要請アピール(案) 日本には、障害と結びつけた欠格条項が、運転免許・職業免許・役員資格などに関わる法律に、幅広く存在します。今では目が見えない医師や耳に障害のあるバス運転手もいますが、かつては障害ゆえに受験資格もなく、もし試験に合格しても免許を交付されませんでした。障害を理由に門前払いする欠格条項があったからです。多くの人の声と取組があって、欠格条項は門前払いではなくなりましたが、形をかえて残されてきた上に、2019年に成立した法律によって、欠格条項を新設する法律が急増しました。総数で661本(前回2016年調査時505本)に増加しています。 【人生の幅せばめる欠格条項】 「患者が、聞こえる人か聞こえない人か、に関係なく接していける薬剤師になりたい」と思い続けて薬科大学で学んだ早瀬久美さんは、1998年、薬剤師国家試験に合格しましたが、「耳が聞こえない者には免許を与えない」という欠格条項のために、免許申請を却下されました。早瀬さんの談話を知った日本薬剤師会は、国家試験合格者に門戸を閉ざす理由はないとの判断を示しました。医師になってから聴力を失った臨床医も、欠格条項の見直しを求めて国会で発言しました。 そして2001年、医師法などの欠格条項見直しと同時に、薬剤師法は聴覚言語障害について欠格条項を削除しました。早瀬さんは晴れて免許を手にすることができました。このとき、医師法をはじめとする多くの法律は、門前払いの条文は削除しました。しかし、それと同時に、試験を実施した各官庁の審査によって、視覚、聴覚、精神などの「心身の障害」によって業務を適正に行えないとの判定がされた場合は、「免許を与えないことがある」とする欠格条項を残しました。これが約20年前の障害者にかかわる欠格条項の見直し結果でした。 【欠格条項見直しから20年・・・】 一般には、試験に合格すれば、その資格や免許の基本的な知識や技能があると認められます。しかし、障害がある人の場合は、欠格条項が残されている限り、試験に合格してもさらに審査が続きます。二重の基準で公平性を欠く上に、試験は何のためにあるのかも疑われます。 試験に合格し医師免許などを申請した障害がある人について、2014-16年においては入院中で保留の1名を除く全員に免許を交付したと、厚労省が明らかにしています。しかし、障害にかかわる審査のために、免許の交付が2か月以上も遅延し、就職に大きな不利益を被った人もいます。障害のない人は、通例は申請すれば速やかに免許が交付され、すぐに就職活動できるので、大きな落差があります。 そして今、欠格条項のある法令が急増しており、なかでも「精神の機能の障害」欠格条項は、257本と3倍以上(前回2016年調査時75本)の増加です。新しい法律は古い法律をただコピーすることが多いため、このままでは、とめどなく増えることが目にみえています。 【なぜ今こんなに増大?】 約180本の法律を見直す「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」が、2019年に成立しました。成年後見制度の利用の妨げになるので成年被後見人等に対する欠格条項を削除しようという法律でした。成年被後見人等に対する欠格条項は削除されましたが、その大部分が、「心身の故障」を「精神の機能の障害」と規定する欠格条項を新設したために、こんなに増大したのです。障害ゆえに個別審査が必要だとする二重基準の規定は、医師法などの形をまねたものと言えます。政省令のパブリックコメントでも「業務を遂行できる」ことと「機能障害がある」ことは切り離して規定するよう求めましたが、応えられることがありませんでした。 【審査中の障害者権利条約にも逆行】 障害者権利条約は、法制度や慣習における差別の廃止(4条)、法律の前における平等な承認(12条)を求めています。そして国連では、日本の実態と課題について、日本が2014年に障害者権利条約を批准してから初めて迎える審査が、進められています。日本は大量の欠格条項がますます増大しており、代理後見が基本とされていて、支援付き自己決定への転換がなされていません。障害を理由とする法的差別を強化し、権利条約に逆行してしまっていることは、権利条約をものさしにして見れば明らかです。 「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律(2001年成立)」は、施行後5年をめどに、欠格条項のありかたを検討したうえで必要な措置をとるという附則を伴っていました。その後、一部の法律について見直しはありましたが、約20年を経た今も、政府としてはこの附則で約束したことを実行していません。障害ゆえに分け隔てられることがない共生社会を目的とする国内の法律(障害者基本法・障害者差別解消法など)とも矛盾しています。 日本が権利条約に逆行し、国内法との矛盾もただしてこなかったなかで、わたしたちは、「心身の故障」をすなわち「精神の機能の障害」とする、新型の欠格条項の急増という、これまでにない事態に直面しています。 法律の附則が実施されず、障害者権利条約批准後もなお、障害者欠格条項全般の見直しが行われてこなかったこと、代理後見から支援つき自己決定へという国際的潮流に沿った検討がされてこなかったこと、これらの大きな積み残し課題に向かい合うことが求められています。 【改めて、欠格条項の撤廃のために】 障害のある人が希望をもって学び、仕事につくことを今も脅かしている欠格条項は、人の未来への夢を奪い、働く意欲と機会を奪っている点で、社会的損失そのものです。欠格条項を撤廃すること、障害の有無で分け隔てられることなく学び、働いていけるように、合理的配慮の提供および環境づくりを進めることが、社会のありかたを豊かにし、ひとりひとりが力を発揮できる政策です。 法令に障害ゆえの障壁をつくることは、もうやめましょう。 欠格条項のありかたを改めて真摯に見直すという20年来の宿題に着手しましょう。 現状をいかにしていくのか、障害者権利条約の履行のためにも立場をこえて取り組むことを提起し、次のことを要請します。 1 新設や改定の法令に「心身の故障」・「精神の機能の障害」の欠格条項を設けないようにする 2 施行後の見直しを明記している2001年欠格条項一括見直し法附則の実施に着手する 3 代理後見から支援つき自己決定への転換に着手する 以上 (囲み記事)要請アピールの賛同人・賛同団体になって下さい よびかけ人 福島智・大熊由紀子(障害者欠格条項をなくす会共同代表) 要請アピールは、現在は案の段階です。新事実などを反映した正式版を、今年末までに公開することを想定して、案に賛同してくださる個人および団体を募集しています。賛同人・賛同団体には、公開前に、改めてお知らせいたします。 ・賛同人 (例 海野渚 うみのなぎさ 会社員) お名前の、氏名、よみがなに加えて、掲載できる肩書きがあればお書き下さい。 ・賛同団体 (例 一般社団法人バリアフリー連絡会 代表 町田洋)(担当 野村…) 団体の正式名称と、代表者名をご記載下さい。ご担当者のお名前およびメールアドレスも、併せてご連絡ください。 ご連絡は下記あてにお願いいたします。 障害者欠格条項をなくす会 事務局 Info_restrict@dpi-japan.org ・グラフ 障害者にかかわる欠格条項のある法令数の推移(総数) 2009年 483 2016年 505 2019年 成年後見制度の欠格条項を削除する一括法が成立 2020年 661 要請アピール(案)の関連資料 ・2001年欠格条項一括見直し法の附則 障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律(2001年6月29日法律第87号) 附則第二条 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律における障害者に係る欠格事由の在り方について、当該欠格事由に関する規定の施行の状況を勘案して検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/15120010629087.htm ・表 3年間の免許交付件数の集計 「免許付与件数」(厚労省調べ)に基づいて作成 2016年7月現在 表の構造 列 免許種別,計,視覚,聴覚,音声・言語,精神 行 各免許 下端 件数の計 医師,13,1,2,0,10 歯科医師,4,0,1,0,3 保健師,17,0,6,0,11 助産師,2,0,2,0,0 看護師,92,1,24,1,66 診療放射線技師,3,1,0,0,2 臨床検査技師,5,0,0,0,5 理学療法士,9,0,0,0,9 作業療法士,5,0,0,0,5 視能訓練士,0,0,0,0,0 歯科技工士,3,0,0,0,3 臨床工学技士,2,0,1,0,1 義肢装具士,0,0,0,0,0 柔道整復師,17,0,0,0,17 あん摩マッサージ 指圧師,15,0,0,0,15 はり師,26,0,0,0,26 きゅう師,26,0,0,0,26 歯科衛生士,6,0,1,0,5 言語聴覚士,23,0,11,0,12 救急救命士,2,1,1,0,0 計,270,4,49,1,216 http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/160725.pdf  ・表 障害者にかかわる欠格条項のある法令数の推移 1段目は対象の分類 2段目の数字は、2009年,2016年,2020年の順 成年被後見人又は被保佐人 193,210,3 心身の故障,心身の障害 289,283,413 精神の機能の障害 64,75,257 視覚の機能の障害 31,31,31 聴覚・言語の機能の障害 28,28,28 身体の障害 27,27,25 さまざまな権利制限 22,22,22 総数=上記の条文がある法令実数 483,505,661 障害者欠格条項をなくす会事務局調べ 2020年3月 2020年9月改訂※ いずれも法令実数。複数の分類に該当する法令もあるため、分類の計と総数は一致しない。 ※改訂について 算出元の調査データのうち、「毒物及び劇物取締法施行規則」について、視覚、聴覚言語障害の欠格条項ありとしていた誤記載を修正(これらの欠格条項は2001年に削除された)。この結果、視覚、聴覚言語障害のカウントは、各年についてマイナス1となった。同施行規則には「精神の機能の障害」にかかわる欠格条項があり、総数については変更がない。