障害者権利条約第1回日本政府報告(日本語仮訳)に関する意見


2016年2月13日
障害者欠格条項をなくす会
意見1 条約第4条(一般的義務) 関連: 条約第2条(合理的配慮)
条約第4条には「障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む)をとること」「この条約に合致しないいかなる行為又は慣行をも差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの条約に従い行動することを確保すること」と記述されている。障害者欠格条項の見直しなど政府としても取り組んできたことだが、現在も、条約第4条に合致しない既存の法律、規則、慣習、慣行が存在していることが、課題として書かれなければならない。
理由
日本には、障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習、慣行が、広範囲に現存している。法律や規則の欠格条項、権利制限、慣習的に定められている資格要件などである。これらは明文化されているものであり、それゆえ、障害者の進路を阻み人生を左右する影響力が絶大である。制度的障壁を公の当局及び機関が自ら除去することは、障害者基本法、障害者差別解消法に言う「社会的障壁」の除去において不可欠のことである。そして、制度の障壁を除去するにあたり、政府としては1990年代から本件に取り組んできたものの、現在も課題があることを明記して、政府の現状認識を明らかにすることが重要である。にもかかわず、条約第4条に関して法制度の障壁の記述が一切なされていない。
すなわち、本報告案は、本件についての従来の政府の取組を示していないだけでなく、現在も存在する課題について記述しておらず、日本政府報告としてきわめて不誠実かつ不適切だと言わざるをえない。
なお、障害者基本計画において、「9 行政サービス等における配慮(4)国家資格に関する配慮等」で「いわゆる欠格条項について、各制度の趣旨も踏まえ、技術の進展、社会情勢の変化等の必要に応じた見直しを検討する」とされており(障害者差別解消法基本方針もほぼ同文記載)、内閣府障害者政策委員会においても議論されたことは添付の「議論の整理」にはあるものの、本報告案本文には一切記述されていない点は不自然かつ不適切である。
また、条約第2条(定義)の「合理的配慮」を的確におこなえる環境にしていくためにも、欠格条項などの法制度の障壁を除去することが、不可欠の課題である。法制度が受験や免許交付の障壁となっているために、障害者が合理的配慮を得ながら平等に学び働き暮らすための環境の整備が、その「入口」で阻まれているという現状がある。公職、公務で障害のある人が障害のない人と共に働くことは、共生社会づくりの一環として重要なことである。
しかし現状は、公務員法の成年被後見人・被保佐人に対する欠格条項のために、受験もできず、失職した人もいる。一方、公務員試験においては、障害者対象の職員採用試験でさえ、いまだに中核市以上の自治体の大半で、「単独で通勤し介助者なしに職務を遂行できること」「活字印刷文に対応できること」などの受験資格が設けられている。このように制度の障壁が遍在していることによって、通勤や通学の人的支援制度の整備や、合理的配慮の提供の促進も阻害されている。
意見2 条約29条 政治的及び公的活動への参加  関連:条約12条 法律の前に等しく認められる権利
#182にあるとおり、成年被後見人の参政権は回復されたが、成年後見制度に連動する欠格条項は公務員法の成年被後見人・被保佐人欠格など他にもあり大きな問題として提起されていることを受けて、課題として書かれなければならない。
理由
成年後見選挙権裁判を背景に公職選挙法の成年被後見人の参政権は回復されるにいたったが、このほかにも成年後見制度に連動する欠格条項は多数あり、公的な職務、たとえば法人の理事等にも就任できず、公務員試験の受験もできず、公務で働く障害者が後見人や保佐人を利用すると失職する。特に公務員法の欠格条項の問題は2015年から裁判でも提起されているところである(補足参照)。#183は「障害者の公務の遂行について、・・(中略)全ての国民が差別されてはならない旨規定している」と述べているが、実際には法制度において明白に差別している。条約12条とも関連する問題として、成年後見制度それ自体の根本からの見直しと併せて、成年後見制度と連動した各法律の欠格条項が削除されなければならない。
(補足) 2015年7月、大阪府吹田市に対して、同市の職員として働いてきた塩田さん(知的障害)が、大阪地裁に提訴。塩田さんは、唯一の親族であった父の他界を機に成年後見制度を利用し、保佐の審判を受けたところ、吹田市は地方公務員法の成年後見制度にかかわる欠格条項を理由に、塩田さんを失職させた。裁判では、同欠格条項は法の下の平等などを定めた憲法に違反するとして、職員としての地位確認と損害賠償を求めている。
意見3 条約第31条 統計及び資料の収集
#207に「障害者基本計画に基づき、具体的な達成目標を設定し、数値等に基づき取組の実施状況及びその効果を把握、評価している。(部分引用)」とあるが、障害者基本計画で「見直しを検討する」と述べられている欠格条項について、何をどのように見直していくかの基礎となる現状の調査は、政府の手では殆どおこなわれていない。欠格条項をはじめとした法制度の障壁の現状の把握が課題として書かれる必要がある。
理由
内閣府障害者政策委員会の参考人意見においても、「量的なアンケート調査だけではなく、たとえば既存の法制度で障壁になっているものがどのくらいあるのかなど、現状を把握するための調査がぜひされるべき」と述べられ、委員からも同様の意見があった。(2015年7月10日 第23回会議)。制度的障壁の現状についての調査を行うことが必要である。そして、2001年に一括法改正があった欠格条項見直し以降、見直し当時の63制度に該当した国家資格試験等において、受験者数、免許交付者数、その内訳などが明らかにされていないが、これらを明らかにすることは日本における変化の指標であり、課題の明確化の一環である。民間に率先垂範するうえでも政府自ら実施しなければならない。


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