2010年10月30日 国土交通大臣     馬淵 澄夫   様 厚生労働大臣     細川 律夫   様 内閣府特命担当大臣 岡崎 トミ子 様 日本障害フォーラム(JDF) 代表 小川 榮一 全国自立生活センター協議会(JIL)代表 長位 鈴子 障害者欠格条項をなくす会 共同代表 福島智・大熊由紀子 公営住宅のあり方が大きく変わろうとしている今、障害のある人の地域での 生活にとって大切な住宅保障の問題について提起し、申し入れます。  よく知られているように、日本の公営住宅はファミリー世帯向けが基本で、 1980年から高齢者、身体障害者むけに単身入居枠が設けられましたが、国は、 単身入居枠を設けた後も、「常時の介護が必要な者は除く」として、介護が 必要な障害者の単身入居を制限してきました。この制限は、1999年に 障害者欠格条項見直しの対象となり、政府による見直しが取り組まれてきまし た。2000年に「居宅において介護を受けられる者」は単身入居が可能となり、 2006年からは知的障害者・精神障害者にも拡大されています。  そして現在、臨時国会に出されている地域主権改革法案は、これまでファミ リー世帯むけに公営住宅を提供してきた「同居親族要件」を国の法律から削除 することになっており、同法案が成立したときには、単身入居枠の設置や 入居申し込みの条件をどうするかは、地方公共団体に委ねられることになりま す。  障害のある人が地域であたりまえに暮らしていくために、住宅の保障は全て の基盤です。これまでも、多くの障害者が住宅に困窮し、そのなかで頼みの綱 の公営住宅さえ、地方公共団体が国の法律を上回る厳しい制限を「応募のしお り」に記載するなどして障害者の入居を拒むことが、各地でありました。  公営住宅法施行令には、現在も、居宅で介護や援助を受けられない者は 単身入居を認めない相対的欠格条項が残されています。住宅、介護や援助を 必要に応じて提供して暮らしを後押しすることが、地方公共団体の本来の役割 のはずですが、法令に中途半端に欠格条項が残されていることは、 地方公共団体の取り組みが進みにくい要因にもなってきました。  障害者権利条約には、「居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を 有すること、並びに特定の生活様式で生活するよう義務づけられないこと」 (19条)が明記されています。このことは、障害のある人が、障害を理由 に、実質的に、施設や親元といった限られた生活の場で生活することを義務づ けられることがなく、誰と、どこで、どのように暮らすかを決定することがで きる権利を有することを、示しています。  現在、権利条約批准を視野にいれつつ、国内法の抜本的改正にむけた検討が 進められています。地方公共団体に、単身入居の扱いが委任されようとしてい る今、当然のことですが、障害を理由に入居を制限することのないようにする こと、そして、公営住宅の整備が人々の暮らしを支える重要な公共政策の課題 として位置づけられ、単身用住宅の整備もさらに積極的に進められることを、 私たちは望んでいます。    上記のことから、つぎの各項目を申し入れます。 1. 権利条約を批准しようとする国にはふさわしくない、公営住宅に関する 障害者欠格条項の廃止を求めます。それと同時に、地方公共団体が、従来の 欠格条項に相当するものを地方条例で存続・制定することのないように、求め ます。 2. 今後、公営住宅法の同居親族要件を削除して地方公共団体に条例委任し た場合の、地方公共団体の条例の調査および、地方公共団体における障害者の 単身入居に関する状況の把握を、国として行い、現状と課題を明確にするこ と、そして解決のための手段を構築するよう、申し入れます。 3.1,2のプロセスを情報公開し、障害当事者参画のもとで政策を検討実施す るよう、申し入れます。 以上 申し入れ文の補足として ▼公営住宅のあり方が大きく変わろうとしています  臨時国会で審議中の「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関 する法律案」が成立したとき、公営住宅は、同居親族要件を削除し、単身入居 の扱いを地方公共団体に委ねる方向になります。それは、世帯・ファミリーを 対象として単身者は例外としてきた政策を転換する可能性も含んでいます。  日本では従来、「持ち家政策」に象徴されるように、住宅が個人的問題と扱 われてきたために、公共住宅・公営住宅の整備が進まず、なかでも、 単身用公営住宅は遅れてきました。遅れはありながらも、公営住宅は、障害の ある人や高齢者、DV被害にあった女性などに住まいを提供するうえで、欠かせ ないものになってきました。現在、障害者権利条約の国内適用、批准にむけて 「障がい者制度改革推進会議」で障害者基本法、総合福祉法、差別禁止法の 検討が進められており、「地域主権改革」もかかわって公営住宅のあり方が変 わろうとしている中で、あらためて、障害のある人の地域での生活にとって、 公営住宅の整備の意味が大きくなっています。 ▼今にいたる困難とこれからの課題について  施設や親元から出て地域で自立生活をはじめようとする障害のある人たちの 最初の困難は住宅探しです。車いすを使って生活をしている人であれば、その 生活に対応する住居を探す必要がある上、不動産屋を何軒もめぐりようやく 紹介してもらった物件の家主から、結局は、障害を理由に入居を断られたり、 貸し渋りをされるといった話は多くの人が経験しているところです。これは、 常時介助を必要とする人が介助者を伴って地域で一人暮らしをすることへの 想像の欠如や、そうした人たちは介護する家族との生活、もしくは施設での 生活が妥当なのではないかとする偏見や予断が未だ続いていることを示してい ます。そして公営住宅も、こうした偏見や予断に基づき、障害のある人の入居 を制限してきた過去を持っています。  公営住宅法施行令は、2000年改正までは「身体上又は精神上著しい障害のあ るため常時の介護を必要とする者でその公営住宅への入居がその者の実情に照 らして適切でないと認められる者」(6条1項)は単身入居できないとしてい ました。施行令は入居申込み段階での拒否までは意味しないはずでしたが、 実際には、「介護が必要な人は入居申込みができません」という入居案内を出 している自治体も少なくありませんでした。また、申込みまで漕ぎ着けても、 「身体障害者障害程度等級表の1級に該当するから」という理由で、 施設入所者または施設収容対象者に相当するという判断が下された事例もあり ました。  施行令は2000年に「身体上又は精神上著しい障害のあるために常時の介護を 必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることができず、又は受けることが 困難であると認められる者」という条文に変わりました。つまり、介護が必要 な人も、居宅で介護を受けることができると認められれば入居資格に該当する ことになったのです。この改正後、いくつかの自治体では、「常時の介護が 必要な方でも、居宅において常時の介護を受けることにより自立した生活がで きる方は申し込むことができます」という入居案内を出し、積極的な呼びかけ を行うようになりました。先進的な自治体や障害のある当事者の団体などによ る継続的な働きかけを背景に、2006年から、知的障害・精神障害の単身入居 を、地方公共団体が自立支援を行っている場合などについては認めることにな りました。しかし、いずれの場合も、その人が必要な介護や援助を居宅で得ら れるか審査することは同様です。障害のある人に対して二重の基準をもって 審査する障害者欠格条項が残されています。介護や援助の提供と住宅の提供と は別の政策として整備し、必要に応じてそれぞれを提供できるようにするこ と、旧来の欠格条項を一掃すること、条例委任後の地域の条例および実態の 把握、今後にむけての政策構築が、現在、求められていることではないでしょ うか。 参考資料 閣議決定 「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」 から 引用 「3 個別分野における基本的方向と今後の進め方−( 3 )所得保障等」に記載  2010 年6 月29 日閣議決定 ○ 障害者の地域における自立した生活を可能とする観点から、障害者の 住宅確保のために必要な支援の在り方について、総合福祉部会における議論と の整合性を図りつつ検討し、平成24年内にその結論を得る。 略年表 1951年 「公営住宅法」「公営住宅法施行令」制定。住宅に困窮している 低所得のファミリー世帯が対象 1980年 高齢者と身体障害者の単身者について、住宅に困窮していると認め、 「単身入居枠」の対象とした。このとき精神障害者と知的障害者は「 単身入居枠」の対象とされなかった。 当時の公営住宅法施行令弟6条「身体又は精神上著しい障害があるために常時 の介護を必要とする者で、その公営住宅への入居がその者の実情に照らして 適当でないと認められる者は、単身で公営住宅に入居することができない」  「単身入居枠」の対象となっても実際には入居困難な法制度だった 1996-7年 群馬県桐生市が重度障害を理由に入居申し込みを受理せず、 異議申立に対して「施設入居が適当」と回答 1999年 埼玉県浦和市が市営住宅入居案内で入居資格を「介護を要さず自立し て生活できる方に限る」として門前払い。地元障害者団体が交渉し、2000年に 入居案内を修正 1999年 公営住宅について建設省(当時)と障害者団体が交渉 各地の事例に 基づき交渉を継続 1999年 公営住宅法施行令の障害者欠格条項が、政府の見直し対象(63制度) に含まれた 2000年 大分県で「自活状況申立書」提出を義務づけ、「ひとりで身のまわり のことができ、入居後常時の介護が必要になったときは退去」の宣誓を求めて いた。地元障害者団体が抗議、「自活申立書」は廃止した 2000年 兵庫県三木市で入居者募集のしおりに「常時の介護を必要とする人は 入居できません」と記載 地元障害者から指摘をうけて謝罪した 2000年 公営住宅法施行令弟6条に「居宅においてこれ(介護)を受けること ができず、又は受けることが困難であると認められる者を除く」が入り、「 居宅において介護を受けることができる者」には単身入居を認めることになっ た 2002年 国土交通省に、さまざまな障害者団体が、知的障害者、精神障害者の 単身入居を求める交渉  2006年 公営住宅法施行令と同施行規則の改正によって、必要な援助を得て 生活していく見通しがある知的障害者、精神障害者の単身入居が可能となっ た。同時にDV被害者も単身入居可能になった。各市町村で障害者の住宅あっ せんや保証人、緊急時の対応等をおこなう「居住サポート事業」が開始した。 しかし実際には単身の受け入れが進まない状況、東京都の当選者が半年後もま だ審査中であることなどが秋に報道された (新聞報道) 朝日新聞2006年9月23日 精神障害者の公営住宅入居 単身受け入れ進まず 読売新聞2000年7月12日 四番目のバリア 法制度の障壁を越えて その2 難しい公営住宅への入居