2014年6月25日 (ダイジェスト版) 地方公共団体の障害者職員採用試験調査結果について 障害者欠格条項をなくす会 事務局 Mail: info_restrict@dpi-japan.org 日本は今年、障害者権利条約を批准しました。また、差別の禁止と合理的配慮の提供を主眼とする障害者差別解消法、改正障害者雇用促進法が2016年度からの施行のため、現在、準備が進んでいます。 法制度の障壁の除去に取り組んできた「障害者欠格条項をなくす会」は、この時期に、新しい法律にふさわしい<試験の共通的なありかた>を明らかにするために、2013年度、都道府県・指定都市・中核都市について、試験案内と受験申込書の記述内容を調査しました。 2013年度には、全ての都道府県・指定都市・中核市あわせて109のうち108で、障害者を対象とした職員採用試験(別枠採用試験)が実施されました。しかし、その受験資格には、「自力で通勤できること」「介護者なしに職務の遂行が可能な人」などの制限的なものも多く、点字や音声PCの使用や手話通訳・文字通訳などを提供していない試験も多く、障害者を採用する試験でありながら、実質的には、制限等にかかわる障害のある人は受験もできない状況が続いています。調査結果の概要と、「試験案内のチェックポイント」、「こうあってほしい受験申込書」等の提案を掲載します。 調査報告書(全98頁、PDF)は、会のウェブサイトからもダウンロードできます。 PDF文書、テキストデータ、点字データ(BSE)の形で用意しています。 コメント(調査報告書p2より引用): 「共生社会に向けた公務員採用試験の実施を」 早稲田大学教授 浅倉むつ子 私も参加している内閣府の障害者政策委員会では、さまざまな障害をもつ委員の方々が、多様な機器や補助的手段を自在に活用して、明晰な論理を堂々と展開しています。ここでは、障害をもっていることは社会活動の障壁ではなく、必要な補助や支援がないことが問題なのだと、身をもって知らされます。地方公共団体における公務員採用試験でも、「各種の合理的な配慮をしたうえで、応募者が対象となる職務を遂行できるのかどうか」を公平にみることが重要です。障害をもつ人の応募意欲を阻害せず、それぞれの障害に応じた必要な合理的配慮を提供したうえでの公務員採用試験を実施する義務が、地方公共団体にはあるはずです。今回の調査結果を踏まえて、共生社会にふさわしい公務員採用試験の実施はどうあるべきなのか、具体的な提言を、差別解消法に基づく指針などにも盛り込んで行ければよいと考えています。 障害者欠格条項をなくす会ウェブサイト 調査報告書掲載ページのURL http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/koyou.html 調査の概要 目的 障害者を対象とする地方公共団体の職員採用試験(別枠採用試験)の、受験資格にみられる制限や、合理的配慮の想定について、現状を可視化し、提言すること。 対象 全ての都道府県(47)・指定都市(20)・中核市(42)計109のうち、2013年度は試験を実施しなかった那覇市を除いた、108地方公共団体。試験区分を単位とした調査票数で207となっている。 試験区分とは、「行政事務職」「学校事務職」「薬剤師」などのようにそれぞれ異なる採用試験で、単一の地方公共団体が、障害者を対象にいくつかの区分の試験をおこなっている場合がある。 時期 試験案内の情報を求めたのは2013年の主に8月・9月期で、各地方公共団体の公式ウェブサイト上に、試験案内・受験申込書が揃っていないもの、または、未定で秋期に発表が見込まれたものについては、11月にかけて入手した。 方法と作業日程 2013年の主に8月・9月期に、各地方公共団体の公式ウェブサイトにアクセスし、「障害者/障がい者」「職員採用」の語句で検索に挙がった試験案内と受験申込書の記述を精査する方法をとった。 報告書における数字と%の表記のしかた 特に断っていない場合は、試験区分を単位として述べている。調査票の数を記載し、分母は調査票総数207である。地方公共団体を単位として述べる場合は、その旨を記載している。%の数字は、いずれも、小数部を四捨五入している。 調査結果の概略 受験資格 大部分の地方公共団体で、障害者対象の試験においても、介助なしで職務を遂行できる人、自力で通勤できる人という受験資格を設けていることが明らかになった。活字や音声言語を点訳や通訳者なしに扱える人ということも重視されていることがうかがえる。 試験の184(89%)が、介助なしで職務遂行できる人であることを、148(71%)が、自力(単独)で通勤できる人であることを、受験資格にしている。105(51%)が、活字印刷文による出題に対応できる人であること、27(13%)が、口頭(音声)による面接に対応できる人であることを、受験資格にしている。 合理的配慮の想定 受験申込書は、障害者が受験に必要とする補助や支援の提供について、例示あるいは選択肢をいくつか記載しているものが大半だが、それらの想定も記述もいまだ乏しいことが明らかになった。最多の車イスでも177(86%)、点字試験91(44%)、拡大文字試験87(42%)、音声パソコン13(6%)、手話通訳102(49%)、筆記通訳3(1%)である。 【表1】受験資格で障害者を除外している 受験資格の典型的な記述 自力(単独)で通勤できる人 148(71%) 介助なしで職務遂行できる人 184(89%) 自力通勤・単独職務遂行の受験資格は、障害者関係者の働きかけや地方公共団体の取組を通じて徐々に減少してきているが、現在も147(71%)が「自力通勤」と「介助なし職務遂行」の両方を受験資格に定めていることが明らかになった。 活字印刷文による出題に対応できる人 105(51%) ただし、点字による出題にも対応している場合を除いた計数である 口頭(音声)による面接に対応できる人 27(13%) 【表2】合理的配慮の想定も遅れている 合理的配慮の想定(例示・選択等) 車イス使用  177(86%) 自動車で来場 92 (44%) 車イス使用86%は最多だが、車イス使用の想定もない試験があり、更に「自動車(自家用車)で来場」が半数以下との結果から、採用対象の狭さがうかがえる。 点字試験   91(44%) 点字試験は全国的に実施の歴史が古いが、今なお半数程度が想定していないことが明らかになった。下記の「拡大文字試験」や「手話通訳者」についても同様のことが言える。 拡大文字試験 87(42%) 音声パソコン 13(6%) 広がりつつある。現在は、点字の補助と位置付けているものが多いが、実際は、点字とは区別される固有のニーズが広く存在している。 手話通訳者  102(49%) 筆記通訳者  3(1%) 「筆記通訳者(または要約筆記者)」と明記しているものはわずか3(1%)。「筆談」は41(20%)。 実際上、音声言語に対応できなければならないとされていることが、浮かび上がる結果になった。 受験時の配慮の想定 視覚障害関連 音声パソコン 13 デイジーなど音声機器 3 点字試験 91 点字タイプ 38 点字板・点筆 51 盲人用算盤 3 拡大文字試験 87 拡大読書器 37 ルーペ 102 電気スタンド 59 聴覚言語障害関連 手話通訳 102 コミュニケーション 手話 14 筆記通訳 3 コミュニケーション 筆談 41 試験官発言の文字化 16 座席の位置 7 補聴器 79 コミュニケーション 口話 24 連絡手段 FAX 36 連絡手段 メール 57 肢体障害関連 車イスや椅子 177 自動車での来場 92 駐車場 98 パソコン 46 ワープロ 39 和文タイプ 7 机 21 試験場の車イストイレ 4 試験場のスロープEV等 5 障害横断的なこと 自由記述欄 159 自署の代筆 61 杖 29 文鎮 3 補助犬 13 付添者介助者 11 別室受験 1 試験案内について そのほかの特記事項 担当部局のFAX番号 68 担当部局のメールアドレス 46 点字による試験案内 20 ルビ付きの試験案内 5 変化があったこと 2013年から3県1市が年齢上限を引き上げ、1市が身体検査を廃止した。2県が点字試験を開始、そのうち1県は音声パソコンによる試験も開始した。2009年に当会で実施した都道府県と指定都市の調査と比較すると、制限的な受験資格を新たに追加したところはみられなかった。8県が新たに点字試験を導入して受験資格も変更していた。3県が受験資格から「自力通勤」を削除し、1県が「介護なし職務遂行」を削除していた。今回の調査対象ではなかったが、特例市の明石市は2014年2月実施の試験で、「自力通勤の可否は問わず、勤務にあたっては、適宜必要な支援を行うこととします」と募集ちらしにも明記している。 (受験申込書の実例) 次の各項目について、該当するほうを〇で囲んでください。                   点字での受験を希望 ・する    ・しない 車いすを希望 ・する    ・しない 手話通訳を希望 ・する    ・しない 筆記が困難なためワープロ等の使用を希望 ・する    ・しない 補助具等の持ち込み使用を希望 ・する    ・しない 持ち込み使用を希望するもの ・ルーペ ・電気スタンド ・点字板、点筆 ・点字タイプライター  ・補聴器 ・その他(                ) その他特記事項 まとめと提言(抄) ・受験資格の制限を取り払い、民間に率先垂範した障害者雇用を 公務員採用のあり方は他の雇用にも影響する重要な位置にあり、国・地方公共団体は率先垂範する立場ということからも積極的な取組が求められる。第三次障害者基本計画も、「国の機関や地方公共団体等に対しては、民間企業に率先垂範して障害者雇用を進める立場であることを踏まえ、適切に指導等を行う」と定めている。しかし障害者を対象とする試験においてさえ、「自力通勤勤務、活字印刷文に対応できること、口頭面接に対応できること」などの資格を設けていて、制限等に関わる障害のある人は受験もできない試験が、前頁の【表1】のとおり存在していることがこの調査で明らかになった。前頁の【表2】にあるように、合理的配慮の想定も遅れている。人が本来もっている力を活かせないこの状態は受験を希望する人にとっても、社会全体にとっても大きな損失であり、日本も批准した障害者権利条約、差別解消法、改正雇用促進法の趣旨からも、受験資格等の制限を削除すること、および、合理的配慮を提供していく取組が望まれている。 ・全庁をあげて、人の力の発揮を軸に、採用と配置の想定を 障害がない人によって構成されてきた職務や職場環境を、障害がある人が共に働いていけるものにするには、まず制限的な受験資格や条件を設けるのをやめること、そして、「採用したその人が、どこでどのような仕事をすることが、力の発揮になるか」を共に検討するという発想への転換が欠かせない。そのことを一部の職場だけで考えるのではなく全庁をあげて取り組む基本姿勢が求められている。 ・試験案内・受験申込書について基本から検討し、共通的な基準・モデルをもち、適用すること 現在、次頁のような受験申込書がわりあい使われている。自由記述欄だけがあるもの、何も選ぶことも書くこともできない申込書もある。例示や選択肢の有無にかかわらず、殆どは試験実施者の姿勢を明示していないことに課題がある。 点字試験などをいちはやく導入した個別の資格試験や、大学入試センター試験、そして2005年の「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮(障害者施策推進課長会議決定)」(調査報告書P24から全文掲載)など、各分野の蓄積を吸収し新たな技術や方法も反映した、全国共通的な基準になるものが必要である。差別解消法の対応要領・指針等においても課題に据えて、モデルになるものを提示することが欠かせない。 そこで、今回の調査をふまえて、「試験案内についてのチェックポイント」と、「こうあってほしい受験込書」を提案している。 試験案内についてのチェックポイント □ 担当部局の連絡先を、FAXやメールアドレスも含めて、わかりやすく掲載していますか? □ 試験案内(および受験申込書)を、紙、PDFデータ、点字などのほかに、テキストデータでもダウンロードできるようにしていますか? □ 地方公共団体として障害者雇用に取り組む方針や姿勢について、記述していますか? □ 受験資格に、障害のある人が受験をためらったり、必要なことがあっても申請しにくいような条項を、設けていませんか? □ 特別の理由がなく、身体検査や体力検査を設けていませんか? □ 受験資格以外の部分に、障害のある人を阻むような記述を入れていませんか? □ 障害者対象の試験に限って、本人が申込書を窓口に持参することを義務づけていませんか? □ 理由を示さずに、または特別の理由がなく、一定の障害状況の人に対しては、受験申込書を提出するよりも前に、担当部局に連絡するように求めていませんか? □ 受験申込書等の提出書類への記入について、自筆または自署を必須としていませんか? □ 受験の際に使用する補助機器等について、手帳等級の条件や、日常生活用具としてそれらの機器を支給されている受験者に限るといった条件をつけていませんか? □ 自動車でなければ試験会場に来場できない障害状況の人を考慮した会場の選定および駐車場所について載せていますか? □ 試験会場について、車イスで使えるトイレやスロープ、エレベーターなどのアクセシビリティに関する情報を載せていますか? こうあってほしい受験申込書(案) (まえがき) 障害や病気があり何らかのニーズをもつ人が実質的に平等に受験できるようにするために、事前の連絡調整を円滑に進める目的の用紙です。必要に応じてお申込み下さい。その趣旨から当然のことですが、申込による不利益取扱いを行わないことを申し添えます。 この申込書に障害者手帳の写し又は医師の診断書等を添付して下さい。障害や病気が特にない人の申請を避けるため、現状においては必要な手続きとしてご了解下さい。 項目1.選択肢のなかに必要なものがあれば、その番号を枠内に記入してください。 器具や機器を選択した場合は、それは受験者が持参できるものかどうかを記載してください。 番号,持参は○を記入,特記することがあれば 項目2.選択肢に記載のあること以外に、希望することがあれば、具体的に記入してください。 項目3.項目2に記入されたことが必要な理由について、補足することがあれば記入してください。 項目4.試験実施者と詳しく相談調整したいことや、確認したい点があれば、記入してください。 項目5.受験者の氏名・連絡先など (障害との関係でFAX又はメールによる連絡を希望される場合には、FAX番号又はメールアドレスを記入してください。) 氏名・(ふりがな) 現住所 〒 電話 FAX メール 記入にあたって (項目1の記入例) 3,〇,音声PCを持参します。使用ソフトウェア、OS等の詳細について別途お伝えします。 4,,文字の大きさについて36ポイントを希望します。 5,,数字をマルで囲んで解答記入する方法を希望します。 17,,個別面接および集団面接にて、その場で話されている言葉をできるかぎりそのまま正確に伝える文字通訳を希望します。 選択肢(複数選択可) 1、試験方法を口頭試問・口述回答に変更 ※ 2、点字による出題と解答 ※ 3、音声PCで問題読解と解答 ※ 4、拡大問題用紙・拡大解答用紙 5、マークシートに代わる解答用紙 6、拡大読書器、ルーペ等 7、照明器具 8、点字機器 9、PCやワープロで解答記入 ※ 10、口述代筆者(手書き解答が必須の試験について) 11、車いすで使える高さがある机 12、自家用車での来場および駐車場 13、車いす、杖 14、介助者・援助者の同伴 15、補助犬の同伴 16、手話通訳者 17、文字通訳者 18、補聴機器 19、音声を使用した検査やリスニング試験の代替法 20、注意事項等の文字による伝達(板書・プリント配布) 21、試験時間中の糖質類等の捕飲食及び服薬等 ※ 22、別室においての受験 ※印は、あらかじめ別室受験が想定されるものです。 お問いあわせは下記まで 〇〇〇市〇〇部〇〇課〇〇〇〇係 電話番号    : ファックス番号 : メールアドレス : 下記の改正法および新法が2016年度から施行される予定です。 職員採用のありかたを含めてこれに則った政策運営をおこなっていきます。 障害者雇用促進法(改正) (障害者に対する差別の禁止)第34条、35条、(雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会の確保等を図るための措置)第36条、(雇用に関する国及び地方公共団体の義務)第38条 ほか 障害者差別解消法(新法) (社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備)第5条、(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)第7条 ほか。 このテキストは以上です。