■要請事項の補足説明
※下記の各要請事項の補足説明は、与党の改正案を対象としています。

(要請事項2.関係)
 障害の定義については、環境と生活機能に着目した障害概念の国際的な見直しの経過をふまえて、環境整備(環境的要因)との関係を盛り込んでいただきたい。

<補足説明>
◆障害の定義が、個人モデルにとどまっている◆

 障害の定義(第2条関係)では、「この法律において『障害者』とは、身体障害、知的障害又は精神障害(以下「障害」と総称する)があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」とあり、現行の「長期にわたり」が「継続的に」変更されただけである。現行の基本法の定義では、生活上の「制限を受ける者」という考え方は示されたが、最初に心身機能上の障害を列挙しているために環境的要因との関係が曖昧にされて個人モデルの枠内にとどまり、心身の機能障害に重点をおく「医学モデル」にとどまっている。
 この定義では、従来と同じように、個人的要因によるインペアメント(心身の損傷または欠損)の観点から障害が認定されていくことにとどまり、当事者をとりまく環境との関係で、当事者のニーズと必要性に応じたサービス提供などの条件整備を行うことによって権利を保障することにはつながらない。
 「障害者の範囲」の問題として、障害がインペアメント(心身の損傷または欠損)
による医学的基準によって認定(特定)されるために、基本的には当事者の日常生活動作(ADL)の固定した「困難さ」や制限の度合いに応じて障害等級が決定され、それに対応する福祉サービスが限定的に提供される。その結果、こうした対象者の範囲は必然的に狭く認定され、日常生活動作(ADL)を中心とする判定基準に該当しない、例えば、高次脳障害や学習障害(LD)、または現行の障害と難病の基準に該当しないために適切なサービスが受けられない低血糖値問題や顔面のあざ等によって差別や偏見を受ける「ユニークフェイス」の当事者たちは、多くが現行の「障害の定義」から除外されている。一方で障害の原因となる難病等も「調査研究を推進する」ことにとどまっている。
 今後の課題として、環境的要因から障害の定義を明確にし、その「要因」の除去を通じて障害当事者の権利を保障する社会モデルアプローチへの転換が急がれなければならない。

(要請事項3.関係)
 基本的理念に示されている差別の禁止(第三条の3)に関する規定との関係で、どういうことが障害者に対する差別になるのかを明示する「差別の定義」を明記していただきたい。「差別の定義」の検討にあたっては、障害をもつ人への差別とは、政治的、経済的、社会的、文化的又はその他のすべての生活分野において、身体的・精神的な特徴と理由により、他の人々と平等な立場で社会生活に参加する機会が奪われ、または制限され、その自由が束縛されている状態にあることを踏まえていただきたい。

<補足説明>
基本的理念(第3条の3)では「何人も、障害者に対して、障害を理由として、不当に差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」として差別禁止規定が盛り込まれている。しかし、抽象的な理念に「差別禁止」を明記しても、それは「心 がけ」の問題にとどまり、もっとも重要な点は、裁判や準司法的機関等において、どういう事案が障害者の差別や人権侵害にあたるのかという解釈指針の根拠となる「差別の定義」が明記されていなければ実効性は担保できない。
 


(要請事項4.関係)
 基本的理念(第三条の2)の「すべて障害者は、……あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる」を、障害をもつ人は、社会参加を権利として有しており、それに基づく機会を保障するという規定に変更していただきたい。
<補足説明>
基本的理念(第三条の2)では、現行どおり「すべて障害者は、……あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる」となっている。つまり、障害者は「参加する機会」が恩恵的に「与えられる」対象とみなされ、障害者の社会参加を権利として保障するとはなっていない。
 


(要請事項5.関係)
 自立への努力(第七条)は、旧来の「更生」の考え方に基づき、障害当事者に対して障害の軽減と克服への努力をおしつけることになっているため、削除していただきたい。

<補足説明>
 自立への努力(第七条)では「障害者は、その有する能力を活用することにより、進んで社会経済活動に参加するよう努めなければならない」とあり、「更生」と「保護」に基づく旧来の障害者施策の考え方と、当事者に対して障害の軽減と克服への努力をおしつける考え方を堅持している。障害の有無にかかわらず、「進んで社会経済活動に参加する」ことは、本来、本人の選択と自己決定によるものであり、法文で公的機関や民間事業者等の社会の側が、障害者に特化して残存能力の活用(障害の軽減と克服への努力)を求めることが本人の意思に反する場合には、差別と人権侵害になりそれを助長する恐れがある。
 


(要請事項6.関係)
事業者の責務として、障害の特性やニーズを踏まえた適切な配慮を義務づける規定を明記していただきたい。

<補足説明>
◆「福祉に関する基本的施策」(第2章)の努力規定の限界
改正案では、障害者基本計画の策定については、国だけではなく都道府県、市町村も義務づけられることになったが、それ以外の「福祉に関する基本的施策」(第2章関係)では、従来と同様に、国及び地方公共団体に関しては「〜を講じなければならない」、民間事業者には「〜に努めなければならない」と努力義務を課す規定にとどまっている。
基本的施策(第2章)は、関係する個別実定法の包括的根拠になっている。努力義務を課すだけでは、その結果、実施者(国及び地方公共団体、民間事業者等)側が施策の目標を果たせなかった場合の罰則や具体的なペナルティ等もないことから、これまでと同じように実効性はほとんど期待できない。
今後、関係する個別実定法の運用を検証し、必要に応じた見直しを具体的に担保するためには、義務規定を明記し、事業者を含む実施者側が目標値を達成できなかった場合、実施者側に対して少なくともその挙証責任としての説明義務を果たすことともに、可能性のある改善目標の達成に向けてのプランの提出を義務づけることが必要である。
 


(要請事項7.関係)
 教育(第十五条)については、統合教育を基本とする障害児教育の推進を明記していただきたい。

<補足説明>
 障害をもつ人も社会の構成員として地域で多くの人とかかわりながら生きていくのが当たり前だというのがノーマライゼーションの考え方であり、教育は、そうした社会を実現する基盤づくりの役割を担っている。そのためにも、統合教育を原則として規定する必要がある。その原則に立って一人ひとりのニーズを保障する仕組みを確保し、そのことに対して同意したり、異議を申し立てたり、是正を求めたりすることのできる手立てを講じていくこと、また分離教育を余儀なく選択させない施策の実施も必要である。
 


(要請事項9.関係)
 中央及び地方障害者施策推進協議会(第二十五条〜第二十七条)の機能と役割、委員構成については、障害者基本計画の実施状況に関するモニタリング機能(監視・評価・提言など)と、委員の半数を当事者及びその推薦者等によって占める当事者参画を明記していただきたい。

<補足説明>
◆障害者施策推進協議会の役割と当事者参画について◆
 中央及び地方障害者施策推進協議会(第25条〜第27条)においては、「障害者に関する施策の総合的かつ計画的な推進について必要な事項を調査審議すること」等が規定されているが、「必要な事項」とは何かが明示されていない。同協議会の機能と役割として、障害者基本計画の実施状況に関するモニタリング機能(監視・評価・提言など)を明記しなければ、旧規定の中央障害者施策推進協議会の内容と実質的に同じであり、実効性はほとんど期待できないし、当事者参画についてもその具体的内容を明示する必要がある。

 

(要請事項10.関係)
 見直し規定として、できるだけ早期に、この法律による改正後の規定の実施状況、差別の実態等について検討を行い、障害者差別禁止法の制定を視野に入れた必要な見直しを行う旨の規定を設けていただきたい。

<補足説明>
◆附則の見直し規定について―差別禁止法の制定につながる担保となるか
 改正案では、附則の第3条(見直し)で「政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律による改正後の規定の実施状況、障害者を取り巻く社会経済情勢の変化等を勘案し、障害者に関する施策の在り方について検討を加え、必要な見直しを行うものとする。」
 そもそもの基本法の在り方(構造)の根幹にかかわる法の主体はだれなのかをはっきりとみておく必要がある。
 特に関係する個別実定法の根拠となる「基本的施策」(第2章)の各条文においては、軒並み「国及び地方公共団体、事業者」が文脈上の主語になっている。つまり、現行の基本法が「障害者施策の促進法」という基本的性格をもっていることが、改正案に「差別の定義」と「権利救済機関」を盛り込むことができない最も大きな要因であり、「障害者に関する施策の在り方について検討を加え、必要な見直しを行う」という見直し規定が入ったとしても、それだけでは曖昧であり、差別禁止法の制定の検討につながるとは単純には言えない。
 このたびの改正案が、これまでと同様に、基本的に障害者を取り巻く現状の変化を事後的に追認したという枠内にとどまっているために、見直し規定に差別禁止法の制定を本格的に検討する趣旨の文言が明確に入っていなければ、新しい変化を導き具体化していくことにつながらないと評価せざるを得ない。

以上