「障害のある人の欠格条項ってなんだろう?Q&A」
出版記念イベント(2023年)


その1
(写真:臼井さん)
臼井/こんにちは、臼井です。本の編集に協力した「障害者欠格条項をなくす会」の事務局を担当しています。
 私は生まれてすぐからの聴覚障害で、幼いころはまだいくらか聞こえていたので、このように声で話しています。私の場合、補聴器をつければ音があることはわかっても、音を言葉として聴きとれないので、文字通訳の字幕を見て参加しています。
 はじめに、なぜこの取り組みをするようになったかについて話します。私は、大学に入学してすぐ、必修の英語の授業でクラス替えされそうになりました。聴き取りを重視する先生で、私は英語の聴き取りはまったくできないので、聴き取りテストは当然、0点でした。クラスを替わるよう言われましたが、それだけは、「はい」とは言いたくなかったので、障害のある学生たちのサークルに相談して、先生や大学と話しあいを重ねました。このときに初めて、ほかの障害のある人たちと出会い、障害のある人自身による活動に参加するようになりました。
 受験できない大学もあるなかで、入学した大学は、受験を拒否していなかったので、ほかにも障害や疾患のある学生がいました。また、サークルとして、脳性まひなどの障害のある人たちの日常生活を介助する活動をしていました。病院や施設や親もとから出て、アパートをかりて生活している人たちや、生まれてからずっと家庭の中だけで暮らしてきた人たちのところに、通いました。ほかの障害や疾患がある人と出会えていなかったこと、分けられてきたことを、このとき、痛感しました。
 その後、障害があるとつけない仕事があるらしいと活動のなかで話題になったことがあって、1990年代前半は個人的に調べていました。そうするうちに、高校生から1枚のファックスが届きました。「耳が聞こえないが、医者になりたい。法律のために、なれないのですか。」と書かれていました。
 「医者になりたい」と思えるようになったことは、大きな変化だと思いました。私は中学校まで、聴覚障害のある子どもを集めた学級にいましたが、医者になりたいといった夢は、まったく話題にならなかったからです。それは、「耳が聞こえないのだから、人と話さなくてすむ仕事をしなさい」と、学級で言われていた影響が大きいと思います。そして、いろいろな夢をもつことを最初からあきらめることになりがちだったと思います。この高校生のように自分の夢をもっても、法律が壁になることに対して、取り組みが必要と、強く感じました。
 当時は、「目が見えない者、耳が聞こえない者には免許を与えない」という欠格条項があり、受験もできませんでした。本にも執筆していただいている早P久美さんが、薬剤師国家試験に合格して免許交付を申請したのに、交付されていないことが、1998年に報道されました。
 「障害者欠格条項をなくす会」は、その翌年1999年5月に、障害の違いや障害の有無をこえて取り組もうと、スタートしました。

 瀬戸山/ここから、私が質問させていただくかたちで、臼井さんにお応えいただきます。
この本はどんな本ですか?
臼井/コンパクトな本で、活字が読みやすいです。本の目次から、障害や疾患の状況が近い筆者や、関心のあるテーマを見つけやすいです。解放出版社のサイトから電子書籍版も購入できます。電子書籍を購入したかたも、視覚障害の状況などからテキストデータを請求できます。テキストデータについては、あとで福場さんが話してくださいます。詳しい案内は出版社のサイトにあります。
 この本の32名の書き手の過半数は障害や疾患がある人で、その多くの人は、欠格条項について何かの経験をしています。また、高校の進路担当の先生、弁護士などの立場で相談を受けた人も書いています。
 サブタイトルは「資格・免許をとって働き、遊ぶには」。学ぶことや働くことと並んで「遊ぶ」をだいじにしています。「勉強する・働く・暮らす・遊ぶ」生活と人生に沿って、どんな問題、経験、取り組み、情報源があるか。問題にぶつかったら、何をみれば、どこに相談すれば、どうすればよいか。自分で考えながら情報や支援を求めることに使っていただける本です。

瀬戸山/編著者として、また本づくり会議で、臼井さんが大切にしたことはなんですか?
臼井/スライドにあるように、読者は高校生くらいを中心に、進路を考えている人、学校の先生、あらゆる人をイメージしました。
 本作りの最初に話し合った目的・特色のひとつは、「欠格条項や欠格条項的なものに気づくようにする」でした。障害を理由とした欠格条項のある法律は、今年の3月に調べたところ、690本以上あります。欠格条項は、法律を新しく作るときや見直すときに自動的にコピーされているため、3年前の調査と比べると、毎年10本は増えていることになります。
 そのように法律に書かれているということが、大きな問題ですが、欠格条項的なものは、ありふれています。例えば、よくある思い込みに「障害があると無理、できない、危ない」というものがあります。法律の欠格条項が、そのような思い込みを固定し、拡大し、強化していると言えます。
 二つ目は、「自分のこととして考えられるように図る。」欠格条項は、仕事の資格や免許だけのことではないこと、障害や疾患がある人だけの問題ではないことを、本のあちこちでふれています。
 三つ目は「あきらめないでいこうというメッセージを届ける。」何よりも届いてほしいメッセージです。
 四つ目は「世代をつなぐ。」本の書き手についても、高校を卒業したばかりの人から、80歳台の人まで、世代をつなごうとしました。

瀬戸山/とくに話し合ったことは?
臼井/欠格条項は、仕事の資格や免許だけのことではなく、自動車の運転免許のように、社会生活、人生のすべてにかかわっています。また、国の法律だけでなく、公営住宅への入居資格、議会や委員会の傍聴など、数えきれないほどあります。仕事の資格や免許というとき、医師免許などがイメージされやすいと思います。そして、「試験に合格して医師などになれる、一部の人の話」だと見えることもあると思います。しかし、特に医療の分野に障害を理由とした欠格条項が集中していることは、障害がある人がおかれている状況と切り離せないと考えています。
 たとえば、「試験に合格した人が、欠格条項にあてはまるかどうか」の審査のために、医師の診断書の提出が求められています。医師国家試験は2001年まで受験も認めず、障害がある人を締め出してきました。多くの医師や医療従事者は、障害や疾患のある人と一緒に勉強したり働いたりすることもなく、障害のある人の生活について知らないまま仕事をする、という状況が続いてきました。そのことは、医学モデルを非常に強めてきました。
 医学モデルは、司会の瀬戸山さんのお話にもありましたが、障害がある人を保護や治療の対象として捉えます。障害のある人を分けて締め出す社会をつくってきたと言えます。国連の障害者権利条約をはじめとして、医学モデルから、平等に共に生きていける社会モデルに転換しようという、国際的な大きな流れがあります。それだけに、医療分野に障害がある人が入ることはとても重要です。本日、医療分野で働いている、障害や疾患のあるかたにおいでいただいています。そのお話をよくうかがいたいと思います。
 そして、「困難があることをどう伝えるか」という課題がありました。希望をもって、あきらめないでいこう、ということとあわせて、現実にある困難をどのように伝えるか、悩みながら編集しました。
 今の欠格条項は、2001年までのおおっぴらな門前払いからは変わっています。法律上は障害や疾患があるというだけの理由で資格や免許を与えない条文ではなくなっています。それでも、本に書かれているように、2001年までとあまり変わらない経験があとをたちません。また、欠格条項がない分野においても、障害や疾患がある人が被っている差別があり困難があります。どんなことがあるか、経験者はどう向き合ってきたか、何が参考になるか、伝えようと話しあいました。
 本の執筆者の今の肩書きだけをみると、希望をかなえてきた人ばかりのように見えるかもしれません。しかし多くの人は、まわりから反対があり、学ぶこと働くことに壁がありました。希望の分野に進学できなかった体験、仕事につけなかった体験も、コラムに書いていただいています。読んで下さるとそれぞれのメッセージが伝わると思います。

瀬戸山/読んだ人からはどんな感想や意見が届いていますか?
臼井/このようなコメントをいただいています。「欠格条項について初めての人も理解しやすい構成」「日常の『欠格条項』に向き合ううえでのガイドブック」「手元に置いておくと、いざという時に頼りになる本」「参考図書やウェブサイトも充実」「学校の図書室に置くなどして、多くの教員に知ってもらいたい」最後のかたは、学校の先生をしている、視力に障害がある人です。同僚の先生のほとんどが障害はない人で、"これまでも欠格条項について話しているけれども、なかなか伝わりにくかったことがあり、本を読んでほしいと考えている"というコメントをいただきました。

瀬戸山/編著者としてまとめをお願いします。
臼井/この本は、欠格条項について相談キャンペーンを2年前に実施したことからできました。窓口に知らせてくださった経験や相談がもとになっています。キャンペーンから本作りまで、かかわってこられた全てのかたに、お礼を申し上げたいと思います。
 欠格条項については今でもあまり知られていないです。大熊さんが、病気の「結核」と言われましたが、今もそう書かれることがあります。本が広く活用され、欠格条項とその課題について知られること、困りごとをほぐしながら取り組むのに役立てられることを願っています。
 本に、欠格条項との関係にかかわらず使える、法制度の基本的な知識をのせています。障害や疾患のある本人や、まわりの人にとって、ぶつかっている問題が欠格条項とこう関係している、または、関係していない、とわかれば、取り組み方も見えてきます。
 相談窓口を開くと、「障害や疾患について伝えるかどうか悩んでいる」というかたが、大変多いです。そのような共通的な悩みにも答える内容です。
 今も根深い見方として、「障害を理由とした欠格条項は、あるのはあたりまえ、必要なこと、しかたがない」という見方があります。しかし、本当にそうなのでしょうか?
 本に、欠格条項にかかわるいろいろな体験が書かれています。どなたにも、体験から知ってほしいです。
 「障害」と聞いただけで、「自分とは関係ない」と思う人が多いでしょう。それほどまでに、分けられ、隔てられてきています。私自身、ほかの障害のある人たちに初めて出会ったころ、40年以上前ですが、「知らないし、怖い」と思っていました。障害の違いによっても分けられてきたので、出会わない限り知らないことが多いです。今でも、障害のない人にとって、障害のある人は、知らない、わからない、怖い、といったイメージがあるのでは?と思っています。
 障害を理由に分けず、平等に共に生きていける社会にしていくことと、今ある欠格条項を見直すことは、根底でつながっています。ぜひ購入してお読みいただきたいです。
 また、誰もが読めるように、学校の図書館や公立の図書館にも置いてほしいです。もし、身近な図書館になかったら、図書館にリクエストしてください。あらゆる人に読んでいただけることを願っています。
 これで私の話を終わります。有難うございました。
(次号に続く)
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初出:障害者欠格条項をなくす会ニュースレター89号(2023年12月発行)


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