「新しい『障害者基本計画』の策定に関する意見」


2002年11月28日

新しい「障害者基本計画」の策定に関する意見

障害者欠格条項をなくす会(代表 牧口一二・大熊由紀子)
事務局連絡先
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DPI障害者権利擁護センター気付
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 当会は、DPI(障害者インターナショナル)世界会議・札幌大会にポスタープレゼンテーションで参加、アジア太平洋、アフリカはじめ世界の人々と交流しました。既に40か国以上が差別禁止法・人権法制を制定、さらに障害者権利条約の制定にむけて各分野の人々が努力しています。国連「完全参加と平等」提唱から20年、欠格条項に象徴的なように「排除または部分参加と不平等」がまだ当然とされている日本の遅れは、誰の目にも明らかでした。

 障害者の社会参加を阻む法制度のバリア=欠格条項の見直しは、1999年前後からようやく、広範囲な議論と一定の見直しが行われてきましたが、法制度の障壁はまだ多くが残されています。新道路交通法制のように、欠格条項見直しの名のもとに制限を強化したものさえあります。
 ここまでの経過をふまえ、歴史的に深く根をはってきた欠格条項の廃止のため、省庁まかせにしない政府としての包括的方針をもち、かつ中枢機能をもってバリア除去作業を統括することが必要です。相対的欠格となったものは5年後には廃止するなどの具体的目標のもとで方針計画が必要です。
 バリア除去作業を継続することと同時に、必要な支援の提供、困難と思い込まれてきたことを可能にする環境づくりが急務です。
 新障害者基本計画の策定推進について、法制度のバリアフリーをテーマとした「障害者施策推進本部検討チーム」の設置、「新しい障害者基本計画に関する懇談会」にも全く含まれていない知的・精神障害者を、レギュラー委員に加えることをはじめとして障害当事者の参画、情報公開を、1月内閣府パブリックコメント、6月の内閣府政策統括官との話し合いにおいても、当会として要請してきたところです。

 1981年の国際障害者年、1995年の障害者プラン「ノーマライゼーション7か年戦略」以降も、入所施設や社会的入院者の病床は年々増加、やむなく施設や病院に身をおかなければならない状況は、「ノーマライゼーション」が日本ではお題目になっていることを表しています。地域社会でふつうの市民としての生活に移行していけるように、「脱施設」を明記し、少なくとも数値目標に入所施設の項目は設けないことを求めます。病院においては精神科特例を廃止し、地域社会で生活しながら安心して受療できる質量を確保していくことが重要です。

 住宅は基本的人権の問題であり、高齢者や身体障害者ばかりでなく、知的・精神障害者も、障害ゆえに住宅の確保に困窮していることをふまえて、公営住宅の単身入居を認めること、単身入居枠の設置を数値目標に盛り込むこと、残されている障害者欠格条項の削除を求めます。

 子どもの時から分け隔てしておきながらの「共生社会」はありえません。
 分離教育は差別偏見の温床となり、障害者には中高等教育を受けるにも圧倒的な不利をもたらしています。
 第一に分離教育をやめること、障害や病気がある人が入学や受験で排除されずに、共に教育を受けられるようにすること、教育において必要なサポートを得られるようにすることを、目標に明記すべきです。

 「IT技術」についても、またほかの分野についても同様ですが、障害者は消費者としてばかりでなく、老若男女だれでもが安全に快適にわかりやすく使えるユニバーサルデザインの、その企画開発者として極めて大きな可能性をもっています。可能性を開花させるには、統合的な環境のもとで、高等教育、雇用に至る条件が不可欠です。

 雇用就労においても、障害者は特別な場に分離されてきました。新障害者基本計画は、ふつう一般の職場で、個々人がその適性を発揮し、あらゆる分野の仕事に従事していける目標を明記すべきです。
 困難とみなされてきた人々も、適切な支援があれば実際に一般の職場で働くことができています。欠格条項の見直しは"一人で全てできなければならない"という旧来の考え方を、"業務の本質的部分を、補助者・補助的手段も活用してできるし、できるように環境を変えていく"ものへと転換することを伴ってきました。それは医師法など一連の法制度改定にも反映されてきたところです。
 必要な支援を得ながら働けるように、雇用支援の人材養成派遣拠点としての就業生活支援センター展開、ジョブコーチの質量の確保、授産施設等から一般雇用への積極的な移行策について、政策と数値目標をもつべきです。
 雇用促進法は「除外率」「除外職員制度」の欠格条項を内包しており、その廃止は急務です。信頼と雇用の前進のために、雇用率等の情報が公開される必要があります。
 試験や検査が欠格条項にかわるものにならないようにすることも重点課題です。内閣府は「障害者に係る欠格条項見直しに伴う教育、就業環境等の整備について」の申し合わせをしていますが、公務採用という自らの足元から早急に改めるべきです。公務員試験には「自力通勤、介護者なしの職務遂行」「活字印刷文対応」「口頭面接試験対応」などの受験資格で実質上障害者を締め出しているものが多数存在しています。受験資格の障害者欠格条項を撤廃、手話・要約筆記・点字・機器の使用・会場アクセスなど、必要な配慮を受験者があらかじめ申し込める形にすることが必要です。
 障害者の不合理な低賃金を容認してきた最低賃金法適用除外制度を見直して、地域社会で働き暮らすことができる所得保障のあり方を構築する必要があります。

 障害は人の属性の一部で、障害がある人は当然ながらひとりの人間です。障害や病気があるままで人として尊重され、個人として社会生活を営むのに必要なサポートを権利として受けられる、成熟した社会の質が全世界の流れとして求められています。
 障害や病気の部分にのみ焦点をあてた、生まれてこないほうが良かった存在、この世には居ないほうがよい存在、としての扱いは、最大の欠格条項です。障害や病気があるのは人間がいきものである証拠です。
 現在国会で審議が行われている『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案』の本質は、合理性のない「将来の再犯予測」にもとづく予防的隔離拘禁=保安処分です。「心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者」を閉じ込めることで重大な事件が無くなる(少なくなる)という発想の法制度は、重大な人権侵害であり、社会の差別偏見を拡大します。同法案の廃案と、地域社会で共に安心して生活できる国づくりを訴えるものです。

以上


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