〜はじめに〜
 従来、障害者施策をはじめ、社会福祉施策は、貧しく恵まれない人々を対象とする慈善・救済活動としてとらえられてきました。それは、一般社会から脱落した人々を、その対象者とみなし、恵まれない哀れむべき存在と見てきたと言っても過言ではないでしょう。
 しかし、今日においては、こうした概念ではなく、むしろ福祉の対象者とされてきた人々、とりわけ障害者や高齢者の自立促進と社会参加の推進、そして「活力ある社会」、「共生社会」の担い手としての考え方に変わりつつあります。とりわけ、「ノーマライゼーション」の理念普及によって、様々な人々による社会構成こそが通常の社会であり、一部の人々を排除する社会は、弱くもろいものであり、当たりまえの社会ではないとする考え方が広まってきました。

〜世界の動向〜
 国連は、1975年に「障害者の権利宣言」を採択し、6年後の1981年に障害者の「完全参加と平等」を提唱するとともに、この年を「国際障害者年」としました。そして、「障害者に関する世界行動計画」を採択し、各国が行動計画を策定するため「国連・障害者の10年」(1983年〜92年)を定めました。その後、アジア太平洋地域においては、「障害者の10年」を更に継続していくため、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)では「アジア・太平洋障害者の10年」(1993年〜2002年)を新たに定めました。
 そして、21世紀を目前に、「アジア・太平洋障害者の10年」終了後に新たに「新10年」の構想があり、アフリカにおいては、「アフリカ障害者の10年」の設定が予定されています。
 しかし、1994年に開催された「第4回DPI世界会議シドニー大会」での、アジア・アフリカそして旧ユーゴで起きている戦争・貧困・環境破壊などによって生み出される障害者の現状の報告と問題提起は、こうした理念実現への道のりの険しさを示すとともに、福祉先進国へ追いつけ追い越せといった風潮がみられる、我が国の障害当事者及び福祉関係者の活動内容についても大きな宿題が課せられるものでした。
 また、昨年開催された「第5回DPI世界会議メキシコ大会」では、福祉先進国と福祉発展途上国の現状の差が指摘されましたが、DPI発足当時、障害当事者のなかで抱いていた専門家集団に対して、一線を引いていた意識が、障害当事者と専門家とのパートナーシップのなかで、国際社会においてノーマライゼーション、バリアフリー社会の実現をめざす方向性が示されたことは、DPI設立後17年を経過した活動の大きな進展を表すものとなったと言えるでしょう。そして、この大会の開催により、途上国と言われるメキシコでは、開催都市メキシコシティーで20台のリフトバスが導入され、市内の1万ケ所の施設改修と整備などが図られました。こうした成果は、他の国際会議の開催が地元にもたらす経済効果などとは異なる「ノーマライゼーション・バリアフリー推進効果」ともいえる「社会効果」がその地域にもたらされた結果と言えるでしょう。

〜国内の動向〜
 国は、1980年、「国際障害者年推進本部」を設置以降「国際障害者年」、「国連・障害者の10年」そして現在展開中の「アジア・太平洋障害者の10年」の中で、障害者の施策を、ライフステージの全ての段階において全人間的復権を目指す「リハビリテーション」の理念と障害者が障害のない人々と同等に生活し、活動する「ノーマライゼーション」の理念の下に「完全参加と平等」の実現を目標に推進していくことを基本としました。そして、障害者を基本的人権をもつ1人の人間としての主体性、自立性の確立と、すべての人々がともに暮らすことができる平等な社会の実現のための障壁の解消(バリアフリー)を強調した「障害者基本法」、「障害者プラン」などが策定されるとともに、多くの関連法律やガイドラインが整備されてきました。
 また、昨年6月には、厚生省の社会福祉基礎構造改革分科会により「中間まとめ」として、「サービスの利用制度の概要」、「権利擁護、苦情処理の仕組みと地域福祉権利擁護制度の概要と社会福祉分野における日常生活支援事業に関する検討会の設置」、「福祉サービスの質の検討会の設置」、「情報開示及び情報公開の概要」など福祉制度及び事業全般の方向性について提起しました。」
 更には、本年1月に障害者関係3審議会(身体障害者福祉審議会・中央児童福祉審議会障害福祉部会・公衆衛生審議会精神保健福祉部会)合同企画分科会より利用者本位のサービス利用制度を中心とした「今後の障害者保健福祉施策のあり方」が発表されました。
 しかし、現在の施策等は、その基本理念との整合性においては、必ずしも十分なものとはなっていません。
 具体的には、2000年から原則的に全ての要介護高齢者に対して、各自治体が義務として実施する「介護保険」による介護保障制度が、多くの課題を抱えながらもスタートしますが、障害者においては「障害者プラン」に基づく任意による介護制度となっており、居住する地域により、介護サービスが全く受けることができない地域やサービス内容に大な格差が生じるなどの課題があります。
 また更に、「障害のある人が障害のない人と同等または、限りなく同等に近い生活環境を保障する」ための基本的な条件整備及び改善項目として、移動・交通アクセスや投票権の保障、欠格条項の見直し所得保障、施設内虐待などの、解決しなければならない課題もまだまだ多くあります。
 このような課題を解決し、アメリカ障害者法のように障害者の雇用やバリアフリーを社会的義務として位置づけるためには、障害当事者及び関係者の更なる努力と連帯が求められているといえます。

〜おわり〜
 DPI世界会議は、3つの項目を基本理念として掲げています。ひとつは、障害者の抱える課題を福祉という視点ではなく人権を基盤としてとらえること。ひとつは、障害当事者自身が主体となって課題解決などを進めること。ひとつは、障害種別を越えて活動を進めることです。こうした理念と国際的な視点により「すべての人々が尊重される」社会の実現をDPIは、めざしています。
 現在、国内では、このDPIの基本理念を共有できる身体障害者・知的障害者・精神障害者・難病患者の方々、様々な背景・立場・歴史をもつ障害者団体、福祉団体、そして、多くの障害のない人々へ、私たちがめざしている「2002年第6回DPI世界会議札幌大会」成功へ向けた活動への参加と協力を呼びかけてきました。
 「障害者にとって住みよい社会は、すべての人々にとって住み良い社会である」「障害者のもつ課題を解決することは、多くの人々の基本的課題を解決することになる」と言われています。
 私たちは、この私たちの夢の実現が、「いつでも、どこでも、だれもが安心して暮らすことのできる社会」、「人間が、人権が、個性が、命が、平和が大切にされる社会」、そして本当の「共生社会」、「バリアフリー社会」、「活力ある社会」の実現に向けた大きな1歩になると信じています。


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