建設省と、公営住宅単身入居制限問題で緊急交渉


2000年7月5日
建設大臣 扇 千景 様
障害者欠格条項をなくす会
共同代表 牧口 一二・大熊 由紀子

DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 山田 昭義

全国自立生活センター協議会(JIL)
代表 樋口 恵子

重度障害者の公営住宅単身入居に関する除外規定の撤廃を求める要望書

 障害者欠格条項をなくす会は、障害種別・立場をこえて、障害を理由とした欠格条項(資格制限)撤廃を目的に、昨年5月に結成した全国組織です。現在進行中の「欠格条項見直し−法改正」に、障害者自身の体験・智恵、海外の先例などを反映させるよう、取り組んでいます。
 DPI(障害者インターナショナル)は、障害者の完全参加と平等、人権確立を目指して活動している国際組織で、国連経済社会理事会、WHO、ILOなどの国連諸機関での諮問団体として位置づけられており、国連総会のオブザーバー資格を有してる団体としてさまざまな活動を展開しております。
 DPI日本会議では、「誰もが利用できる交通機関を求める全国交通行動」を呼びかけ、毎年全国30ヶ所のべ3000人を超える、文字どおりの大行動を作り出してきました。この行動は、鉄道駅舎のエレベーター整備指針策定やノンステップバスの運行、路線バス付き添い乗車通達の見直しなど、交通機関のアクセス改善の気運を高め、このたびの「交通バリアフリー法」制定に際し大きな影響をもたらしました。また、まちづくりの分野でも、全国各地で「福祉のまちづくり条例」制定運動に取り組んでいます。
 全国自立生活センター協議会は、介助を必要とする人たちも、親元という庇護の場でなく、施設という管理された場でもなく、自分の選んだ地域で生活できるよう支援している自立生活センターが集まってつくっている組織です。全国で90 ヶ所が加盟しています。自立生活プログラム、介助者派遣サービス、ピア・カウンセリング、移送介助などのサービス提供と権利擁護などの活動を、障害当事者の立場から行っています。

 昨年8月、「障害者に係る欠格条項の見直しについて」(以下、対処方針)が総理府障害者施策推進本部決定として打ち出されて以降、各関係省庁では対処方針にそっての見直しが行われることになっています。
 昨年7月に障害者欠格条項をなくす会、DPI日本会議連名で貴省に対して要望書を提出し、重度障害者の公営住宅単身入居に関する除外規定(公営住宅法施行令6条「身体又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とする者で、その公営住宅への入居がその者の実情に照らして適当でないと認められる者は、単身で公営住宅に入居することができない」)についての話し合いを持ちましたが、その後、具体的な検討状況が明らかになっていませんでした。

 本年6月1日、総理府から「障害者に係る欠格条項の見直しの進捗状況について」が公表され、「公的施設の利用制限」に係る欠格条項の問題として見直しの対象になっている同「除外規定」の現時点での検討結果が明らかにされました。その結果は、「見直しの方向」として「障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正」と「その他の対処方向」が挙げられていますが、見直し終了の目途が「平成12年度前半」となっています。
 この度、この「要望書」を共同で提出する私たち3団体としては、同「除外規定」に関する検討内容が充分明らかにされないまま、非常に短期の「見直し終了」とされていることについて、到底納得することができません。

 多くの重度障害者が「地域で暮らす」という人間として当たり前の権利を奪われたままであることは人権上も看過し難く、改めて同「除外規定」について、私たちの見解を表明し、同「除外規定」の撤廃を再度強く要望する次第です。

【撤廃すべき理由】

1.同「除外規定」及びその運用が現状に適合していません。

 同「除外規定」の存在と運用は、民家で介助者をつけ単身生活を送っていたにもかかわらず手帳の等級が一級であることを理由に公営住宅入居を拒否された事例からも明らかなように、結局は手帳の等級、介護必要度をもって除外していることを示しています。本人の「必要な介助を受け環境の工夫をおこなうことで自立生活が可能」という申請は無視されており、明白な法制度による差別です。同時に、24時間介護のサービスを実施してきている自治体の取り組みを否定することでもあります。「障害者プラン」の理念をふまえ、官庁間のくいちがいを早急に解決すべきであると考えます。
 この「除外規定」が設けられた1980年頃には、介護が必要な障害者が地域で生活するのに必要な制度は皆無でした。しかし現在は24時間介護を制度化している自治体、市町村もあり、常時介護が必要であっても単身で居住することが明確に可能な状況が作られつつあります。にもかかわらず、貴省があくまで全国一律に適用される同「除外規定」の存続に固執し、最終的な判定の責任を厚生省及び各自治体の福祉事務所にゆだねていることは、先進的な地方自治体・市町村が施行している介護制度を不十分なものとされてのことでしょうか。
 貴省が介護を必要としている障害者の地域での生活を保障している自治体・市町村の制度を認めておられるならば、公営住宅入居にあたっては、本人に対して必要な介護制度を利用しているかどうかを確認すれば十分であり、同「除外規定」によって全国一律に排除することにつながる状況は、早急になくしていくべきであると考えます。また、24時間介護を制度化していない自治体・市町村に対しては、その導入こそを働きかけるべきであり、同「除外規定」が後進の自治体・市町村によって介護制度の不備を隠蔽する道具として利用されていることは嘆かわしいと言わざるを得ません。
 現状における同「除外規定」の運用の仕方は、自立生活概念の変化を考慮しない旧態依然たるもので、障害者の自立生活を阻害していることは明らかです。
 自立した生活が可能かどうかの判定に使われている『自活状況申立書』は、本人の身辺自立しか考慮しておらず、介護者を使っての自立を判定に含めていません。しかしながら現在、国際的には「自立生活とは、自分の生活を自分でコントロールすること」との解釈が一般的となりつつあり、身体機能のみに着目した自立の判定はむしろ退けらる方向にあります。本人の身辺自立にのみ着目した「自立」解釈は、高齢者を含め他者による介護を必要としながら「自立生活」をしていこうとする人々を押さえつけ、結果として福祉制度改革の精神を裏切る施策となってしまうことにつながります。
 貴省が率先して、介助者を使っての自立も「自立生活である」との判断を、公営住宅の入居判定をしている自治体・市町村に対して示されるよう、切望するところです。

2.同「除外規定」そのものが差別的、人権侵害的であり、同「除外規定」を設ける理由が明らかでないことは、同「除外規定」が不必要であることを示しています。国民には等しく政府が提供するサービスを享受する権利があり、同「除外規定」は、「常時介護を必要とする者」から公営住宅に入居する権利を奪っているといえます。

 人権を侵害してまで設けられたということは、他者への危険や迷惑となるような事件が起きる可能性が大でなければならないはずですが、しかしながら、同「除外規定」のこれまでの運用の仕方によれば当然入居できなかったであろう障害者が多数、民間の住宅で全く何のトラブルもなく長年にわたって隣り近所と暮らしています。また同「除外規定」の運用も自治体・市町村によってあきらかに違いがあり、介護が必要な障害者が公営住宅で暮らしている事例も少なくありません。その場合も重大な問題は何も発生していません。
 むしろ、見直しの対処方針で提起されている「補助的手段の可能性の検討」は、当事者と支援者の地道な協同の取り組みによって、介助者(補助者)の支援態勢は実現されているという事実を、見直し作業において積極的に位置づけるべきであると考えます。

3.隔離されず単身で居住する権利を介護が必要な人にも認めることが必要です。

 介護が必要な障害者は「施設」へという施策がありますが、社会から隔離された場所に集団で居住するという形態は、次の理由で問題があります。

 a 社会参加の観点からみて明らかにマイナス
 仕事、学習、社会参加の機会を制限され、よって地域で自立するための準備もできず、一生同じ状態を甘受しなければならない(いわゆる飼い殺し状態)。

 b 社会の偏見を助長する
 地域の中で人間対人間のつきあいをする機会がなくなるため、一般の人は出会えないゆえの障害者への偏見を増幅させることになり、地域で暮らせる制度が整備されるまでの暫定的、移行的施策としては許容できますが、永久的な施策としてこれを推進することは人権的、社会的見地から許せないものです。

 親元や施設から出て地域で自立生活を送ろうとする障害者が、自立生活に移行するにあたってまずぶつかる壁は、居住の場の確保が困難なことです。そのような状況にあって公営住宅の役割はたいへん重要であり、「必要な介助を受け住宅環境の工夫をして自立生活が可能」等の用件を満たす人を率先して受け入れることは、住宅困窮者の居住をすすめる趣旨にかなうものです。ところが、単身入居制限が「肉親が健在なら同居を」「介護が必要な障害者は施設へ行くのが適当」という見方を背後にもって制定運用されています。これは公営住宅の趣旨に反し、「居住の自由」を否定する、重大な人権侵害です。

 障害者の多くは明らかに住宅困窮者、低所得者です。要件を満たしている人々の中から本人に何の落ち度もないのに、明らかでない理由により公的機関が差別的な扱いを行うことは不当であります。

 貴省の姿勢は、障害者の自立生活、社会参加に理解のある自治体・市町村の意気にブレーキをかけ、差別的な自治体・市町村の施策を助長する恐れのあるものだと言わざるを得ません。

 以上の見解に基づき、改めて同「除外規定」の撤廃について、ご検討下さるよう要望致します。


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