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【報告】一刻も早い法整備を!
院内集会「障がいに乗じた性犯罪」創設を目指して

2020年12月08日 権利擁護

登壇者の皆さん

 精神医療ユーザーの一人として、また障害女性の一人として、思わず目を覆いたくなるような悲惨な事件が起きました。2014年のことです。しかし、目を背けることなく、標記の集会から感じたことを伝えることが自分の役目だと考え、報告をしたいと思います。

 11月25日(木)衆議院第一議員会館で、院内集会「障がいに乗じた性犯罪」創設を目指して~障がい児者の「人権」を尊重する刑法へ~が開催されました。3密を考慮しての開催ではありましたが、会場はこの問題に強い関心を持つ参加者や記者などの熱気にあふれていました。

一人の若い女性の自死「もう一回やり直したい」

 2014年12月、一人の若い女性が自死しました。この女性(Aさん)は、当時かかっていたメンタルクリニックの主治医に心身を支配され、性的搾取をされた挙句、死に追いやられました。しかし、現行の刑法ではこの主治医を性犯罪者とすることはできません。Aさんに大量の卑猥なメールを送りつけ、向精神薬を悪用してAさんの心身を壊し、Aさんの家族関係までめちゃくちゃにしたにもかかわらず、です。

 この事件の詳細は「市民の人権擁護の会日本支部」の米田倫康さん著「もう一回やり直したい 精神科医に心身を支配され自死した女性の叫び」をぜひお読みいただきたいと思います。

集会で報告・発言されたこと

中野宏美さん

 はじめに主催のNPO法人しあわせなみだの中野宏美さんから「刑法性犯罪における障がい児者」と題して、性犯罪被害をめぐる障害児者のおかれた驚くべき現状が報告されました。性犯罪の被害者に障害があった場合の「強制性交等罪」は、そのすべてが不起訴処分となっているのです。

 その他の「監護者性交等罪」「準強制性交等罪」「児童福祉法違反」「青少年保護育成条例違反」を含めた性犯罪事件の被害者に占める障害児者についても、不起訴処分の割合が極端に高くなっています。

 これは、被害者に障害があった場合、その人の障害特性ゆえに犯罪が立証困難であることや証言を信用してもらえない、といった既存の捜査等の仕組みに問題がある、との指摘がされました。

 国民の13人に一人、人口のおよそ7.6%が障害者手帳所持者です。手帳を持たない障害のある人もいることから、万が一、そうした人々が性犯罪に巻き込まれた場合、現行刑法では多くが救済されない可能性が高いのです。

米田倫康さん

 次に、「障がい児者が置かれた現状」として市民の人権擁護の会日本支部の米田倫康さんから発言がありました。自死したAさんが特殊なケースだったのではなく、Aさんを性的搾取し死に追いやった精神科医が特別に低劣な精神科医だったのではありません。メディアに暴かれている事件はほんの一握りということです。

 精神科の患者である、または精神障害者であることを理由に「幻覚・妄想状態」などの精神的不調を方便にされて、そもそも被害届が受理されない、示談金を受け取ることで取り下げられる、警察等で門前払いされることさえあり、事件化されることのほうが少ないということです。

 主治医という立場や精神医学的知識、そして向精神薬を悪用すれば、「同意はあった」とされる事態は残念ながらじゅうぶん起こりうることであり、現行の刑法では事件化ができない性暴力は、数えることができないほど存在します。

 社会に、そして今の法律に、精神科主治医と患者が性的関係を持つことが医師による性暴力である、という認識が欠けています。そのため、地位・関係性を利用したり、精神科医療で起こりがちな陽性転移(治療者に対して恋愛感情のようなものを患者が抱く現象)を利用したりして、精神科医が患者を性的に搾取したとしても、罪に問うことができません。

 精神科ユーザーはただでさえ精神的に弱って医療機関の扉を叩きます。ですが、そこで医師から立場など悪用されて心身を搾取されたとしても「同意があった」とされてしまう……こんな横暴が通用してしまっているのが、現行刑法の限界なのです。

倉岡久明さん

 米田さんに続いて発言をしたのは、自死したAさんのご両親である倉岡久明さんと祐子さんでした。父親の久明さんは次のように述べました。

「娘の死後、はじめは残念だけれど仕方がない、医療機関にも『お世話になりました』という気持ちでいました。しかし、娘の遺した日記が出てきたことによって、娘の心身に何が起きていたかを知りました。それは父親として直視するに堪えないほどのひどい現実でした。

 娘は生きたい、という願いで精神科に通ったのに、結局ただの医師の欲望の対象とされてしまいました。娘は最期に『もう一回やり直したい』というメールを遺して自死しました。

 娘の死後、主治医と面談をしたときに『他に同じような性的被害に遭った人はいない』ということを確認したのに、実際にはこちらでわかっているだけでも30人以上の性的な被害者がいるのです。主治医だった男はその後医療機関を転々とし、行く先々でセクシャルな問題を起こしていましたが、鹿児島県医師会はもみ消しを繰り返して、情報を共有することはありませんでした。

 私は当時の鹿児島県医師会会長と話をしましたが、その会長は『医師の恋愛に口出しはできない』と言い放ったのです。もし自分の娘が性的被害に遭って自死しても、果たしてそんなことが言えるのでしょうか。

 しかしながら、実際のところ加害医師を取り締まれる法制度がなかったのです。法の壁にぶつかりました。主治医だった男を診療報酬の不正請求という詐欺罪に問うことはできたのですが、娘を自死に追いやった性的搾取については問うことができませんでした。

 他にもたくさんの被害者がいますが、みんな加害者からの報復を恐れて声を上げられずに苦しんでいます。二度とかかわりたくないと泣き寝入りしている人々もいます。詐欺罪を立証するのにすら、被害者側がなぜ多大な労力をかけなければならなかったのか。しかも詐欺罪は、そもそもこの問題の本丸ではありません。

 法律をどうにかしてもらわないといけない。精神科に通っていた患者に性的関係を迫り、搾取した。その結果、患者が自死した。これは医療ミスではないか。殺人ではないか。警察はメールのやりとりをすべて知っている。それでも『自殺』という判断をしました。どうか、こうしたことが二度と起こらないような法整備をお願いしたい」と述べられました。

倉岡祐子さん

 続いてAさんの母、祐子さんから発言がありました。ご自身が、娘であるAさんの一番の相談相手になれなかったこと、主治医に丸投げしてしまったことの後悔が最初に語られました。「なぜ自分たち遺族が公の場に顔を出し、声を上げたのか。それは、この精神科医による性被害が娘だけでなく、多くの女性に及んでいたからでした」とのことでした。

 詐欺罪の判決を言い渡す際、裁判長が非常に厳しい態度で、起訴された医師に対して判決文を読み上げていたことが心強かった、しかしそれは本当に罰してほしい性犯罪についての裁判ではありませんでした。

 祐子さんは「いつか娘が『ママ、頑張ったね』と迎えに来てくれる時まで、性犯罪被害者が安心して駆けつけられるような仕組みや制度が出来上がることを目指していきたい」と発言されました。

 Aさんの心身はずさんな精神医療によって悪化の一途をたどりました。そんなときに祐子さんがAさんに「ちゃんと薬を飲んでいるの?」といった言葉をかけてしまったこと、自分事として「このクリニックはちょっとおかしいな」と立ち止まって考えられなかったことを、今でも無念に思っているとのことでした。

 Aさんを治療という手段で性的搾取し自死へ追い込んだ医師が、二度と医療現場に戻ることのないように法整備をお願いしたい、ということを強く訴えられました。いつかそのような法律ができたときに、「そういえば昔、鹿児島で娘さんを亡くしたお母さんたちが声を上げたよね。それがこの法律の礎になっているんだね」と思い出してもらえたら、という言葉に、会場では何人もの参加者が頷いていました。

 「メンタルクリニックにファッション感覚で通うことはなんの解決にもならない。精神的につらい思いをしている人がいたら、心ゆくまで話を聞いてあげてほしい。間違っても安易に専門家にかかるように助言してはなりません」とも警鐘を鳴らされました。「メンタルヘルスは自分で守る」という言葉の本当の意味を考えてほしい、という言葉で祐子さんの話は締めくくられました。

DPIの崔

 最後の登壇者はDPIの崔でした。崔からは「韓国の障がい児者に関する刑法性犯罪処罰規定」と題した講演をしました。韓国では「トガニ事件」という衝撃的な性暴力犯罪が起きており、映画化されることで国民レベルでの批判が起こり、世論を動かして障害者と未成年者への性暴力が厳罰化されたという経緯があります。

 「日本ではセクシュアルなトピックに対する世間の目は厳しくなってきている印象があるが、裁判規範だけではなく人々の行為規範を導くような法整備が必要。しっかりとケアできる法律を作ってほしい」という発言内容でした。

 最後に、倉岡久明さん・祐子さんご夫妻が「障害に乗じた性犯罪」処罰規定創設を求める要望書を読み上げ、集会は終了しました。

 

▽集会で読み上げられた要望書はこちら(PDF)

院内集会の感想

 短時間ではありましたが、濃度の高い集会でした。現行の刑法、精神医療、そして人権侵害の問題が非常に複雑に絡んでいる構造が浮かび上がりました。

 精神医療のユーザーの一人として、また一人の女性として、とても他人事とは思えませんでした。私自身、過去に陽性転移を経験しましたし、専門職という立場の人間たちに闘病の経験を利用された苦い過去があるからです。

精神科医療の劣悪さや不誠実さ(例えば、精神保健福祉法という法によって強大な権力を握っている精神科医が批判の声から逃れていること、医師と製薬会社との癒着、その陰で人権や尊厳を傷つけられている当事者が非常に多くいることなど)を自分なりに経験として知っている……つもりでした。

 しかし、現実はもっと深刻です。Aさんは命を落としました。精神医療によって殺されたといっても過言ではありません。こんなむごいことは、二度と繰り返されてはなりません。精神障害当事者の一人として、Aさんの叫びを受け止め、こうして発信していくことが、自分の使命の一つであると考えます。

 この事件の加害医師のような輩をこれ以上のさばらせないためにも、心身に傷を負った被害者の方々の尊厳の回復のためにも、Aさんの存在を忘れることなく、一刻も早い「障害に乗じた性犯罪」創設という法整備の実現を望みます。

事務局 鷺原由佳

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