「障害のある人の欠格条項ってなんだろう?Q&A」
出版記念イベント(2023年)


    
その3
瀬戸山/それでは時間になりましたので再開したいと思います。この次、加納佳代子さんからお話をいただけたらと思います。加納さんお願いします。
(写真:加納さん)
加納/てんかんとうつと友達になって働き続ける看護師、加納佳代子です。またの名を講談看護師、加納塩梅と申します。
 てんかんは100人に1人、子どもから高齢者まで誰でもなり得る、脳に起きた一時的な不具合の表れです。一つの病気ではなくて、てんかん症候群の総称です。てんかんだけを考えると、発作を繰り返すこと以外は問題なく、発作も適切な治療で8割の人が抑えられます。
 発作の様相は多様で、全身がこわばり痙攣する方はごく一部で、力が抜けて転んでしまう、意識があって身体の一部が勝手に動く、一瞬意識が失われ動きが止まる、他の人にはわからない違和感、不安感、視覚・聴覚・嗅覚の異常、めまいなどの発作もあります。
 私が看護師の免許を取得したのは、今から48年前です。卒業後は核家族で、2人の子どもを病院の託児所に預けて、夜勤をしながら働き続けました。病棟の師長をしていた35年前、てんかんになりました。
 免許返上の義務はありませんので、てんかんと共に暮らし、うつ病で1年間休職した以外は、看護師、看護管理者、大学教員として働き続け、現在73歳になりました。今も精神科病院の看護部長として、臨床で働いています。
 初めての痙攣発作は、病棟の師長をしていた38歳の時でした。当直で一睡もせずに学会に直行した日の夜、痙攣の発作がありました。半年後に当直明けにまた発作があり、てんかんと診断されました。抗てんかん薬の副作用も抱えながら、てんかん発作を時々起しながら、夜勤は免除してもらい、管理職を続けてきました。精神科病院の看護部長の時、子宮線維症、卵巣嚢腫で緊急手術をして、術後に結核になりました。当時、てんかん発作が頻発していましたので、迷惑をかけたくないなと思い、部長職を降りたのですが、そのとき既に、うつ病患者になっていました。
 てんかんとうつ病の当事者として、回復の一歩を歩み始めたのは55歳からでした。生き方を変えようと思いました。まずてんかん当事者として、日本てんかん協会の千葉県支部の世話人になりました。仕事以外の生きがいを見つけたいと、講談を習い始めました。初めて作った創作講談は、私の経験をもとにした「てんかん・ぴあ・かうんせりんぐ」。のちに「病気だってともだち」と改題し、講談看護師 加納塩梅として、講談で、てんかん啓発活動を始めました。てんかんと共に暮らし、うつ病から回復した私だからこそできることをしたいと考えたからです。
 そして「人は皆、病みながら生きている」という教員の言葉に惹かれ、リハビリテーションを学ぶ大学院に進学しました。私は看護師として、医学リハビリテーションしか知らなかったのですが、リハビリテーションは、教育、職業、心理、社会リハビリと、幅広いものであることを知りました。うつからのリカバリーの途上でもあり、若い人のようにはなかなか適応できない熟年大学院生の私に対し、指導教官はこう言って励ましてくれました。「ないものはない、失われたものを嘆くな、自分にないものは他者に借りて支援してもらえ、そして、いま自分に残されたもので惜しみなく他者を支援しろ!」このとき、指導教官もまた脳出血で倒れ、リハビリ中でしたので、ご自分を勇気づける言葉でもあったのだと思います。
 大学院を修了後、二つの大学で教員として13年働き、働き、71歳でまた現場に戻りました。週4日、単身赴任で精神科病院の看護部長をしています。そして、てんかんの看護師として、「加納塩梅のテンカン小噺チャンネル」を開設し、YouTube動画でてんかん啓発活動を始めました。

 病や障害があろうがなかろうが、その人らしく生きていくためのヒントを発信しています。私にしかできないことを発信していきたい。病や障害とともに働くケアギバーとして、これからの働き方のモデルを示したい。そんな思いもありました。
 ちょっとYOUTUBEを紹介させてください。


 私自身のことをお話している動画が、「てんかん発作は突然に。はじめての発作からてんかんと診断されるまで」と、「54歳でうつ病になったてんかんの看護師が完全復帰に3年かかった話」です。
 次の「てんかんだとなれない職業って」っていう動画が、欠格条項の話になります。日本では、てんかんだというだけでなれない職業は、パイロットだけ。しかし世界で見てみると、てんかんだからというだけでなれない職業はない、という結論です。


 てんかんの方で看護師になりたいと考えている方へのエールとして、元大学教員が答える、「てんかんだと看護学部に入学できないの?」というのを作りました。もちろんできます。


 次の「看護の日」の記念「誰だって諸事情を抱えている」という動画は、ろう、術後後遺症の小脳障害、多発性硬化症、ALSの四人の看護師を紹介しています。動画を通して、病や障害があろうがなかろうがその人らしく生きていくための知恵を、多くの皆さんにお伝えできればと考えています。




 上のイラストは、さきほどの看護の日記念「誰だって諸事情を抱えている」の動画でも紹介している、Iam a nurse:Color me Exceptional!という塗り絵の表紙です。ドンナ・C・マハディさん作、絵は、ヌー・ヌエンケさんとトム・ギリさんが描いています。英語版が Amazonで購入できて、購入すると障害のある看護学生への奨学金の一部となります。『障害のある人の欠格条項ってなんだろうQ&A』の本の81ページにも掲載され紹介されています。人工内耳 ろう 視覚障害 二部脊椎症 骨形成不全症 脳性マヒ 生まれつき片手がない 脊髄損傷 関節リウマチ ぜんそく 学習障害 アスペルガー症候群 そして、てんかん。てんかんを持つ看護師は、てんかんを持つ子どものサマーキャンプで活躍する様子が、塗り絵になっていました。
 なんで誤解や偏見があるのかということを考えるとですね、まったく知らないので、もしくは中途半端な知識や情報のため、不安になったり偏見を持ったり、その気はなくても差別的な言動を発してしまうことがあります。それは誰もがです。多くの場合、昔の知識がバージョンアップされてないんですね。当事者が、周囲に配慮してほしいことを伝えることをためらっていることが、なかなか環境が整わない一因でもあります。てんかんの場合、言わないで済む場合もありますので、伝えることによる過剰反応を危惧してしまうからです。
 たとえばこんなふうな発言をする人がいます。「患者さんの介助をしている時に発作がおきたら困る」「看護師は夜勤があるから無理よ」と、看護師を諦めるように忠告する方がいるかもしれませんが、よくわからず心配をしているだけですね。てんかんの発作は、緊張の後ほっとしてリラックスした時のほうが起こりやすいですし、夜勤のない看護師の仕事もたくさんあります。てんかんと共に暮らすことで重要なことは、自分のてんかんをよく知り、仲良くなることです。てんかんと共に働き続けるには、何が発作の引き金になるのかを知って、コントロールすることに尽きます。看護師であろうと、他の職業であろうと、体調管理の基本は同じです。
 大学教員をしていましたので、てんかんの学生にはよく出会いました。初めての発作が大学で始まった学生もいれば、これまでおさまっていた発作が再発した学生もいます。てんかん発作のようにみえて実はてんかんでない場合もあります。100人にひとりはてんかんですので、教員たちは対応・対処方法を習得していく必要がありますが、残念ながら間違った知識をもっている方や中途半端な知識の方がいるのも現実です。残念ながら、看護学部であっても同じです。当事者が必要な支援方法を教員に伝える必要があります。
 入学したばかりの看護学部の学生が、突然、私の研究室を訪ねてきたことがあります。ドアを開けっぱなしにしていたのですが、にこにこ笑いながら大きな声でこう言ったんです。「こんにちは!一年生の○○です。母に、私がてんかんだっていうことを担任に伝えておきなさいと言われたので、報告したら、担任の先生が“加納先生がてんかんだから、ご挨拶しておくといい”と言われました。よろしくお願いします!」 こんなふうにカラっと伝えてくれる学生が増えるといいなと思いながら、こう伝えました。「わざわざありがとう、嬉しいわ。たくさん学びたいことがあるだろうけど、睡眠は削らないでね!注意することはそれだけです。」
 実習は、その職業の本質が学べるように工夫することが重要です。健常者にあわせた実習に固執しすぎないことです。コロナ禍で現場での実習が叶わなかった時に工夫していった教員たちであれば、障害のある学生にあわせた実習のありかたを工夫することができるのではないでしょうか。
 国家試験に合格して免許登録を申請するとき、医師の診断書には、既往歴があっても業務を行なうにあたり支障がない場合、てんかんなら精神機能の障害の項目に該当しないというところにチェックがされます。補助的または代替え手段があれば、その具体的内容の記述という所には、本人からの聴取をふまえて記載、となっています。ですから、当事者が伝えることができればいいんです。

 わたしは実はこれまで、相対的欠格条項でも、めんどくさいけれども、まあいいか、昔より良くなったから仕方ない、と考えていました。しかし、今回発行した『障害のある人の欠格条項ってなんだろう?Q&A』の本を全部読んで分かりました。障害にかかわる欠格条項はいらない、そう思いました。

 願わくば 何人も、てんかんという病名によって人生が制限されることのない世界を!
 これは国際抗てんかん同盟のモットーです。
 てんかんであろうがなかろうが、その人がベストな人生を歩めるように。障害があろうがなかろうが、その人がベストな人生を歩めるように。法律が夢を阻まないようにと願っています。
 書籍の紹介と、このイベントの宣伝のために、「法律が夢を阻まないように」の動画を発信していますので、「加納塩梅のてんかん小話チャンネル」でぜひご覧ください。終わります。



瀬戸山/すてきなプレゼンテーションをありがとうございました。
(次号に続く)
加納塩梅のテンカン小噺チャンネル(トップページ)
https://www.youtube.com/@kanouanbai

法律が夢を阻まないように
https://www.youtube.com/watch?v=sj-6Tn0FWCA
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初出:障害者欠格条項をなくす会ニュースレター91号(2024年8月発行)


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