2000年1月14日
運輸大臣 二階 俊博 殿DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議 長 山田 昭義
東京都千代田区神田駿河台3−2−11
総評会館内
TEL 03-5256-5365 FAX 03-5256-6061
高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律案(仮称)の骨子案に対する意見提起
このたび運輸省が国会への提出を予定している標記法律案は、これまで移動環境の整備が不充分なために社会参加をあきらめざるを得なかった人たちにとって好ましい影響を与え、「完全参加と平等」をかかげた1981年の国際障害者年以来の世界的な潮流にも沿うものであると考えます。長年にわたり交通環境整備の為の法整備を求め続けてきた私たち障害者としては、この法律が障害者や高齢者等の移動制約者の問題を具体的に解決し、併せて社会の変革を促すものとなることを強く望むものであります。
現時点では、本法律の骨子案しか明らかにされておりませんが、法案の策定に関しては、日常的に多くの制約を受けながら交通機関を利用している障害者、高齢者等の当事者の意見を基本にすえた策定作業がなされるべきであると考えます。交通環境の整備には多くの費用や時間を要するものであることは承知しておりますが、それだからこそ当事者の意見を的確に採り入れ、将来に禍根を残すことのない法律にすべきであります。
以上の観点から、法案策定に際しては以下の意見提起を積極的に受け止め、策定作業を進められるよう強く要望いたします。
1.目的 について
(1) 障害を持つ人が交通環境改善に強い関心を持っているのは、それが就労や就学をはじめとして日常生活を営む上で欠かせない条件であるからです。国においては1981年の国際障害者年において「完全参加と平等」という基本理念を支持し、その後もその理念に沿った諸施策を展開してきているのですから、それらの積み重ねを踏まえ、「交通環境の整備をはかり、もって平等な社会参加への基盤 を整備することによって基本的人権を実現し、公共の福祉の増進に資すること目的とする」というふうに目的を高らかにうたい、内外に国の姿勢を明確に示していく必要があるものと考えます。
(2) 上記のように移動は社会に関わる手段としてきわめて基礎的なものであり、その実現のためには自宅から目的地までを切れ目なくつなぐ整備が必要です。本法案では鉄道、バス、旅客船、空港について言及されていますが、切れ目ない整 備を行うためには、大量移動手段を利用できない人への代替移動手段についての規定を設けるべきであります。
(3) 全盲の人の約2/3は駅のプラットホームから転落した経験を持つといわれています。このように日々、生命の危険と隣り合わせで公共交通機関を利用している人もいるのです。従ってここで述べている「円滑に移動」という方針には、そのような危険の防止や見やすく理解しやすい表示、確実な情報伝達なども含まれていなければなりません。以上のことを踏まえると本法は高齢者・身体障害者に限るべきではなく、少なくとも「高齢者・障害者等の移動制約者」を対象とする普遍性を持つものとすべきであります。
2.基本方針 について
(1) これまでの経験から、様々な施策においては利用者の声を反映しなければ質的向上を図ることが困難であるということは明らかです。限られた財源を有効に生かすためにも利用者の参画が必要で、基本方針を策定する委員に利用者の代表を入れると共に、基礎的調査や公聴によって幅広い利用者の声を聞き反映する作業が行われるような仕組みを設定する必要があります。
(2) 先に述べたように、「円滑」という言葉に含まれるものはきわめて多様です。本項によると、基本方針に定める事項として「移動円滑化の基本的な方向」が挙げられていますが、何をもって「移動円滑化」と見なすかという点について本法の考え方を明確にする必要があると思います。
(3) 既存駅へのエレベーターの設置において、構造・工法上の制約とともに価格面の問題も不設置の理由としてあげられます。機器の価格を下げ、設置をより容易にするための規制緩和、維持管理経費の削減につながる規制緩和が必要であり、法案策定と平行して不要な規制を除去する措置を講じるべきであると考えます。
(4) アメリカのADA(障害をもつアメリカ人法)では「一列車一車両原則」を、既に1990年に確立しています。これは一編成の列車の中の少なくとも一車両は障害をもつ人に利用できるものにするという考えです。我が国でも整備の際の一つの目標として導入すべきものだと考えられます。そのためにもこの原則の確立を基本方針に盛り込む必要があります。
(5) 整備後は、当初の目的が達成されているか、予想していなかった問題点はないかなど、利用者を含めての事後評価がきわめて重要で、事後評価とその結果を次の整備に活かす仕組みを基本方針に盛り込む必要があります。
3.公共交通機関に係る措置 について
(1) 本項では既存の旅客設備についても述べられていますが、それによると「措置を講ずるよう”努める”ものとする」という努力規定となっています。もちろん構造・工法上の制約から、整備が不可能な場合も多々あろうかとは思いますが、努力義務ではあくまでも交通事業者の意向が主であり、整備が不可能と納得できる客 観的な条件を明確にすることができません。既存施設については「既設の旅客施 設については、やむを得ない場合を除き、移動円滑化のための措置を講ずるもの とする」というように原則的には整備の義務化を行い、除外規定で柔軟に対処する方が明確だと思われます。
(2) そして上記の除外規定について、どのような要件を満たせば整備しないことが正当化されるのか、その要件に工事費用は含まれるのかなどについて、明らかにされる必要があります。
(3) 既存の旅客施設が上記の除外要件に該当するとしても、その施設がその地域の交通体系の上で重要な役割を担っている場合は、整備を行う方向でさらに詳細な検討を加える必要があります。そして、その施設が地域の交通体系の上で重要な役割を持っているかどうか、どうすれば整備ができるかなどの検討には、利用者が初期の段階から関わる仕組みを講じるべきであります。
(4) 本項では新造車両等の整備に関しても努力義務となっていますが、ここでもこれまで述べて来たように、整備の義務化を原則とし、除外規定で柔軟に対処するという方式とすべきであると考えます。なお、除外要件を明確にする必要があります。
(5) 本項では勧告等について述べていますが、ここでは勧告等が運輸大臣の裁量とされています。従って、どのような要件を満たせば勧告等の措置をとるべきだと判断するのかが明確にされる必要があると思います。
4.地域における一体的な移動円滑化 について
(1) 整備計画では、「交通事業者、特定施設管理者の意向を反映した上で」となっていますが、ここではやはり利用者の意見が含まれなければならないと考えます。 従ってここでは、「交通事業者、特定施設管理者、利用者の意向を反映した上で」 としなければならないと考えます。
5.国および地方公共団体の責務 について
(1) 本項では国および地方公共団体に対して交通環境整備に対する努力を求め ています。しかし国民に対して社会の目指す方向を示すべき国や地方公共団体が努力義務では、交通事業者等に対して訴える力が弱いと考えられます。国際社会に我が国の考えを表明するためにも、努力義務では訴える力が弱く、原則義務 化の方向で望むべきであると考えます。
(2) 整備を効果的にするために、国は整備状況についての全国規模の調査を継 続的に行う必要があります。
6.交通事業者の責務 について
(1) ここでも(1)、(2)共に努力義務となっていますが、すでに移動円滑化に対して交通事業者が行うべき事が示されているわけですから、ここで努力義務なのは 矛盾しており、義務規定を明確にすべきであります。
以上