2001年10月3日
厚生労働大臣 坂口 力 様
DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 山 田 昭 義
支援費制度に関する意見書
DPI(障害者インターナショナル)は、すべての障害者の権利と自立生活の確立をめざして活動している団体であり、国際障害者年の1981年に障害をもつ当事者の「われら自身の声」をスローガンとして結成されました。現在150ケ国をこえる国々にDPIの国内会議が結成され、障害当事者による国際的な協力関係づくりに向けて努力を重ねており、国連において障害者関連の諮問団体として認知されています。
DPI日本会議は、1986年に日本における国内会議として結成されて以後、障害者の完全参加と平等、人権の確立にむけて必要な諸活動を展開しています。
2003年から多くの障害者福祉サービスが「措置制度」から「利用契約型」である「支援費支給方式」に変わることになっていますが、現状では制度移行への準備が進んでいるとはいえず、多くの問題が含まれていると言えます。
社会福祉基礎改革の理念が個人の尊厳と自立を基本とし、その選択を尊重した制度を確立し、質の高い福祉サービスの拡充と地域での生活を総合的に支援するための地域福祉の充実がうたわれているのであれば、真に本人の必要に応じた支援費制度がつくられなければなりません。
以下、「支援費制度Q&A集」(本年3月 以下、Q&Aと略)と本年8月23日に公表された「支援費制度の事務大要」(以下、事務大要と略)に示されている支援費制度の問題点に対して、DPI日本会議としての意見を提起致します。
1.支援費支給決定の手続きにおける利用者への情報提供と相談体制について
情報提供については、利用者側がいつでも相談しやすい窓口が自分の身近なところに存在していることが最も重要な条件です。そのためには、市町村だけでなく、市町村生活支援事業等の障害者相談支援事業を受託している団体またはサービス事業者が利用者に周知されていることが前提です。
相談体制については、利用者が必要に応じていつでも相談できる体制づくりが必要であり、そのルートと窓口を当事者団体が行う相談支援事業等がになっていることについて、もっと明確に事務大要などで示すことが必要です。
2.支援費支給決定の際の勘案事項について
1)「介護を行う者の状況」が勘案事項に明記されたことは、基礎構造改革の基本理念と大きく矛盾することになり、これでは家族の可能な範囲における介護負担を想定した観点が含まれ、利用者本人の自立支援の方向とは逆行することになりかねません。私たち当事者団体が当初からかかげてきている当事者の自立支援を実現するための社会的サービスの形成という視点が曖昧になってしまいます。現状では、勘案事項に「介護を行う者の状況」が明記された場合、市町村の現場では何の疑問もなく、また財政負担の緩和という観点から「必然」のものとして、家族介護を前提とした支援費の支給決定が行われることになるのは明らかです。
支援費支給を決定する際の付加要件として、「介護を行う者の状況」を勘案する場合には、少なくとも同居親族の介護から離れていくための、本人の意向と具体的必要性にそった支援計画の策定を行うことを勘案事項に明記するべきですが、基本的に「介護を行う者の状況」は、勘案事項から削除するべきです。
2)本来、支援費制度が目指しているのは、障害者が事業者との対等な関係に基づき、自らサービスを選択し、契約によりサービスを利用することであるならば、「支援費支給に係るもの以外のサービスの利用状況」が、支援費支給に伴うサービス量の決定にあたって勘案されるべきものではありません。支援費によるサービスの利用をした後に、利用者本人が必要に応じて判断して決定すればよいものです。
市町村の現場で、支援費以外のサービスでもまかなえるという判断が通用するのであれば、支援費の基本理念がますます曖昧になっていくことにつながります。
3)「提供体制の整備の状況」の中で言われている「支給量決定の公平性を確保する」とは何を意味するのか、まったく不明です。現状の乏しいサービス量の水準をそのままにして、その水準との公平性を確保するということを勘案事項にいれるというのであれば、障害当事者の<地域生活支援>という目標は単なるお題目に過ぎなくなり、地域生活と自立支援を進めるための支援サービスを提供する仕組みへの具体的努力を払わなくても、そのことがなし崩し的に容認されることにつながります。
これまでの措置制度の中では、ともすればヘルパーの人員やサービス提供体制の確保の不十分性がサービス制限の理由にされてきましたが、この「提供体制の整備の状況」は、そうした措置制度下での決定を追認するものです。措置制度からの転換を掲げ、「支援費支給方式」では「利用者本位」「選べる制度」を理念に検討が進められてきたにもかかわらず「提供体制の整備の状況」を支給量決定の勘案事項の中に入れることは、その根幹に関わる大きな問題であり、直ちにこの項目の全文削除を求めます。
3.「勘案事項整理票」と「(別紙)日常生活の状況」の関係について
「勘案事項整理票」(事務大要P.47)と「(別紙)日常生活の状況」(同P.49)が一覧表で明示されていますが、両者の関係をどのように理解するべきかについて説明がされていません。
両者に共通しているのは、地域生活援助の範囲が示されていないこと、特に「日常生活」一覧では、「身体介助に関する領域」「日常生活関連動作に関する領域」「コミュニケーション・スキルに関する領域」「行動障害に関する領域」等、旧来型ADLの項目だてにとどまり、社会参加型の付き添い・待機・見守りをはじめとする項目メニューが明確なサービスとしてまったく位置づけられていません。このことは、支援費制度の本質が、介護保険制度の居宅内支援サービスと同じ枠組みで設計されていることをはっきりと示すものであり、障害当事者の地域生活と自立支援という観点からは到底受け入れられないものです。抜本的な見直しを求めます。
4.「支給期間」について
支援費の決定を行った際に「勘案事項」が変化することがあった場合、自立のための能力が高まり、施設入所から地域での生活に移行することが可能になる場合と、そうでない場合とは、誰がどのように判断するのか不明です。
日常生活」の範囲が旧来型ADLの項目だてにとどまるのではなく、本人が重度であっても、
地域での生活を望むのであれば、それを支援する基本的考え方がもっと明確に示されることが必要です。本人のニーズに伴う環境の変化に応じた「支給期間」が明確に設定されるべきです。
5.「利用者負担」と「扶養義務者の範囲」について
支援費制度における「利用者負担」については、これまで扶養義務問題が障害者の自立を阻む大きな要因であったこと、そして扶養義務者も含めた形での費用徴収が本人のニードとは無関係に本人に対するサービスの制限になっていたことを踏まえるべきです。基本的考え方として、扶養義務制度の撤廃とともに、3審議会合同企画分科会答申や社会福祉法成立時の付帯決議でも指摘されている障害者の自立、自己決定の尊重という観点から、利用者負担については、利用者本人の収入を原則とすることを求めます。
「扶養義務者の範囲」については、当面、居宅サービスにおける「生計中心者の所得」から、親、兄弟を除外することが必要です。
今後の課題としては、利用者の自立支援との関係において、応益負担と応能負担のどちらが利用者の所得水準の実態にあった権利性が担保できるかという観点からの再検討が必要です。
6.代理受領について―支援費の支払いがなぜ本人を通じての支払いではないのか?
1)代理受領方式について、Q&A(問26関係)では、本人が「費用を一時的にせよ立て替える必
要がなく」と記されていますが、利用者とサービス提供を行う事業者の対等な関係についての現状認識が基本的に誤っています。
DPI障害者権利擁護センターが障害をもつ当事者の意識状況を把握するための全国的なアンケート調査(1999年)では、回答した731人の内、約7割が何らかの不満をもっており、その内の4割(200人位)が〔相談しなかった理由〕に「言っても改善されるとは思っていなかった」などを上げ、相談する前に諦めている傾向が浮き彫りになっています。
この背景には、介助等の対人サービスの場面において、自分の意見やニーズを主張すれば、 「わがまま」にみられるのではないか、それがきっかけとなって通常のサービスに対しても不安をもってしまうという、自己抑制が強くはたらいているといえます。このように、障害をもつ人が意見や希望を言えないような実態に見られるサービス提供者側の圧倒的に優位な力関係を曖昧にしたまま、利用契約型サービスの提供において、「利用者と福祉サービス提供者の対等な関係の確保を図る」「利用者の自立を支援する」ことが理念的にうたわれても、それは空回りしてしまいます。
こうした現状のままでは、事業者は支払う側の市町村に目を向けてサービスの提供を行い、本人との対等な契約関係を軽視または無視することにつながる恐れがあります。
2)特例居宅生活支援費においては、「居宅支給決定障害者から委任を得ることにより、支給方式を代理受領の取扱いとする」(事務大要P.17)となっていることから、少なくとも当面、居宅・施設の支援費支払いにおいては、利用者本人の同意(委任)を得たうえで、事業者が支援費の支払いを受領する仕組みと手続き規定を明記することが必要です。
B今後の課題として、障害者のニーズに基づいて支援費支給が決定されれば、その金額をチケット(バウチャー)方式で障害者(利用者)本人に渡した上で、本人がそれに基づいて自らのニーズにあったサービスを利用できるように、サービスの事業者を主体的に選び、契約ができる方式とそのための条件整備が求められています。
7.指定居宅支援事業者の指定基準の緩和について
「多様な事業主体の参入」と地域におけるきめ細やかなサービスの提供の促進という観点から、指定居宅支援事業者の基準の緩和を図ることが述べられている一方で、ホームヘルパーの資格要件の緩和については、何も触れられていません。
本来、最も重要なことは、基準に定められた形式的な資格の有無よりも、当該のヘルパー(介助者)がどれだけ障害者の日常的自立支援に必要な介助経験と情熱をもっているかという点です。
必要なサービス量の確保と提供体制の整備という観点から、利用者が推薦するヘルパーで3年以上の経験を有するヘルパーの場合は、指定基準の資格要件に該当するという見なし規定を設けることを明記することが必要です。
8.支援費支給申請に対する決定について不服がある場合について
2)支援費支給決定においては、介護保険における介護認定審査会のような、新たな審査・判定機関を設けずに、専門的な判定等は更生相談所が行うことになっています。利用者本人から見れば、判定基準が不透明であり、「専門的な判定」の場合、更生相談所の担当者による旧来型の障害の部分に着目した日常生活動作を基本とする恣意的な判定につながる恐れがあります。
2)支援費支給申請に対する市町村の決定に不服がある場合、申請者は、「行政不服審査法に基づき、市町村に対して異議申し立てを行うことができる」(事務大要P.30)となっていますが、その結果について納得できなければ裁判に訴えるしかないという、「利用者本位」とは到底言えない、実質的な不服の門前払いにつながる仕組みにとどまっています。
今後の取り組みとして、市町村から一定の距離を置き、可能な限りの独立性を担保できる第三者の救済申立に対する審査機関を設置し、審査機関の委員構成には、過半数の障害種別ごとの当事者団体の代表と推薦者を入れることが必要です。
3)審査基準に関して、支給期間と支給量、障害区分等については、少なくとも「ADL判定」が基本にならないことが前提であり、心身の機能の損傷・欠損の程度に着目した手帳制度(個人的要因)の適用から脱皮し、社会参加に必要な環境的要因に着目した支援の必要性という観点から判定できる仕組みづくりが必要です。
9.サービス内容に関する苦情等への対応について
サービス内容に苦情がある場合、事業者・施設と利用者との間に第三者が加わって解決する仕組みの整備が求められているとしています。しかし、ここで示されている「第三者」は、事業者・施設の長が選任することになっています。この点は前記(6代理受領について)で述べたように、事業者・施設側の圧倒的に優位な力関係のもとで、サービスの提供が行われることが多い実態の中では、苦情対応の仕組みとして構造的な問題をはらんでいると言わなければなりません。
特に「第三者」の苦情対応に係る費用と報酬等について事業者・施設側が支払うとすれば、権利擁護の仕組みにおける「利用者本位」の理念と公正性との関係において、明らかに「利益相反」につながる問題を引き起こしてしまいます。「第三者」の費用・報酬については、必ず公費で支弁するべきです。
10. 市町村の役割と国・都道府県による支援の必要性について
1)施設は、最初に入所させた区市町村が支援費の支給を行うことになりますが、知的障害者のグループホームの場合は、その所在地の区市町村が行うことになります。例えば東京都では、入所施設の所在地のほとんどが市部に集中している中で、今後、グループホームが施設の周辺に設置されることが多くなっていけば、「地域偏在化」と他の区市町村から入居している利用者の移管問題が生じてきます。市町村だけに財政負担を押しつけることのない仕組みが必要です。
2)施設と地域の関係について「支援費基準の基本的考え方と設定に当たっての主な論点」では、「地域生活の推進を評価する支援費基準の設定」または「地域生活への努力を適切に評価・対応できる仕組み」等の地域への誘導策の必要性が明記されています。
この「支援費基準の基本的考え方と設定」は、私たちが長年望んでいることですが、その方向性が、前記1)で指摘した「地域偏在化」と他の区市町村から入居している利用者のグループホーへの移管問題によって、当該区市町村の「財政負担」問題を理由に有名無実になってしまう恐れが強くあります。市町村負担を軽減し、「地域偏在化」を解消するためには、国による財政支援が不可欠です。
3)ニーズ調査と財政計画に裏づけられた新障害者プランと市町村障害者計画が必要です。
本来、こうした問題点(前記1)、2)を解決するためには、国と都道府県が一体となって市町村を支援する仕組み(基盤的条件整備)づくりを先行してもっと早く行うべきなのです。
そのためには第1の課題として、国が策定した「障害者プラン」の単年度方式の予算措置に基づく目標数値が、支援費制度の最も重要な部分である「地域生活の推進を評価する支援費基準の設定」または「地域生活への努力を適切に評価・対応できる仕組み」等の地域への誘導策を具体的に進めていく梃子になっていかなければなりません。この目標数値を市町村が必要とする「サービス量の確保」という現実の必要性に見合ったものにしていくことが必要です。
第2に、障害当事者団体による重度障害者の介助保障の実現を求める旧厚生省交渉の結果、4年前から障害保健福祉主管課長会議資料に明記されている「サービス量の上限については、撤廃するようこれまで関係市町村への指導をお願いしてきたところであるが、未だに制限を設けている市町村に対しては、一般的なサービス量の制限を設けないよう引き続き指導するとともに、訪問介護員(ホームヘルパー)の確保が十分でないことや、重度の障害者等のため介護ができる者がいない等の理由で必要なサービスが提供できないということのないよう、サービス提供体制の充実を図ること」という市町村への指示事項が、現状では文書だけによる指示にとどまっています。「サービス量の上限撤廃」が本当に可能になるための計画的な財政措置とそれを新障害者プランの数値目標として設定することが必要です。
第3の課題として、「サービス量の上限撤廃」が可能なサービス量の確保のためには、都道府県の役割として地域におけるNPO等の社会資源の育成と認知を大胆に進めることが重要です。
指定居宅支援以外の居宅支援として位置づけられている、基準に該当した「特例居宅生活支援」を行う事業者を都道府県が積極的に指定していくことが、「多様な事業者の参入を可能とし、地域においてきめ細やかなサービスを提供することを可能とする」(事務大要)のであり、利用者の多様なニーズに具体的に応え、地域生活支援を本格的に実現する強力な役割をはたしていくことになるという認識をもつことが重要です。
以上