2002年5月31日

国会議員各位様

DPI(障害者インターナショナル)日本会議 議長 山田 昭義
全国自立生活センター協議会(JIL)代表 中西 正司
リーガルアドボカシー 障害をもつ人の権利 代表 川内 美彦

 人権擁護法案に関する障害者団体からの意見書

日頃の人権確立、障害者施策の充実にむけたご尽力に心よりの敬意を表します。
さて、ご承知のとおり、政府の人権擁護法案の審議が参議院法務委員会でいよいよ始まろうとしています。この法案は1996年に制定された「人権擁護施策推進法」の付帯決議にもとづき、制定され、包括的な人権法であるという位置づけにあるようです。けれども私たち、障害をもつ当事者の団体からすれば、大いに懸念せざるを得ない考え方や内容となっています。特に、@人権侵害救済の実効性がない、A障害の定義がせまい、B人権侵害を受ける立場にたった視点が反映されていない、Cパリ原則を遵守していない、D新制度は現行制度の焼き直しにすぎず、独立性の担保が疑わしいE公権力・法制度そのものの人権侵害を救済できるしくみがない、という6つの点から、抜本的な見直しが必要です。
 私たちは、このような中途半端な法律ではなく、障害者に対する生活上のあらゆる人権侵害と差別を明確かつ具体的に禁止し、裁判規範として十分機能する障害者差別禁止法策定作業の開始を切に要望いたします。
 以下、6つの問題点に関する説明をお読みいただき、法案審議の視点としてぜひご活用ください。
海外では、過去10年の間にすでに40カ国以上で、障害者に対する差別禁止を明確にした法整備がすすみました。国連でも、昨年末、障害者に対する差別禁止を規定する権利条約策定のための特別委員会設置が採択されました。さらに日本国内では、日本弁護士連合会が昨年末、障害者差別禁止法大綱を発表しましたし、私たち当事者の障害者政策研究集会でも7月を目処に、障害者差別禁止法案要綱発表を予定しています。
 これらの国内外の潮流は、障害者を、保護から権利の主体として捕らえて包括する人権法の位置づけを反映するものであります。
 ぜひともこの6つの問題点に関する説明と解釈をご検討いただきたく、重ねてお願い申し上げます。ご不明な点、説明の不十分な点につきましては、上記までご連絡ください。何卒宜しくお願い申し上げます。

1、人権侵害救済の実効性がない
 本法案三条および四十二条で、人権侵害の内容(「不当な」取り扱い・差別的言動、虐待)が規定され、人権委員や事務局職員が人権侵害の相談に応じることになっていますが(第三十七条)、これだけでは具体的な紛争を解決する場合に何が人権侵害等であるかないかの判断基準としてあいまいです。
 たとえば車椅子利用者がスロープなどがないためにレストランを利用できないという場合や、アパートを借りようとしたところ、貸主から畳や建具がいたむから貸すことができないといわれた場合、精神障害者が公営施設の利用を拒否された場合、うつ病の人が、9時〜5時でなく11時〜7時なら会社に通えるという配慮を求めたのに対してそれはできないので採用しないとした場合など、法案のようなあいまいな規定の仕方では当事者に解決の指針を与えるものにはなりません。同じ理由で、これらの規定は、裁判規範として有効に機能できないと思われます。
 障害をもつアメリカ人法(略称ADA)は、雇用・公共性のある施設およびサービス・通信の領域についての差別を禁止ししています。たとえば、障害があるというだけで駅やレストラン、映画館など、公共性をもつ施設が障害者の利用を拒否すること、これらの施設を障害者にとって利用しやすいように整えていないこと、つまり配慮義務を満たしていないこと自体も差別としています。したがって差別であるとされたときには、スロープ設置などの作為命令も出すことができます。
 日本の多くの障害者の日常生活は、このような作為義務まで踏み込んだ解決がなされなければ完全参加と平等も獲得できません。そのためには単に不当な差別を禁止するだけでなく、積極的に差別を是正する作為を命じる権限を定めておく必要があります。
 水戸事件ほか各地で発生している雇用の場における虐待がこの法律(四十二条、六十六条参照)の対象になっていないことも、現実に発生している障害者の人権救済のために機能しない側面のあることを示しています。

2、障害の定義がせまい
 本法案における障害の定義(二条三項)は障害者基本法と同様です。障害者基本法による障害者以外に障害をもっているとみなされる人や過去に障害をもっていた人、これからそのような可能性がある人などの救済はされないのでしょうか。
 障害者基本法は障害者に対する福祉施策等の基本を定める法律であるのに対して、この法案は社会における差別をなくし、人権を擁護することを目的とする法律ですから、障害を医学的な視点(医学モデル)からではなく、社会のあり方との関係に重点をおいて、社会的な観点(社会モデル)から定義しなおす必要があります。

3、人権侵害を受ける者立場にたった視点が反映されていない―主役は誰なのか?
 そもそも、人権侵害を受けているということは社会的に不利な立場にあることであり、本来憲法14条に保障されているような平等性と、人間としての尊厳(憲法13条)を回復しなければならないということです。したがって、人権侵害を受けていると判断された場合、その権利を回復するのが最優先されるべきであり、相手の人権に配慮しすぎては本来回復されるべき権利は回復できません。また、人権侵害を受けている者は、通常、その事実を大変いいにくい社会的状況にあり、心理状態にあります。けれども第八十二条では「救済の対象となる者の人権とそうでない者の人権との関係に十分に配慮しなければならない」とし、本末転倒ともいえる事項を盛り込んでいます。たとえば法務省による人権侵害が相談されているとき、法務省の人権にどの程度配慮すべきなのでしょうか?
 また、三十七条から六十五条まで一般救済、特別救済の内容等が盛り込まれていますが、施設や病院に暮らしているさまざまな障害者がどのような形で相談できるのか、相談の手続きや一般救済・特別救済の違いなどが知的障害者にもわかりやすい言葉で伝えられる媒体が確保されるのかどうかなど全く不明です。さらに人権委員会の対応に対する不服申し立ての手続きも盛り込まれていないし、不利益な取り扱いがおきた場合の救済措置もない(八十四条関連)。人権擁護委員の表彰などは明記されているのに、これらの事柄が欠如しているのではこの法律の主役は一体誰なのか疑わざるを得ません。

4、パリ原則を遵守していない
パリ原則(1993年国連決議、日本政府賛成)では、国内人権機関の構成において、人権の促進と保護に関わる市民社会の多元的な代表の確保、活動全体における人権NGOの重要性を明記しています。しかしながら本法案における人権委員会の構成や、委員の任命、事務局、地方事務所の配置、人権擁護委員、人権調整委員の任命事項をみると、これらの原則が反映されているとは言えません。障害者の権利擁護活動においても、既存の人権擁護委員に相談するより、当事者が運営している権利擁護NGOの方が相談しやすいという声が大多数です。パリ原則を最大限尊重し、障害者の立場にたって権利を擁護してくれるしくみや人材の確保が必要です。
    
5、新制度は現行制度の焼き直しにすぎず、独立性の担保が疑わしい
 同じくパリ原則では、国内人権機関の人事・予算における独立性をうたっていますが、本法案は人権委員会を法務省の外局に設置しているだけでなく、相談業務を担う事務局や地方事務所は実質的に法務省の人権擁護局関係者や地方法務局で、かなり法務省に依存しています(第十五条、十六条)。また、既存の人権擁護委員制度もほぼそのままこの法案に盛り込まれていて(擁護委員の国籍条項廃止は評価するが)、この制度に対する批判的検討がないままの制度の残留や既存委員の移行的残留(附則第二条)は、人権侵害に真剣に取り組もうという意思があるのかと思わせます。

6、公権力・法制度そのものの人権侵害を救済できるしくみがない
 障害者をめぐる差別には現行の法律や制度そのものが差別的であることから生じている場合も少なくありません。見直されてはいますがまだまだ問題のある障害者欠格条項や、就業規則の解雇要件、航空会社の約款にもとづいた障害者の乗車拒否や制限などがその例としてあげられます。さらには障害者の分離教育を基本とする現行法自体が差別であるという考え方もあり、これを国際的に支援するサラマンカ文書や海外の法律などもあります。これらについての取り組みもなされなければ実効性ある人権侵害の予防や救済はできないと思われます。パリ原則でも人権委員会が現行の立法、行政上の規定、ならびに法立案及び法律提案が人権の基本原則に合致しているか勧告を行うことをあげています。本法案はこの立場からの人権委員会の所掌事務が欠如しています。

以上

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