公務員の欠格条項と成年後見制度


成年後見制度利用で失職!  吹田市に対する裁判は今
吹田市塩田訴訟弁護団
■裁判の紹介
 以前に報告させていただいたとおり、大阪府吹田市で地方公務員として働いてきた塩田和人さんは現在50歳、知的障害や自閉症のある方です。成年後見制度のひとつである保佐の審判を受け、そのことを理由に地方公務員法の欠格条項に抵触するとして公務員の職を失いました。  このことについて、塩田さんは、吹田市を被告として裁判を起こしています。裁判上、地位確認請求、未払賃金請求、国家賠償などを求めています。
 2015年10月5日に開かれた第1回弁論期日では、塩田さんご本人が法廷で意見を述べる手続(原告意見陳述)が行われ、塩田さんは、「裁判で、みんなが集まってくれて、嬉しかったです。みんなで一緒に頑張りたいです。私は、吹田市に戻りたいです。職員厚生会で もう一度働きたいです。」と強く語りました。
 他方、被告吹田市は、原告の請求を全面的に棄却することを求めています。第2回弁論期日(同年12月21日に第2回弁論期日が開かれました)以降は、吹田市側に新たに「指定代理人」(国を相手とする裁判などでよく登場します)も就き、吹田市の主張を後押ししています。
 この裁判は、多くの方々に支援をしていただいています。毎回、車いす利用者も含めて法廷に入りきらないほど大人数が傍聴に駆けつけて下さっています。裁判所に対して、大法廷で期日を開いて欲しいという署名活動も行っています。ですが、裁判所は、いつまでたっても、大法廷で期日を開いてくれる気配がありません(非常に残念です)。
■支援集会
 2015年7月25日、裁判を起こしたことをきっかけに、支援集会を行いました。この集会では、弁護団報告、塩田さん掛け合いトーク、「欠格条項と差別解消法」と題して東俊裕弁護士による特別講演、7月24日提訴時の動画上映等を行いました。
 また、同年9月23日、吹田市のメイシアターにて、大きな集会を行いました。弁護団報告、塩田さん掛け合いトーク、全国からの報告、「障害者権利条約と欠格条項」と題して東俊裕弁護士による基調講演が行われました。障害者欠格条項をなくす会から臼井久実子さんにもご参加いただきました。
 さらに、今年2016年3月5日、吹田市の夢つながり未来館にて支援集会を行いました。集会では、「吹田市職員自動失職違憲訴訟の意義―憲法学の立場から」と題して、竹中勲教授(同志社大学法科大学院)による基調講演が行われました。竹中教授から、憲法論からみたこの裁判の解説が行われ、参加者は真剣に聞き入っていました。また、塩田さんの幼いころからの写真紹介を交えながら、生活風景&インタビューも行われました。さらに、塩田さんを長年知る人たちがパネリストとなり、「裁判の意義・思い」と題してパネルディスカッションも行われました。
 支援集会の回を重ねるごとに、塩田さんの人柄が広く知られるようになり、また、支援者間の絆も強まり、事件に関する理解も深まっていきます。支援集会は、とても大切な場になっています。

■障害者雇用促進法の改正
 障害者雇用促進法は、障害者の権利に関する条約の批准に向けて、改正されました(今年4月1日施行)。
 主な改正点として、(1)雇用の分野における障害を理由とする差別的取扱いを禁止すること、(2)障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供)が事業者の法的義務となることが挙げられますが、これらの点はこの裁判とも関連するところです。
■明石市の条例
 このような流れの中、兵庫県明石市は、今年4月、地方公務員法の「欠格条項」に該当する被後見人・被保佐人を同市の職員として採用できることにする条例を施行することになりました。
 地方公務員法第16条(欠格条項)は、「次の各号の一に該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。」と定めており、その第1号が「成年被後見人又は被保佐人」となっています。明石市は、この欠格条項の例外である「条例で定める場合を除く」に関して、「条例で定める」ことにしたものです。この条例制定により、明石市は、成年被後見人・被保佐人を同市の職員として採用することができ、また、既に同市の職員として採用されていた人が成年被後見人・被保佐人となった場合にも失職する事態も生じなくなります。
 この条例は、成年後見制度が本人を支援する制度であるという制定時に言われていた趣旨に沿うものであり、極めてまっとうなものと言えます。地方公務員法第16条1号に該当する事態に関する発想はこれまで乏しかったと思われますが、塩田さんが吹田市で働いていたときにも、条例という手段も含めて、塩田さんが保佐の審判を受けても働き続けられるような仕組みが考えられたはずです。吹田市は、そのような条例も作らず、漫然と、塩田さんを失職させました。今回の明石市の条例制定をきっかけに、他の地方自治体でも同様の条例が制定されることが予想されます。今後は、このような条例が、塩田さんの裁判に対して、どのような影響を与えるのか与えないのか、注目されるところです。
■まとめ
 成年後見制度を利用しようが利用しまいが、その人はその人であることに変わりはありません。地方公務員法が働く権利を差別的に取り扱うものであって違憲・違法なことはもちろんですが、かりに直ちに法律の改廃ができない場合には、条例の制定も含めて障害のある人が働く権利を保障するべきです。
 原告側としては、今後の裁判で、憲法違反の主張を具体化していく予定です。吹田市の公務員法欠格条項違憲訴訟について、みなさま引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。
(文責 吹田市塩田訴訟弁護団)
裁判の経過と予定
2015年7月24日 大阪地方裁判所に提訴(原告:塩田和人、被告:吹田市)
2015年10月5日 第1回口頭弁論期日
2015年12月21日 第2回口頭弁論期日
2016年4月11日 第3回口頭弁論期日(予定) 午後2時、大阪地方裁判所809号法廷
皆さまぜひ傍聴にお越しください !

「塩田さんの吹田市復職と欠格条項訴訟を応援する会」ウェブサイトがあります。 https://shiotaouen.amebaownd.com/

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(初出)障害者欠格条項をなくす会ニュースレター66号(2016年3月下旬発行)


【資料】明石市の条例について
2016年3月議会 議案第4号関連資料
2016年3月18日 原案通り可決成立

明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する条例(案)の概要

1 制定理由
 先般、国においては、成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の改正法が成立し、成年被後見人が、選挙権・被選挙権を有することになりました。
 一方、本市では、障がい者差別の解消に向けた施策の一環として、「手話言語・障害者コミュニケーション条例」に加え、本年4月から「明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例」の制定を予定するとともに、障がい者採用試 験を実施するなど、障がい者施策・事業の積極的かつ効果的な取り組みを進めているところです。
 ついては、成年後見制度の利用にかかる社会状況の変化や、本市の障がい者施策・事業にかかる条例制定の趣旨及び障がい者の雇用促進等への取り組みを踏まえ、成年被後見人又は被保佐人の採用等については、条例で定めることができることから、このたび、職員の任用基準に関する新たな条例を制定するものです。

2 条例内容
 障がい者の自立と社会参加のさらなる促進を図るため、地方公務員法(以下「法」という。)の規定に基づき、職員の任用基準について、次のとおり規定するものです。
(1)職員となる機会について(第2条) 任命権者は、法第16条第1号(成年被後見人又は被保佐人)に該当する者を、職員として採用することができるものとします。

(2)職員としての地位について(第3条) 職員が法第16条第1号(成年被後見人又は被保佐人)に該当するに至った場合であっても、当該職員は失職しないものとします。

3 施行期日
平成28年4月1日

(参考)地方公務員法(抜粋)の規定について
・第16条 次の各号の一に該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
第1号 成年被後見人又は被保佐人
・第28条第4項 職員は、第16条各号の一に該当するに至ったときは、条例に特 別の定がある場合を除く外、その職を失う。

(補足)議案第 5 号「明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例」も同日、原案通り可決成立しました。


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