(政党宛)
2003年7月  日

衆議院議員 ●●●● 様

DPI(障害者インターナショナル)
日本会議 議長 山 田  昭 義
(公印略)

障害者基本法改正案に対する見解と要請

 このたびの障害者基本法(以下、基本法という)の改正案(与党案)は、基本法制定から10年を経て、基本法の内容が今日の状況の変化に合わなくなっているとともに、近年の障害当事者団体をはじめとする障害者差別禁止法の制定を求める機運の高まりを受けて提案されています。このような状況で、基本法の改正が行われることは、今後の障害者差別禁止法制定の展望と道筋において大きな意味をもつものと考えます。
 基本法の改正によって、障害者差別禁止法の制定につながる基本方向を明確にしていくことが最も重要であるという立場から、以下、基本法改正案(与党案)に対するDPI日本会議としての見解と要請事項を提出致します。積極的なご検討をお願い致します。

1.障害の定義が、個人モデルにとどまっている

2)障害の定義(第2条関係)では、「この法律において『障害者』とは、身体障害、知的障害又は精神障害(以下「障害」と総称する)があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」とあり、現行の「長期にわたり」が「継続的に」変更されただけである。現行の基本法の定義では、生活上の「制限を受ける者」という考え方は示されたが、最初に心身機能上の障害を列挙しているために環境的要因との関係が曖昧にされて個人モデルの枠内にとどまり、心身の機能障害に重点をおく「医学モデル」にとどまっている。
 この定義では、従来と同じように、個人的要因によるインペアメント(心身の損傷または欠損)の観点から障害が認定されていくことにとどまり、当事者をとりまく環境との関係で、当事者のニーズと必要性に応じたサービス提供などの条件整備を行うことによって権利を保障することにはつながらない。

2)「障害者の範囲」の問題として、障害がインペアメント(心身の損傷または欠損)による医学的基準によって認定(特定)されるために、基本的には当事者の日常生活動作(ADL)の固定した「困難さ」や制限の度合いに応じて障害等級が決定され、それに対応する福祉サービスが限定的に提供される。その結果、こうした対象者の範囲は必然的に狭く認定され、日常生活動作(ADL)を中心とする判定基準に該当しない、例えば、高次脳障害や学習障害(LD)、または現行の障害と難病の基準に該当しないために適切なサービスが受けられない低血糖値問題や顔面のあざ等によって差別や偏見を受ける「ユニークフェイス」の当事者たちは、多くが現行の「障害の定義」から除外されている。一方で障害の原因となる難病等も「調査研究を推進する」ことにとどまっている。
 今後の課題として、環境的要因から障害の定義を明確にし、その「要因」の除去を通じて障害当事者の権利を保障する社会モデルアプローチへの転換が急がれなければならない。

【要請事項】
 障害の定義については、環境と生活機能に着目した障害概念の国際的な見直しの経過をふまえて、環境整備(環境的要因)との関係を盛り込むこと。

2.差別禁止規定に対応する差別の定義と権利救済機関が明示されていない

1)基本的理念(第3条の3)では「何人も、障害者に対して、障害を理由として、不当に差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」として差別禁止規定が盛り込まれている。しかし、抽象的な理念に「差別禁止」を明記しても、それは「心 がけ」の問題にとどまり、もっとも重要な点は、裁判や準司法的機関等において、どういう事案が障害者の差別や人権侵害にあたるのかという解釈指針の根拠となる「差別の定義」が明記されていなければ実効性は担保できないのが現実である。

2)民事法のアプローチに基づき、可能な限り広い事案を対象にすることが必要であるという観点から、差別の定義として、第1に政治的、経済的、社会的、文化的又はその他のすべての生活分野において、身体的・精神的な特徴と理由により、他の人々と平等な立場で社会生活に参加する機会が奪われ、または制限され、その自由が束縛されている状態にあること、第2に、障害者に対する無知・無理解・偏見によって、行政機関および公的あるいは私的団体、個人が権利侵害の事実を認めない、または、障害の特性やニーズを踏まえた適切な配慮を行わないことによって、そのために結果として障害をもつ人が何らかの不利益をこうむり、不当な取扱いを受けている状態にあることが明記されるべきである。
 特に日常的な差別、人権侵害事例として割合の高い「行政機関および公的あるいは私的団体、個人が権利侵害の事実を認めない、または、障害の特性やニーズを踏まえた適切な配慮を行わないこと」を救済の対象事案に含めた権利救済機関に関する実体規定を明記するべきである。

【要請事項】
差別の定義を明記し、障害当事者が過半数をしめる「権利救済委員会」を設置し、事案に応じて、同委員会に調査・調停・是正命令・警告・勧告・要望・公表等の処分等の権限を与えて実効性を確保すること。


3.「恩恵」「保護」「更生」と「障害の否定」―(障害の予防)を意味する規定が混在しつづけている

1)基本的理念(第3条の2)では、現行どおり「すべて障害者は、……あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる」となっている。つまり、障害者は「参加する機会」が恩恵的に「与えられる」対象とみなされ、障害者の社会参加を権利として保障するとはなっていない。

2)自立への努力(第七条)では「障害者は、その有する能力を活用することにより、進んで社会経済活動に参加するよう努めなければならない」とあり、「更生」と「保護」に基づく旧来からの障害者施策の考え方と、当事者に対して障害の軽減と克服への努力をおしつける考え方を堅持している。障害の有無にかかわらず、「進んで社会経済活動に参加する」ことは、本来、本人の選択と自己決定によるものであり、法文で公的機関や民間事業者等の社会の側が、障害者に特化して残存能力の活用(障害の軽減と克服への努力)を求めることが本人の意思に反する場合には、差別、人権侵害につながり、助長する恐れがある。

3)「医学モデル」による「障害者観」は、本質的な問題として、伝統的に障害者を恩恵と保護による福祉施策の「特殊な対象」とみなすことによって、市民社会のあらゆる場面で対等な構成員として存在することを阻害してきた。
 こうした福祉施策の「特殊な対象」とみなす「障害者観」は、障害者を胎児の段階から現在の社会に存在しないほうがいい「不幸な人々」としてみていく「出生前診断」の背景にある社会意識と深い関連をもち、それが現行の基本法において「障害の予防に関する基本的施策」(第3章関係)として章立てまでをする法律上の背景になっている。
 こうした前記@とAを含む問題のある規定が改正案に引き続き混在していることは、障害者の個人の尊厳と差別禁止の規定を盛込んでいる基本的理念(第3条)の趣旨にも矛盾し相反していると言わざるを得ない。

 

4.「福祉に関する基本的施策」(第2章)の努力規定の限界

1)改正案では、障害者基本計画の策定については、国だけではなく都道府県、市町村も義務づけられることになったが、それ以外の「福祉に関する基本的施策」(第2章関係)では、従来と同様に、国及び地方公共団体に関しては「〜を講じなければならない」、民間事業者には「〜に努めなければならない」と努力義務を課す規定にとどまっている。
 各論をみると、教育(第15条)では、原則統合には踏み込まず、現状の「交流教育等を積極的に進める」ことにとどまり、障害者の機会均等化に関する基準規則(1993年)やサラマンカ宣言(94年)においてうたわれている、統合された環境のもとでのインクルーシブ教育の理念に反する分離教育の基本方針を踏襲している。また、施設のバリアフリー化等(第17条、第18条)が具体的に規定されているが、これらはハートビル法、交通バリアフリー法等ですでに規定されていることで、特段新鮮味があるとはいえない。

2)基本的施策(第2章)は、関係する個別実定法の包括的根拠になっている。努力義務を課すだけでは、その結果、実施者(国及び地方公共団体、民間事業者等)側が施策の目標を果たせなかった場合の罰則や具体的なペナルティ等もないことから、これまでと同じように実効性はほとんど期待できない。今後、関係する個別実定法の運用を検証し、必要に応じた見直しを具体的に担保するためには、義務規定を明記し、事業者を含む実施者側が目標値を達成できなかった場合、実施者側に対して少なくともその挙証責任としての説明義務を果たすことともに、可能性のある改善目標の達成に向けてのプランの提出を義務づけるべきである。

【要請事項】
総則(第1章)で、事業者の責務として、過度な負担がある場合には改善目標を含む説明責任(挙証責任)を果すことを定めて、各基本的施策(第2章)のところでは、従来の努力規定(〜に努めなければならない)をより強めた(〜を行うものとする等)規定に変更すること。


5.障害者施策推進協議会(第4章関係)について

中央及び地方障害者施策推進協議会(第25条〜第27条)においては、「障害者に関する施策の総合的かつ計画的な推進について必要な事項を調査審議すること」等が規定されているが、「必要な事項」とは何かが明示されていない。同協議会の機能と役割として、障害者基本計画の実施状況に関するモニタリング機能(監視・評価・提言など)を明記しなければ、旧規定の中央障害者施策推進協議会の内容と実質的に同じであり、実効性はほとんど期待できない。

要請事項】
 中央及び地方障害者施策推進協議会の機能と役割として、障害者基本計画の実施状況に関するモニタリング機能(監視・評価・提言など)を明記すること。

6.見直し規定について―差別禁止法の制定につながる担保となるか

 改正案では、附則の第3条(見直し)で「政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後の規定の実施状況、障害者を取り巻く社会経済情勢の変化等を勘案し、障害者に関する施策の在り方について検討を加え、必要な見直しを行うものとする。
 障害者施策の在り方について検討を加え、必要な見直しを行うものとする見直し規定を検討中」となっている。そもそもの基本法の在り方(構造)の根幹にかかわる法の主体はだれなのかをはっきりとみておく必要がある。
 特に関係する個別実定法の根拠となる「基本的施策」(第2章)の各条文においては、軒並み「国及び地方公共団体、事業者」が文脈上の主語になっている。つまり、現行の基本法が「障害者施策の促進法」という基本的性格をもっていることが、改正案に「差別の定義」と「権利救済機関」を盛り込むことができない最も大きな要因であり、「障害者に関する施策の在り方について検討を加え、必要な見直しを行う」という見直し規定が入ったとしても、それだけでは曖昧であり、差別禁止法の制定の検討につながるとは単純には言えない。
 このたびの改正案が、これまでと同様に、基本的に障害者を取り巻く現状の変化を事後的に追認したという枠内にとどまっているために、見直し規定に差別禁止法の制定を本格的に検討する趣旨の文言が明確に入っていなければ、新しい変化を導き具体化していくことにつながらないと評価せざるを得ない。

【要請事項】
見直し規定として、できるだけ早期に、この法律による改正後の規定の実施状況、差別の実態等について検討を行い、障害者差別禁止法の制定を視野に入れた必要な見直しを行う旨の規定を設けること。

以上

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