"こんな経験はありませんか? あきらめていませんか?" 2021年9月27日―10月3日実施 障害を理由とした欠格条項にかかわる相談キャンペーン 結果報告書 謝辞 1 相談キャンペーンの概括 1 経緯 1 日程表 1 相談窓口設置の目的 2 相談キャンペーンの概要と実行委員会 2 相談日と相談週間の概要 2 相談内容と相談歴 2 相談者の概況 2 相談内容(分野ごとのまとめと課題) 3 【教育あるいは受験】3名 3 【運転免許】7名 5 【雇用】10名 8 【福祉】3名 12 【その他】7名 14 相談内容(分野横断の課題まとめ) 16 資料篇 18 相談に含まれる欠格条項のある法令 18 相談キャンペーン案内ちらし 19 2021年11月28日 障害を理由とした欠格条項にかかわる相談キャンペーン実行委員会 謝辞 相談や連絡を寄せて下さったかたがた、広報などにご協力下さった団体や個人のみなさまに感謝を申し上げます。 初めての大規模な相談キャンペーンでしたが、報道や、実行委の内外からの広報案内のご協力があって、期間中に30名からご連絡をいただきました。生の声から、欠格条項が残され増大していることの弊害と理不尽さ、こうむっている不利益が明らかになりました。 ご相談の内容からは、公的機関においてさえ、2001年に障害を理由とする欠格条項が見直されたことも、その後に残されている相対的欠格条項の意味内容も、2019年の成年被後見人等に対する欠格条項の削除も、よく認識されていない状況が見られます。そのような中で、今回は、問題の発生からまもない人や、間近に心配なことがある人に、有効な助言や情報提供ができました。また、2年後に国家試験受験予定の人などと、将来にむけたつながりができました。 本年は、障害者差別解消法の改正法案が成立し、国連障害者権利条約の対日審査も進行中です。現行制度の周知と運用に関する課題及び、残されている欠格条項の根本からの見直しと法改正について、いただいた相談もふまえながら、検討と取り組みを続けます。相談キャンペーンは今後も開催する方向で話し合っています。これからもよろしくお願いいたします。 この報告から引用や転載をされたいときは、必ず、ご連絡下さい。 障害を理由とした欠格条項にかかわる相談キャンペーン実行委員会 お問合せ先 障害者欠格条項をなくす会事務局 info_restrict@dpi-japan.org 相談キャンペーンの概括 経緯 現在も、視覚、聴覚、知的障害を含む精神、肢体、などの機能の障害がある人を対象にした欠格条項が存在し、増大さえしています。欠格条項は、当事者や関係者に不安をもたらし萎縮させ、仕事、生活、社会参加を妨げ、社会の差別偏見を強めています。欠格条項の増大は、障害者権利条約との関係でも大きな問題です。しかし、欠格条項によって不利益を被っている人々の声は、なかなか表に出てきにくい状況があります。 体験に裏打ちされた声をあげやすいように、そして、個々の相談に対応しながら、障害を理由とした欠格条項の弊害を明確にし、法改正に結びつける狙いで、2021年春から、キャンペーンを兼ねた相談事業を準備してきました。 まず、2020年に発した「障害者にかかわる欠格条項の急増を受けた要請アピール」の賛同人と賛同団体に打診してご検討をいただきました。前例がない取組であり、実施にむけて力を出し合い、専門分野や得意分野を持ち寄っての相談対応が求められるため、実行委員会を土台に取り組むことになりました。 相談週間終了後は、継続する相談に対応しながら、相談内容と課題を整理して報告をまとめました。11月に相談キャンペーン全般の報告の共有と以後の検討を議題に実行委員会会議を開催しました。 日程表 2020年12月1日 「障害者にかかわる欠格条項の急増を受けた要請アピール」 2021年8月26日 第1回実行委員会 9月10日・15日 相談員研修 9月27日から10月3日 相談週間(メール相談専用窓口) 9月28日 電話相談日(電話・FAX・メール) 11月19日 第2回実行委員会 相談窓口設置の目的 声・体験を掘り起こし、その具体的問題の解決にむけて当事者と共に取り組みながら、欠格条項をはじめとする法制度の弊害を明らかにして法制度の改正につなげることを目的としました。 相談キャンペーンの概要と実行委員会 9月28日(火)を相談日として、午前10時から午後8時まで、電話、メール、FAXで連絡できる窓口を設置しました。東京と大阪に相談員が対面集合できる場所と電話回線を設けました。また、相談日を含む一週間を、キャンペーンを兼ねた相談週間として、メール相談専用窓口も設けました。 実行委員会には、資料編のチラシにあるとおり12団体が参加し、このほかにも個人や団体の広報等へのご協力がありました。 相談日と相談週間の概要 9月28日に19名から電話・FAXでご相談がありました。東京センターに12名、大阪センターに7名(そのうちFAXにて1名)で、相談員として、あわせて22名が待機しました。 各センターで障害者関係者と弁護士による相談員チームを組んで(1チームの人数は3、4名)、平均2時間ほどで交替しながら、電話とFAXに対応しました。相談者おひとりについて複数回の場合があるため、電話・FAXの連絡回数(件数)は、計20件以上でした。 「手話で相談希望」の申込み方法を案内し、ろうの弁護士がオンライン手話動画で相談に応じる時間帯を設けました。手話での相談は、申込みがなく実施はしませんでした。 メール相談専用窓口は、9月27日に始まり10月3日深夜まで、12名(電話相談との重複あり)からご連絡が寄せられました。相談員は日替わりで担当し、数名の相談員チームで返信を検討しながら相談にあたりました。メール件数は往復76件以上でした。 相談内容と相談歴 30名のご相談のうち、運転免許と雇用をあわせると17名で、過半数を占めています。 主な相談内容によると、教育あるいは受験3名、運転免許7名、雇用10名、福祉3名、そのほか7名です。それぞれについて、医療、合理的配慮、虐待、住宅、交通、将来不安が重なっている場合があります。 問題の発生は、本年(2021年)が10件は含まれています。 25名は、現在困っていることや今後解決したいことについてでした。これと重なる人を含む6名から過去の経験や意見を含む情報提供をいただきました。 ご相談の件について相談歴の有無を質問できたのは16名で、そのうち7名は相談歴がなく、相談歴がある9名のうち6名は、公的機関に相談したことがあるか相談中でした。 相談者の概況 相談連絡は、8割(25名)がご本人からでした。ほかは、家族3名、関係者(家族どうしのつながり、仕事上のつながり)から2名でした。北海道から鹿児島まで各地からご連絡がありました。 相談の件のご本人についてお聞きできた範囲では、年齢については不明13名、40歳台-50歳台が11名で、そのほか10歳台から70歳台まで、同じく性別については不明1名、女性12名、男性17名でした。 障害については、半数(16名)が精神の機能の障害で、以下は重複を含めると、精神疾患・精神障害13名、発達障害3名、知的障害2名、自閉症1名、肢体障害4名、視覚障害3名、聴覚障害2名、難病1名、重度重複障害1名、不明2名でした。 相談内容(分野ごとのまとめと課題) 【教育あるいは受験】3名 最近に起きたこと又は現状であり、連絡は本人または家族や関係者から寄せられた。本人は20-30歳台で、精神障害、発達障害がある。社会人の受験については、【雇用】の 23番、【その他】の7番も関連している。 件番 障害 性別 相談内容 相手方 対応内容 問題整理 14 精神 女性 入学後に、教員に障害者手帳を取得していることを伝えたところ、「修学できるように合理的配慮のために同級生や実習先にそのことを伝えるべきだ」と繰り返し説得され、やむなく承諾した。同級生の前で障害について告知され、教員側はもし善意であっても、苦痛と負担が大きく、退学にいたった。復学の気持ちはない。問題がある対応だったことを教員や学校側が理解するように、公的な機関から言ってほしい。 介護福祉士養成校 障害を告げるかどうかは本人の意思によることで、「障害があるから介護福祉士の資格を取れない」ということはないとを伝えた。障害者差別解消法に基づく自治体あるいは国の相談窓口に連絡してみてはと助言した。また、匿名の手記を精神障害関係の会報に掲載することも提案した。 「合理的配慮」への根本的な誤解があり、学生への対応を誤っている。 21 発達 女性 保育士養成の短大で、発達障害を理由として実習を許可されず、保育士資格は得られずに卒業した人がいる。 保育士養成短期大学 短大卒者は保育士国家試験を受験して保育士になる道があること、発達障害の学生の修学に合理的配慮が提供された事例などを伝え、当事者にも伝言していただいた。 22 発達 女性 本人は大学生で発達障害による書字障害がある。大学では試験等にPC使用や時間延長の配慮を得ている。建築士試験では一次試験での時間延長、PC回答及び、二次試験でCAD使用が認められるかどうか。 国、民間 実際の業務はPCやCADで行われており、試験要綱の「受験特別措置希望有無」の選択肢にも、想定が身体障害となってはいるがPC等がある。試験実施団体に合理的配慮の提供を要望していくことでCAD使用等も可能ではないかと伝えた。 建築士法の欠格条項が背景にあり、試験における合理的配慮の想定及び対話を通じての実施の課題がある。 起きた問題 ・「合理的配慮」のためにと、介護福祉士専門学校で教員から精神疾患を周囲に開示するよう強いられて、退学に到った(14番) ・保育士養成短大で、障害ゆえに実習を許可されず、保育士資格は得られないまま卒業した(21番) ・建築士の試験要綱において身体障害以外の障害がある人の受験が想定されていない(22番) 問題の要点 ・「合理的配慮」への根本的な誤解と、学生への対応の誤りがある(14番) ・特に実習において、合理的配慮の提供が欠けていたとみられる(21番) ・身体障害以外の障害や疾患がある人が建築士試験を受験することへの想定が不足している(22番) 全体的に、障害者差別解消法の合理的配慮条文と対応要領、対応指針が、実際には適用されていないことが示されている。 問題を解決するには 介護福祉士、保育士、建築士は、いずれも成年被後見人・被保佐人に対する欠格条項が残されてきた資格だが、2019年までは「心身の故障」欠格条項はなく、同年の成年被後見人・被保佐人に対する欠格条項の削除と入れ替えるようにして新設された。そして「心身の故障」は「精神の機能の障害」を意味するものとして政省令で規定された。相談にあるような合理的配慮の状況、資格の取得に、このような欠格条項の存在が大きく影響していると見られる。 法改正: 現行の、各種の相対的欠格条項について、廃止を含めて根本的な見直しを進めることが、積み重ねられてきた否定的な扱いや合理的配慮の提供の遅れも解決することになる。 障害者差別解消法と指針等の研修: 特に合理的配慮について官庁及び教職員研修の必要性が示されている。 試験要綱の改定: 「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について」をバージョンアップし、個別の試験要綱の見直しと改定を進める必要がある。 相談内容にかかわる情報 障害学生の語り 高等教育機関で学んだ20-40代の女性14名男性19名の声(2021年1月公開) https://www.dipex-j.org/shougai/ 視覚障害者における特例受験ケースレポート(視覚障害をもつ医療従事者の会・ゆいまーる) http://yuimaal.org/kikan21.html ・医師国家試験 (全盲・ロービジョン) ・社会福祉士・精神保健福祉士国家試験 (全盲) ・公認心理師国家試験 (全盲・ロービジョン) 社会福祉士・精神保健福祉士国家試験は、本年(2021年)、音声パソコンでの受験が初めて認められたそうです。 "夢をつなぐ" ドクターズネットワーク 障害がありながらも医師として働きたい人の夢を支えるネットワーク https://dream-doctor.net/ 資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について 2005(平成17)年11月9日 障害者施策推進課長会議決定 ※2001年当時に障害を理由とした欠格条項が一括的に見直された後も、試験において、障害のある人の受験が想定されていなかったり、同等に受験できる状況になっていなかったりすることが多かったため、策定された文書です。付表の「申請書等における配慮のイメージ」と共に、現在も国家試験等に適用されています。 https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sikaku.html 【運転免許】7名 全て本人からの連絡で、現状、または、本年(2021年)に発生している問題だった。 件番 障害 性別 相談内容 相手方 対応内容 問題整理 8 精神 男性 精神疾患で入院し、退院後、主治医の勧めで免許証を返納した。2年経過しないと免許を再取得できないとされているが、1年くらいで再取得できないものか。 警察庁通達に「医師が、1年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合」免許を拒否しないとあり、主治医にこのような診断書を書いてもらうことを助言した。 免許返納を医師が勧めた経緯はわからないが、運用基準がふまえられていたか、また、現行の運用基準自体、病や障害がある人の実態にあうものか、再検討が必要だろう 9 精神 男性 これまでも精神疾患の症状を伝えて運転免許更新できてきたが、今回の免許更新手続きでは警察にお薬手帳のコピーをとられた。これから医師に診断書を書いてもらうが、更新がどうなるか不安 警察署 「主治医に現状をふまえた診断書を書いていただければ更新できると思われるが、もし更新が認められなければ不服申立の期限があり、不服申立に協力できる」ことなどを助言した。精神科医むけのガイドラインの該当箇所も伝えた。 欠格条項の問題に加えて、警察の対応に精神障害者に対する無理解、人権上の問題があり得る。 17 女性 現在入院中で運転免許証を紛失してしまったが、届けを出さないと失効してしまうので、どうしたらよいか 詳しい状況を伺おうとしたが、どうしたらいいかだけ答えてほしい、すぐに答えられないなら切ります、と一方的に電話を切られてしまったため、具体的な助言はできなかった。 18 聴覚 男性 1種普通免許で毎日運転している。新たな仕事のために2種免許をとろうとしていて公安委員会に相談したら、「補聴器なしで90dbのクラクション音を10mの距離から聞こえない場合は新たに2種免許を付与できないし、すでにある普通免許も取消になる」と言われたので弁護士に相談し、その弁護士も公安委員会の説明はおかしいとの見解だったが、不安があるので連絡した 公安委員会 正確な情報及び、聴覚障害があるバス運転手などの先例のあることを伝えた。 公安委員会が、聴覚障害があると免許を一切交付できないかのような、誤った認識をもっている。 26 肢体 男性 難病者。これまで運転の実力で免許更新をしてきたが、毎回、更新には苦慮する。2010年代に「難病者だから免許更新はできないが、サーキットでレーシングドライバーに勝ったら更新してあげる」という扱いを受けたこともある。本質的に数十年前と変わっていないのではないか。公共交通が衰退した地域で、車の運転ができないことは、生活ができないことに直結する。相談ではないが私の事例がお役に立てれば幸いである。 国,地方自治体 体験について実行委で共有させていただくとした。 障害がある人の運転免許の交付・更新時に、障害がない人ならば言われないような無理難題を出された、という経験談は、他にもある。 29 精神 男性 医者の許可がおりずに車の運転が出来ないので、出来るように協力してほしい 患者のお立場からご自分のことを考えながら読んだときにも、ご参考になるかもしれないということで、「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」を伝えた。 30 精神 女性 ゴールド免許だったが、精神科通院中の2016年に、免許更新時期を迎えた際、(以前にはなかった)病気の報告を求められた。 精神科通院を伝えるべきか福祉課にも相談した。「大丈夫だから、伝えて下さい」と言われた。通院歴を伝えたところ、そのまま免許を失うことになった。公安委員会からは「あなたから話を聞いても結論は同じです」と言われ聴聞も行われなかった。異議申立てをしても結論は変わらないと言われた。運転免許を失ったままで今後の生活も不安である。せめてものこととして、運転経歴証明書を発行してほしいが、今からでも可能だろうか。 公安委員会 チームで共有して何らかの答えを返させていただくと伝えた。その後、ご本人との連絡を継続している。 道路交通法改定(2013年成立、2014年施行)に伴い、公安委員会は「質問票」で一定の病気の症状に関する質問ができることになり、「質問に虚偽の回答をした」場合の罰則が設けられた。その後の時期に、相談者は通院歴を伝えて免許を失い、重要な情報提供も受けられずに運転経歴証明書さえ交付されなかった。運転経歴証明書は、現行制度では、運転免許を自主返納した場合に限られている。 30番の「質問票」に関して、警察庁サイト上の記載と関連するページのURL (質問票について) https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/pdf/shinkoku.pdf (諸手続きについて) https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/index.html 起きた問題 ・免許更新手続きのなかで、警察でお薬手帳のコピーをとられた(9番) ・医師の勧めで免許返納した(8番) ・医師の診断ゆえに免許をとれない(29番) ・補聴器なしで警音が聞こえないと一種も二種も免許は認められないと公安委員会から言われた(18番) ・通院歴を伝えたところ、免許を失うことになり、聴聞も行われなかった(30番) 問題の要点 ・警察が「お薬手帳」のコピーをとるなど、正当性・必要性が疑われる運用がされており、免許更新を脅かされている(9番、26番) ・医師の診断(背景に現行道交法令と運用がある)で免許喪失、免許を交付されない(8番、29番) ・免許付与にかかわる公的機関が1973年当時の道交法令の認識のまま対応している(18番) 問題を解決するには 道交法令の改正: 障害や疾患に焦点を合わせた欠格条項の存在および、欠格条項に該当するか否かを医師の診断書に委ねる法令ゆえに、医師も「事なかれ」となりがちである。医学モデルから脱却し、疾患名や医学検査数値だけで評価しないで、支援技術や機器の利用を含む個別評価を行うものに転換することが求められている。 現行法令と指針の研修: 現行法令すら認識されていなくて旧法の認識で止まっていることは、通知や通達やガイドラインを出しても浸透していないということであり、関係職員や医師の研修の必要性が示されている。 相談者に提供した情報 「患者の?動?運転に関する精神科医のためのガイドライン」(公社)?本精神神経学会 2014年 https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/20140625_guldeline.pdf ※「精神科医のための」というタイトルですが、ご本人や身近な人も必読です。 免許の取消し・停止等の行政処分に不服がある場合は、行政不服審査法に基づいて、処分を知った日の翌日から3か月以内(同法が2016年度から改定施行され、期間が、それまでの60日以内から3か月以内へ変更された)に、公安委員会に不服申立て(異議申立て)をすることができます。 今では、補聴器をつけてもつけなくても、全く聞こえなくても、第一種普通免許と準中型免許は、全ての車種を運転できるようになっています。聴覚障害関係団体の取り組みを背景として、1973年から、補聴器をつけて10メートルの距離で90デシベルのクラクション音が聞こえれば一種普通免許を交付されるようになり、その後も2011年から2017年にかけての見直しがありました。現在の法令には、聴力ゆえに一種普通免許を取り消す条文はありません。ただし、補聴器をつけずに運転したい場合や、あるいは、補聴器をつけても聞こえない場合は、ワイドミラーと聴覚障害者マークをつけるという、条件付の免許証になります。 二種免許が必要なバス運転手やタクシー運転手についても、法令が見直されたので、聴覚障害がある人の先例があります。NHK-TV「ろうを生きる 難聴を生きる▽夢にむかって発進 日本初 ろうのバス運転士」 https://www.nhk.or.jp/heart-net/program/rounan/606/ 【雇用】10名 全て疾患や障害がある人からの連絡で、8名は精神の機能の障害があり、過半数が40歳台から50歳台の人だった。時期的には、現状、または、本年(2021年)に発生している問題だった。 件番 障害 性別 相談内容 相手方 対応内容 問題整理 1 精神 男性 働いていた時期もあるが最近は就職のことで困っている。自動車運転も難しくなってきた。今後の生活が不安。 「ぼちぼちクラブ」をご存じだったので「わかちあい電話」を紹介した 2 精神 男性 服薬で寛解しており仕事に支障はない。勤務先の毒物劇物取扱責任者が退職するに伴い、毒物劇物取扱者の資格をもつ自分に就任の打診がきた。相対的欠格条項があることから、主治医が消極的な反応を示している。また、勤務先に知られてしまうことも心配。 毒物劇物取扱責任者には相対的欠格条項があるが,業務遂行に問題なければ就任できる。登録の際に診断書が必要なので,医師にうまく診断書を書いてもらう。勤務先に知られてしまうことについては避けられないが話してみてはどうか。今まで勤務先に話していなかったこと自体は,問題ない。 毒物劇物取扱法に相対的欠格条項がある問題のうえに、医師が相対的欠格条項を理解していないことの問題が大きい 3 肢体 男性 障害者雇用促進法の職場介助者制度は、両上肢機能障害2級以上かつ両下肢機能障害2級以上でなければ(自分は該当しないので)受けることができない。今後働く人たちのために制度の改正を。 国 情報提供に感謝し今後の活動に役立てることを伝えた 6 精神,自閉症 男性 地元事業所で、発達障害者等への虐待、手当不払いなどの不正な雇用と労働法違反が行われている。国の行政や司法から立ち入り調査をさせたい。 虐待実態を直接ご存じならば通報や相談が可能であり、まずは、障害者虐待防止法に基づく「虐待通報」の仕組みの利用をと助言した。 10 精神 男性 成年後見欠格条項削除法の改正後、施行前に、警備業の面接を受けて、採用が決まる寸前で、成年被後見人、被保佐人ではないことを証明する書類を求められた。被保佐人ゆえに採用を拒否された。公務員試験も受ける予定だが、今後も、被保佐人ゆえに、同じようなことにならないか、強く懸念している。また、今年(2021年)に警備業に就職して受けた研修では、教官が、成年被後見人・被保佐人は警備員になれない旨のことを発言していて、精神障害者に対する差別的な言葉も用いられた。 被保佐人であることを理由に不採用とすることは、各種の警備業も公務員も、2019年に施行された改正法に反する。書類手続きには、警備業は破産経験がないことの確認が、公務員は旧民法の準禁治産者(浪費者)に該当しないことの確認が含まれる。警備業の研修で今年もまだ旧法そのままの認識が述べられている問題をふまえ、教官になるような人々に対する研修をはじめ、既存のマニュアル類、募集や受験の案内、提出書類の定め等の点検が必要。 成年後見制度の利用者であることを理由に門前払いしてきた欠格条項自体が、弊害でしかなかったことが、示されている経験でもある。法律条文からは欠格条項が削除されても、関係する官庁職員や研修教官のような指導的な立場の人々の差別偏見を除去する努力の継続が必要である。 16 視覚 男性 マッサージの診療報酬点数が不当に低くされているために、病院へのマッサージ師(視覚障害者)の就労が閉ざされている。マッサージ師のできる療法についての報酬単価がPTより低く、病院としては稼げないのでマッサージ師を雇わない。これは隠された欠格条項である。論文をメールで送る。 国 診療報酬点数の問題は視覚障害者を不利益に扱う差別になり得るが、視覚障害者団体等が声を上げると効果的と思われる。論文は実行委内で共有している 19 視覚 女性 片眼が見えないが手帳はなく、一般雇用枠で就労、運転免許や国家資格ももっている。業務に支障はないが、同僚からのハラスメントがあり退職せざるをえなかった。上司からは「障害者雇用枠ではないので障害者ではない」等と言われ、公的機関に相談しても、手帳がなく障害者雇用枠でもないので対応できないとされるか、ハラスメントの相談は受けないとの姿勢だった。今後の就労においては、個人モデルから社会モデルへの転換、手帳がなくても障害者として認められることなど、障害者雇用促進法がめざしているところを会社へ説明したい。合理的配慮として障害への理解を深めて、ハラスメントをなくしてほしい。 国, 地方自治体, 民間 障害の範囲を説明し参考情報を伝えた。合理的配慮の申請について厚労省「就労パスポート」を伝えて、必要に応じて障害者職業センターへの問い合わせを勧めた。行政窓口の対応、相談窓口がないことについては課題として共有することにした。 23 精神 男性 複数の国家資格をもち障害福祉の管理者をしている。今後、司法書士と行政書士を受験するが、病気をオープンにして仕事をするかどうか迷っているため、欠格条項があるかどうかを聞きたい。 司法書士・行政書士には「心身の故障により業務を行うことができないとき」という相対的欠格条項があるが、特定の障害があることをもって一方的に登録を左右することができるものではないことを伝えた。 24 精神, 発達 女性 視覚障害者のガイドヘルパーとして仕事を続けたかったが、精神疾患があることが事業者に知られて会社に呼び出され、自主退職となった。復職したい。事業者の謝罪と慰謝料も求めたい。経過の記録や労働契約等の文書は残っていない。 民間事業者 精神疾患があるからガイドヘルパーはできないとされたというのは、欠格条項に類する扱いだが、自主退職の形になっており、事実関係がはっきりせず、月日も経過しているため、希望の点は難しいことを伝えた。「福祉の仕事は、障害がない人・健康な人しかできない」という見方が、欠格条項と似た作用をしている問題は、広く指摘して根本からの捉え直しをはかることが必要な課題と受けとめたことを伝えた。現在あるいは今後の就労について、地域の就労支援センターで納得いくまで相談して、1対1の適切な人的支援を得られるようにすることを勧めた。 28 視覚 看護学校に通いながら病院で看護助手をしている。目の疾患を知られてからは、同僚から出来ない人扱いされたり嫌みを言われたりするようになっている。障害者になった瞬間から腫れ物扱いされていると感じる。勤務先の院長は理解して心配もされている。 院長にもこれからも現場の実情をお話しになって、現場も変えていく方策を探していけると望ましいのではないかということと、「視覚障害をもつ医療従事者の会」の存在を伝えた。 起きた問題 ・疾患を知られたことで、ハラスメント、不採用、失職などの不利益扱いを受けた(10番、28番、24番) ・欠格条項の存在が、疾患をオープンにすることのリスクとあわせて、受験や資格の取得や昇格をためらわせている(2番、10番、23番) ・障害者雇用促進法の職場介助者制度を利用できる人が障害程度によって限定されている(3番) ・障害者雇用における虐待、労働法違反(6番) ・警備業者研修で教官が旧法の欠格条項の認識のまま発言、その表現も差別的(10番) ・視覚障害のあるマッサージ師が大きな病院に就職できていない(16番) ・精神疾患があるからガイドヘルパーはできないとされて失職(24番) 問題の要点 ・疾患や障害が知られることの不利益、欠格条項がもたらしている萎縮と不安、本当は疾患や障害を隠さなくてもよい状態が望まれている(2番、23番、24番、28番) ・雇用関連制度の、障害程度による利用制限、診療報酬点数の格差で採用されない不平等(16番、3番、19番) ・医師に、相対的欠格条項になっていることの意味内容が理解されておらず、疾患があれば無理であるかのような認識がみられ、医師の診断によっては資格や免許を交付されない(2番) ・成年後見制度利用者に対する欠格条項が、警備業法や公務員法など約180の法律から2019年に削除及び施行されているが、資格業務者を指導する教官が、そのことを認識していない。(10番) ・雇用支援の関係機関や相談窓口さえも改正された障害者雇用促進法等を理解していない(19番) ・明文規定はない場合でも「福祉従事者は障害や病がない人でなければならない」観念と慣習で扱われる(24番) ・障害者の個人情報守秘への軽視が窺える。伝達や開示は自己決定によることで、他者からの暴露は人権侵害という認識も、障害者に対しては希薄である(24番)※【運転免許】の9番も参照 問題を解決するには 欠格条項がある法の改正: 障害や疾患に焦点を合わせた欠格条項の存在および、欠格条項に該当するか否かを医師の診断書に委ねている弊害が大きい。現行の欠格条項を根本から見直すこと、医学モデルからの転換、合理的配慮の提供や環境整備が求められている。 雇用関連制度の見直し: 障害の程度による利用制限の問題は従来から指摘されてきた。種々の制度が、手帳の有無や障害の程度で線を引いていること自体を見直す必要がある。個々人に合理的配慮を提供するありかたへの転換が求められている。マッサージ師と理学療法士のような職種間の不平等も、障害者差別に根ざした雇用制度のありかたの問題と言えるのではないか。 現行法令と指針等の研修: 関係機関の相談窓口でさえ旧法当時と変わりない対応をされた経験の意味は重い。障害者雇用における虐待や差別も横行している。差別解消法や雇用促進法の改正内容も、成年被後見人や被保佐人等に対する欠格条項の削除も、認識されていない。まずは現行の法令とその指針や、現在の相対的欠格条項について理解される必要がある。そのために関係職員、事業主、医師の研修を行う必要性が示されている。 相談内容にかかわる法律や指針、相談者に提供した情報 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が2014年に新規に成立し、2016年から施行されました。そして2021年に、民間事業者の合理的配慮を義務とする改正法案が成立したところです。 「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正法が2016年に施行されました。その後、国や地方公共団体で長年行われてきたことが明らかになった障害者雇用率「水増し」問題も受けて、「障害者活躍推進計画」が作成されるようになっています。 成年被後見人や被保佐人を対象とする欠格条項を、公務員法や警備業法などの約180の法律から削除する法案が2019年に成立し、大半は同年のうちに施行されました。これによって、成年被後見人や被保佐人であることを理由に受験資格を認めないことや採用しないことは、法律違反となりました。他方で、それらの欠格条項があった法律の大半は、同時に「心身の故障」欠格条項を新設した上で、各法律の政省令で「心身の故障」を「精神の機能の障害」と規定するようになっており、大きな問題を含んでいます。 (採用選考)厚生労働省Webページ「公正な採用選考を目指して」パンフレットも掲載 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/basic.html (雇用全般)「障害者雇用促進法 に基づく障害者 差別禁止・合理的配慮に関するQ&A 第二版」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000123072.pdf (国、地方公共団体の障害者雇用)障害者活躍推進計画作成指針 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00011640&dataType=0&pageNo=1 「就労パスポート」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/06d_00003.html 聴覚に障害がある人が、医療分野で働くこと(聴覚障害をもつ医療従事者の会) リンクも参照を。 https://jndhhmp.org/ 【福祉】3名 疾患や障害がある本人または家族からの連絡で、現状、または、本年(2021年)に発生している問題だった。 福祉現場で起きたことのご相談は他にもあったが、相談の主旨から「その他」に掲載しているものがある。 件番 障害 性別 相談内容 相手方 対応内容 問題整理 5 精神, 知的 女性 障害者グループホームに住んでいるが態勢が不備で必要な支援を受けることができていない。重度訪問介護を使うことも難しい。 今後のために広域相談や計画相談事業所の調べ方を伝えた。まずは、相談中の公的機関との相談を継続するよう伝えた。 15 難病 女性 民間レジャー施設の障害者割引が、障害者手帳所持者や、総合支援法の対象疾病者で就労支援策の受給者証書をもつ人に限定されている。自分は対象疾病者だが就労支援策の受給者証書は出ていない。そういう人にも障害者割引が適用されるべきである。 地方自治体, 民間 就労支援施策を利用したい人ならば支給決定・受給者証書は発行されるはず。ただ、福祉対象疾病名が限定されているのは事実で、対象外の疾病の難病者が差別されているという主張はありえるだろう。ただし、裁判による救済とは次元が異なる話であり、受給者証があれば障害者割引の対象とする施設も限られている。このかたの場合、就労支援策の受給者となることは可能ではないかと助言した。 欠格条項の問題として整理するのは困難とみられる 20 知的 男性 高速道路・有料道路の障害者割引を知的障害者に拡大してほしい 国, 地方自治体, 民間 知的障害で車の運転免許を取得する人を広げていくことで裾野を広げながら取り組まれたらよいのではないかと助言した。最近では知的障害・発達障害者向けのコースを用意している教習所が出来ていることなども情報提供した 直接、欠格条項に関する相談ではないが、知的障害者で自動車免許を取得できるように働きかけてこられたことから、新聞を見て連絡を頂いた様子。主訴としては高速道路・有料道路の割引を知的障害者にも拡大してほしいということだが、知的障害者で運転免許を取得する人を増やしていくことと結びつけて考えていくことが出来るのではないか 問題状況について 日常生活で必要な介助援助を、居住中のグループホームや自治体の制度から得ることができていない、就労支援策を現在利用していないので民間レジャー施設の障害者割引を利用できない、知的障害者には高速道路、有料道路の障害者割引が適用されていない、という問題状況が寄せられた。公的機関に相談したか現在相談中のことも含まれている。自立生活、社会生活活動を支援する制度の不足や不備が示されていると言える。 解決にむけて 自立生活、社会生活活動を、全体として、また、個別にも、支援する法制度が必要である。 (囲み記事) 参考文献など ―欠格条項全般について、障害がある人の権利について オンラインミニ講座「障害者の欠格条項」(2020年10月) https://www.dpi-japan.org/blog/workinggroup/disqualification/online_lecture3/ 障害者にかかわる欠格条項の急増を受けた要請アピール(2020年12月1日) 賛同団体と賛同人によって発出し、全ての国会議員にも送りました。 https://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/yousei/index.html 増大する「心身の故障」欠格条項――2020年障害者欠格条項調査報告 臼井 久実子・瀬山 紀子(障害者欠格条項をなくす会) 2020/09/19 障害学会第17回大会報告 http://www.arsvi.com/2020/20200919uk.htm 「知っていますか?障害者の権利一問一答」 DPI日本会議 編 2016年発行 「精神障害のある人の権利Q&A」 DPI日本会議、大阪精神医療人権センター 編 2021年発行 【その他】7名 本人または家族、関係者からの連絡で、現状、または、本年(2021年)に起きたことだった 件番 障害 性別 相談内容 相手方 対応内容 4 男性 電波法42条3号「著しく心身に欠陥があつて無線従事者たるに適しない者」に対して無線従事者の免許を与えないことができるという条文があるが、これは問題ではないか。 情報提供に感謝を伝えた。 7 肢体 男性 行政書士試験の勉強中。恣意的な解釈運用をされない法律はどのようなありかたが考えられるかに関心があり、意見を聞きたい。 障害者差別解消法のように、方針や対応要領指針によって、逸脱や恣意的運用も防止しようとしている例がある。差別偏見が土台にある欠格条項の場合は、厳格に定めようとするほど絶対的欠格条項に近づく。はじめから無理と決めつけないことが重要。法制度の差別をなくさないと意識の差別もなくならない。 11 聴覚 女性 居住地域の手話通訳者養成講座を受講したいが、受講資格に「高校生以上で聴覚に障がいがない」とあり、受講できないので、問題ではないか。 地方自治体 一種の欠格条項とみられるので相談員チームで検討する 12 重複 女性 娘が最近まで通っていた事業所で原因不明ながら虐待を受けたようだ。行政に責任をとらせ、事業所には人権侵害を認めさせたい。そのために無料の弁護士を紹介してほしい。 地方自治体, 民間 この相談キャンペーンの趣旨に合わないと判断し丁寧に断りの連絡をいれた。 13 肢体 男性 地域の民営バス会社が介添人がいないと車椅子利用者の乗車を認めないので困っている 民間 公衆電話からで話を聞いている途中で電話が切れた 25 男性 視覚障害者の同行援護(視覚障害者の目の代わりを行いながら、外出時における支援を行う者)の研修を実施している。受講者のなかに視覚障害当事者が含まれることがあり、外出支援の実技が難しい人も可能な人もいる。外出支援の実技が難しいことを理由に視覚障害当事者を断ることの是非(断ることは欠格条項に該当するか)について考えを聞きたい。 視覚障害ということで一律的に同行援護の研修に参加する機会を阻むことは適切ではない。その人が研修参加を望む場合、その状況に応じた調整やサポートをすることが必要となる。 27 精神 女性 手話講座の他の参加者から不快な態度をとられて、主催者の社協に訴えたが言い分を信用されなかった。医院で支払いの際に釣銭について認識の行き違いがあったが返金してもらえなかった。これらのことを公表してほしい。公的機関や民間でもサポートを得られなかった。 公表は無理だが相談記録に残すこと、お釣はその場で確認が必要なことなどを伝えた。 問題状況について ・手話通訳者養成講座の受講資格に「聴覚に障がいがないこと」とあるので受講したいが受講できない(11番) ・バス会社が、介添人がいない車いす利用者の乗車を認めていない(13番) 問題の要点 ・「昼間と夜間の講座があり夜間は聴覚障害者が受講できるが、昼間を受講したい、しかし昼間はこの受講資格ゆえに受講できない」とのご相談で、聴覚障害者の受講が夜間に限定となっている理由は不明。(11番) ・視覚障害者の同行援護研修における、外出支援の実技についても、実技のマスターにむけてどのように支援するかが先決の課題とみられる。(25番) ・バスの乗車拒否は各地で問題化しており、交通バリアフリーの課題として取り組まれている。(13番) ・電波法と無線従事者規則は、特に障害者のアマチュア無線については先駆けて門戸を開いてきている法令で、規則は、対象をさらに拡大する内容で2019年にも改正されている。既存の欠格条項条文を含めて、時代の変化や技術の進展等にあわせた見直しが、更に求められている。(4番) ・トラブルの背景には、長年にわたって社会生活上の人的支援が欠如していて孤立していることがあるかもしれない。(27番) ・障害者を支援する仕事をしたい、そのために学びたいという人には、障害や疾患のある人も少なくない。しかし、障害や疾患がある人には務まらないという見方で除外規定が設けられている場合もある。 問題を解決するには 民間の制度や慣習を含む見直し: 法律や地方条例の欠格条項にはない場合にも、民間の制度や慣習に似たものが多数ある。民間においても、あたりまえとされて慣習化していることの基本からの見直しが求められている。実際に、パラリンピックで聴覚障害当事者が手話通訳をしたように方法によって可能で必要なことであり、指点字通訳者には全盲の人もいる。障害の有無による分け隔てをやめて、現行の障害を理由とする各種の欠格条項について、廃止を含めて根本から見直すことが、社会の障害者観の転換を早めることにつながる。 (囲み記事) 相談員チームからひとこと: 日々のできごとを記録しておくこと、また、契約書などの文書を保管しておくことは、もし問題があって相談するときにも、情報の整理に役立ちます。 例えば、就労については、就業規則や労働契約などの文書が大切です。 相談を受ける側も、事実経過や問題を把握して、検討を共にすることができます。 また、何かあったときに限らず、ふだんから日記をつけていると、記憶だけに頼らなくてすむので、助けになります。 相談内容(分野横断の課題まとめ) 欠格条項との関係 少なくとも10名の相談にかかわる職種や免許に相対的欠格条項がある(資料篇を参照)。 教育あるいは受験に関する相談ではいずれも欠格条項の存在が背景にあり、教育機関が障害のカミングアウトを強要したことや障害を理由に実習を受けさせなかったことは、教育機関の重大な問題である。 運転免許の相談内容も、相談の背景に欠格条項への懸念があるか、目下の免許の交付、更新や剥奪に直接に関わっている。 雇用分野の相談からは、差別ゆえに、やむなく障害を隠している状況、障害や疾患を知られることへの恐れと萎縮の状況が明らかである。欠格条項がある職種や免許については、一層強い不安が、本人や身近な人にのしかかっている。 このことに関連して、実行委の会議で、特に最近の教育機関や就労支援機関において、障害や疾患について本人がオープンにするのがあたりまえとの方向で指導されることが多いと指摘された。社会モデルの影響もあり、外見からはわからない障害等がある人も障害者基本法などの法律に位置づけられるようになったが、カミングアウトするかどうかは本人に決定権があり自由意志の問題であることの共有が必要である。障害や疾患のカミングアウトを強要することは、誰であろうと、動機にかかわらず、してはならないことである。 全体的に、公的機関においてさえ、2001年に障害を理由とする欠格条項が見直されたことも、その後に残されている相対的欠格条項の意味内容も、2019年の成年被後見人等に対する欠格条項の削除も、認識されていない状況が見られる。 欠格条項がもたらしてきた社会規範化の影響も大きなものがある。民間の応募資格や就業規則等にもみられる欠格条項に類似した規定、例えば「この仕事は障害がない人・健康な人でなければ不適」とするような規定や不文律は、法律の欠格条項の影響も受けながら根深く存在している。相談にあった障害者が運営する事業所や障害者をサポートする従事者養成においても見受けられる。誰もが、自分たちの足元から、障害者観から見直すことが求められており、それを助ける学習や研修の機会も必要である。 差別禁止にかかわる法制度との関係 相談内容の多くに、現行の障害者差別解消法、障害者雇用促進法の内容認識さえ、されていないことが示されている。本年(2021年)に民間の合理的配慮も義務化して改正された障害者差別解消法と、差別禁止指針等をもつ障害者雇用促進法について、国や地方公共団体の公職にある人々をはじめとして、民間の各分野、現場の人々に周知し認識させることと法令の実施が必要である。 医療との関係 特に運転免許と雇用について医療との関係が密接にみられる。医師の診断書が免許交付や更新に直結する法令のありかたと運用ゆえである。 障害を理由とする欠格条項は、医学モデルの典型でもある。障害の有無で分け隔てることなく、個人が必要に応じて合理的配慮の提供をあたりまえに得られるようにする、合理的配慮は建設的対話によって実施をはかる、法制度の障壁をはじめとした社会的障壁をなくし環境の調整をしていく、という社会モデルへの転換を真に進めるならば、障害を理由として一律に制限しようとする欠格条項のほとんどは、その存立理由を失うと言える。 各種の制度のありかた 相談内容にあるように、各種の制度の利用について、障害者手帳の有無や障害程度で線引きがされている状況には、医学モデルが色濃いことが示されている。 必要とされているのは、医師の診断で線引きし障害者手帳の有無や障害程度で門前払いすることではなく、障害や疾患のある人々の自立生活、社会生活活動を、個々人のニーズに応じて個別にも、また全体としても、支援する法制度である。 障害を理由とした欠格条項が多数存続し増大さえしている問題とあわせて、障害者権利条約批准国として全くふさわしくない現状を、変えていく必要がある。 グラフ 「欠格条項のある法令数の推移」 総数 2009年,2016年,2020年 483,505,661 成年被後見人等 193,210,3 心身の故障・心身の障害 289,283,413 精神の機能の障害 64,75,257 データ:障害者欠格条項をなくす会2020年調査 https://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/data/index.html 資料篇 相談に含まれる欠格条項のある法令 障害や疾患があり下記の資格免許をもって働き暮らしている人は少なくありません。下記以外にも多数の欠格条項がありますが、そのうち、厚労省医政局の管轄する資格免許では、試験に合格して免許を交付されていない人は長期入院中の若干名のみとの報告もあります。 欠格条項があるからと諦めることはないです。諦めずに希望に向かっていくことと同時に、諦めや不安、そして「障害があるから、できないのではないか」といった疑問視、否定につながっている欠格条項を、どう根本から転換するかの課題があります。 頁 件番 ・法律名 ・政省令名(欠格条項規定がある場合) 「心身の故障」 「精神の機能の障害」 左の条項の新設年 3頁 14番 ・社会福祉士及び介護福祉士法 ・社会福祉士及び介護福祉士法施行規則 「心身の故障」あり 「精神の機能の障害」あり 2019年 3頁 21番 ・児童福祉法(保育士) ・児童福祉法施行規則 「心身の故障」あり 「精神の機能の障害」あり 2019年 3頁 22番 ・建築士法 ・建築士法施行規則 「心身の故障」あり 「精神の機能の障害」あり 2019年 5頁、6頁 8、9、18、26、29、30番 ・道路交通法(運転免許) ・道路交通法施行規則 多数の障害や疾患を列記 多数の障害や疾患を列記 2001年から現行法令の形となりその後も改定されている 8頁 2番 ・毒物及び劇物取締法 ・毒物及び劇物取締法施行規則 「心身の障害」 「精神の機能の障害」あり 2001年から現行法令の形となっている 8頁、9頁 10番 ・警備業法 ・警備業法施行規則 「心身の障害」 精神機能の障害 2001年から現行法令の形となりその後も改定されている 9頁 23番 ・司法書士法 ・司法書士法施行規則 「心身の故障」あり 「精神の機能の障害」あり 1999年(心身の故障) 2019年(精神の機能の障害) 9頁、14頁 7番、23番 ・行政書士法 「心身の故障」あり 「精神の機能の障害」なし 1999年(心身の故障) 10頁 28番 ・保健師助産師看護師法 ・保健師助産師看護師法施行規則 「心身の障害」 精神、視覚、聴覚、音声もしくは言語の機能の障害 2001年から現行法令の形となりその後も改定されている 14頁 4番 ・電波法 ・無線従事者規則 「著しく心身に欠陥」 精神、視覚、聴覚、音声もしくは言語の機能の障害 2019年にも障害がある人のアマチュア無線技士の門戸を広げる規則改正がされている (条文例)社会福祉士・介護福祉士の場合 法第3条 次の各号のいずれかに該当する者は、社会福祉士又は介護福祉士となることができない。 一 心身の故障により社会福祉士又は介護福祉士の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの 施行規則第1条の2 法第三条第一号の厚生労働省令で定める者は、精神の機能の障害により社会福祉士又は介護福祉士の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。 (条文例)保健師・助産師・看護師の場合 法第9条 次の各号のいずれかに該当する者には、前二条の規定による免許を与えないことがある。三 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの 施行規則第1条 保健師助産師看護師法第九条第三号の厚生労働省令で定める者は、視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能又は精神の機能の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。 【相談キャンペーン案内ちらし】 ◆おもて面 障害を理由とした欠格条項にかかわる相談キャンペーン こんな体験はありませんか?あきらめていませんか? つきたい仕事に必要な資格をとるための養成学校の試験に合格したのに、入学を拒否された。 持病があると告げただけで、運転免許を更新できないとされた。 病歴があるという理由で、仕事に必要な資格を与えられないのではと心配している。 介助が必要という理由で、単身者用の公営住宅への入居申込みを拒否された。 …上のどの体験も、法制度のバリア=欠格条項と切り離せないものです。「心身の故障」、障害や疾患がある人に、免許や資格を認めないことがある、とする欠格条項が、今も、多数の法律に存在します。 欠格条項など法制度のバリアを取り除き、生きやすくしたい。 一緒に考え、一緒に取り組みます。 お気軽にご連絡下さい。相談料無料・予約不要です。 いずれも、通話・通信の料金は、発信されるかたのご負担となります。 2021年9月28日(火)10時から20時まで 東京相談センター 電話: 03-5282-3138 または 03-5282-3137 大阪相談センター 電話: 06-6314-0061 または 06-6314-0062 FAX: 06-6314-0063 上記の電話・FAXでお受けできるのは、9月28日だけです。 ※手話でのご相談のことなど、うら面もご覧ください。 ※メールでのご相談は、メールフォーム、または相談専用メールアドレスでお受けします。 メールフォーム https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdrtgetbL5anXFYT1vWIm_S4gqofISzDBqFSs92xWTg4nXuHQ/viewform 相談専用メールアドレス: soudan.week40@dpi-japan.org 上記の連絡先は、全て、実施日時以外はご利用になれませんので、ご注意ください。 上記のほか、大阪精神障害者連絡会(愛称 ぼちぼちクラブ) が、精神障害当事者による、悩みや苦しみなどの体験をわかちあう 「わかちあい電話」を、 9月28日(火)14時から16時頃と、9月30日(木)14時から16時頃に、相談キャンペーン協賛として開設します。 精神障害当事者による「わかちあい電話」: 06-6748-0163 ◆うら面 個人情報を守秘します。内容によって弁護士もご相談に応じます。 ★ご相談は、実行委員会を土台とする相談員チームが、守秘義務下でおうかがいします。 9月28日の18-20時に、東京相談センターに、ろうの弁護士さんと手話通訳者がいます。 手話での相談を希望するかたは、メールの題名に「手話で相談希望」と明記し、本文にお名前とご連絡先を書いて相談専用メールアドレスにお送り下さい。ご連絡先は、送って下さったメールへの返信がもし届かない時のために、他の連絡方法もあればお書き下さい。相談専用メールアドレスは9月27日(月)から利用できます。 soudan.week40@dpi-japan.org (この相談窓口を設ける趣旨目的について)  多数の法律に20年前まで、「目が見えない者、耳が聞こえない者、…には免許を与えない」といった、門前払いの欠格条項がありました。薬剤師の国家試験に合格したのに、欠格条項のために免許を交付されなかった聴覚障害のある女性が、諦めず声をあげ、世論も動き、法律が変わりました。  今では、目が見えない医師や、耳が聞こえない薬剤師や看護師も、知的障害や精神障害のある公務員や警備員も、各地で働くようになっています。  しかし、医師法など大部分の法律は、障害を理由とする欠格条項を廃止したのではなく、「免許を与えないことがある」などの書き方で残してきています。そのうえに約2年前からは、「心身の故障」欠格条項を新設してこれを「精神の機能の障害」と規定する法律が、急増しています。はっきり「免許を与えない」「資格を認めない」とされていた昔とは違うわかりにくさがありますが、法令数660本を超える欠格条項は、障害のある人や身近な人の不安の種となっており、社会の差別偏見を取り除くのではなくて強めるという大きな弊害をもたらし続けています。  ご自分や身近な人の体験と欠格条項の関係は、解きほぐすことでわかってくることがあります。欠格条項との関係はあってもなくても、一緒に考え一緒に取り組む姿勢でお話をうかがいます。どうぞ、体験についてお知らせ下さい。「受験の前例、修学や就業の前例は?」などのお問合せもお待ちしています。ひとつひとつ解決にむけて共に取り組みながら、欠格条項をはじめとした法制度の弊害を明らかにして改正につなげることを目標に、相談日・相談週間を設けます。 障害を理由とした欠格条項にかかわる相談キャンペーン実行委員会 共同代表者: 大熊由紀子(障害者欠格条項をなくす会共同代表) 竹下義樹(障害と人権全国弁護士ネット代表) お問合せ先: 障害者欠格条項をなくす会事務局 メールアドレスinfo_restrict@dpi-japan.org 実行委員会参加団体(五十音順) 大阪精神障害者連絡会(代表 山本深雪) ・埼玉県精神医療人権センター(代表 星丘匡史)・視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)(代表 守田稔) ・障害者欠格条項をなくす会(共同代表 福島智 大熊由紀子)・障害と人権全国弁護士ネット(代表 竹下義樹) ・全国自立生活センター協議会(代表 平下耕三)・特定非営利活動法人こらーるたいとう(代表 加藤真規子)・特定非営利活動法人DPI日本会議(議長 平野みどり)・東京アドヴォカシー法律事務所(所長 池原毅和)・認定NPO法人大阪精神医療人権センター(共同代表 位田浩 大槻和夫) ・聴覚障害をもつ医療従事者の会(代表 関口麻理子)・ヒューマンケア協会(代表 中西正司) 後援 日本障害フォーラム(JDF)(代表 阿部一彦)