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2003年6月11日
障害者施策推進本部
本部長 小 泉 純一郎 殿
関係省庁 大 臣 殿
障害者権利条約に関する第1回特別委員会
傍聴団 代表 兒 玉 明 (公印略)
『日本政府の見解』に対する意見
1.「総論」について
2.「各論(1)目的」について
3.「各論(2)盛り込むべき原則」について
4.「各論(3)範囲」について
5.「各論(4)定義」について
6.「各論(5)要素」について
7.「各論(6)モニタリングと評価」について
8.「各論(7)留意点」について
「日本政府の見解」はこちら
平素より障害者施策の増進にご尽力されていることに敬意を表します。
本年3月、障害者権利条約に関する「日本政府の見解」(以下、「政府見解」と略)が国連本部に送付されました。
障害者権利条約については、改めて言うまでもなく、まずは国連総会での採択が前提となり、その後の加盟国の国会での批准をもって効力を発することになります。障害者権利条約が批准し発効することとなると、憲法と一般法律の間に位置することになり、一般法律が条約との整合性を問われることになるなど、強力な法的拘束力を発揮することになります。
既存の6大人権条約(自由権規約、社会権規約、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する国際条約、あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約、児童の権利に関する条約、拷問等禁止条約)を障害者の権利保障に積極的に活用していくことは当然のことです。しかし、既存の6大人権条約の中では、子どもの権利に関する条約の一部のみに、障害または障害児に関する記述がみられるだけにとどまっています。こうした現状においては、世界中で6億人いると言われている障害者の状況が、経済的に先進国と言われている国でも、発展途上国と言われている国でも、その国の社会システムから排除されることにより、市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的な分野において差別を受け、その国民であれば享受出来るであろうところの平均レベル以下の生活を強いられている状況を変えていくことにはどうしても限界があり、今日、障害者権利条約を求める声が広範に高まっています。
障害者権利条約の策定に向けて、「アジアからの追い風を」をいかにして起こしていくか、私たちは、アジア・太平洋地域の関係者と手を携えながら、わが国の関係者も積極的に貢献していかなければならないと考えています。
前回(5月28日)の協議の趣旨を踏まえ、日本政府と障害当事者のNGOと障害関係者のNGO(以下、「障害NGO」と略)の緊密なパートナーシップをつくりあげていく立場から「政府見解」の内容を補強するという視点で、意見(以下、「意見」と略)を提出致します。
記
1.「総論」について
(政府見解)
我が国は、国際社会における障害者の権利の擁護と促進の必要性を認識しており、右を達成するために今後検討されていく国際的な法的文書については、普遍的価値を有し、効果的に機能するものとなるよう、国際社会の可能な限りの幅広い支持を得ることができるような内容を持つものとなることが重要であると考えている。
(意見)
一般的には「国際社会の可能な限りの幅広い支持を得ることができるような内容を持つものとなることが重要である」が、「国際社会における障害者の権利の擁護と促進の必要性を認識」するためには、「総論」の前提として、議論を有効に交わしていくための出発点となる共通認識を確定することが重要である。
<共通認識の留意点>
(1)障害者を対象とした国連の政策と人権基準の経緯
・1960年代末までは、リハビリテーションと障害予防を基調とする。
・1970年代から、障害者の自立生活非差別平等、社会参加と社会的障壁の除去等を求める国際障害者運動の哲学が国連の場に少しずつ反映されていく。
→「障害者の権利宣言」(75年)
→「障害者に関する世界行動計画」(82年)
→「障害者の機会均等化に関する基準規則」(93年、以下「基準規則」と略)
(2)基準規則の限界に関する共通認識の確保
@基準規則は、国際法上の法的拘束力をもたず、人権条約に備えられている政府報告制度等を有しない。
A基準規則が定める実体規則(22規則)は、障害者の人権保障にとって不十分かつ非網羅的であるという指摘があり、その補完する内容をどのように条約に盛り込んでいくかが共通の問題認識になることが重要である。
→「経済的、社会的及び文化的権利の領域に偏っており、市民的、政治的権利に関する自由権の侵害(強制的不妊手術、武力紛争下における人権侵害、刑罰や科学実験等に関連した非人間的かつ侮辱的な処置等)についての規定(※)が不足している」(テレジア・デゲナー女史、ドイツ・ボーフムの応用科学大学の法学教授。2002年、クイン教授と共に国連高等弁務官事務所の協議専門家となる)
(※)自由権の範囲には、障害の早期発見を名目とする出生前着床診断、または参政権の行使にかかわる政治参加、司法手続等も含まれる。
→「障害児や精神障害者、発達障害者、ジェンダー、住居全般などについての規定が不十分である」(ベンクト・リンクビスト氏、社会開発委員会の前特別報告者)
2.「各論(1)目的」について
(政府見解)
我が国の障害者基本計画は「ノーマライゼーション」(障害者を特別視するのではなく、一般社会の中で普通の生活が送れるような条件を整えるべきであり、共に生きる社会こそノーマルであるとする考え方)の理念に基づき行われている。「ノーマライゼーション」を目指すために、障害者の自立を促進し、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進することを本件法的文書の目的の柱として提案したい。
(意見)
バックグランドになる視点として、少なくとも前「障害者プラン」(95年)で提起された「四つの障壁論」を踏まえて、次の点を補強する。
@
障害者に対する差別的取扱いの原因が、その障害をもつ人の個人的属性に起因するものではなく、むしろ障害者を取り囲む社会環境によって規定される障壁に差別の原因が有ること。
A障害者がすべての市民と同様に、個人として固有の権利を有し、幸福を追求する主体であること。
B障害者が社会の平等な構成員として、地域生活のあらゆる場面および分野への参加を保障するための差別を受けない権利を定めることを目的とする。
3.「各論(2)盛り込むべき原則」について
(政府見解)
(ホ) 新たな法的文書は、既存の人権諸条約との整合性の確保の観点から、B規約第2条
に規定されている「平等原則」を確保する。
(ヘ)また、経済的、社会的及び文化的権利の実現のための措置については、多くの国が参加できるようにするため、A規約第2条に規定する「漸進性を許容」する旨の規定を設ける。
(意見)
締約国の国内的実施措置に関する義務規定の内容として、つぎの点を補強する。
@ (ホ)について
締約国は、障害者の市民的自由にかかわる自由権の「平等原則」(B規約第2条)に基づく権利に関しては、国際人権基準として定着している「即時に実施する義務」という位置づけにそって明記することが必要。
なお、この自由権の「平等原則」は、「平等原則」の適用にについて定めたものであり、憲法14条(法の下の平等の原則)に対応するB規約の条項は、第26条(法律の前の平等)が該当することから、ここではB規約の第2条と第26条をセットにして示すことが適切である。
A(ヘ)について
経済的、社会的及び文化的権利(社会権・A規約第2条)に規定する「漸進性を許容」する旨の規定については、できるだけ踏み込んで「締約国が立法その他自国における利用可能な手段の最大限の範囲内で、これらの施策を実施する措置をとる義務」の規定を付加することが必要である。
4.「各論(3)範囲」について
(政府見解)
障害者の権利の実現はおおよそ全ての社会分野に関連することから、人権諸条約以外の既存の国際条約、または各国の国内法令等との関連について、十分整理することも必要であり、障害のない者と同等の権利の実現が進んでいる分野と今後実現を促進していく必要がある分野について整理を要する。
(意見)
「各国の国内法令等との関連について…、障害のない者と同等の権利の実現が進んでいる分野と今後実現を促進していく必要がある分野について整理を要する」については、まず、日本政府と国内の障害NGOとの個別課題ごとの現状とあるべき方向性に関する問題認識のすり合せをすることが優先されるべきである。
5.「各論(4)定義」について
(政府見解)
障害者の定義については各国様々であるので、多くの国が受け入れられるような定義、若しくは各国の国内体制に委ねる余地を残すべきである。
(意見)
(1)「各論(2)盛り込むべき原則」(ホ)の「既存の人権諸条約との整合性の確保の観点から、『平等原則』を確保する」(政府見解)立場から、現行の障害者基本法の定義に明記されている障害(名)の制限列挙的な表記ではなく、差別の定義も含めて、環境要因を基軸とする人権モデルに近づけていくためのアプローチが必要である。
◆参考案文:(DPI日本会議ポジションペーパー)
@障害者とは、長期的または一時的、あるいは将来に予想される障害により、生活上の困難さをもつ、あるいはもちうる状況にある人をいう。また、環境整備なしには、障害をもたない人にくらべて不利益をこうむるか、こうむりうる状況にある人をいう。
A前記@の障害の過去の記録をもつ人あるいは、そのような障害をもつとみなされる人のことをいう。
(2)差別の定義について
@身体的・精神的な特徴と理由により、他の人々と平等な立場で社会生活に参加する機会が奪われ、または制限されている状態にあること。
A障害をもつ人への無知・無理解・偏見による意図しない差別も前記@に規定した差別に含める。
B社会生活に参加する場面で、身体的・精神的な特徴と理由により、適切な配慮が講じられないこと。
6.「各論(5)要素」について
(政府見解)
実体的規定に何が含まれるかについては、これまで国連で作成された決議・ガイダンス、各国における実施状況を踏まえて決定していくことになる。尚、実体的規定の中心のひとつになる労働者の雇用問題については、障害者の権利保護を達成する手段として障害者雇用差別禁止法制が全面に出ることが考えられる。しかし、障害者雇用割当制度と障害者雇用差別禁止法制はその基本理念の違いから両立し難いものであり、障害者雇用割当制度のような積極的措置は障害者差別には当たらないことを条約に明確に位置づける必要がある(参考1参照)。
(意見)
(1)ILO159号条約(障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約1983年)の第4条では、「障害者である労働者と他の労働者との間の機会及び待遇の実効的な均等を図るための特別な積極的措置は、他の労働者を差別するものとみなしてはならない」と規定されている。
(2)障害者雇用割当制度のような積極的措置は障害者差別には当たらないことを条約に明確に位置づける必要がある」という点については、「障害者雇用割当制度と障害者雇用差別禁止法制」を対立的に二者択一させて考えるのではなく、アファーマティブアクション(差別是正のための積極的措置)の視点から、障害者雇用割当制度による「積極的措置」が、差別解消にどのように具体的につながっていくのかというビジョン(指針)をつくることが必要である。
(2)この場合の「積極的措置」とは、次のような考え方に立っている。
@単なる機会均等的な平等ではなく、障害の有無や程度によって差別的な取扱いが生じることを防ぎ、個人的な差異に配慮した実質的な平等が実現するように、必要な配慮や義務を課すこと。
Aあくまでもそれは、差別が解消されるまでの過渡的な措置であるということ。
差別禁止法が制定された場合でも、「法定雇用率」は当面、廃止されるべきではない。
むしろ「積極的措置」によって、例えばドイツ(法定雇用率6%、16人以上の事業所→実雇用率四・二%)、フランス(法定雇用率6%、20人以上の事業所→実雇用率四・○%)なみに引き上げられ、実雇用率の平均がその「法定雇用率」に到達した段階で、過渡的な「積極的措置」は廃止されることになる。
(政府見解)
(ロ)障害者雇用差別禁止法制では、事業主と障害者が双方の事情と権利を主張して争うことから、事業主と障害者の関係が非協調的となるおそれがあること。
(ハ)障害者雇用差別禁止法では、救済措置を求めるには、障害者自らが告発する必要があり、障害者が差別を証明するために相当な負担がかかるとともに、かなりの時間を要すること。
(ニ)相当数の苦情・紛争を処理するために相当機関の整備、弁護士の確保等が必要となること。
(意見)
(1)上記の(ロ)と(ハ)については、イギリスの障害者差別禁止法(DDA)に基づく 障害者権利委員会(DRC)の実施及び救済機関としての役割と機能を検討することが必要である。
(2)上記(ニ)については、障害者が、その救済を求めて、直接相手方と交渉する場合、自己の力でやりなさいと言ってもそれは困難であり、障害をもたない人の場合であっても、多くの場合は他人の力を借りることがある。
障害者に対する差別事件に関しては、国家の費用をもって当事者を支援する機関を設置する必要がある。アメリカには、このような機関として、プロテクト・アンド・アドヴォカシーという機関が存在するが、このような現実の必要性から生まれた制度であり、権利意識の弱い日本では、アメリカ以上にその必要性は高い。
7.「各論(6)モニタリングと評価」について
(政府見解)
下記(7).(ロ)で述べる通り、委員会の設置、報告書提出のあり方については、十分に議論すべきである。また、障害者施策に関し、新たな国際的機関等の行政機構を設置することについても、効率化の観点から疑問が生ずる。
(意見)
(1)条約の目的は、第一に自由権に基づき、障害者の差別を禁止し、人間としての尊厳を権利として保障することにあるのだから「障害者施策に関し」という記述は不十分である。
(2)「新たな国際的機関等の行政機構」の中身が不明である。説明をお願いしたい。
締約国における条約の実施状況を監視する委員会の設置は、条約の仕組みにおける要であり、「効率化の観点から疑問が生ずる」という記述は、政府が消極姿勢を示しているという認識を生じさせる懸念がある。
8.「各論(7)留意点」について
(政府見解)
(ロ)人権条約解体改革の議論との関係
既存の人権諸条約の下で各締約国は、既に、政府報告の作成等膨大な作業を抱えている。政府報告の審査を中心とした人権条約体のあり方については、累次の機会に議論されているところであり、今後検討されていく法的文書においても、右議論を踏まえ、政府報告書の作成、審査プロセスを設ける必要性について綿密に検討する必要がある(既存の人権諸条約の報告に障害者の権利の実現のためにとった措置を含めるとする方法も一案)。
(意見)
(1)既存の人権諸条約においては、子どもの権利条約だけが、第2条(差別の禁止)と第23条(障害児の権利)において、障害及び障害をもつ子どもに関して明記している。
こうした現状から既存の人権諸条約では、非常に限られた問題しか取り扱われないことは明らかである。
(2)「(既存の人権諸条約の報告に障害者の権利の実現のためにとった措置を含める)」という点については、これまでの該当事例を具体的に検証し、既存の人権諸条約の実効性についての評価に関する意見交換を政府と障害NGOの協議において行うことが必要である。
以上の障害NGOからの意見を前向きに受け止めご検討下さるようお願い致します。
なお、今後の取り組みについて、下記の事項を要望致します。
1.このたびの国連・第2回特別委員会(6月16日〜27日)においては、障害者権利条約の策定に向けた起草委員会の設置を、日本政府として積極的にはたらきかけていただきたい。
2.今後のアジア・太平洋地域における各種・各レベルの地域会議において、障害者権利条約をテーマとして積極的に取り上げることを、日本政府として呼びかけ、または地域会議の開催に向けて日本政府自ら率先して取組んでいただきたい。
3.今後、日本政府におかれましては、当事者の参加・参画を尊重する観点から、私たち障害関係NGOとの間で、障害者権利条約策定に向けた協議の場を積極的に設けていただきたい。
以上
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