エッセイ


エッセイ5
権利擁護コーディネーターとして
小林信子(こばやし・のぶこ)
(東京精神医療人権センターコーディネーター)
精神医療人権センター活動と欠格条項問題
 私は「東京精神医療人権センター」という団体で、精神障害者の権利擁護者として働いています。私達の活動は、法の実際の運用に対して裁判や行政への申し立てを通して権利擁護をしていく「法的アドボカシー」を基にしています。
 この「センター」が設立された1980年代の半ばに、精神障害者の人権保障活動に関連して、露骨な精神障害者差別の自治体条例や法律、規則などの欠格条項が、弁護士、医療関係者、ユーザー達の手によって明るみに出されました。それまで系統だった情報を知らなかったので私は驚くばかりでした。でもこの問題に積極的に取り組むことはしてこず、相談があった実務的なことの対応で終わっていました。例えば、運転免許を取り上げられそうになった人に代理人をつけて防衛した事例がありました。精神障害者は運転免許が絶対欠格条項になっていますが、周囲の患者さんでも免許を持っている人がたくさんいて、そのことで交通事故が起きたという話も聞きません。職業差別とはいっても、当時は多くの患者さんは精神病院に閉じこめられており、ともかく退院することが先で、「センター」は仕事等への目配りは残念ながらしてきませんでした。
 最近では、医療にかかりながら生活する精神障害者も、仕事や資格の獲得にとても意欲的になっています。欠格条項の存在は脅威になっていて、まだ数はすごく少ないのですが、ポツポツ相談が来ています。この間、障害者自身のエンパワーメントは目覚ましく、今回の「なくす会」の結成と働きはその実力を改めて私に教えてくれました。

後藤久美さんのこと
 薬剤師になりたいと強い意志をもって薬科大学を受け、理解ある大学で学び、卒業して国家試験もパスしたのに、厚生省が免許を与えないという。後藤さんの例を通して現実の欠格条項差別が私の目の前に突きつけられました。改めて、国家とは残酷な事をする機関だと痛感しました。
 私個人も薬剤師なのですが、後藤さんのような目的意識を持った人が薬剤師にそう多くはないことは確かです。彼女が薬剤師として働けない事は医療界にとっても大きな損失だということを、厚生省はわからないのでしょうか。聴覚障害者外来を開設している藤田医師のような例がすでにありますが、医療者がすべて健常者であることが障害者にとってかえって不都合が生じることもあるというイマジネーションを、官僚に要求することは無理なのでしょうか。
 日本薬剤師会が声明をだしたことは、大いに評価すべきことでしょう。
 後藤さんのような人が医療現場にいけば、独善的な傾向を持つ医療者に対して、異なった人と一緒に働く経験を得られるわけですから、その存在だけでもとても‘教育的’だと思っています。後藤さん、時間がかかっても、薬剤師として患者さんとコミュニケーションをとりながら働くという初心をぜひ貫いて下さい、後ろから応援しますから。

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初出 「障害者欠格条項をなくす会ニュースレター」7号 2000年6月発行
早瀬久美さん(旧姓 後藤久美さん)は2001年7月、薬剤師法の改正施行と同時に免許を交付された。


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