横須賀市職員採用試験(一般事務・身体障害者対象)の受験案内に関する要望書


2008年9月17日
横須賀市長 蒲谷亮一 様
                       障害者欠格条項をなくす会
                             共同代表  福島智 大熊由紀子

                       連絡先 事務局
                       〒101-0054
                       東京都千代田区神田錦町3-11-8 武蔵野ビル5F
                       Fax:03-5282-0017
                       E-mail:info_restrict@dpi-japan.org


横須賀市職員採用試験(一般事務・身体障害者対象)の
受験案内に関する要望書

 私たち「障害者欠格条項をなくす会」は、障害の違いや有無をこえて、障害者にかかわる法制度のバリア(=欠格条項)をなくすと同時に、実質的な参加を保障するための配慮や環境整備を考えていくことを目的に、1999年に発足した全国団体です。
 私たちは、貴市で9月28日に実施されようとしている職員採用試験(一般事務・身体障害者対象)の受験案内の以下の点に重大な問題があるものと考え、急ぎ、要望書を提出します。
1.「口頭による会話が可能な人」という受験資格の新設
2.(1と関連して)前回までは認めていた手話通訳を、今回、認めないものとしたこと
3.前回までは認めていた、ワープロ・パソコンによる回答や、拡大文字 (拡大印刷)試験を、今回、実施しないものとしたこと
4.前回まで点字試験をおこなっていず、今回もおこなわないものとしたこと

 上記の点は、いずれも、一定の障害がある人を実質的に排除する制限であり、受験希望者・関係者・そして現在働いている障害のある職員と周りの人々に、大きな不利益と不信感をもたらすものだと考えます。
 ご存じの通り、今年は、国連・障害者権利条約が発効した年にあたります。この条約については、日本政府も昨年、国連で署名をしており、障害者の人権および基本的自由の観点から、障害に基づくあらゆる形態の差別をなくすこと、そして合理的配慮を行なわないことも差別であるという条約の定義 (注1)を広く深く受けとめることが、現在の社会的な要請となっています。こうした点から考えれば、障害を理由に受験から排除し、障害者が受験するうえで不可欠な配慮を行わないことを明言した貴市の受験案内は、明らかな権利侵害です。
 障害者権利条約には、手話は独立した言語であることが明記されました。貴市の受験案内にある「口頭による会話が可能な人」に限って受験を認めるという規定は、手話を使うことはもちろん、ノートテイク(要約筆記、文字通訳)や筆談などの手段を用いたコミュニケーションを行う人をあからさまに排除する内容で、これは障害を念頭においた制限であり、差別そのものです。
 私たちは、障害を理由とする試験等からの直接的、間接的な排除をなくし、受験時に必要な配慮を整えていくという課題について、多くの団体や各分野の人々と、取り組みを進めてきました(注2)。そうした働きかけの結果、政府も「障害者に係る欠格条項の見直しに伴う教育、就業環境等の整備について」(障害者施策推進本部,2001)や、「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について」(障害者施策推進課長会議 ,2005)など の文書を示してきています(注3)。このように、欠格条項の見直しとそれに伴う環境の整備、合理的配慮は、障害者に関わる大きな政策課題となってきていることです。
 地方公共団体などの公的機関は、率先して、情報アクセスをはじめとした、障害に関わるこれまでの不利益を、是正する役割をもつものと認識しています。是正するどころか、職員採用に際して、あえて新たな差別的条項を追加することは、横須賀市の根本的な見識が疑われる措置と言わざるを得ません。
 上記の認識に立って、つぎの五項目を要望します。
第1項 上に四点を記述した、受験資格の設定を、ただちに撤回することを求めます。
第2項 今回の受験案内において、このような条件を設ける決定をした理由と経緯について、説明してください。
第3項 現在までの試験・採用・任用・職場環境の課題を洗い出して改善していくための、徹底した話し合いを、障害のある職員の団体、および、障害当事者団体などとのあいだで、行なうことを要請します。
第4項 障害者の権利条約をはじめとして障害者の人権に関する研修を、障害者の参加のもとで実施することを求めます。
第5項 第1項から第4項について、9月28日までのできるかぎり早い時期に、文書で回答してください。
以上

注と補足
注1
川島・長瀬氏の共訳による、最新の、障害者権利条約仮訳(2008年5月30日付)がある。
http://www.normanet.ne.jp/~jdf/shiryo/convention/index.html
下記の書籍は、上の共訳者と東弁護士が編者。東弁護士は車いすユーザーで、障害者権利条約を検討する国連の会議で、日本政府代表団の特別顧問もつとめた。
「障害者の権利条約と日本 概要と展望」長瀬修・東俊裕・川島聡 編 生活書院2008年
  http://www.seikatsushoin.com/bk/9784903690230.html
注2
「資格免許試験の実施および教育・就業環境等の整備に関する要望書」2004年
http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/topix/topix2004/0408030201.html
注3
「障害者に係る欠格条項の見直しに伴う教育、就業環境等の整備について」2001年
http://www8.cao.go.jp/shougai/honbu/kaigi002/shiryo1.html
「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について」+「申請書等における配慮のイメージ」2005年
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sikaku.html
補足として
 秋田県で一次筆記試験に合格、二次面接試験で必要な配慮もなく不合格とされた聴覚障害者の訴えをきっかけに、2002年に秋田県は「活字印刷文に対応できること・口頭による面接試験に対応できること」という受験資格を削除し、点字や手話通訳などによる試験を実施するものとした。当時、同様の受験資格をもっていた岩手県も、これに続いた。この時点でさえ、「口頭による面接試験に対応できること」という受験資格を設けている地方公共団体は僅かだった。
 大阪市は1998年から「自力通勤、自力勤務」という受験資格を削除し、大阪府も2002年に削除した。現在もなお、「自力により通勤ができ、かつ介護者なしに職務の遂行が可能な者」といった受験資格を存続している地方公共団体が大半で、この受験資格も大きな問題を有している。
 大阪府は、2008年には音声パソコンを問題の読み上げと回答に使用する試験も一部で実施している。
 現在では、全国各地の地方公共団体が、知的障害者を対象とする公務現場実習、臨時職員採用を実施しており、精神障害者対象の実習・研修・採用も増加しつつある。
 なお、欠格条項と同様の発想による「除外率制度(民間)・除外職員制度(官公庁)」は、欠格条項見直しも背景として、2004年に各除外率設定業種において一律に10%ポイント縮小した。同時に、除外職員制度は、一部の職種を除いて、除外率制度に一本化した。
  参考・「公務部門における障害者の雇用・実習受入状況について(平成19年度)」
  内閣府障害者施策推進本部ウェブサイト上
  http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/h19jigyo/koyojissyu.html


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