「道路交通法改正試案」に対するパブリックコメント


2007年1月27日
障害者欠格条項をなくす会 (共同代表 福島智・大熊由紀子)
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「道路交通法改正試案」に対するパブリックコメント

一、「道路交通法改正試案」の次の点について賛成します

 「現在は運転免許を取得することができない聴覚障害者について、普通自動車免許を取得することができるようにすること」〔試案2−(4)「聴覚障害者の運転免許に関する規定の整備」の1〜2行目〕について賛成します。
 賛成理由は、第一に、運転免許交付更新を聴力で左右することに客観的根拠がないからです。第二に、年代も聴力もさまざまな聴覚障害者が、長年運転しており、アンケート(注1)への回答で、視認と注意力によって運転できるとしています。第三に、欧州連合(加盟国27)、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、韓国など多数の国は、非営業用の自動車免許、バイク等の免許について聴力を問題にしていず、聴力による制限をしている国は、日本の他にはイタリア、スペインで、少数だからです(注2)。
(注1)アンケート調査「聴覚障害者と運転免許」   「財団法人全日本ろうあ連盟」「社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会」「障害者欠格条項をなくす会」が合同実施、聴覚障害者本人1475人が回答(回収率71.5%)。2006年4月に報告書を発表した
(注2)典拠は2002−03年度警察庁委託「安全運転と聴覚との関係に関する調査研究」及び韓国DPI資料

二、「道路交通法改正試案」の次の点について反対します

 「現在は運転免許を取得することができない聴覚障害者について、普通自動車免許を取得することができるようにする」際に、「ワイドミラーを装着すること等を条件と」すること、「このような聴覚障害者が運転する際には、聴覚障害者標識の表示を義務付ける(表示義務違反について罰則をもうける)ことと」すること〔試案2−(4)の3〜5行目〕に対しては、反対します。
 反対理由は、第一に、ワイドミラーについては、平成17年度警察庁委託調査研究でも、聴覚障害者が補聴器を外した状態で標準的な自動車で走行実験して安全性に問題がなく、ワイドミラー等装備の有無や聴力の有無にかかわらず個々人の視認と注意力が重要なことを示しています。もし、今後、視認性の高いミラーを自動車に標準的に搭載することにするならば、障害の有無に関係なく大多数のドライバーにとって有効ですが、聴覚障害者に対してだけワイドミラー装着を「条件」とする合理的理由がありません。第二に、聴覚障害者標識については、今も広範囲に聴覚障害者への予断偏見がある中で、嫌がらせの対象にされるのではと懸念している人や被害体験がある人からは、マークは表示したくないと声があがっています。試案2−(4)の【参考】には、聴覚障害者標識表示を義務付ける理由として「聴覚障害者は、交通状況の確認をすべて視覚により行うために、危険の発見が遅れるおそれがある」とありますが、実際には聴力の有無に関係なく視認と注意力によって問題なく運転していることを、認識の前提におくべきです。
 ワイドミラーを使用するかどうかは個人の選択に任されるべきものであり、ワイドミラーを「条件」とすること及び標識の罰則を伴う義務づけに反対します。

三、欠格条項の抜本的な見直しと、「本人の選択決定」を基本にした法制度を!

 「道路交通法改正試案」は、現在の適性検査の基準では運転免許を取得できない聴力の障害者について、初めて、普通自動車免許取得を認めるとしました。その点は、長年の聴覚障害者をはじめとする運動の成果と受けとめています。
 しかし「試案」2−(4)には、新たな「条件」や「義務」は書かれていますが、従来からの適性検査や補聴器「条件」については全く書かれていず、従来どおり据え置くことが前提にあるもの、と読みました。すでに問題が指摘されている制度を根本から見直さずに、このような「条件」や「義務」を継ぎ足すならば、矛盾をますます拡大します。
 障害の有無にかかわらず、個々人が必要な選択決定をしながら、安心・快適に運転ができるよう支える視点での、法制度および環境づくりが、本来、必要なことです。しかし、「試案」には、本人が選択し決定できるようにするという視点が欠落しています。必須の「条件」を設けて罰則を伴う「義務」を一律的に課す法制度は、非常に大きな影響をもたらしかねず、強く危惧するものです。
 昨春の報道発表時には、詳細が明らかでなく、「全く聞こえない人や、補聴器をつけても今の検査では聞こえない人が運転できる法制度になるなら、ずっと悩まされてきた聴力の適性検査や、運転に補聴器をつけてという条件はなくなるのかな」と期待をもった、という聴覚障害者の声も、少なからずありました。実際には、聴力の程度とは関係なく視認と注意力で運転できているにもかかわらず、検査や条件があることが、多くの聴覚障害者にとって、免許交付時・更新時の不安やプレッシャーのもとになっているからです。当会も、検査が欠格条項に代わるものになっているとの認識で、根本的な見直しを従来から求めてきました。
 前述のアンケート調査「聴覚障害者と運転免許」では、聴覚障害者1475人が回答し、「運転中に補聴器をつけると、走行中の不要な雑音・騒音まで拾ってしまうので、頭痛や耳鳴りで疲れる、かえって集中力が低下する」という内容の回答が多く寄せられました。また、原付やバイクでも、補聴器をつけたうえにヘルメットをかぶると、ハウリング(注3)が起き、補聴器をつけていられない、という声が、従来からあがっています。
 ひとりひとり、運転状況もニーズもちがっていて、障害の有無、障害種別、聴力程度がこれ以下、などによって括るということは、本来、無理なことです。一律の「条件」や「義務」をつけて制限する従来からの法制度を、発想から見直して、「本人の選択と決定」を基本とした法制度へ転換することを求めます。
(注3)ハウリング  なにかの理由で、補聴器からピーピーとうるさい音漏れが起きること。たとえば、補聴器をつけた上にヘルメットをかぶった時に、ヘルメットに補聴器や耳が圧迫されてハウリングが起きる

四、「試案」に関連した提案として

 情報保障はあらゆることの前提です。教習所や各種の講習、免許行政窓口で、手話通訳、文字通訳、字幕などの情報保障を整備する必要があります。整備の目標・計画をたてて進めることを提案します。
 一般教習等で、ドライバーや歩行者の中には聞こえない人もいること、そして聞こえない人も視認でじゅうぶん運転できるということを、周知することが、まず、必要なことです。
 原付やバイクについても、従来は聴力が理由で取得できないとされていた人も取得できるようにして、かつ、補聴器、聴覚障害者標識や、特殊ミラーなどの装備使用は、必須の「条件」や「義務」にせずに、個人が選択決定できるものとすべきです。二種免許についても、一律に聴力等で制限せずに可能性を拡大する方向で見直し作業を開始することを提案します。
 運転は、障害当事者の社会参加と不可分です。運転にかかわるあらゆる分野で、立案過程から障害当事者参画のもとで作業を進める必要がある課題であることを、提起します。
以上


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