医師法など27法令に関する改正法案、3月に国会提出へ


厚生労働省、
3月2日(金)〆切で法令改正試案への意見募集中


厚生労働省が、2月14日、「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の関係法令改正試案」(以下『試案』と略)を発表、同時に、3月2日を〆切として、パブリックコメント募集を開始しています。「道路交通法改正法案」とともに、この法案も3月に国会提出が予定されています。

 『試案』には、(旧)厚生省・(旧)労働省が、欠格条項見直し対象にあげたものが全て含まれており、資格免許の数では32、たとえば医師、看護婦、薬剤師、調理師、美容師、作業主任者、クレーン等の運転免許などです。関わる法令は27あります。これらは、政府が2002年度末までに見直すとしている63件の資格免許などの半数にあたります。

 『試案』と資料は、厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/ 上、
「パブリックコメント」のコーナーにあります。

厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/ より
「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の関係法令改正試案」に対する意見の募集について
〆切 3月2日(金)必着
(1)電子メールの場合 www-admin@mhlw.go.jp
(2)郵送の場合 厚生労働省医政局医事課
           (〒100-8916 東京都千代田区霞ヶ関1-2-2)
(3)FAXの場合 03−3592−0710



(1)試案の概略


 『試案』は、ひとことで言うなら、法律上はこれまでの「障害を特定した絶対的欠格」の条文を、「障害を特定しない相対欠格」へと改めるものの、政省令では引き続き障害・病名を列記する内容です。
 なお、受験に際しての欠格条項は廃止(医師国家試験等)、一部の法律は、障害者欠格条項全廃となります。(調理師法、製菓衛生師法)

・現在の法律条文例
 目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者には、免許を与えない。 (障害を特定する絶対的欠格)
 精神病者等には免許を与えないことがある。(障害を特定する相対的欠格)

       ↓法律改正の方向は…

・『試案』から引用
(障害を特定しない相対的欠格)
 
「心身の障害により○○(各資格等の名称)の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの」に該当する者には、免許を与えないことがある。


 医師法の障害者欠格条項をさかのぼれば、1906(明治39)年。以来今まで、見直されたことがありませんでした。「目が見えない者、耳が聞こえない者…」「精神病者」などとして、障害や病気があるというだけで門前払いをしてきた法律を、ようやく変えようとするに至っています。障害を特定した欠格条項を削除することは、前進です。
 しかし『試案』は上のとおり「障害を特定しない相対的欠格」として、なお欠格条項を残す内容で、障害や病気を理由とした拒否の可能性があります。

 そして、法律上では「障害を特定」しない一方、法律を運用する具体的基準となる省令では、
「視覚、聴覚、音声若しくは言語又は精神の機能の障害」など、実質的に障害や病気を列記しています。

・『試案』から引用
 
心身の障害により○○(各資格等の名称)の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定める者とは、☆☆(各機能の名称)の障害により【資格等】の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。
 (a)医師免許、歯科医師免許、診療放射線技師免許、
   救急救命士免許、言語聴覚士免許、歯科衛生士免許、
   保健婦・助産婦・看護婦(准看護婦)免許
   視覚、聴覚、音声若しくは言語又は精神の機能の障害


 資格等に応じて、その業務の本質的部分の遂行に必要不可欠な身体又は精神の機能を明記する
、という考え方が『試案』には書かれていますが、「必要な身体又は精神の機能」は、その人が具体的にたずさわる仕事内容や、環境や、補助的手段によっても大きく変わるものです。それを資格ごとに当てはめようとする発想は無理があります。


(2)提案として

a 省令等でも障害や病気を特定しないこと
 
障害に着目して「必要な身体又は精神の機能」を細かく規定する必要はなく、「その業務の本質的部分を、必要なら補助的手段も使いながら遂行できればよい」、という規定で十分と考えます。
 省令においても、排除につながりかねない障害や病気の列記は、やめるべきです。

 障害や病気のレッテルによって判断されるのでなく、一人の人として公正な評価と必要な支援を得られる社会を願うものです。


b.異議申し立て・再審査の仕組み確立を
 
障害や病気を理由とした排除の可能性がある以上、「異議申し立て・再審査」などの仕組みを確立して法律に定めることが、大きな焦点となっています。
 『試案』では、
「免許を与えないこととするときは、申請者から意見陳述の求めがあった場合には、意見の聴取を行わなければならない」(試案より引用)旨の、「意見聴取」手続きを設けるとしています。

・『試案』から引用
 
○○(免許権者の名称)は、免許を申請した者について、障害者に係る相対的欠格事由に該当すると認め、免許を与えないこととするときは、あらかじめ、当該申請者にその旨を通知し、その求めがあったときは、○○の指定する職員をしてその意見を聴取させなければならない。

 「意見聴取」は当然必要ですが、「求められれば審査結果に対する意見は聞く」というものなら、その先はほぼ、「不服があれば裁判で。」となります。
 
審査をする段階から、必ず本人の意見をよく聞くことが肝心です。「実際どんな工夫があればできるのか」など、本人の意見が第一に尊重されなければなりません。
 そして「意見聴取」だけでは全く不十分です。本人の判断と、厚生労働省や専門家の判断とが、異なる場合に、「異議申し立て−再審査請求」ができる、という規定を加える必要があります。


c.支援技術の開発・普及のため制度的条件づくりを
 
もう一つの焦点は、支援技術の開発および普及と、そのための制度的条件を整えることです。
 「機能補完技術、機器の活用及び補助者の配置の可能性を考慮する」と、政府方針(「障害者に係る欠格条項の見直しについて」1999年8月9日 障害者施策推進本部決定)にも明記されていますが、『試案』では、補助者について記述がありません。

・『試案』から引用
 
(厚生労働大臣)は、相対的欠格事由に該当する者として免許を与えるか否かを判断するに当たっては、当該者が現に利用している障害を補う手段及び当該者が現に受けている治療等により障害が補われ又は軽減されている状況を考慮するものとする。

 機器も重要な補助的手段ですが、必要な場合に手話通訳者や朗読者や、個人ニーズに対応したアテンダントを得ることができれば、その人がその仕事などについて力を発揮できる可能性は非常に広がります。
補助者についても法制度に位置づけることが必要です。また、補助的手段の費用負担の規定も整える必要があります。

d.省令や規則に障害をもつ人々の意見反映を
 障害や病気がある人々は、当事者ならではの経験にもとづく解決方法やアイディアを豊富に持っており、巾広く情報や知恵を集めることができる立場です。
法律はもちろん、省令や規則についても、検討し決定していく段階で、障害や病気をもつ人々の意見を反映することが、きわめて重要になっています。

e.政府として継続した取組が必要
 各法案の成立や、政府方針が設定した期限=2002年度末をもって、「これにて障害者欠格条項の見直し作業は終了。」と片づけられるような問題ではありません。
解決必要な課題を改めて確認し、政府として引き続き取り組む必要があります。


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