2001年8月13日

厚生労働大臣 坂口 力 様

障害者政策研究全国実行委員会
実行委員長  樋 口 恵 子

社会福祉基礎構造改革に関する意見書

 貴省の障害者の権利確立、ノーマライゼーション社会実現に向けた取り組みに対し、心から敬意を表します。
 さて、21世紀の幕が明け、わが国の様々な分野における構造改革の必要性が強調されています。障害者に関しても、社会福祉基礎構造改革を始めとして、法律・制度の大きな転換期を迎えようとしています。
 私達障害者政策研究全国実行委員会は、昨年1年間にわたって、「社会福祉基礎構造改革と介護保険プロジェクト」を設け、研究活動を進めてまいりました。その結果、以下のように現時点における私達の考え方をとりまとめましたので、意見書として提言させていただきます。今後の施策に反映していただくよう、ご検討のほどよろしくお願い致します。
 これまでの措置制度に変わって、利用契約(支援費支給)制度が導入されることによって、事業者と利用者との対等な関係、障害者の自己決定に基づく福祉サービスの選択が可能になると言われてきました。しかし、措置制度下であっても、どの様な暮らしを望むのかという利用者のニーズが尊重され、適切なサービス提供システムと十分な供給量があれば、自己決定、選択は一定程度可能だったのではないでしょうか。最も重要な課題の一つはサービスの基盤整備です。
 戦後の障害者福祉は、大規模施設の建設と、そこへの入所を中心に進められてきました。1981年の国際障害者年以降、施設福祉と地域福祉が車の両輪として目標に掲げられてきましたが、障害者プランの進捗状況などを見ると、施設優位にあると指摘せざるを得ません。地域福祉の重要な柱であるホームヘルプ制度は、自治体の積極的な取り組みによって一定のレベルに達している地域も出てきました。知的障害者も含めたガイドヘルプ事業も徐々に拡がりつつあり、ノーマライゼーションの理念に沿った施策も前進をみせています。しかし、地域間格差の問題も含め、これらのサービスは質と量の両面において、決定的に不十分な状況にあります。
 そこで、2003年以降の「新たな障害者プラン」の策定が、緊急かつ重要な課題となってきています。新たなプランにおいては、施設・病院から地域での暮らしを基本とする施策への明確な方向転換を打出し、その目標に向かって、福祉サービスはもとより教育、就労、情報提供、交通機関等へのアクセスなど、障害者に関わる全般的な施策について、数値目標も含めた具体的な計画にしていく必要があります。
 また、世界各国において障害者の権利に関する法律の整備が進められており、わが国においても、障害者基本法の抜本的改正を行い、障害者の権利、機会均等の原則、差別禁止を明確にした法律の制定が求められています。
 以上、障害者施策に関する基本的な考え方を提起しましたが、所得保障の在り方など今回の構造改革の中で議論されなかった部分もあり、重要な課題が多く残されていると言えます。真に「共に生きる社会」を実現するため、私達障害当事者とともに、引き続き検討を進められるよう、よろしく御願い致します。

1.利用制度の変更、支援費支給制度の移行について
1)サービスの基盤整備
 2003年の措置制度から支援費支給制度への移行に当たっては、利用者の選択が可能となるサービス基盤の整備が必要不可欠であります。従来、施設福祉と地域(在宅)福祉は車の両輪であるといわれながら、予算の多くは施設福祉につぎ込まれてきたという実態があります。これからのサービス基盤整備の基本は、従来の施設・箱もの中心のものから地域で共に生きることを可能にする福祉への転換を大胆に押し進めるものでなければなりません。

2)市町村障害者計画と障害者のニーズの把握
 福祉サービスの基盤整備に際しては、障害者が真に求めているニーズを把握することが必要です。本年も身体障害者実態調査が予定されておりますが、こうした調査では現行制度下での一定の実情調査は可能であっても、障害者がなにを必要とし、なにを望んでいるのか把握することは困難であります。真のニーズを把握するためには、当事者参加の下で調査の内容や方法を検討し、市町村単位で行うことが必要であります。
 こうしたニーズに基づきサービス基盤整備が計画的に行われなければなりません。現時点で60%台の策定率にとどまっている市町村障害者計画を早急に完全実施させることが必要です。

3)支援費の支給方式
 支援費支給方式はサービスにかかる費用を利用者本人に支払われるシステムといわれていますが、実際には事業者の代理受領を原則としています。この方式では従来の措置制度の支払方法と変わるところがありません。障害者自身が支払いの主体となることで、事業者の選択を行うことができ、サービスの利用者と提供者が真に対等な関係となりうるものであります。事業者への代理受領を原則とするのではなく、利用者へのダイレクト・ペイメントを原則とし、その具体的方法としてのバウチャー方式の検討が必要になるものと考えます。

4)支援費支給決定とケア・マネジメント
 支援費の支給決定の方法や支給基準は未だ明白になってはいません。利用者が必要とするサービスの量と種類を自己選択、自己決定するシステムの構築を急がなければなりません。サービス量と種類の最終決定は市町村という行政が行なうことになりますが、この行政の決定が適正に行われているかどうかの判断を行う第三者機関の必要性が今後ますます高まることとなります。さらに今後サービスを利用する際に大きな役割を果たすと考えられる障害者ケア・マネジメントに関しては、サービス手法の一つであり、事業化はしないということが言われています。障害者ケア・マネジメントはあくまでもサービス利用の援助を行うものであり、併せて必要なサービスを開拓していくというケア・マネジメント本来の役割を果たすものとして機能させるべきであり、障害当事者がその役割を十分に果たすことのできる条件整備が必要であります。

5)利用者の権利保障−利用者主体による権利擁護システムの確立を
 成年後見制度の利用を補完し、日常的な福祉サービスの利用援助を行うために法定化された地域福祉権利擁護事業における運営監視合議体と、福祉サービスなどの利用に係わる苦情の申立を行う苦情解決合議体の2つの合議体によって構成されている「運営適正化委員会」(都道府県社会福祉協議会に設置)が行う福祉サービスの利用に係わる苦情への対応は、「事業者段階での解決が困難な事項」となっています。
 「第三者立ち会いの下での話し合い」という体制は示されていますが、事業者段階で解決できなかった場合に、「福祉サービスを提供した者の同意を得て、苦情の解決のあっせんを行う」となっています。そのために苦情の内容によっては、事業者支援という観点から対応が行われ、結果として利用者の申立が軽視される恐れがあります。
 また「運営適正化委員会」は、「福祉サービスの利用等」に限定され、障害当事者をとりまく多くの生活場面(外出・仕事・医療・入居・入店等)における差別、権利侵害の申立に対応できるものとはなっていません。
 セルフアドボカシーを基本に、各地で当事者がかかえている苦情・権利侵害に対して、当事者の目線に立って支援する第三者機関としての相談窓口を設置し、障害者に対する個別具体的な差別・偏見・権利侵害事案について、事実関係の調査を踏まえたあっせん・勧告を行い、悪質な加害者に対しては、氏名及び団体名の公表等を行うことができる権限をもった権利擁護機関が必要です。

2、社会福祉法人、社会福祉協議会の今後について
1)作業所運動の歴史をふまえた支援の仕組みを
 今年度から小規模授産施設制度が始まっています。言うまでもなく、すでに6,000ヶ所に及ぶまでになった作業所の急増が、その背景にはあります。国レベルでの政策としても、無視できなくなったことの現れといえます。
 しかし、この制度の発足によって問題が解決するとは決して言えません。真に求められるのは、この作業所の運動の歴史をふまえた支援です。
 一つには、作業所急増の背景には、社会福祉法人格を持たないNPO系のグループが活用できる数少ない制度だったことがあげられます。これまでの既成の社会福祉事業には飽き足らない人々が、共に生き、共に働くという志をもちながら、当事者活動・市民活動の様々な活動を、作業所を活動基盤にして展開してきました。これらの取り組みが、日本でのノーマライゼーション実現に大きな役割を果たしてきたことは明らかです。その多様性や創造性こそが、作業所の生命力と言えます。こうした多様性や創造性をふまえた支援が求められます。
 もう一つは、障害のある者も、ない者も「共に働く場」として展開することを目指した取り組みが、作業所運動の一つの流れとして上げられます。それに対して、障害者授産施設では、障害者=通所者・健常者=指導員という固定的役割を前提にしていることが大きな問題点です。
 これまで労働行政と厚生行政の縦割りの中で、一般労働市場向けの雇用政策と、それ以外の障害者に対する福祉的就労政策とに分けられて、進められてきました。そのことが、日本で障害者の労働権確立に大きな足かせになってきました。
 今年、厚生労働省へと再編がなされましたが、これを機に障害者の労働行政の根本的転換が図られなければなりません。一般雇用と福祉的就労の縦割りを無くし、障害者の労働権実現に向けた政策を確立していくために、私たち障害当事者も交えた研究の場をつくり、検討を進めていくことを求めます。

2)自立生活センターや作業所等、障害当事者主導のNPO活動が認められる指定事業者基準、市町村特例居宅支援制度の積極的推進
 この間、重度障害者の地域生活・自立支援を展開してきたのは、既存の施設等の社会福祉法人よりも、障害者主導のNPOである自立生活センター等です。また、法定の障害者授産施設への通所すら拒否された重度の障害者を地域の無認可の共同作業所が受け入れている事例も多々あります。むしろ、既存の社会福祉法人などよりも、積極的に重度の障害者の地域生活での支援を行ってきたとすら言えます。
 2003年からの支援費制度では、サービス提供は都道府県が指定する指定事業者が行うことになっており、現在、指定基準が検討作業中のことと存じます。
 指定基準の検討に当たっては、自立生活センターや作業所等、当事者主導のNPOの参画を積極的に進めていく内容としてください。
 特に、介護派遣では、介護者のヘルパー資格の有無ではなく、その供給主体が利用者のニーズにそってサービス提供をしているかどうかを基準とすべきです。障害者にとって必要な質は、ヘルパー資格の有無ではなく、当事者のニードに対応できるかどうかが基準になるべきです。そうした点から、障害者主体の運営を行っているか、ピアカウンセリングや自立生活プログラムをはじめ当事者・消費者教育プログラムを持っているか等、利用者がサービスの質・内容をコントロールできる仕組みこそが重要です。
 さらに、社会福祉法では、市町村が必要を認めた場合、特例居宅支援費を支給出来ることになっていますが、これを最大限活用して、当事者のニードに対応出来る供給主体が多数できるような仕組みにしていくことが必要です。また、社会福祉法成立の際決議された通り、利用者本位の制度とするためにバウチャー方式を積極的に導入することも検討されるべきです。

3)地域のネットワークづくり〜当事者活動の支援策、資金提供を
 もう一つ、これまで社会福祉事業の担い手として、全国にはりめぐらされた機関として社会福祉協議会があります。しかし、これまでも様々な場で指摘されてきた通り、社会福祉協議会は障害者分野の関わりを持っていないところが多いのが実情です。あるいは、精神障害者の生活支援センター建設への反対運動に、その当該地域の社会福祉協議会理事がが先頭に立っていた事例すらあります。
 国際障害者年以降、「完全参加と平等」を理念に掲げて各種の施策が一定進められてきました。「国連の障害者に関する世界行動計画」にも示されている通り、障害者の政策決定過程への参加が、完全参加の実現には欠かせません。そのためには、障害者が自らの団体をつくり、サービスや政策に対して提言できるようにしていくことがきわめて重要です。
 社会福祉法成立による制度変更が、「利用者本位」の制度になるかどうかの鍵は、サービス提供や権利擁護活動の中に当事者が参画出来るかどうかにかかっています。これまで、日本ではいくつかの大きな団体だけに限って、助成や様々な事業委託がなされてきました。今後、「新しい利用制度」の展開を見据え、当事者活動の支援策、資金提供が展開されることを求めます。その一環として、自立生活センター等の設立を目指している当事者団体・グループを対象に、「当事者参画型サービス基盤育成事業」のようなモデル事業を検討・実施して下さい。

3、障害者の介助制度について
 現在、実施されている介護保険は、高齢者向けの制度として検討され、居宅内のサービスを対象に実施されています。それに対して、障害者施策の基本は、自立と社会参加にあることは言うまでもありません。その意味では、介護保険と障害者の介護サービスでは、その目的も対象となるサービス範囲も元々異なっているものと言えます。
 今後、2005年の介護保険法の見直し等も予定されていますが、今、障害者施策に必要なのは、自立支援・社会参加に対する支援サービスを独自の制度として創設していくことだと考えます。

 その障害者の自立支援・社会参加に対する支援サービスでは、次のような点に基づいて検討がなされる必要があります。

1、身辺介護や家事援助等にとどまらず、外出をはじめとする移動、コミュニケーション−情報(含む発信)保障支援、子育て等も含めた自立−社会参加の全ての分野をカバーするものであること

2、セルフマネジメントをはじめ、本人の自己決定、自己選択、当事者コントロール、エンパワメントを原則に行われるべきものであること。

3、時間・場所を問わず、当事者のニーズに応じたサービス選択が可能であること。

4、また、費用負担の算定については、これまでの、親などの扶養義務者からの徴収を撤廃し、世帯単位から個人単位とする。

 こうした原則の確認の上、その制度の必要性や、具体的な制度の仕組み・内容等を具体的な事例を通して検討していくために、私たち障害当事者を交えた研究の場をつくることを求めます。

以上

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