計画(注1)」を起点としてきました。新長期計画では、除去を目指すべき四つの障壁の一つとして、「資格制限等による制度的な障壁」が位置づけられ、「各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう必要な見直しについての検討を行う」とされました。

1998年からは「中央障害者施策推進協議会」で見直しのための方針案が議論され、1999年8月、政府方針として「障害者に係る欠格条項の見直しについて」(注2)が決定しました。「障害者の社会参加を不当に阻むことのないよう、"必要な欠格条項"にあたるかどうかを、社会環境の変化、補助者・補助的手段の活用などの可能性も考慮して各省庁で検討し、2002年度末までに、必要性の薄いものは廃止することを含めて、法改正など何らかの措置をとる」(要約)という主旨です。これを受け、各省庁で2002年度末までを目標に「63制度」の見直し作業が始まりました。結果は、欠格条項を全廃したものから、従来以上に細かく厳しい制限を課したものまで、大きな幅がありますが、2004年通常国会にかけて、「63制度」にかかわる全ての法令改定が確定しています。

2001年6月には、障害者施策推進本部申し合わせとして「障害者に係る欠格条項見直しに伴う教育・就業環境の整備について」が出されました。申し合わせは、「(欠格条項の)見直しにより、障害者の資格取得等の機会が実質的に確保されるためには、教育や就業環境など必要な条件整備を併せて推進する必要がある」として、適切な措置が必要な項目をあげています。たとえば「資格試験」の項目では、「障害者の持つ知識、技能が適切に判定されるように点字試験や手話通訳や移動介助等による支援を行い、実技試験では補助的手段の活用に最大限配慮する(抄)」としています。2003年度を初年度とする「重点施策実施5か年計画(新障害者プラン)」(注3)は、「欠格条項見直しに伴う環境整備」として、「障害者施策推進本部申合せ(平成13年6月12日)に沿って、障害者に係る欠格事由の見直しに伴う教育、就業環境等の整備に努める」と明記しています。

「63制度」にかかわる法令には、法成立時に、試験や検査が欠格条項に代わる障壁にならないようにすることや、補助的手段の導入・修学就業環境の整備について、附帯決議(注4)が併せて採択されたものも多数あり、上記の障害者施策推進本部申し合わせと共に、実際に生かされるべきものです。

2001年7月には、医師法や薬剤師法など27法令の障害者欠格条項を見直した法律(注5)が施行されました。同法は、施行後5年をめどとして、改正後のそれぞれの法律における障害者に係る欠格事由の在り方について、状況を把握検討し必要な措置を講ずる旨の附則を定めており、そこから見て、今年2004年は中間年にあたります。この時期に中間的な状況把握と課題の整理をすることを提案して、2003年末に、内閣府障害者施策推進本部、厚生労働省、文部科学省に、18団体の連名で質問状(注6)を提出しました。2004年4月9日に、質問の大部分については回答と説明を受けましたが、受験とその結果、広報、試験時の支援等は初めてまとまった形で把握されたものとみられ、現時点での概観を明らかにできた意義があります。

障害者欠格条項の見直しによって、何が変わってきているかは、それぞれの資格免許試験でどれだけの人が受験し、合格、免許を得ているかが、指標の一つになります。障害がある受験者はまだ少数であり、特定の職種などに偏在していますが、それでも、かつて絶対的欠格とされていた障害がある人の中からも、合格し免許を得る人が出ています。医師法など27法令に関しては、2003年の内に実施された試験についてはおおよそ明らかになっていますが、変化や傾向、課題を明らかにしていくためには、毎年度、63制度にかかわる各試験や許可について、人数や件数を集約することが必要です。

上記した質問状の提出時、回答説明時のやりとりにおいて、試験時の支援および試験広報については、最も認識の隔たりがありました。担当部局によって異なりますが、全体としては、どのような支援を用意しているのか広報しないまま、「申し出があればていねいに説明するから現状の記述でよい」「申し出がなければ用意しない」との認識が示されました。一方で、いくつかの項目では「申し込みがあれば対応する用意をしていた」と回答されました。用意があることについては、試験公告(試験案内)に明記の上で、別紙の申込書例にあるように、受験希望者個々人がメニューを選択し、メニューにないことは記述して申し込める形が、早急にとられるべきです。そして、必要な支援について申込みがあった時は、必ず、試験実施者から障害者本人に、連絡確認する必要があります。(注7)

すでに欠格条項を削除した医師国家試験受験や、相対的欠格となっている各資格免許にも、長年月続けられた欠格条項の「障害者は無理、だめ」という見方は深く刻まれ、実際に、絶対的欠格だった時と変わらない認識による教育・進路指導もいまだに行われています。2003年、2004年と連続して、試験時の支援を申し込んでいて、支援を得られなかった事例(注8)もあります。

実際に受験できることを広く知らせ、受験者や関係者等の誤解や無用な不安を除き、必要な支援を得て積極的に受験できるようにすることは、管轄省庁や試験実施財団等の責務です。そして、上述のとおり2001年の障害者施策推進本部申し合わせは新障害者プランに盛り込まれているので、教育・就業環境等の整備について、政府として進捗状況を把握し必要な措置をとることが求められています。

上記をふまえ、試験のあり方、広報、教育講習など、本年度に準備あるいは実施されるものからただちに実行されたいことをはじめとして、教育・就業環境等の整備について要望します。



1.用意する支援のメニューを示して受験希望者が選択・記述して申し込めるようにすること(受験申込書の例として、大学入試センター試験のものに手を加えた別紙を参照)。申込みがあれば、必ず、受験希望者本人と直接に連絡して確認の上、支援を実施すること。

2.各試験公告・試験案内において、聴覚・言語障害者からの問い合わせに応じられるよう、問い合わせ先のFAX、メールアドレスを記載すること。そして、問い合わせがあれば、障害者本人に対して、本人が望むコミュニケーション方法で回答すること。なお、各試験公告の、「講ずることがある」という記述は、「講ずる」に改めること。

3.受験とその結果の概要、試験広報の改定状況、試験時の支援について、毎年、状況を確認の上、明らかにすること。

4.資格免許等をめざす人が、障害を理由に拒否されないことはもちろん、必要な支援を得ながら教育・講習・研修・試験を受けることができるように、学校および各種養成研修機関への広報啓発、具体的指導を行うこと。および、そのために必要な、制度のあり方の検討と予算措置を行うこと。

5.上記を含めて、教育・就業環境等の整備のために必要な措置について、障害者施策推進本部申し合わせ・新障害者プランをふまえ、障害者関係団体と継続して協議の上、実施すること。

以上

・要望書の注

(注1)「障害者対策に関する新長期計画」
 1993年3月。この新長期計画の「基本的考え方」で、「四つの障壁」を除去して、環境改善や機器の開発普及などによって、障害者が各種の社会活動を自由にできるような平等な社会づくりをめざすと述べていた。「四つの障壁」については、「障害者を取り巻く社会環境においては、交通機関、建築物等における物理的な障壁、資格制限等による制度的な障壁、点字や手話サービスの欠如による文化・情報面の障壁、障害者を庇護されるべき存在ととらえる等の意識上の障壁」と定義し、その上で、「分野別施策の基本方向と具体的方策」の「(5)障害による資格制限の見直し」で、「精神障害、視覚障害等障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因にならないよう、必要な見直しについて検討をおこなう」としていた。全文は「平成6年版 障害者白書」に掲載されている。

(注2)「障害者に係る欠格条項の見直しについて」
1999 年 8 月 9 日 障害者施策推進本部決定。全文は下記に掲載されている。
http://www8.cao.go.jp/shougai/honbu/jyoukou.html

(注3)「重点施策実施5か年計画(新障害者プラン)」
2002 年12月24 日 障害者施策推進本部決定。全部は下記にPDF文書がある。
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/gokanen.pdf

(注4) 附帯決議の例
 「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律(注5参照)」では、試験について、2001年6月22日衆議院本会議で、次の附帯決議をつけて成立している。
三、各資格試験においては、これが障害者にとって欠格条項に代わる事実上の資格制限や障壁とならないよう、点字受験や拡大文字、後述による試験の実施等、受験する障害者の障害に応じた格別の配慮を講ずること。
「道路交通法の一部を改正する法律案」は、試験や検査について、2001年6月13日参議院本会議で、次の附帯決議をつけて成立している。
三、運転免許の適性試験・検査については、これが障害者にとって欠格事由に代わる事実上の免許の取得制限や障壁とならないよう、科学技術の進歩、社会環境の変化等に応じて交通の安全を確保しつつ、運転免許が取得できるよう、見直しを行うこと。

(注5) 医師法や薬剤師法など27法令の障害者欠格条項を見直した法律
 「障害者等に係る欠格事由の適性化等を図るための医師法等の一部を改正する法律(2001年6月29日成立・法律87号  7月16日施行)」
同法は附則第2条で「政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律における障害者に係る欠格事由の在り方について、当該欠格事由に関する規定の施行の状況を勘案して検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」としている。

(注6) 質問状
 「質問状 医師法等の障害者欠格条項見直し 中間年(2004年)にあたり、経過・現状・今後について」2003年12月26日、18団体連名で、障害者施策推進本部、厚生労働省、文部科学省に提出。
 質問は、見直し後の課題認識、施策推進本部「申し合わせ」を現実に進める手段、受験とその結果の概要、試験広報、試験時の配慮、高等教育機関の入試、高等教育機関の修学環境の整備など。
全文は下に掲載
http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/topix/topix2004/040105a.html

(注7) 申込みに対して、試験実施者から障害者本人への連絡確認
 試験時に必要な支援については、双方向の連絡が必要であり、それは、たとえば学校とだけ、家族とだけではなく、必ず、障害者本人との間で行う必要がある。たとえば、学校からは「障害者も受験できますか」のみの問い合わせで、また、これに答えて、ただ「受験できます」というだけで、受験時の支援については詰められないまま試験当日を迎えている場合がある。誰よりも、自分の障害や、必要なことを知っているのは障害当事者なので、本人ときちんと連絡確認することが必要である。
 上記は、要望項目2の問い合わせについても同じことが言える。電話を使えない聴覚障害者が問い合わせをして、試験実施者からは家族に対して電話でしか回答しなかった実例がある。あくまでも、本人が望む連絡方法で、本人に対して回答すべきことである。

(注8) 試験時に必要な支援を申し込んでいて、支援を得られなかった事例
 2003年の薬剤師試験では、聴覚障害がある受験者が、重要事項の板書による情報伝達、座席の前列指定、補聴器の使用許可を大学経由で求めたのに対して、試験当日は板書が不十分で座席位置も考慮されず、補聴器の着用もいったん断られるという不利な扱いを受けた。これは、近畿厚生局が「マイクを使用するとき補聴器は許可しない。補聴器があればマイクはなくてよい」等と一方的に判断していて、本人との間でよく確認しなかったことに起因する。薬剤師法は、聴覚障害者への免許交付については、2001年に欠格条項を削除していたにもかかわらず、実際の受験について必要な支援を欠いていたわけで、厚労省医薬食品局は、お詫びと共に経過と問題点、今後の対策を述べた文書を、全日本ろうあ連盟の機関誌「MIMI」102号に発表している。
 2004年の臨床工学技士試験でも、聴覚障害がある受験者が、座席の配慮や板書の必要なことを事前に連絡していて、試験当日に何も支援を受けることができなかった実例がある。


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