2021年4月21日 埼玉県知事 大野元裕 様 障害者欠格条項をなくす会 共同代表 福島智 大熊由紀子 認定NPO法人 DPI日本会議 議長 平野みどり 県職員採用選考過程における差別の禁止と 合理的配慮の提供に関する要望及び質問書  障害のある人もない人も全ての人が安心して暮らしていける共生社会づくりに向けた、日頃の取組に、敬意を表します。  私ども障害者欠格条項をなくす会は、障害別や障害の有無を超えて1999年に発足した市民団体で、障害者にかかわる欠格条項の撤廃を目標として、体験と意見の募集、調査、政策提言を行ってきています。また、DPI 日本会議は、DPI(障害者インターナショナル)の日本国内組織として、1986年以来、身体障害、知的障害、精神障害などの障害種別を超えて、地域の声を集め、国の施策へ反映させ、また国の施策を地域へ届けることを鍵に活動しています。  さて、本年1月、障害者欠格条項をなくす会に、埼玉県の保健師募集案内に「身体検査の結果、心身の故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないことが明らかになった場合には採用されません」とあるのを見て応募を諦めたという声が、障害のある人から寄せられました。  埼玉県の保健師募集(令和2年度埼玉県職員採用選考・受付期間令和3年1月6日まで)は、一般採用試験で、障害の有無にかかわらず応募できるものでした。しかし、実務経験を積んできた障害のある有資格者でさえ、応募を諦めるような受験案内になっていました。また、同じく一般採用の「令和2年度埼玉県職員採用上級試験等」受験案内にも、類似の記述がありました。    私たちは、埼玉県と類似の記述をしている自治体が少なくないことを見聞しました。そのため、障害者差別の禁止と合理的配慮の提供を求める改正障害者雇用促進法及び、公務部門の合理的配慮を義務付けている障害者差別解消法の趣旨を踏まえ、こうした募集のあり方には問題があることを提起します。そして、職場における合理的配慮の推進を含めた、障害のある人々を受け入れる職場環境への転換を求めて、この文書にて要望と質問を提出します。内閣及び複数の府省にも、関連のある要請書を出しています。    障害者雇用「水増し」問題を機に、それまで大多数の受験資格に設けられていた「自力で通勤でき、介助なしに職務遂行できること」のような条件は、不適切と判断されるようになりました。そして後述のとおり障害者雇用促進法の差別禁止指針や障害者活躍推進計画の作成指針にも明記され、今では、埼玉県の障害者活躍推進計画にも、旧来の条件を見直したことが記述されています(別紙1-1)。    なお、保健師の場合は、法令に障害者にかかわる相対的欠格条項が未だ残されてはいますが、補助的手段(現在の合理的配慮概念と重なる)を考慮しなければならないということは、既に2001年から施行規則に記載されています(別紙1-2)。    障害者雇用促進法の「差別禁止指針」は、1「募集及び採用」で「募集又は採用に関し、(中略)障害者であることを理由として、その対象から障害者を排除することや、その条件を障害者に対してのみ不利なものとすることは、障害者であることを理由とする差別に該当する。」として、「イ 障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除すること。ロ 募集又は採用に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと。」等を記述しています(別紙1-3)。  これと重なることが「障害者活躍推進計画作成指針」(別紙1-4)にも記述され、「障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A 第二版」においても、「障害や難病のある方が一律に排除されているかのような印象を与えることのないよう配慮が必要」と解説されています(別紙1-5)。    そして、身体検査のありかたも、基本からの見直しが求められていることです。筆記や面接の選考に合格している人を、採用前の身体検査結果をもって不採用とすることがあるとすれば、障害や病を理由とした直接差別にあたるからです。  身体検査(診断書の提出を含む)の結果をもって採用されないことがあると募集案内に記載することは、現行の差別禁止指針、障害者活躍推進計画からも逸脱しています。  障害のある人を対象とした公務員採用試験においては、長い歴史のなかで、身体検査を設けないか又は廃止する自治体も増加してきています。障害のある人を対象として採用を促進することと矛盾するためです。そして、その矛盾は、一般試験においても、障害や病がある人も受験することがある以上、同じく存在する矛盾です。  従って、障害者対象の試験だけでなく、一般試験や各種の募集においても、不適切な条件を付さないようにしなければなりません。身体検査の結果を合否判定に用いるような従来の身体検査のありかたを改め、もし身体検査を行うならばその趣旨目的を明確にする必要があります。    障害者対象の試験における、合理的配慮の申請と提供のシステムは、徐々に進んできました。障害者にかかわる欠格条項の見直しに伴い、「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について」も定められました(別紙1-6)。このなかに含まれる「申請書等における配慮のイメージ」(別紙2)は、自治体の試験においても参考にできるものです。  障害の有無にかかわらず誰もが受験できる一般試験においても、障害のある人の応募を想定して案内し、合理的配慮の申請を受け、建設的対話の下で合理的配慮を提供するようにしなければなりません。    なお、言うまでもないことですが、採用は入口にすぎず、障害のある人も共に安心して力を発揮して働いていくには、採用後の合理的配慮の提供と環境調整が不可欠です。    上述のことから、下記を要望し、かつ、質問します。 要望事項(全ての公務採用選考の原則について) 1、障害者差別の禁止と合理的配慮の提供を求める改正障害者雇用促進法及び、公務部門の合理的配慮を義務付けている障害者差別解消法の趣旨を踏まえ、「身体検査の結果、心身の故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないことが明らかになった場合には採用されません」といった、障害や難病のある人を一律に排除するように受け取れる文言は廃止して下さい。 2、身体検査(診断書の提出を含む)を実施する場合は、採用した際の配置や合理的配慮の検討に資することを主眼とし、身体検査の結果のみで合否や採否を決定しない旨を、募集や試験の案内に明記して下さい。 3、合理的配慮にかかわる本人申請の把握および合理的配慮の提供は、「障害者を対象とした埼玉県職員採用選考」において実施されていますが、一般採用試験の「埼玉県職員採用上級試験等」の受験案内(令和2年度)には、点字又は拡大文字で受験ができることを除いて、障害のある人の受験を想定した記述がありません。そこで、「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について」(平成17年11月9日 障害者施策推進課長会議決定)を参考として、一般採用試験においても障害者対象試験と同様に実施するようにして下さい。 質問事項(回答書ご送付に関するお願い)  現在、すでに来年度(令和4年度)に向けての各種の募集を準備されているところかと存じます。前回の保健師募集のように、不適切な募集がなされ、有為の障害者が応募を断念してしまうというケースが発生する懸念があります。従いまして、本件は待ったなしの案件だと思われますので、2021年(令和3年)5月末日までに、県としての本件への取り組みの姿勢につきまして、文書にて当方(連絡先は送り状に記載)にお送りくださいますようお願い致します。 1、上述の各要望事項を県としてどのように受けとめたか、見解をお示し下さい。 2、受験案内にある「身体検査」とは、どのようなものですか。具体的な方法や内容について教えて下さい。 3、受験案内に、「身体検査」の結果によって採否を判断することが明記されていますが、具体的に、どのような基準が設けられているのでしょうか。 4、差し支えない範囲で、身体検査の結果によって採用しなかった前例の有無や、その数、概要を教えて下さい。 5、障害者活躍推進計画策定後、受験や応募前後に、合理的配慮を実施した実例はありますか。その概要や職場環境整備の実例について教えて下さい。実施例がないという場合は、合理的配慮の準備状況を教えて下さい。  上記どうぞよろしくお願い申し上げます。 以上